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英雄育成計画
お前と言う奴は
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白亜を救出してから数日。
──あれから白亜はずっと眠ったままだ。
テア達の話では脱出する為に相当な無理をした事で反動が来て、それを治す為に強制的に眠っているらしい。
今はテア達女神組が四六時中看病をしているのだが、私達は帰って来てから白亜の事を見ていない。なんでも私達が近寄るには今とても危険な状態なのだそうだ。
何がどう──とは聞いていないが、とりあず心配は無いと言われたのでそうなのだろう。
実際に問題があるとすれば心辺りがもっと取り乱しているだろうしな。
それから──。戦いを終え帰って来た私達は、あれだけのモンスターと戦った事で全員が位階を上げた。
戦いの中、それぞれに課題が見えたのかハクアが目覚めない不安を振り払うように訓練を受ける姿を見る。
私や瑠璃は付き合いが長い分アリシア達程では無い。
アイギスの仕事を手伝いながら日々を忙しく過ごしていた。
「う~ん。そろそろ休憩にしましょうか」
「ああ、そうだな」
「じゃあ私は何か飲み物用意しますね」
「悪いわね瑠璃。それにしても……ハクアは何もやっていない様に見えて結構やってるのね」
「そうだな。土魔法建設に学校関係、ミミの仲間を斡旋した仕事場の調整に、自社ブランドの店、教会の資金、夢の館にゴブリンの実験に関するギルドへの書類関係。簡単に思いつくだけでもこれだけあるからな」
「そうね。そろそろ起きてくれないと支障が出るわね」
「ああ、私の方で回せそうな所は幾つか進めているが、やはり全体はあいつしか把握してないからな」
「ハーちゃんの興味の為せる技ですけど、こういう時の為に少し私達も把握しておくべきでしたね」
飲み物を用意した瑠璃が会話に混ざり困った様に笑う。
確かに白亜が動けない場合の想定もしていた方が良さそうだ。前々から暴走した時に手を出せる様に少しづつ把握していたが、今回はそれが裏目に出たな。
あいつの場合、最初は大抵上手くいくが後半になると暴走して来る事が多い。それを防ぐ為に私と瑠璃がいつも把握していたが、今は優秀な奴も周りに居る事だし、エルザ辺りにでも管理の一部を任せるのも良いかも知れないな。
「それにしてもあれから結構経ったけど、あの子はいつ起きるのかしら?」
「さあな、見当がつかん。ただテア達の様子を見る限り余程の事は無さそうだし、あいつ等が疲れてる様子も少なくなって来た。予想で良いのならそろそろ起きると思うぞ」
「そうですね。昨日テアさんが状態が安定して来たし、早ければ今日にでも起きるとも言ってましたよ」
「あら? そうなの。う~ん。仕事が減りそうな増えそうな。どっちとも言い難いわね」
「あはははは、まあ、ハーちゃんですから」
「国を運営する側としてはそれで済ませて欲しくは無いんだけどね。ただまあ、あの子達を見ているとやっぱり早く起きて欲しい物ね」
「まあ、不安なんだろ」
窓の外で訓練を重ねるアリシア達を見ながらアイギスがそう呟き、私も同じ様に外を見て呟く。
あの時、突然身体中から血が噴き出し気を失った白亜。目の前で起こったそれには流石の私も動揺した。
脱出の際に使った|あの力(・・・)。恐らく神の力はモンスターである白亜には、いや、例えモンスターで無かったとしてもそう簡単に扱える物では無いのだろう。
逆に言えば、そんな奥の手を使わなければいけない程に追い込まれる状況だった事は、容易に想像出来る。
状態が安定した。
瑠璃はそう聞いたらしいがそれがどちらかはまだ分からない。
力が身体に馴染んだのか、それとも危険な状態を脱しただけなのか、考えられる事は幾らでもあるが、やはりそれは憶測の域を出ない。
あいつの事に慣れている私達でさえこうなのだから、あいつ等が不安になるのも当然だろう。
そんな事を考えながら外を眺めていると、不意にこの場の重力が何倍にも膨れたかの様な圧力を受けた感覚が私を襲い、それが強烈なプレッシャーによる物だと本能的に理解する。
急激な変化に呼吸が荒れ、息苦しさで喘いでしまう程だ。
「二人とも急にどうしたの!?」
(アイギスは感じていない? 一定以上の力を持っている者だけが感じているのか?)
