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エルマン渓谷攻防戦

「私はもう駄目だ。お家帰る」

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「何も分かって無いだと?ふん!馬鹿な事を、そいつ等が私達を殺そうと襲ったのは事実だろう。そんな奴等を無条件で信用しろと言う方がオカシイだろ!」

「まっ、言う事は一理在るけどね。ただ、コイツ等が私達の事を殺そうとしたってのは違うよ」

「何だと!馬鹿な事を言うな!実際に重傷者が出ているんだぞ!」

「刻炎やヴァルキリーの人間ならわかるよね?
あれだけ完璧な形で奇襲を受けて、こっちに死人が出ておらず、フープ側からしか死人が出ていないのがどれだけオカシイ事か?
それともただ単に運が良かっただけ、何て都合の良い幻想抱いてる奴はいないよね?」

「流石にそんな事言う奴は、俺の仲間には居ないぜ。そっちの嬢ちゃんが最初に俺の仲間に言ったのも、ただの脅しだとわかったしな」

 ジャックはそう言いながら澪に笑いかける。

(あぁ、カークスとか言うのが話してたのはその事か、そういや私との一騎討ちに持ち込む為に脅してたっけ?)

「こっちもよ。流石にあの状況を、そんな楽観的に捉えるような馬鹿はいないわ」

「だよね。あの状況からわかるのは一つ、フープ側は最初から例え自分達が死ぬ事になろうとも、冒険者を殺す気は無かったって事だよ」

「ふん!例えそうだったとしてもそんな物はただのーーー」

「そう、ただの自己満足だ。恐らくは合流後の行動に、少しでも遺恨を残さないようにする対処や、話しを円滑に進める為の作戦の内なのかも知れないけどね。
でも、そんな物はやられた側からすれば関係の無い物。
それはフープ側が勝手にやって、勝手に満足してるだけの物だ」

「ふん!分かっているじゃないか。そう、その通りだ!だから私はこんな奴等を信用しないと言っている!」

 ハクアとゲイルのその言葉に、フープの兵から殺気が漏れでる。しかしーーー。

「でも例えそうだったとしても、私は支持する」

「なっ!貴様!何を言ってーーー」

「だってそうだろう?コイツ等は何処ぞの馬鹿と違って、自分達が傷付いてその上でやり通したんだ。
あの状況のあの乱戦で、一人も殺さずに納める何て普通は出来ない。恐らくは私達を包囲した時の手際や、身のこなしからしても、死んだフープの兵は思わず殺しそうになって、手を止めた所で殺られたんだろう。
それぐらいじゃなきゃ、あの状況下で、あれだけ組織的に動いていた奴等がやられる分けないからね。遠巻きに見てもそれ位の実力差が在った」

「確かに、嬢ちゃんが言う通りだな」

「そしてコイツ等はそんな事をやりきった。
気が付く人間何て居ないかも知れない。
そんな事に意味が無いかも知れない。
それでもコイツ等は自分の仲間の命を使って、証明して見せた。
それは何処ぞの功名心に駈られて、兵を無駄死にさせる所だった馬鹿よりも、余程高潔で信じられる行いだ。
だから私はフープを全面的に信頼する」

「で、でたらめだ!そんな物はただの結果論だ!そんな事で信じられるか!」

「そこまでだゲイル!」

 ハクアの言葉に叫ぶゲイルに対し、今まで口を挟まず静観していたローレスが制止の言葉を投げ掛ける。

「何故ですかギルド長!貴方は私の言葉よりも、この小娘の戯れ言を信じると言うのか!」

「いい加減にしないかゲイル!貴様の言い分は分からなくもない!だが、実際はどうだ!確かにハクア君の言う事は状況証拠でしか無いが、君の言葉より余程状況を見てとれる。
それよりも君の無謀な突撃、規律違反の方が余程重罪だ。
聞く所によると刻炎、ヴァルキリー両クランの団員を脅し、ギルド副長の制止も聞かなかったそうだな?」

