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104.披露パーティー 後編
しおりを挟むパーティーはレドモンドの挨拶から始まった。
国王に頭を下げてから招待客の方を向き、口を開く。
「皆、遠いところよく来てくれた。紹介する。俺とルーカスの妻、ソニアだ」
隣に立っていたソニアの肩を抱いて続ける。
「…俺が結婚する事に皆驚いていると思うが、一番驚いているのは自分かもしれない。今までグラベットが俺の全てだった。自分自身さえ組織の駒のひとつで、ボスの座を譲れる奴さえ育てば御役御免だと思っていた。だが、その考えを覆す女がいた。…それがソニアだ。ソニアが現れてから、周囲も、俺自身も随分変わった。この変化はきっとこの国に良い影響を与えるだろう。俺は、ルーカスと、ソニアと共にそれを見届けたいと思う。今日はその影響の片鱗を感じ取ってもらいたい」
レドモンドの目線を受けてルーカスが話し始める。
「人生とは不思議なものです。こうして皆さん前で私たちの妻をお披露目する事になると…誰が予測できたでしょうか?レドの言った通りシャハールは今進化の最中です。この先今まで以上に素晴らしい街になると…私は信じています。死が私たちを別つまで…レドと、ソニアと、共に歩み、見届けると約束します」
会場は物音ひとつせず、招待客は皆真剣に話に耳を傾けていた。
わたしは2人の話のスケールの大きさに驚きを隠せなかった。でも・・・レドが王に、ルーカスが宰相になった時、妃として隣に・・・と約束した事を思い出す。あれはきっと辿り着く可能性が高い未来。彼らはその未来に向かってしっかりと歩を進めている。ならわたしは・・・。
レドに促され、会場を見渡しながら自分なりの決意を口にする。
「初めまして、ソニアです。…わたしはまだ世間知らずの若輩者で…自信を持てるのはレドとルーカスへの想いだけです。2人が居てくれるから、わたしは今、ここに立っています。これからの永い人生、何が起ころうと前を向いて彼らと一緒に歩んでいきたいと思います」
緊張しながら言い切って一礼し、頭を上げると左右から肩と腰を抱かれる。初対面の人も大勢いるのでさすがに焦るが、会場内は大きな拍手が鳴り響いた。
わたしたちも席についたあとは、エドワルド様や他の方の挨拶があった。エドワルド様は全然でれっ、としてなくて(当たり前)、威厳に満ち溢れていた。だが会食が始まってわたしがお色直しを終えると、鼻の下を長くしてこちらを見ていてレドに睨まれていた。
今着ているドレスはルーカスが選んだもの。ピンク色のプリンセスラインドレスで、同系色の花飾りがあしらわれて可愛らしさを格段にアップさせている。わたしをお姫様だと公言するルーカスらしいチョイスだ。
わたしたちの席には次々と招待客がお祝いを伝えに来てくれていた。人数の多さに多少疲れと吐き気を感じたが我慢出来ないほどではなかった。それにそろそろお色直しがあるから少し休めるのだ。気が付かれないようにしていたつもりだったが2人の目は誤魔化せず、促されて早めに着替えに控え室へ戻った。
「全く…無理するなと言っただろう?」
「そうですよ、我慢しないで下さいとお願いしたはずですが?」
そう咎める2人は、1人掛けのイスに座ったわたしの前にしゃがみ込んで顔を顰めている。
「で、でもほら、吐き気もチョットだけだった、し…」
中座するほどではなかった、と続けようとしたが夫たちの心配そうな視線を受けて言えなくなった。
「…ごめんなさい」
同時にため息を吐く2人。
「…歌えるか?」
レドの温かい手が頬を撫でる。
「うん、大丈夫」
「本当ですか?」
ルーカスのひんやりした手がわたしの手を包む。
「うん、不思議と歌ってる時は気分悪くならないの。だから大丈夫」