「こ……れは、向こう。白亜の方か」
「はい。多分ハーちゃんの気配で間違いありません。でも……今までとは比較にならない」
「くっ、アイギス! 説明は道すがらする。とにかく行くぞ」
「はい」
「分かったわ」
方向を確認した私達は急いで白亜の元へと走り出す。途中、同じくこの気配に気が付いたのか訓練を行っていたアリシア達と、仕事に付いていた筈のフーリー達とも合流する。
──白亜が寝ている筈の部屋。
その部屋のドアの前に辿り着けば、先に辿り着いていたテア達が私達が来るのを待っていた。そしてそのドアの中から嫌でも感じる強大なプレッシャーに身が竦む。
「これは、本当にご主人様なんですか?」
「ああ、恐らくな。入るぞ」
その言葉に全員が頷くのを確認した私は、震えそうになる腕を無理矢理動かしドアを開ける。
見えたのはいつも通りの白亜の姿だ。
しかし、白亜はドアが開く音が聞こえている筈なのに、こちらに振り向く様な気配は無い。
この世界に来て白くなった長く艶のある髪。
後ろ姿でさえもその容姿が相当な物であると感じさせる立ち姿。
どれもこれも私の知っている物の筈だ。
だが、身に纏うその気配だけが違い。その違いがあれは本当に私の知っている白亜なのか? と、疑問を浮かび上がらせる。
神々が放つ様な絶対的強者の存在感。
そんな力を人の身で宿して果たして自身を保てるのか?
「白亜……」
そんな私の不安が出たかのような震える声。それでも必死に吐き出した言葉。
私の気持ちは白亜に届いたのか……。
その声に振り返った白亜の顔に表情は無い様に感じた。
──やはり、駄目なのか。
そんな考えが私達全員の頭を過ぎった瞬間──。
「いや、ちょっと待って欲しい。これは何かの手違いだ。きっと駄女神の陰謀に違いない」
「「「………………」」」
……そんな物は勘違いだった。
徹頭徹尾あのバカはあのバカのままだった。
今まで感じていた物は一気に霧散し、その台詞を聞いた瞬間に先程とは違う意味で力が抜けるのを感じながら、それでも一言どうしても言いたかった。
「お前と言う奴は」
「ギャース!?」
一言ついでに手も出たのはご愛嬌だろう。
▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼
そこは四畳半程の真っ暗な部屋だった。
その部屋にはテレビ以外何も無く。明かりも布団も替えの服すら必要な物は何も置いていない。
それ以外は何日も放置されている汚れた茶碗や、弁当の容器のプラスチックゴミが幾重にも重なり散乱している。
窓すら無いその部屋にあるのは二つのドアだけ。
一つはトイレのドア。そしてもう一つは固く何重にも施錠されている微かに光が漏れ出るドア。
それが幼い私の世界の全てだった。
──ああ、これは夢だな。覚えている。
そんな部屋の片隅。
テレビの光から逃れるように、薄汚れた子供が壁に寄りかかっている。
痩せこけ、目に生気を感じさせない今にも死にそうな子供がテレビの光だけをただただ見詰めている。
──これは私だ。
──そしてこの日のこのテレビの内容は覚えている。だってこの日は私が私になった日だから。
