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93.寒冷期に向けて
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もうすぐ寒冷期、陽が沈むのが早くなって夜は冷える日も出てきた。
という事で今夜はカニ鍋、そして熱燗です!
ここでは米酒を温めて飲むことはしないそうで、レドもルーカスも驚いていた。当たり前だけどカニ鍋も初めてで、出来上がるにつれて興味深そうにしている。豆腐がないのは寂しいけど出汁はカニで取れるし、鶏肉も入れたのでその旨味も出る。野菜もたっぷり食べられ、体も温まってヘルシー。
わたしが得意満面で説明するのを微笑みながら聞いてくれる優しい旦那さまたち。
2人には最近和食ブームが来ているようで、何が食べたいか尋ねると「和食!」と返ってくる。故郷の料理を好きになってくれてわたしも凄く嬉しい。
お鍋が出来上がり熱燗も準備OK、お鍋を取り分けてテーブルに置く。
「どうぞ、食べてみて」
声を掛けて反応を待つ。
「あっさりしてるが美味いな。…熱燗に合う」
「これは体が温まりますね。熱燗も初めてですが寒い日は良いですねぇ」
「ふふ、ありがとう」
似ている所も多い2人だが、食べ物に関しては多少好みの差がある。どちらかといえば、レドは魚好き、ルーカスは肉好き。カニ鍋はレドの方が好きだろう。今度は肉料理にしよう、と考えながらお鍋を楽しんだ。
◇
カニ鍋と熱燗を堪能した翌日、わたしはもうすぐ訪れる寒冷期のステージに備えての練習をした。お祭りで思わぬ形で披露したギターを取り入れた曲も準備中だ。
お祭り後、街で話題となっているのはわたしたちのステージだけではない。リラと歌った最後の曲でギターを弾いた彼も注目を集めていて、シトロンに関した問い合わせも店やユニオンに届いていた。早々と出演依頼もあったのだが、彼はこの酒場のステージしか出ないと断った。そのキッパリとした態度がまた酒場のスタッフに好印象を与えたのは言うまでもない。
そのシトロンと同じくお祭りでデビューした唐揚げのほうも順調にファンが増えていた。店で注文するお客さんはもちろん、持って帰りたいと言われる事も多い。どうやら家で奥さんやお子さんに頼まれるらしく、お土産に持って帰っても喜ぶと評判だ。この酒場では今までお持ち帰りはなかったのだが、多数要望があった為唐揚げ限定で始めた。
このショーユの消費具合を考慮し、ショーユ造りが間に合わなくなる前に手を打とうという事で職人探しを始めた。元いた職人に来てもらえれば一番良いのだが、王都からの移住などそう簡単にはいかない。米酒やショーユ造りは難しいし大変な仕事な上、レドにも認められなければいけない。職人探しは難航しそうだった。
◇
休日、わたしはルーカスと2人でドレスショップに来ていた。披露パーティーのドレスを頼んでから半月は経った。その間暇をみてはレドと来たりルーカスと来たりしてデザインなどを決めている。
「やはり白が似合うと思うのですが…ソニアも白を1着選んだんですよね?どんなデザインです?」
「わたしが選んだのはこれ」
目の前にあったデザイン画を見せる。
「あぁ、綺麗なデザインですねぇ…真っ白というのも貴女らしい。なら私は色を入れるか…いやピンクも捨てがたい」
もの凄く真剣に考えてくれるルーカス。
ドレスは6着、3人で2着ずつ好きなデザインを決めている。本当はもっと増やしたかったと2人から聞いてわたしが驚いたのは仕方がないですよね?思いとどまってくれて良かったです、これ以上は無理ですよ。だって、お色直し5回って・・・何時間パーティーを続けるつもりなのか分からないけど、凄く忙しいと思うんです。
ショップを出るともう夕方。
吹きつける風が冷たくて思わず自分の腕を摩ると、ふわっと肩にショールが掛けられた。柔らかで暖かいカシミヤに似た手触り。
