R18、アブナイ異世界ライフ

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96.リラの過去

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 その後、結局店は早仕舞い。お客さんには傷害事件があったとだけ説明し、今日の料金は頂戴しない事になった。

  私はずっとリラの傍に居た。途中ルーカスが暖房器具と暖かい飲み物を持ってきてくれると、彼女もだいぶ落ち着いてきた。

  レドが戻るとリラはオーナー部屋で事情を聞かれた。

  襲ったのは少し前まで小さな店の店主だった男。経営が悪化して潰れ、元妻にも2年前に逃げられてすっかり人が変わったようになってしまったという。

  リラと男は特殊な関係にあった。連れ添い同士、つまりリラの夫と男の妻が駆け落ちしたのである。




  2年前、男の店はすでに潰れかけだった。男の羽振りが良い時期に結婚した妻は貧しい暮らしに嫌気がさていた。一方リラの夫は、優しいが優柔不断で頼りない男。明るくてしっかり者の妻に劣等感を感じていた。

  偶然出会った2人は愚痴を言い合ううちに身体の関係になり、ついに駆け落ちする。それも、比較的裕福だったリラの夫が家の金をごっそり持って。

  ここでは離婚などまず無く、死に別れ以外で連れ添いを失う事など恥。故にその当事者は勿論、その家族まで白い目で見られる。裕福な家ほど嫁への風当たりは強くなりがちだが、幸い夫の両親は優しかった。息子が駆け落ちなどした事をリラの家族にも詫び、一度は辞めてしまった歌い手に復帰出来るよう尽力してくれた。

  おかげで復帰を果たし、ソニアに出会い、レドモンドの酒場から声が掛かった事をキッカケに瞬く間に売れっ子になった。

  それを妬んだのは同じ立場だったはずの妻に逃げられた男。数日前急にリラの前に姿を見せ、「お前さえ居なければ…」と呟いて去っていった。

  そして今日の事件に繋がる。




 「…リラの話は分かった。コンゴ、報告しろ」

  話を聞き終えたレドは、男を尋問したコンゴさんを促す。

 「奴はリラを刺せば妻が戻る、と言ってた。どうやら最近、逃げた女と接触したみてえだ。後はすっかりブルッちまって話にならねえ。自分は悪くねえとかブツブツ言ってたぜ」
 「逃げた女か、捜索は」
 「さっき向かわせました。リラの元夫も探らせてます」

  ルーカスの口から元夫、という言葉が出るとリラの表情が苦悶に染まる。

 「…ご迷惑おかけして申し訳ありません…レドモンド様」

  弱々しい声で謝罪し、頭を下げた。

 「リラ…」

  わたしは彼女の心中を思うと胸が痛んだ。

  レドが短く息を吐いてリラに言う。

 「お前が謝る事じゃない。だが、気になるのならこれからの働きで返せ」
 「え…」
 「そうですね。リラのステージがなくなるとお客が減ってしまいますから、歌ってもらわなければ困ります」
 「…あ、ありがとうございます!」

  また頭を下げたリラの瞳には涙が滲んでいた。











 リラは父と兄との3人で暮らしているが、今夜は仕事で留守なのでさっきの空き部屋に泊まる事になった。彼女は明るくしているが、本当に立ち直ったかは分からない。でもわたしは、変に声を掛けるより普通にしているほうが良いと思った。

  2人で軽く食事をし、久しぶりに住居スペースの女風呂を使う。

 「はぁ~…素敵なバスルームね…広いし、綺麗だし…」
 「でしょう?でもここ使ってないの。勿体無いよね」

  ゆったりとバスタブに浸かりながら感心しているリラに答えると、彼女は目をパチクリさせた。

 「…前から思ってたんだけど、ソニアってかなり庶民的だよね。レドモンド様とルーカス様の奥様なのに」
 「…そうかな?」
 「そうよ、それに変わってる。…普通は夫に逃げられた女と…こんなに親しくしないわ」
 「それを言うならリラだって、あの2人の妻でハーフのわたしと親しくしてくれる。充分変わってる」

  顔を見合わせて笑いあう。

 「…でも本当に良いの?今夜一緒の部屋に寝てもらって」
 「良いの!リラが怖い思いしたのに不謹慎だけど、こんなの久しぶりで嬉しくて」
 「あたしも嬉しいけど…レドモンド様、不機嫌そうだったし」
 「あ~…大丈夫だよ。でも寝る前にちょっと顔を見せてくるね」
 「うん、ぜひそうして」

  真剣な表情で頷くリラだった。




  お風呂上がりに一度リラと別れて私室へ寄ると、2人はリビングで飲んでいた。

 「レド、ルーカス、今日はありがとう」

  言いながらレドの隣に座ると向かいのソファーにいたルーカスが逆隣に腰掛けた。

 「良いんですよ、リラは貴女の大切な友人でしょう?それに、店の利益も考えての事ですから。ですよね?レド」
 「…まあ、今回の事はリラに非がある訳じゃないからな」

  ルーカスに促されて膨れっ面をしながら答えるレド。わたしが他の部屋で寝るのが面白くないのだ。さっきリラが不機嫌そうだった、と言ったのはこの膨れっ面の事です。

 「ありがとう」

  ちゅっ、と2人にキスすると、いつものように肩と腰を抱き寄せられる。

 「そんなんじゃ足りない」

  低く呟いたレドが噛み付くようにわたしの口を塞ぐ。呼吸もままならない激しい口づけに震え、彼に縋りつくと片方の手をルーカスが取って握った。そして耳の中を長い舌でねぶり、熱い吐息で名を呼ぶ。

 「ッん、ンん…」
 「っはぁ…ソニア…」

  レドが唇を解放すると今度はルーカスに奪われる。隅々まで口内を舐め尽くされて身体が反応しそうになると、レドが首筋に伝った唾液を舐めとりながら吸いつく。気持ち良くてひくひくと小さく痙攣し、くぐもった声を漏らしてしまう。

 「んむ…ん”っ、んふぅ」
 「ン、ッふ…ソニア…」

  わたしがリラのいる部屋に戻ったのは、2人に心ゆくまでキスされてからでした・・・。さすがに何してたは言えなかったけど・・・レドの機嫌は直ったからもう大丈夫、とは伝えましたよ。はい。

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