その世界には人が来る事などほとんど無かった。
二~三日に一度の割合で弁当や、菓子パンなどの食料が部屋の中に投げ込まれる。それだけが私が外の世界と繋がる時間であった。
だが、この日だけは違った。
ドアの外から聞こえる幼い少女の声。
それと同時に突然ドアが吹き飛び、光を背負って一人の少女が私の世界の壁を壊してやって来た。
「……なんの部屋かと思えばそういう事」
突然の出来事に驚いた私は動く事が出来なかった。とは言え、この時の私は既に何日も何も食べて居なかった事でまともに動けなかったという方が正しかっただろう。
そんな少女は部屋を一瞥して「臭いわね」と、呟くと部屋の片隅に居た私を見つけ近寄って来る。
睨み付ける様な視線で私を見詰める少女。
艶のある黒い漆黒の髪に、飲み込まれそうな黒い瞳、そして見る者を従える様な勝気な顔。
身体全体から自信が溢れ出ている。そんな印象を誰にでも与える少女。
──だが。その時の私には何故かそれが違って見えた。
「……なんで、泣いているの?」
言葉はテレビで覚えた。
とは言え、それがどんな意味なのかはほとんどが分からない。
ただ胸の辺りが締め付けられる様な、何かを失った様な感覚になる時に目から溢れる物が涙と呼ばれ、哀しいと言う時に出る物だと言う事だけはテレビで知った。
──今、こうやって第三者の様な感覚でこの場面を見ていても、何故そんな事を言ったのかは分からない。
──でも、確かに私はこの時そう思ったのだ。
「そう。貴女には私がそんな風に見えるのね……。やっと、やっと見付けた。貴女がそうだったのね。貴女、名前は?」
「な……まえ?」
「……そう、知らないの。…………貴女の名は……そう、白亜……白亜と言うのよ」
「ハク……ア?」
「そう。そして私は貴女の姉。お姉ちゃんよ」
「おね……ちゃん」
「ええ、これから貴女は私と暮らすの。だって貴女は私の……|私達(・・)の希望だから。意味は分からないでしょう。でも、それで良いの。分からないから、分からないのが……。だから貴女は私達の希望たり得るのだから」
姉はそう言って朽ち果てるのを待つだけだった、薄汚れた私を汚れる事も気にせず抱き締める。
「私の名前は黒華。産まれながらに塗り潰され繋がれた私達とは違う。何も知らない真っ白な私。だから貴女は白亜なの。これからは私が貴女を|アレ(・・)から守り、全てを教えてあげる。そしていつか──」
──いつか、私達の希望になってね……。
▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼
薄暗い部屋。
そんな中で私は目を覚ます。
「ぬおぉぉお」
少し動いただけで身体のあちこちがベキベキと嫌な音を立てる。
身体中がくっそ痛い! てか、誰も居ないんかい!? ちょっと寂しいぞ!
痛む身体に鞭打ちながら懸命に辺りを見回すがだれの姿も無い。その代わり部屋のあちこちが傷だらけなのは何故だろう? 解せぬ。
しかし、懐かしい物を見たもんだ。
初めて黒ちゃん。姉に会った日の夢。
私が初めて私になった日の事。
しかし、希望かぁー。どう言う意味だったんだろう?