「もうすぐ寒冷期ですよ、この時間になれば羽織るものがないと寒いでしょう?」
「ありがとう」
いつもは馬車だが今日は少し食材を買って帰ろうと思い歩く事にしたのだ。急に決めたのに、こういう物がサッと出てくるルーカスに感心してしまう。
「さあ、行きましょう」
「うん」
差し出された手を握り、2人で歩き始めた。
「今夜のメニューは決まってるんですか?」
「うん、豚の生姜焼きにしようかと思って」
「良いですねぇ、生姜焼き好きです。付け合わせにソニアのポテトサラダが食べたいです」
「良いよ。ふふ、ルーカスならそう言うと思ってた」
彼はわたしの作ったポテトサラダが好きだ。自分で作ったのとは何か違いがあるらしく、肉料理の時は決まって頼まれる。なぜ肉料理の時なのかは分からないけど。
わたしたちが通るとすれ違う人、買い物をしてる人、皆がこちらを見る。夕食の買い物をするごく普通の夫婦だと思うんだけど、どこに行っても注目を集めてしまう。最初の頃は見られて緊張したし恥ずかしさもあったけどさすがに慣れた。ボスとNo.2の妻がコソコソ隠れてばかりじゃ良くないし、適度な緊張感を保ちつつも気にし過ぎないようにしている。
「おつまみ、エビのアヒージョにしようかな…」
肉屋で豚肉を買った後、隣の魚介屋に並んでいた良いエビが目に入って呟く。エビのアヒージョはレドの好きなおつまみだ。
「レドの好物ですね、喜びますよ」
「じゃあ、エビ買っていこうかな。あ、そうだ、ミルクも欲しい」
「はい。何処でもお供しますよ、奥さん」
ルーカスが笑いながら言った。
いつも食材は店の物とまとめて購入して保存しておく。貯蔵庫も冷蔵庫も組み込まれた魔石によって時間経過がないので腐る心配もない。だから普段はあるもので作るが、今日は出掛けたついでにこうして好きな食材を買い歩いている。
たまには自分で見て買い物しないとね。
わたしはルーカスと思う存分買い物をして、レドが待つ家へと帰った。
という事で今夜はカニ鍋、そして熱燗です!
ここでは米酒を温めて飲むことはしないそうで、レドもルーカスも驚いていた。当たり前だけどカニ鍋も初めてで、出来上がるにつれて興味深そうにしている。豆腐がないのは寂しいけど出汁はカニで取れるし、鶏肉も入れたのでその旨味も出る。野菜もたっぷり食べられ、体も温まってヘルシー。
わたしが得意満面で説明するのを微笑みながら聞いてくれる優しい旦那さまたち。
2人には最近和食ブームが来ているようで、何が食べたいか尋ねると「和食!」と返ってくる。故郷の料理を好きになってくれてわたしも凄く嬉しい。
お鍋が出来上がり熱燗も準備OK、お鍋を取り分けてテーブルに置く。
「どうぞ、食べてみて」
声を掛けて反応を待つ。
「あっさりしてるが美味いな。…熱燗に合う」
「これは体が温まりますね。熱燗も初めてですが寒い日は良いですねぇ」
「ふふ、ありがとう」
似ている所も多い2人だが、食べ物に関しては多少好みの差がある。どちらかといえば、レドは魚好き、ルーカスは肉好き。カニ鍋はレドの方が好きだろう。今度は肉料理にしよう、と考えながらお鍋を楽しんだ。
◇
カニ鍋と熱燗を堪能した翌日、わたしはもうすぐ訪れる寒冷期のステージに備えての練習をした。お祭りで思わぬ形で披露したギターを取り入れた曲も準備中だ。
お祭り後、街で話題となっているのはわたしたちのステージだけではない。リラと歌った最後の曲でギターを弾いた彼も注目を集めていて、シトロンに関した問い合わせも店やユニオンに届いていた。早々と出演依頼もあったのだが、彼はこの酒場のステージしか出ないと断った。そのキッパリとした態度がまた酒場のスタッフに好印象を与えたのは言うまでもない。