「…そうか」
「それに、歌ったらもうすぐ終わりでしょう?」
「…そうですね」
2人は顔を見合わせるが、まだ心残りがありそうな表情をしている。
「ちゃんと少し休んでから着替えるから、戻ってて?」
「ああ、分かった」
「戻ります」
わたしの言葉に仕方なく頷き、軽くキスしてから控え室を出て行った。
◇
パーティーも終盤に差し掛かり、招待客は皆レドモンドのたちへの挨拶を終えて会食を楽しんでいる。方々からグラベット関係者が集まっているため、中には数十年ぶりの再会を果たして喜び合う者たちもいた。
そんな中、ヴァイオリンを手にしたシトロンが奥から出てきたが気がついた者は少ない。シトロンはレドモンドとルーカス、そして国王様に最敬礼してステージに上がり中央を空けて立った。そこでやっと招待客たちが気が付く。
彼が一礼して静かに弾き始めると会場内が薄暗くなり、奥への扉にスポットが当たる。
ゆっくりとドアが開くとそこには――――
真っ白なドレスに身を包んだソニアが立っていた。
それはまさにウエディングドレスだが、ここにそれを知る者はいない。
真っ白なAラインドレス。ビスチェの胸元にはエレガントなネックレスが光り、長いヴェールからは恥ずかしそうな表情が見え隠れしていた。ロングトレーンのスカートは、レースとスパンコールで上品な装飾がされている。
麗しきその姿に会場内にいた全ての者が見惚れた。
レドモンドとルーカスが立って行き、ソニアをエスコートしてステージへ。中央に立たせてキスを落とすと彼女が頬を染める。
2人が席へ戻るとソニアとシトロンが視線を交わし、前奏が始まった。
一曲目は、レドモンドに推され、閉店後の酒場にて初めて歌った時の歌。本来はピアノ伴奏の曲だが、シトロンにヴァイオリンバージョンにしてもらった。
皆が綺麗な歌声に聴き惚れているうちに一曲目が終わり、そのまま二曲目に入るかと思いきや・・・ソニアはピアノへ向かった。それを見て少し騒めく会場。シトロンがサッと回り込んでイスを引き、彼女が座った後ヴェールやドレスの裾をさり気なく直して自分も位置へ着く。
そして、ソニアがピアノを弾き始め――――歌い出す。
ステージ上の2人以外の全ての者が呆気にとられる。レドモンドとルーカスさえも。
ここでは弾きながら歌う者などいない。歌い手も演奏家も兼業が殆どなのだからどちらかだけで手一杯なのが普通だ。
ソニアには、この曲が大好きな父のため、誕生日にピアノで弾いて聴かせようと随分練習した思い出がある。それに披露宴などで相手に贈るにはぴったりの歌詞。そこで、レドモンドにもルーカスにも内緒でシトロンに協力してもらいながら再度練習したのだ。
真っ白なドレスで弾きながら歌うソニアは、一瞬で皆を虜にした。
美しく艶やかな姿、柔らかで可愛らしいのに凛と通る声、心に響く歌詞。
歌がサビに入るとシトロンのヴァイオリンが華やかに彩を添える。
まるで彼女の感じている幸せを表現しているような・・・・・そんな歌だった。
歌い終えて息を吐くと、シトロンが来てイスを引いてくれる。ゆっくりと歩いて中央に立ち、一礼して顔を上げた。その途端、会場内が一気に歓声に包まれた。
シトロンに聞いていたので弾きながら歌う事など普通はしないと知っていた。だから受け入れられるか不安もあったのだが、杞憂で済んだようだ。
レドとルーカスが立って来て左右からわたしを抱きしめ、頬に口づける。その綻んだ表情を見てほっとし、わたしからも愛しい夫たちに口づけを贈った。
拍手はまだ鳴り止まない。エドワルド様も満面の笑みでわたしたちを見守ってくれている。
こうして、披露パーティーは無事に終了した。
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