姉は私と違って超優秀。姉が私にとって希望なら分かるが私が姉にとっての希望となると訳が解らん。まっ、それも今となってはどうしようも無い話か……。
そう結論付けた私はそれ以上深く考える事を止めて何とかベットから這い出でる。
立ち上がればその服装はテレビから、ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛と這い出て来そうな格好に着替えさせられている。
ふむ。全身真っ白だな。
何日寝てたのか凝り固まった身体を解しながら、ぶっ倒れる前の事を思い出す。
確か~、そうだ! エラーが起きたからとかってシャットダウンさせられたんだ!? い、一応、シャットダウン前の人間に近い状態だし、しょ、初期化されてるとか無いよね? うぅ、怖いから見たくないけど見るしかないか。
名前:ハクア
進化:5
レベル:1/40
性別:女
種族:禍津鬼
強化値:0
HP:12000
MP:5100
気力:5000
物攻:4100
物防:3000
魔攻:3800
魔防:3670
敏捷:6040
知恵:3850
器用:5110
運 :130
覚悟を決めてステータスを見たが修正入って弱くなると言う事は無かった。と言うよりもあのダンジョンのおかげで私もようやく良い感じのステータスにはなって来た。──が、それ以上に気になる物を見付け冷や汗が止まらない。
しゅ、種族もなんか不穏な物になってるし。この称号の数々……。こ、これは……まさかの怒られ案件なのでは……。
いつまでもこうしては居られない。早急に対応を考えなければと、頭を必死に働かせるが後ろからは無情にもドアの開く音が聞こえる。
ギャース! 考える時間も無いっすか! そうっすか! どうしよう。どうしよう。寝起き一発目から怒られるのは何とか避けたい!!
ドアの音に気が付かない振りをして少しでも良いから時間を稼ぐ。
頑張れ私の【思考加速】。今こそその力を発揮する時だ!!
──だが、そんな私に向かって澪が語り掛けてくる。
──よし! 誤魔化そう。
そうと決めたら後は勢いに任せるのみだった。とりあえず駄女神のせいにしてしまえば有耶無耶に出来る筈。
そう考えた私は捲し立てる様に言葉を発する。
「いや、ちょっと待って欲しい。これは何かの手違いだ。きっと駄女神の陰謀に違いない」
「「「………………」」」
沈黙がイターイ! うん。分かってるこれ失敗したパターンだ。
「お前と言う奴は」
「ギャース!?」
結局頭を思いっ切り叩かれ怒られました。解せぬ。
──あれから白亜はずっと眠ったままだ。
テア達の話では脱出する為に相当な無理をした事で反動が来て、それを治す為に強制的に眠っているらしい。
今はテア達女神組が四六時中看病をしているのだが、私達は帰って来てから白亜の事を見ていない。なんでも私達が近寄るには今とても危険な状態なのだそうだ。
何がどう──とは聞いていないが、とりあず心配は無いと言われたのでそうなのだろう。
実際に問題があるとすれば心辺りがもっと取り乱しているだろうしな。
それから──。戦いを終え帰って来た私達は、あれだけのモンスターと戦った事で全員が位階を上げた。
戦いの中、それぞれに課題が見えたのかハクアが目覚めない不安を振り払うように訓練を受ける姿を見る。
私や瑠璃は付き合いが長い分アリシア達程では無い。
アイギスの仕事を手伝いながら日々を忙しく過ごしていた。
「う~ん。そろそろ休憩にしましょうか」
「ああ、そうだな」
「じゃあ私は何か飲み物用意しますね」
「悪いわね瑠璃。それにしても……ハクアは何もやっていない様に見えて結構やってるのね」
「そうだな。土魔法建設に学校関係、ミミの仲間を斡旋した仕事場の調整に、自社ブランドの店、教会の資金、夢の館にゴブリンの実験に関するギルドへの書類関係。簡単に思いつくだけでもこれだけあるからな」
「そうね。そろそろ起きてくれないと支障が出るわね」
「ああ、私の方で回せそうな所は幾つか進めているが、やはり全体はあいつしか把握してないからな」
