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101.王様現る
しおりを挟む今わたしは、ガチガチに緊張しながら物凄く豪奢な馬車を出迎えていた。今日から数日間休みに入った酒場の前には、レドとルーカスをはじめとした主立った幹部が勢揃いしている。酒場のスタッフやピアニー、リラに彼女の父や兄まで、皆が遠巻きにこちらを見ている。
この事実を聞いたのは昨夜。
「ええええ!!お、王様が来るの!?披露パーティーに!?」
驚愕に目を見開き、思わず持っていたカップを取り落としそうになってしまう。それを見たルーカスが慌ててわたしのカップを取ってテーブル置く。
「あッ、ソニア危ないです!…かかってない…ですよね?ああ良かった」
「ご、ごめんなさい、ルーカス…びっくりしちゃって…」
「あまり驚くと腹に響くぞ。気をつけろ」
「ならもっと早くに教えてくれれば良いのに」
明日、王が来る。なんて急に聞いて驚かない方がおかしい。そう思ってちょっとレドを睨む。
「フフッ、いつ聞いたって驚くだろう?」
「それはそうかもしれないけど…心の準備が…」
「別に構える事はない」
「そうですよ、そのままのソニアで良いんです」
「そんなに軽く言われても…2人は何度も会った事があるの?」
そう聞いてみると、2人は何だか含みのある笑い方をした。この様子からするとまだわたしの知らない事があるらしい。
「ああ、もちろんだ」
「ありますよ、何度も、ね」
「…何?教えてよ」
「明日分かるさ」
「ええ、明日分かりますよ」
その後も何度か尋ねてみたが結局教えてくれなかった。
煌びやかな馬車の扉を御者が開けると、1人の男性が悠然と降り立つ。
見た目は60代、身長はそう高くないが体つきはガッシリと逞しく、美しい装飾のついたマントを羽織っている。白髪の混じった金髪、それに同色の立派な髭も綺麗に整えてある。荘厳な気配を漂わせた方だ。
王様は鋭い眼光で真っ直ぐにレドを見つめた。
「お待ちしておりました、王よ。お変わりないようでなによりです」
レドがビシッと頭を下げると、幹部たちも一斉に最敬礼する。わたしも彼から一歩下がった位置でそれに倣った。
「…うむ、久しいなレドモンドよ。息災であったか?」
「はい。紹介致します、彼女がソニア、私の妻です」
目で促されて隣に立ち、挨拶をする。
「初めまして、ソニアと申します」
よろしくお願いします、と言うのも何だかおかしい気がしてそれだけ言い、深く頭を下げる。
「うむ」
王様は頷いただけだった。
「中へどうぞ」
「うむ」
レドがそう言って先に立って歩くと、幹部たちは左右に分かれて頭を下げ続ける。わたしはルーカスと一緒に後ろから中へ入った。
◇
てっきりオーナー部屋で話すのだと思っていたがレドが王様と共に私室へ入るのを見て驚いてしまった。隣のルーカスを見るが彼はいつものように微笑むだけ。仕方なくわたしもそのままリビングへ行く。
すると・・・・
「あ~肩凝った!何故あんな鷹揚なセリフを言わにゃならんのだ!?」
王様がマントをその辺に放り投げ、ドカッ、とソファーに座る。
「…仕方ないだろ。いい加減慣れろよジジイ、何百年王様やってんだよ」
「何百年経とうが慣れてたまるか!…な~レド、そろそろ変わらんか?王様」
「嫌だね」
冷たく言い放ったレドモンドはキッチン行ってしまう。
「ルーカス~、お主からも説得してくれんか?」
「お断りします。レドが王になれば私が宰相でしょう?あんな苦労したくありません」
「皆冷たいな~…もっと年寄りを労らんか。おお、ソニアちゃん!そんな隅におらんでこっちおいで!もう一度よく顔を見せてくれんか」
レドモンドに振られて矛先をルーカスに変えるがまた断られ、ちょっとしょぼくれる。だがそれはほんの一瞬で、ソニアを見つけて満面の笑みになった。
その時、もう1人の人物が私室を訪れた。
「相変わらず周りを困らせとるのか?お前はいつまで経ってもガキじゃな。エドワルド」
「おお!モーベット!まだ生きとったか!しぶといな!」
現れたのはモーベット、グラベットメンバー専用武器屋の主人だ。
「口の悪さも変わらんな、少しは先代らしくしたらどうじゃ?ソニアちゃんが驚いてるわい」
「出来たらとっくの昔に実行しとるわ!」
モーベットが王様、エドワルドの隣に腰掛けるとレドモンドがキッチンから戻る。ルーカスが彼から飲み物を受け取って出し、ソニアに声をかけた。
「ソニア、座って下さい。ずっと立っているのは身体に良くないです」
訳が分からず惚けっぱなしの彼女をレドモンドがソファーへ連れていって座らせ、自らも隣に腰掛けるとルーカスも逆隣に座った。
・・・・・・・・・・え?今なんと言いました?先代?先代は亡くなったんじゃないの?だって以前武器屋に行った時、先代も安心してるだろう、ってモーベットさんが・・・口調から想像して亡くなってるんだと・・・思って・・・あれ?
