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106.第一子誕生
しおりを挟むわたしはきっと一生忘れない。初めて我が子をこの目で見た瞬間を。
半日以上に及ぶ陣痛と格闘し、無事出産を終えた。母子共に健康、産まれたのは何と女の子だった。
おくるみにくるまった我が子を抱く。ちっちゃな白いうさ耳がまだぷるぷる震えている。ちょっと手をつつくとわたしの指をぎゅっ、と握った。・・・なんて可愛いんだろう。
わたしは出産に立ち会って色々な衝撃を受け、まだ惚けたままの2人のパパに声を掛ける。
「レド、ルーカス、抱っこしてあげて」
「…あ?あ、ああ…」
まずは珍しく間抜け顔をしていたレドが赤ちゃんを抱く。おっかなびっくりふれるその様子は、いつもの威厳あるボスからは想像も出来ない。
「・・・・・」
言葉もなく自分の手の中にいる娘を見つめ、小さいな・・・と呟く。
と、ふえっ・・・と泣きそうになる赤ちゃん。
「ま、まて、泣くな。………ルーカス…タッチ」
慌ててあやすが効き目は無く、ルーカスにバトンタッチする。
「え、ズルイですよレド!泣いてからタッチなんて…軽い…あぁ、ほら、泣かないで下さい」
レドに抗議しながらもちょっと揺すってみたりするルーカス。合間に感想を洩らす。
うぇ~ん・・・・
「ソニア~」
「ふふ、はい」
本格的に泣き出した赤ちゃんをどうする事も出来ず、わたしに助けを求めた彼から我が子を受け取る。泣き声を聞いていたら胸が張ってきた。もしかしてお腹空いたかな?
「よしよし」
「お腹が空いたようだね、初乳は出そうかい?」
泣き声を聞いてそう言う産婆さん。
「たぶん大丈夫です、胸が張ってきたので」
「そうかい。ならやんなさい、初乳は大事だよ」
「はい」
小さな口に自分の乳首を入れると、泣き止んで母乳を吸い始めた。レドとルーカスが両隣に来て覗き込む。
懸命におっぱいを飲む赤ちゃん。どうやら順調に出ているようでほっとした。ここにも粉ミルクはあるけど出来れば母乳で育てたいと思っていたのだ。
その後、産婆さんはまた明日来ると言って帰った。
おっぱいを飲み終え、すやすや眠る赤ちゃんをベビーベットへ寝かせる。しばらくの間、3人で黙って見つめていた。
ふわふわの髪はわたしよりも少し濃い色、瞳も同じ。この子はクウォーターになるのだろうが、白兎の耳としっぽはちゃんと付いていた。まだ誰に似ているとも言えないかな・・・?
「…ソニア似だな」
「ええ、そうですね。良かった」
わたしと同じ事を考えていたらしい2人が小さな声で話すと、うさ耳がぴくぴく動いた。・・・超可愛い。
「髪はわたしに似てるけど、まだ分かんないよ?」
「いえ、こんなに可愛いんですよ?ソニア似に決まってます」
「同感だ」
「そ、そう、かな?」
イマイチ分からない理由に曖昧な返事をすると、2人がわたしをそっと抱きしめる。
「…ソニア、頑張ったな。ありがとう」
「ソニア、産んでくれてありがとうございます。お疲れ様でした」
「…レド…ルーカス…わたしも…ずっとついててくれてありがとう。すごく安心できた」
夫たちの言葉に心が温かくなる。
「子育ては大変だが…俺たちが一緒だ。心配ない」
「そうですね、一緒に頑張りましょう」
「…うん…」
こくん、と頷くと優しい口づけが降ってきた。
◇
赤ちゃんの名前は“ココ”に決まった。
2人の新米パパはあの日の言葉通り色々手伝ってくれていた。オシメも変えてくれるし、ベビーバスにも入れてくれる。夜中の授乳も一緒に起きて左右からじっと眺めている。寝てもいいよ?と言っても気になって眠れない、と返された。寝室を別にしようかとも考えたが、怒られる気がして言うのはやめました。
幹部たちは毎日代わる代わるお祝いにやってきてはココを愛でていく。中でもルイさんは突出していて、レドやルーカス並みのデレっぷりだった。ちょっとひくかも。
そして、もはや恒例となったフェズさんの出張店舗も開催されました。今まではいつも止めていたわたしですが、今回ばかりは一緒になって大量に選んでしまいましたよ。
ココが産まれてひと月が経ち、今日は産婆さんが来てココの様子を診て帰った。どこにも異常はなく、順調に育っています。今までは家事もほとんどレドとルーカスがやってくれていたが、少しずつ2人の隙を見て家事を再開しています。
んくっ、んくっ、とおっぱいを飲んでいたココが、ぷぁっと乳首を離す。
「もうお腹いっぱい?よし、じゃあげっぷしようね」
胸を隠し、たて抱っこして背中をとんとんする。
けぷっ、と可愛らしい息が聞こえて、よこ抱っこに戻した。いつもだったら授乳後はすぐに眠ってしまうのだが、今は大きな目でわたしを見ている。
「ん?ネンネしないの?なら起きてるうちにパパたちが帰ってくるといいね~」
産まれたばかりの赤ん坊は寝てばかりで起きている時間の方が少なく、レドとルーカスは起きてるココを見られない日もあるのだ。その時の落ち込みようといったら・・・ま、まあ、それだけ可愛がっているのは分かってるんだけどね。
食事の支度をしようと立ち上がった時、レドがオーナー部屋から入ってきた。
「今日はもう終わり?」
「ああ。…お、今日は起きてるな」
「今おっぱい飲んだところだよ。…お疲れ様、レド」
「ソニア…」
「…っん」
優しくわたしを抱き寄せ、唇を塞ぐ。間にいるココを潰さないよう注意しながらも舌を絡めとって吸われる。
妊娠前と変わらないただいまのキス。何気ないことだけどすごく嬉しい。
やがて唇が離れるとレドがココを抱っこする。初めのぎこちなさが嘘のような慣れた手つきだ。
「夕食の支度するから、ココを見ててくれる?」
「ああ、任せとけ」
「ありがとう」
キッチンにいるとココに話しかける声が聞こえてくる。
「ココ、今日は起きて待っててくれたのか?良い子だな」
ちゅっ、ちゅっ、ちゅっ。
キスをしまくっている音に思わず笑ってしまった。
夕食ができた頃、早番だったルーカスが帰ってきた。
「おかえり、ルーカス」
「ただいま、ソニア…」
彼もまずわたしにキスしてくれる。そして・・・
「ココ~、イイコにちてまちたか~?」
と言いながら破綻しまくった表情でココを受け取る。
・・・赤ちゃん言葉が板についてきました。
「おぉ~、今日は起きてまちゅねぇ。ん~、イイコイイコ」
ちゅちゅちゅちゅ。
高速キッス。
「…食うか」
「うん…」
レドと2人で顔を見合わせ、少々呆れ顔をしながらも笑いあった。
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