「ハーちゃんの興味の為せる技ですけど、こういう時の為に少し私達も把握しておくべきでしたね」
飲み物を用意した瑠璃が会話に混ざり困った様に笑う。
確かに白亜が動けない場合の想定もしていた方が良さそうだ。前々から暴走した時に手を出せる様に少しづつ把握していたが、今回はそれが裏目に出たな。
あいつの場合、最初は大抵上手くいくが後半になると暴走して来る事が多い。それを防ぐ為に私と瑠璃がいつも把握していたが、今は優秀な奴も周りに居る事だし、エルザ辺りにでも管理の一部を任せるのも良いかも知れないな。
「それにしてもあれから結構経ったけど、あの子はいつ起きるのかしら?」
「さあな、見当がつかん。ただテア達の様子を見る限り余程の事は無さそうだし、あいつ等が疲れてる様子も少なくなって来た。予想で良いのならそろそろ起きると思うぞ」
「そうですね。昨日テアさんが状態が安定して来たし、早ければ今日にでも起きるとも言ってましたよ」
「あら? そうなの。う~ん。仕事が減りそうな増えそうな。どっちとも言い難いわね」
「あはははは、まあ、ハーちゃんですから」
「国を運営する側としてはそれで済ませて欲しくは無いんだけどね。ただまあ、あの子達を見ているとやっぱり早く起きて欲しい物ね」
「まあ、不安なんだろ」
窓の外で訓練を重ねるアリシア達を見ながらアイギスがそう呟き、私も同じ様に外を見て呟く。
あの時、突然身体中から血が噴き出し気を失った白亜。目の前で起こったそれには流石の私も動揺した。
脱出の際に使った|あの力(・・・)。恐らく神の力はモンスターである白亜には、いや、例えモンスターで無かったとしてもそう簡単に扱える物では無いのだろう。
逆に言えば、そんな奥の手を使わなければいけない程に追い込まれる状況だった事は、容易に想像出来る。
状態が安定した。
瑠璃はそう聞いたらしいがそれがどちらかはまだ分からない。
力が身体に馴染んだのか、それとも危険な状態を脱しただけなのか、考えられる事は幾らでもあるが、やはりそれは憶測の域を出ない。
あいつの事に慣れている私達でさえこうなのだから、あいつ等が不安になるのも当然だろう。
そんな事を考えながら外を眺めていると、不意にこの場の重力が何倍にも膨れたかの様な圧力を受けた感覚が私を襲い、それが強烈なプレッシャーによる物だと本能的に理解する。
急激な変化に呼吸が荒れ、息苦しさで喘いでしまう程だ。
「二人とも急にどうしたの!?」
(アイギスは感じていない? 一定以上の力を持っている者だけが感じているのか?)
「こ……れは、向こう。白亜の方か」
「はい。多分ハーちゃんの気配で間違いありません。でも……今までとは比較にならない」
「くっ、アイギス! 説明は道すがらする。とにかく行くぞ」
「はい」
「分かったわ」
方向を確認した私達は急いで白亜の元へと走り出す。途中、同じくこの気配に気が付いたのか訓練を行っていたアリシア達と、仕事に付いていた筈のフーリー達とも合流する。
──白亜が寝ている筈の部屋。
その部屋のドアの前に辿り着けば、先に辿り着いていたテア達が私達が来るのを待っていた。そしてそのドアの中から嫌でも感じる強大なプレッシャーに身が竦む。
「これは、本当にご主人様なんですか?」
「ああ、恐らくな。入るぞ」
その言葉に全員が頷くのを確認した私は、震えそうになる腕を無理矢理動かしドアを開ける。
見えたのはいつも通りの白亜の姿だ。
しかし、白亜はドアが開く音が聞こえている筈なのに、こちらに振り向く様な気配は無い。
この世界に来て白くなった長く艶のある髪。
後ろ姿でさえもその容姿が相当な物であると感じさせる立ち姿。
どれもこれも私の知っている物の筈だ。
だが、身に纏うその気配だけが違い。その違いがあれは本当に私の知っている白亜なのか? と、疑問を浮かび上がらせる。
神々が放つ様な絶対的強者の存在感。
そんな力を人の身で宿して果たして自身を保てるのか?
