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ここで来ちゃうの龍の里編

そげなーーーー!!

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「……ん」

 目が覚めるとそこはココ最近で見慣れた天井だった。

 そして毎回これをやっているが、起きる時は大抵一人だからちょっと寂しい。

 それにしても……と、自分の身体をチェックする。

 血戦鬼との戦闘で傷付いた身体は今はもうスッキリ玉のような肌に戻っている。
 レベルアップによる恩恵だが、あのとんでもない傷の数々がこうも何事もなかったかのように治ると、異世界さまさまだと改めて感じる。
 ついでにこういう時ばかりは、モンスターとして生まれた事に感謝してしまうのはしょうがないだろう。

 しかし、いつの間にやら着替えさせられてるんだが、なんでチャイナ服よ?
 しかも今気が付いたが、頭もお団子カバーまで付けられている、ロングチャイナのスリット本格仕様。

 うむ。分かってるな。とか言いたいけど、これは自分がするんじゃなくて他人のを見るのが良いんだよ?

「はぁ……」

 一度は起き上がったものの、多少の怠さが残る身体をベッドに放り投げ大の字になって沈む。

 生き残れて良かった。

 ある程度勝算があっての戦いだったが、それでも次々に予想を上回る血戦鬼との戦いは、正直死ぬかと思った。
 特にあの第三段階のスキルの連発には本気で死を覚悟した程だ。

 それでも地獄門の鎧武者を、血戦鬼へと進化させる事になったのは間違いではない。

 恐らく、鬼神の祝福という助力があったとしても、私の見立てでは進化をしていなかった、地獄門の鎧武者相手でも善戦できた程度だろう。
 長引く戦いは私の精神を摩耗させる。その反対に意思のなかった地獄門の鎧武者は精神の磨耗が存在せず、最初から最後まで変わらずに行動出来たはずだ。

 そうなれば私の死はほぼほぼ確定だ。

 だからこそ受肉させる事で精神の揺らぎを利用したのだ。

 とはいえ、同じ状況で同じ事をやれと言われた所で今回のようには行かないだろう。

 今回の戦いは揺らぎを利用した事、そして何よりも運が味方した事が大きい。
 これは100度同じ事をやって99失敗する内の、たった一回を引き寄せたに過ぎない。
 もし少しでも何か、ボタンの掛け違いのような状況になっていたら、私は今生きてはいないのだから。

 ぼうっとしながらそんな事を考えていると、扉の外からよく知った人の気配がする。

「ああ、起きたのですね」

「うん。おはよ」

「おはよー。ハクちゃん頑張ったね」

「まあね。死ぬところだったよ」

 扉から入ってきたテアとソウに軽口で応える。顔は笑っているが若干心配の色が窺える。

 お互いにそれに気が付かないフリをしながら話を続ける。

「しかし、正直無理をしたものですね。相手の精神がもう少し成熟していれば通用しないところでしたよ」

「だよねー」

 正直に言えば自分でもなんで生き残れたのかわからない。
 いや、理由は考えていた通りだし、何度も何度も魔法を使えないように印象づけしたり、身体が勝手に反応して無拍子で反撃しようとするのを止めたりと、最後の瞬間に向けてえげつない程細かな仕込みはしていた。
 だが、それが全て役に立ったかと言えばそうでもないだろう。

 私としてもどれかが引っかかれば程度だったしね。

「あるじ~!」

「うわっと!?」

 話をしていると乱暴にドアが開きユエが突撃して来る。それをなんとか受け止めるが、同時に身体がビキリと嫌な音を立てる。

 大丈夫。まだ、まだいける。

「ユ……ユエ。心配掛けて悪かったね」

「うぅ……」

 涙目で見上げて来て再び顔を身体に擦り付ける。

 あざとい子。しかしそれが良い。

「あらあら、思ったよりも元気そうね」

「ちっ、もう起きたのか」

「これお見舞いの果物っす」

「ムーも持ってきたの。はい」

「これはわしからじゃ」

「おっ、サンキュー」

 後から入って来た五人からお見舞いの品を受け取り、どこの世界でも果物が見舞いの定番なのか。と考えながら話していると話題はやはりダンジョン攻略の事に移っていった。

 いや、そもそも観てたんかい。
 テア達は女神空間で観てると思っていたが、まさかおばあちゃんや皆まで見学しているとは思わなかった。
 変な事とかはしてないよね?
 うん。全くしてないな。