そのシトロンと同じくお祭りでデビューした唐揚げのほうも順調にファンが増えていた。店で注文するお客さんはもちろん、持って帰りたいと言われる事も多い。どうやら家で奥さんやお子さんに頼まれるらしく、お土産に持って帰っても喜ぶと評判だ。この酒場では今までお持ち帰りはなかったのだが、多数要望があった為唐揚げ限定で始めた。
このショーユの消費具合を考慮し、ショーユ造りが間に合わなくなる前に手を打とうという事で職人探しを始めた。元いた職人に来てもらえれば一番良いのだが、王都からの移住などそう簡単にはいかない。米酒やショーユ造りは難しいし大変な仕事な上、レドにも認められなければいけない。職人探しは難航しそうだった。
◇
休日、わたしはルーカスと2人でドレスショップに来ていた。披露パーティーのドレスを頼んでから半月は経った。その間暇をみてはレドと来たりルーカスと来たりしてデザインなどを決めている。
「やはり白が似合うと思うのですが…ソニアも白を1着選んだんですよね?どんなデザインです?」
「わたしが選んだのはこれ」
目の前にあったデザイン画を見せる。
「あぁ、綺麗なデザインですねぇ…真っ白というのも貴女らしい。なら私は色を入れるか…いやピンクも捨てがたい」
もの凄く真剣に考えてくれるルーカス。
ドレスは6着、3人で2着ずつ好きなデザインを決めている。本当はもっと増やしたかったと2人から聞いてわたしが驚いたのは仕方がないですよね?思いとどまってくれて良かったです、これ以上は無理ですよ。だって、お色直し5回って・・・何時間パーティーを続けるつもりなのか分からないけど、凄く忙しいと思うんです。
ショップを出るともう夕方。
吹きつける風が冷たくて思わず自分の腕を摩ると、ふわっと肩にショールが掛けられた。柔らかで暖かいカシミヤに似た手触り。
「もうすぐ寒冷期ですよ、この時間になれば羽織るものがないと寒いでしょう?」
「ありがとう」
いつもは馬車だが今日は少し食材を買って帰ろうと思い歩く事にしたのだ。急に決めたのに、こういう物がサッと出てくるルーカスに感心してしまう。
「さあ、行きましょう」
「うん」
差し出された手を握り、2人で歩き始めた。
「今夜のメニューは決まってるんですか?」
「うん、豚の生姜焼きにしようかと思って」
「良いですねぇ、生姜焼き好きです。付け合わせにソニアのポテトサラダが食べたいです」
「良いよ。ふふ、ルーカスならそう言うと思ってた」
彼はわたしの作ったポテトサラダが好きだ。自分で作ったのとは何か違いがあるらしく、肉料理の時は決まって頼まれる。なぜ肉料理の時なのかは分からないけど。
わたしたちが通るとすれ違う人、買い物をしてる人、皆がこちらを見る。夕食の買い物をするごく普通の夫婦だと思うんだけど、どこに行っても注目を集めてしまう。最初の頃は見られて緊張したし恥ずかしさもあったけどさすがに慣れた。ボスとNo.2の妻がコソコソ隠れてばかりじゃ良くないし、適度な緊張感を保ちつつも気にし過ぎないようにしている。
「おつまみ、エビのアヒージョにしようかな…」
肉屋で豚肉を買った後、隣の魚介屋に並んでいた良いエビが目に入って呟く。エビのアヒージョはレドの好きなおつまみだ。
「レドの好物ですね、喜びますよ」
「じゃあ、エビ買っていこうかな。あ、そうだ、ミルクも欲しい」
「はい。何処でもお供しますよ、奥さん」
ルーカスが笑いながら言った。
いつも食材は店の物とまとめて購入して保存しておく。貯蔵庫も冷蔵庫も組み込まれた魔石によって時間経過がないので腐る心配もない。だから普段はあるもので作るが、今日は出掛けたついでにこうして好きな食材を買い歩いている。
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わたしはルーカスと思う存分買い物をして、レドが待つ家へと帰った。
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