「白亜……」
そんな私の不安が出たかのような震える声。それでも必死に吐き出した言葉。
私の気持ちは白亜に届いたのか……。
その声に振り返った白亜の顔に表情は無い様に感じた。
──やはり、駄目なのか。
そんな考えが私達全員の頭を過ぎった瞬間──。
「いや、ちょっと待って欲しい。これは何かの手違いだ。きっと駄女神の陰謀に違いない」
「「「………………」」」
……そんな物は勘違いだった。
徹頭徹尾あのバカはあのバカのままだった。
今まで感じていた物は一気に霧散し、その台詞を聞いた瞬間に先程とは違う意味で力が抜けるのを感じながら、それでも一言どうしても言いたかった。
「お前と言う奴は」
「ギャース!?」
一言ついでに手も出たのはご愛嬌だろう。
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そこは四畳半程の真っ暗な部屋だった。
その部屋にはテレビ以外何も無く。明かりも布団も替えの服すら必要な物は何も置いていない。
それ以外は何日も放置されている汚れた茶碗や、弁当の容器のプラスチックゴミが幾重にも重なり散乱している。
窓すら無いその部屋にあるのは二つのドアだけ。
一つはトイレのドア。そしてもう一つは固く何重にも施錠されている微かに光が漏れ出るドア。
それが幼い私の世界の全てだった。
──ああ、これは夢だな。覚えている。
そんな部屋の片隅。
テレビの光から逃れるように、薄汚れた子供が壁に寄りかかっている。
痩せこけ、目に生気を感じさせない今にも死にそうな子供がテレビの光だけをただただ見詰めている。
──これは私だ。
──そしてこの日のこのテレビの内容は覚えている。だってこの日は私が私になった日だから。
その世界には人が来る事などほとんど無かった。
二~三日に一度の割合で弁当や、菓子パンなどの食料が部屋の中に投げ込まれる。それだけが私が外の世界と繋がる時間であった。
だが、この日だけは違った。
ドアの外から聞こえる幼い少女の声。
それと同時に突然ドアが吹き飛び、光を背負って一人の少女が私の世界の壁を壊してやって来た。
「……なんの部屋かと思えばそういう事」
突然の出来事に驚いた私は動く事が出来なかった。とは言え、この時の私は既に何日も何も食べて居なかった事でまともに動けなかったという方が正しかっただろう。
そんな少女は部屋を一瞥して「臭いわね」と、呟くと部屋の片隅に居た私を見つけ近寄って来る。
睨み付ける様な視線で私を見詰める少女。
艶のある黒い漆黒の髪に、飲み込まれそうな黒い瞳、そして見る者を従える様な勝気な顔。
身体全体から自信が溢れ出ている。そんな印象を誰にでも与える少女。
──だが。その時の私には何故かそれが違って見えた。
「……なんで、泣いているの?」
言葉はテレビで覚えた。
とは言え、それがどんな意味なのかはほとんどが分からない。
ただ胸の辺りが締め付けられる様な、何かを失った様な感覚になる時に目から溢れる物が涙と呼ばれ、哀しいと言う時に出る物だと言う事だけはテレビで知った。
──今、こうやって第三者の様な感覚でこの場面を見ていても、何故そんな事を言ったのかは分からない。
──でも、確かに私はこの時そう思ったのだ。
「そう。貴女には私がそんな風に見えるのね……。やっと、やっと見付けた。貴女がそうだったのね。貴女、名前は?」
「な……まえ?」
「……そう、知らないの。…………貴女の名は……そう、白亜……白亜と言うのよ」
「ハク……ア?」
「そう。そして私は貴女の姉。お姉ちゃんよ」
「おね……ちゃん」
「ええ、これから貴女は私と暮らすの。だって貴女は私の……|私達(・・)の希望だから。意味は分からないでしょう。でも、それで良いの。分からないから、分からないのが……。だから貴女は私達の希望たり得るのだから」
姉はそう言って朽ち果てるのを待つだけだった、薄汚れた私を汚れる事も気にせず抱き締める。
「私の名前は黒華。産まれながらに塗り潰され繋がれた私達とは違う。何も知らない真っ白な私。だから貴女は白亜なの。これからは私が貴女を|アレ(・・)から守り、全てを教えてあげる。そしていつか──」
──いつか、私達の希望になってね……。
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薄暗い部屋。
そんな中で私は目を覚ます。
「ぬおぉぉお」
少し動いただけで身体のあちこちがベキベキと嫌な音を立てる。
身体中がくっそ痛い! てか、誰も居ないんかい!? ちょっと寂しいぞ!