「「「いやいや」」」

 何故か皆から否定された。
 あの……頭の中で考えてるだけで声には出てないので、皆で揃って否定するの止めて貰えませんか?

「ステータスが強さの全てじゃない事を分からせるには、丁度いい教材だったのよ。ウフフフ」

「あっ、さいですか」

 うん。文句なんかないんだよー。だから圧力掛けるの止めて。

「そう言えばハクアに聞きたいのじゃが」

「何を?」

「うむ。あの鬼と戦っておる時の動きはなんなんじゃ? 観てて酔ったのじゃ」

「あっ、そうっす。なんなんっすかあの気持ち悪い動き」

「あー、あれかぁ。対戦相手よりもこっちの方が被害でかかったのかぁ」

 まさかの二次被害。

「あれは幽歩とおぼろの合わせ技……ですよね?」

「うん。そうだよ」

「幽歩に朧? なんじゃそれ?」

 幽歩と朧。

 それは私が地球で師匠、テア、ソウの三人と一緒に作り出した歩法と戦闘方法だ。

 この二つは相手の錯覚と、認識を騙す技。
 幽歩はその名の通り、幽霊のようにユラユラと緩急を自在に操り、相手の認識をズラす技。
 水転流にも似た技の陽炎があるが、幽歩はそれとは全くの別物だ。
 幽歩は朧とセットで使われ、緩急に加え、視線の誘導、予測を裏切る動きで脳に混乱を起こさせる。

 人が歩く時、右足を先に出せば左足を次に出す。

 そんな当たり前の予測を尽く裏切り脳に錯覚と混乱を起こさせ、処理落ちさせるそれがこの二つの技の根幹にあるものだ。

 平時だとしてそんなものを見れば人は混乱を起こす。それを同時に複数の事を無意識に処理する、素早い戦闘で行われればたまったもんじゃない。
 レベルという概念で、地球人よりも遥かに高い運動性のを持つ異世界では、全ての能力を使い相手の動きに対して無意識に反射的に判断を下す能力に長けている。
 能力が低ければ何かがおかしい。と何も分からずに混乱するが、高い能力はその原因を追求し、処理してしまう。
 だが、なまじ高い能力はその原因を理解する前に、どんどんと新しい違和感を埋め込まれる事で、データで圧迫されたパソコンのように段々と遅くなり、遂には処理し切れなくなって他者の感覚を狂わせるのだ。

