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105.父親
しおりを挟む昼から行われたパーティーは外が暗くなった頃終わった。他の街から来た招待客は大体が明日帰る事になっていた。
その夜、私室にはエドワルド様が来ていた。
「疲れてることころすまないな、ソニアちゃん。だがどうしても話しておきたい事があるんだ」
わたしたちは、真剣な表情で切り出す国王様の話を黙って聞いた。
「まずはお詫びだ。エドガーが迷惑をかけてすまなかった。責任の一端は儂にもある。長年望んでやっと出来た子でな、その上複雑な立場になった彼奴を甘やかし過ぎた。だが王都へ帰ってきてから少しマシになったようだ。女遊びを全くせんわけでは無いが…以前のように手当たり次第ではなくなった。仕事への責任感も増したように思う。詳しくは聞いとらんがソニアちゃんに諭された、とか言っとった。ありがとう、ソニアちゃん」
世襲制のないこの国での王子の立場は実に微妙だ。王が交代すれば王子とて一般人になるのだから。
ソニアもここまでは知っていたが現実はもっと複雑だった。その原因はレドモンドの存在にある。
エドガーが産まれたのはエドワルドが王になってからの事。正真正銘、エドワルドの血を引く魔人の子の誕生。しかし既にグラベット内ではレドモンドがエドワルドの息子として知られていた。嫌が応にも比べられる事が多かったが、実力はあまりにもかけ離れていた。その事実がエドガーの心に暗い影を落とす事になったのだ。
王は一息ついて続けた。
グラベットでは、昔から親の無い魔人の子を組織で育てる事があった。レドモンドもその1人だ。
レドモンドはある任務先でエドワルドに拾われた。まだ名も無い赤ん坊だった彼の両親がどうなったかは誰にも分からない。その時グラベットの幹部だったエドワルドは、赤ん坊をレドモンドと名付けて自らの手元で育てる事にした。
幼い時分からその強さの片鱗をのぞかせていたレドモンドは、成人する頃にはもう最強の魔人と呼ばれるようになった。グラベットの仕事もあっという間にマスターし、史上最短で幹部に昇進。圧倒的なカリスマ性まで持ち合わせていた彼は、創設者グラベットの再来とまで言われた。
だが自分に全く執着心がなく、パーティーでレドモンド自身が語ったように自らさえ組織の駒で、幸せなど考えたこともない。
「…儂はずっと組織の為に働いてきたレドが心配だった。ボスとしてだけでなく、1人の男として幸せになって欲しかったのだ。それが今、最高の形で叶おうとしている。いや…もう叶ったのだろうな。あんなに嬉しそうな顔を儂は見たことがなかったしな。…ソニアちゃん、ありがとう。儂の息子とルーカスをよろしく頼むよ」
そう言って笑ったエドワルド様は、王様の時とも、でれっとしている時とも違う・・・1人の父親の顔をしていた。
わたしは何だか胸がいっぱいで・・・「はい」と返事するので精一杯だった。
そしてやっと分かった。レドに無理やりキスされた後、何故ルーカスがわたしに「オーナーには幸せになっていただきたいんです」と言ったのか。
きっと・・・エドワルド様と同じ事を心配し、願っていたのだろう。
◇
「…疲れただろう、身体は大丈夫か?」
エドワルド様がフェズさんの家に帰った後、ソファーでお茶を飲みながらレドが尋ねる。
「うん、大丈夫」
「それにしては静かですね?」
「エドワルド様の話を思い出してたの。素敵なおとうさまだね」
「素敵ねぇ…」
ルーカスに聞かれて答えると、レドが呟いてフイッ、と顔を逸らす。珍しくその頬が少し赤いのは気のせいじゃないと思う。
わたしにデレデレするエドワルド様を睨み、昨日から口喧嘩ばかりしていたが・・・やはり彼はレドにとって父親なのだと感じた。何故かレドが子供のように見えたのは、エドワルド様を尊敬し、全幅の信頼を置いているからなのだろう。
「そういえば、今日のソニアの歌には驚きましたよ。まさか弾きながら歌うとは…素晴らしいかったです」
レドの窮地(?)を察したのか、ルーカスが話を変える。
「ああ、同感だ。歌詞も良かったな。お前はいつも俺たちの想像の上をいく」
「きっと、これからもこういうことがたくさんあるでしょうね。楽しみです」
「…ふふ、あまり期待しないで。さすがにもう出し切ったと思うから」
その後、ゆっくりとお風呂で温まってからいつもより早めの就寝となった。
翌日、エドワルド様は王都へ帰還した。子が産まれたら必ずまた来る!と言い残して。
◇
披露パーティーから早くも半年以上が過ぎて、2度目の乾期を迎えていた。
お腹はすっかり大きくなり、臨月に入った。中からドンドン蹴り上げる赤ちゃんの元気の良さに幸せを感じる日々。レドとルーカスはお腹の大きな妊婦は見るのも初めてに近く、蹴られて形の変わるお腹を不安そうに眺めていたりする。
悪阻が治ったのは良いのだが、2人がわたしに尋常じゃない量を食べさせようとするので少し困っている。太りすぎるのも良くないのだ、と言ってもなかなか納得しなかった。
ここには病院はないので、産婆さんにお世話になっている。その産婆さんはもうかなりの人数を取り上げているベテランの方で、最初はレドたちに萎縮していた。だが、何でも知っているかに思えた天下のグラベットのボスとNo.2でも妊婦や出産の事になると知らないことも多く、今ではレドたちに請われて色々教えたりしている。
勉強熱心な旦那様たちです。
「そろそろ気をつけておいたほうが良いね。初産は予定日から遅れる事が多いけど、ソニアちゃんはハーフだからねぇ。ワタシもハーフは初めてだから分からないんだよ、すまないねぇ…でも夜中でも飛んでくるから、知らせとくれね」
様子を見に来てくれいる産婆さんは申し訳なさそうだが、そう言ってもらえるだけで心強い。
「ありがとうございます。その時はよろしくお願いします」
わたしはお礼を言って産婆さんを見送った。
そして、数日後の夜中
何となく、ふっ、と目が覚めた、その瞬間。
プツッ
・・・大きな風船に小さな穴が空いたような感覚があった。ちょろっと何かが出る。
これってもしかして・・・破水!
「…っあ、レド…ルーカス…」
口から出た声は弱々しかったが、2人はすぐに飛び起きた。
「どうした!?」
「…破水、したみたい…」
「破水!?と、とにかく産婆を!!」
ルーカスがベッドルームを飛び出していった。
「…ソニア…」
レドは心配そうにわたしの頭を撫でた。
※ 急に時が経ってすみません。ラストまで後2回、よろしくお願いします。
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