痛む身体に鞭打ちながら懸命に辺りを見回すがだれの姿も無い。その代わり部屋のあちこちが傷だらけなのは何故だろう? 解せぬ。
しかし、懐かしい物を見たもんだ。
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私が初めて私になった日の事。
しかし、希望かぁー。どう言う意味だったんだろう?
姉は私と違って超優秀。姉が私にとって希望なら分かるが私が姉にとっての希望となると訳が解らん。まっ、それも今となってはどうしようも無い話か……。
そう結論付けた私はそれ以上深く考える事を止めて何とかベットから這い出でる。
立ち上がればその服装はテレビから、ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛と這い出て来そうな格好に着替えさせられている。
ふむ。全身真っ白だな。
何日寝てたのか凝り固まった身体を解しながら、ぶっ倒れる前の事を思い出す。
確か~、そうだ! エラーが起きたからとかってシャットダウンさせられたんだ!? い、一応、シャットダウン前の人間に近い状態だし、しょ、初期化されてるとか無いよね? うぅ、怖いから見たくないけど見るしかないか。
名前:ハクア
進化:5
レベル:1/40
性別:女
種族:禍津鬼
強化値:0
HP:12000
MP:5100
気力:5000
物攻:4100
物防:3000
魔攻:3800
魔防:3670
敏捷:6040
知恵:3850
器用:5110
運 :130
覚悟を決めてステータスを見たが修正入って弱くなると言う事は無かった。と言うよりもあのダンジョンのおかげで私もようやく良い感じのステータスにはなって来た。──が、それ以上に気になる物を見付け冷や汗が止まらない。
しゅ、種族もなんか不穏な物になってるし。この称号の数々……。こ、これは……まさかの怒られ案件なのでは……。
いつまでもこうしては居られない。早急に対応を考えなければと、頭を必死に働かせるが後ろからは無情にもドアの開く音が聞こえる。
ギャース! 考える時間も無いっすか! そうっすか! どうしよう。どうしよう。寝起き一発目から怒られるのは何とか避けたい!!
ドアの音に気が付かない振りをして少しでも良いから時間を稼ぐ。
頑張れ私の【思考加速】。今こそその力を発揮する時だ!!
──だが、そんな私に向かって澪が語り掛けてくる。
──よし! 誤魔化そう。
そうと決めたら後は勢いに任せるのみだった。とりあえず駄女神のせいにしてしまえば有耶無耶に出来る筈。
そう考えた私は捲し立てる様に言葉を発する。
「いや、ちょっと待って欲しい。これは何かの手違いだ。きっと駄女神の陰謀に違いない」
「「「………………」」」
沈黙がイターイ! うん。分かってるこれ失敗したパターンだ。
「お前と言う奴は」
「ギャース!?」
結局頭を思いっ切り叩かれ怒られました。解せぬ。
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めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので!
本編完結しました!
時々おまけを更新しています。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
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鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
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第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
捨て子の僕が公爵家の跡取り⁉~喋る聖剣とモフモフに助けられて波乱の人生を生きてます~
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物心がついた頃から孤児院で育った僕は高熱を出して寝込んだ後で自分が転生者だと思い出した。そして10歳の時に孤児院で火事に遭遇する。もう駄目だ! と思った時に助けてくれたのは、不思議な聖剣だった。その聖剣が言うにはどうやら僕は公爵家の跡取りらしい。孤児院を逃げ出した僕は聖剣とモフモフに助けられながら生家を目指す。
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