 無意識に予測する行動を次々に外される。

 その違和がミコト達が感じた違和感の正体だ。

「正直なんでそんな事が出来るのかわからんが凄い技術じゃな」

「でもそれってなんの役に立つの」

「色々とありますが、今回の戦いでは相手が受肉したばかりでしたからね。生まれたばかりの意思が、目の前であんなものを繰り返しされれば、混乱をきたしますよ」

「ああ、なるほど。つまり格上に勝つ為の策略だったんっすね」

「まあね」

 認識ずらして、相手の予想を裏切って最後に全ブッパ。

 簡単に言えば今回の戦いの作戦はこれだったのだ。

 あまりにもお粗末で粗の多い作戦。だが、正直これに賭けるしか無かったのも事実だったりする。

 まあ、今までも似たような事はやっていたが、今回の幽歩と朧はおばあちゃんの特訓によって覚えた歩法。
 これが基礎とって完成したと言っても良い。

 ぶっちゃけ今までは実用レベルではなかったのだ。

「確かにお前の実力からすれば、あのまま戦うよりもその方が少しでも勝率が高そうだな」

「んんー? でもムーは敵いそうにないからって敵を強くするとか考えないの」

「そうだね。ハクちゃんの得意とするフィールドに誘い込む為だけに、相手をパワーアップさせるとか普通は考えないよね。そこがハクちゃんらしいけど」

「悪かったな」

 因みに鬼神との会話についても話してあったりする。

「さて、それではそろそろ私と聡子は少し席を外しますね。白亜さんは今日くらい大人しくしていて下さい。後でご飯は持ってきます」

「大盛りでよろっす。てか、なんか忙しげ?」

「ええまあ」

「……吐け」

「なんの事はないよ。ただの打ち合わせだから」

「打ち合わせ?」

 いやいや、君達一応元神様だよね? そんなのが打ち合わせとかなんなん?

 ジト目で見てると、観念したテアが打ち合わせとやらに関して話し始める。

「白亜さんが鬼神と話した事でです」

 ……なんだっけ?

「報酬だよ。報酬」

「ああ! 装備の事か」

「打ち合わせはそれについてだよ。ハクちゃんが倒した血戦鬼の素材も回収して、それを使って色々と作っている最中なんだよ」

 ああ、確かに。倒した後すぐにテアが来てくれて、眠る直前に【暴喰】さんと【解体】さんの二つ使って回収したっけ? スキルも後で確認しなければ。

「ええ、それで今白亜さんの装備を全て預かり作っている最中なんです」

 なるほど、それで私の格好がチャイナ服なのか。いや、なんでチャイナ服?

「まあでも、打ち合わせって事はなんかいいスキルでも付けてくれる感じなん?」

「いえ、それはもう既に終わってます」

「えっ? じゃあなんの打ち合わせ?」

「それはもちろんデザインです」

「なんで!?」

 いや、本当になんで?

「作るのが鬼神だから、ゴリ押しで和装が一着決まっちゃったけど、ハクちゃんの変身はまだあるからね。そっちのデザインを今議論してる最中なんだよ」

「いや、馬鹿なの?」

「既に四日も議論が続いてます」

「いや、だから馬鹿なの!? いや、馬鹿だろお前ら!?」

「私としては軍服っぽいデザインとか推してるんだけど、テアさんやシルフィン達も自分のデザインを推しててね」

 女神も全員参加!?

「澪さんやお嬢様もなかなか首を縦に振って下さらなくて」

「いや、なんでアイツらもサラっと参加してんの!? 神空間の話だよね!?」

「嗅ぎつけられました」

 まじかよ!?

「というわけで行ってきます」

「ハクちゃんにはカッコ可愛い衣装を用意するから待っててね」

「いや待てよ! デザインどうでも良いから内容良くしてくれません? そっちの方が大事だよね!!」

 私の叫びも虚しく、さっさと出て行きおった。解せぬ? 私の装備なんだよね?

「あらあら忙しいわね」

「うぅ……どんなん着させられるんだか」

「あっ、そう言えばハクアちゃん」

「な、なんでしょうか……?」

 あれ? 私なんでこんなに震えているのだろうか?

「おばあちゃんがハクアちゃんに言った事、ちゃんと覚えているかしら?」

 えっ、なに? なんの事?

「あらあら忘れちゃったのね」

 おばあちゃんは悲しいわぁ。とでも言いたげにポーズを取る。それを見た私は冷や汗が止まらない。
 ついでに他の皆はこっちを見ないようにして話をしている。助けてよ!?

「ウフフフ。おばあちゃんはハクアちゃんに最下層で取れる物を持ってきてって言ったのよ」

「あっ……」

 そう言えばそうだった。

 最下層でボスは倒されていたが、血戦鬼は倒した。しかし素材は全て回収されていてここにはない。

 つまり──

「お使いは失敗と言うことで明日から修行は倍ね♪」

「そげなーーーー!!」

 こうしてダンジョン攻略は終わり、死刑宣告されたのだった。
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