「そ、それはーーー」

「君には厳罰を下す。処分は戦いが終わってから、アリスベルで執り行う。それまでは拘束させてもらう」

「ふ、巫山戯るな!何故私が貴様の様な奴のせいでーーー」

「おっとーーー」

 処分を聞きローレスに掴み掛かろうとするゲイルだが、その動きは意図も容易くジャックに止められ、地面へと叩き付けられ、叫ぶ口に無理矢理布を噛ませる。だが、ゲイルは憎しみの籠った目で周囲を威圧しながら、それでも声にならない声で叫び続けていた。

「コイツは暫くの間、刻炎の方で預かるぜ。後からギルドが来るからそしたら渡す」

「済まないなジャック君よろしく頼む」

(クソ真面目はキレると怖いーーーいや~本当だね)

「さて、この後はどうするんだ?考えは在るのか白亜」

「とりあえず、戦いが終わった段階で後方に置いてきたギルドの職員と、低級冒険者達を呼びに行かせてるから、それと合流してからだね。それよりもそっちの情報寄越せ」

「まあ、待て。そろそろ終わる頃だろう」

 澪がそう言うと、クシュラから情報を引き出していた内の一人が、こちらにやって来て澪に耳打ちしようとする。

「いや、構わん。そのまま伝えろ」

「分かりました。あの魔族から聞き出した所、我々の保有している情報と殆ど大差ありませんでした」

「そうですかーーー無駄骨になって仕舞いましたね澪さま」

「いや、そうでもない。私達の情報が正しい物だと言う証拠でもあるからな。それで?」

「ハッ!一つだけ奇妙な事を言っていました。何でも奴個人の任務として、魔族に相応しい考えの人間を探していたとか」

「何だと?どういう事だ?」

「すいません。それ以上は奴自身も知らない様でして」

「分かった。下がって良いぞ。ご苦労だったな」

「ねえクー?」

「何じゃ主様?」

「人間を魔族にする方法が在るの?」

「「「「なっ!」」」」

「ご、ご主人様何を言ってーーー」

「まあ、今の話から推測すればそれが一番高いか」

「みおまでそんな事ーーー」

「・・・正確に言えば分からんのじゃ。だが、昔人間から魔族になった者が居たーーーと、言う噂は聞いた事が在るのじゃ」

「そっか、あんがと」

「主様は軽いの~、皆は我の言葉で固まっているのに」

「まあ、なるようにしかならんしね。いざという時、知らなくて固まるよりは全然ましだしね」

「ふ、その通りだな。さて、あいつから情報が出ないのなら私の情報を話そうか」

 そこから澪が語った情報は、正にハクア達側が欲していた物だった。魔族の人数、モンスターの規模、罠、城砦の正確な見取図等、知っているといないとでは、大きく差が付く様な情報ばかりだった。

「と、まあこんな所か」

「凄いわね。これなら作戦の建て様が在るわ」

「だな。正直こっちは魔族とモンスターが、あの城砦に巣食ってる位の情報しか無かったからな」

「それで良く来る気になったものだな?」

「金が良かったからな」

「ああ、それとだ白亜」

「何?」

「お前にはサプライズゲストでグロスが来ているぞ」

「・・・・・・・・・・・・・・ガハッ!」

「うおい!いきなり吐血するなよ!」

「チェンジで!」

「そんなシステムは無い!」

「私はもう駄目だ。お家帰る」

「いやいや、何言ってるのハクア」

「そうですよご主人様」

「が、頑張ろうよハクア」

「ガンバおねちゃん」

「因みにお前達にはカーチスカが来ているぞ?」

「「「「ぶふっ!」」」」

「帰りましょうご主人様」

「そうだね」

「ボ、ボクも遠慮したいかな?」

「お布団が待ってるゴブ」

「あ、アリシア達まで主様の様になるとはーーー何者じゃその二人」

「え~と、実はかくかくしかじかでーーー」

「うむ、全く分からんのじゃ主様」

「何・・・だと!」

「ちゃんと説明しましょうご主人様。えっと少し前にーーー」

 こうしてハクア達の事情を、詳しく知らない面々に、アリシアが説明を始める中ハクアは一人ーーー。

(あぁ、もうやだ~)

 心の中で嘆いていた
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