わたしは、目の前で繰り広げられる王様との親しげな会話を呆然として眺めていた。ルーカスに何やら声を掛けられ、レドに促されるままソファーに座った、けど・・・まだよく分かってない。説明を求めて2人を交互に見ると、顔を見合わせて笑ってから話し始めた。
「ソニア、改めて紹介しますね。彼がエドワルド、このメイフィア王国の現国王、そして…グラベットの先代のボスです」
「エドガーの父親で、俺の育ての親でもある」
!!!
2人の説明を必死に頭の中で整理する。
王様イコールエドガーの父、という事だけはおそらくそうだろうと思っていたので驚きはないが・・・それ以外は予想外が過ぎますよ。
ええと・・・グラベットのボスを退いて国王になったエドワルド様。で、レドの育ての親・・・あぁっ!挨拶!レドの親御さんならわたしの義父様!
「あ、あの!あ、挨拶が遅れてすみません、えと、不束者ですがよろしくお願いします!」
まだ若干混乱した状態のまま、とにかく頭を下げる。すると・・・束の間シーンとしたリビングが一気に笑いに包まれた。
・・・あれ、なんで?何かおかしな事言った?
頭を上げてキョロキョロと2人の夫を見る。
「フフフッ…何でいきなり挨拶なんだ?」
「ふふ…ソニア…不束者って…それじゃあ…ふふふ…」
・・・ハッ!?不束者ですが、って、普通は夫に言うんだっけ!?
「えと、あの、すみません、変な挨拶をして。…レドの育ての親という事は、わたしの義父に当たるんですよね?…ですから…その…きちんとしなくては、と思って…」
恥ずかしさでシドロモドロになりながら何とか意を伝えると・・・エドワルド様が急にバンッ!と両手でテーブルを叩き、身を乗り出してくる。そして全力で一言。
「…可愛いッ!!!」
・・・はぁ?
「ソニアちゃん!最高に可愛いッ!!な、な、お父様、って呼んでみてくれんか?」
力一杯何を言うかと思えば・・・この親にしてあの子あり、だ。
「頼む!この通り!な?」
わたしに向かって拝む王様・・・この人、本当にさっき馬車を降りた王様と同じ人?そう思いながら仕方なく言ってみる。
「オトウサマ?」
カタコト風になったのは許してくださいね。
「ハイ!!お父様です!イイな~、イイ響きだな~!もういっか…」
「…いい加減にしやがれクソジジイ!デレデレするな!ソニアは俺の妻だ!」
若干調子に乗り始めたオウサマの願いはレドに遮られた。言い合いが開始されるがルーカスもモーベットさんも知らん顔している。
王様とケンカなんて、放っておいていいのだろうか?と心配になってルーカスを見る。
「ふふ、放っておいて良いんですよ。いつもこうなんです」
「そうじゃよ、ソニアちゃん。喧嘩するほど仲が良い、と言うじゃろ?」
その言葉に安心していると・・・
「「仲良くない!!」」
と、息ぴったりの2人の声がリビングに響いたのだった。
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