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84.お祭り2日目
しおりを挟む2日目。
今日も派手な服を着せられての売り子です。昨日より増やした唐揚げの売れ行きも順調。リピーターの方や噂を聞いてきた方など、多くのお客さんが来てくれています。
「あっ!コンゴさん、また摘んでる。ダメですよ!」
「後1個だけ!な、いいだろ?ソニアちゃん!」
「ダメですってば。これはお客さんの試食なんですから」
今日はルイさんが酒場で留守番、コンゴさんが屋台に出ている。わたしは、さっきから何度も隙あらば摘もうとしている巨体を見上げて注意した。スキンヘッドにちょこっ、と乗っかったクマ耳がへにゃる。彼は試食会の時からとても唐揚げを気に入ってくれていて、何度も調理のスタッフに作ってもらっていた。
「厳しいなぁ、ソニアちゃんは」
「これが普通です。ほら、中で呼んでますよ、仕事してください」
「ハイハイ、仰せのままに~」
コンゴさんは冗談っぽく返事して中へ入った。
ソニアから見た彼は、いつも明るくて面倒見の良い人。それは正解なのだが、他のスタッフや部下たちからすれば怖い上司筆頭でもある。
レドモンドに付いて街の外へ出る事も多いルイに比べ、コンゴはルーカスの補佐や街の中を走り回る事が多い。そのため、ボスやNo.2に直接接する機会があまり無い中堅までの者は殆どコンゴの指導を受けた事があるのだ。指導者としての彼はとても厳しく、笑顔など全く見せない。
そんな彼がソニアに注意されてニヤけているのを目撃し、スタッフや遊びに来ていた部下たちは呆気にとられるのだった。
「ありがとうございました」
ひっきりなしに訪れていたお客さんが落ち着いてきた頃、珍しい人が来た。
「おぉ、ソニアさん可愛いな!」
辺りに響き渡る大きな声でそう言ったのは・・・
「あ、オーキッドさ、ん…いらっしゃいませ」
「部下たちがここの唐揚げとやらが最高に美味いと騒いでいたんでな」
「そ、そうですか、ありがとうございます」
吹き出しそうになるのを堪え、なるべく頭に視線がいかないようにしながら話す。
割合ガタイの良い、厳つい顔のオーキッドさんの頭には・・・ピンクのうさ耳が揺れて笑いを誘っているから。
チョイス、チョイスがオカシイ。確かに誰が何を付けようが自由だけども。笑いを堪える方の身にもなって欲しいです。相手がコンゴさんだったら大笑いするんだけどな・・・。
「中で食うかな!レドモンドはいるのか?」
「は、はい、あの…」
レドの元へは昨日ほどでは無いが、今日も客が訪れている。今は誰もいないはずなので聞いてこようか迷った時、いつの間にか来ていたレドに肩を抱かれた。
「お前はもっと小声で話せないのか?オー……何だそれは」
レドの視線がオーキッドさんの頭上に注がれる。
「どうだ、可愛かろう!?ソニアさんほどでは無いがな!」
「…そんな気色悪いモンとソニアを比べるな。用が無いなら帰れ」
ニカッ!と笑うピンクのうさ耳さんを氷のような目で見る黒豹。・・・あれ、本人は可愛いと思ってるんだ。
「冷たいな!唐揚げとやらを食いに来たんだ、入れろよ」
「……………仕方ないな」
沈黙ながッ!
すっごく嫌そうだけど、渋々奥へ連れて行くレド。わたしを離す前に頬にキスするのも忘れなかった。
◇
18時過ぎ、今夜はもう他のスタッフと交代したのでお祭りを見て回れる。広場以外の屋台にはまだ行っていないので楽しみにしていた。
ルーカスの腕に掴まりながら2人で歩く。レドはユニオンに顔を出してから来るので、後で合流する事になっている。
今の時間は皆広場に集まるので人も少なくて歩きやすい。それに周りも殆どがゆっくりしたいカップルで、それぞれ2人の世界に入っている。だから多少くっついててても誰も気にしない。所々に置かれたランプが、暖かなオレンジ色の灯りで恋人たちを優しく照らしていた。
「そういえば、2人で歩くのは初めてですね」
「そうだね。初めてがお祭りデートって何だか素敵」
今夜もひんやりしている腕にしがみつくと、額に小さくキスしてくれる。
そのままゆっくり歩いていると、ある屋台が目に入った。
「ね、あそこに寄って良い?コーヒーが美味しいの」
「あのカフェ、行ったことあるんですか?」
「うん、レドとの初デートで。だから、ルーカスとも行きたいな」
「ソニア…ええ、もちろん良いですよ」
カフェの屋台でコーヒー2つと焼き菓子を買い、オープンテラス風になったテーブルに着いた。
2人肩を寄せ合ってコーヒーを飲む。
「…ルーカスの淹れたコーヒーの方が美味しいかも」
顔を寄せて小声で言うと、ちゅっ、とキスされる。
「私はソニアの淹れたコーヒーの方が美味しいと思います」
ふふっ、と笑い合い、もう一口コーヒーを味わってから焼き菓子を食べる。あの時と同じビスコッティ。でも今日はアーモンドではなくフルーツが入っていた。
「ん、美味しい。…ルーカスも食べる?」
「ええ、ソニアが食べさせてくれるなら」
同じセリフに目をパチクリさせる。
「ふふ、すみません。実は前に聞いたんです。私にも、して下さい」
「ん…いいよ。あ~んして?」
「はい、あ~ん」
「…美味しい?」
「はい、とても」
ルーカスにはしてもらう方が圧倒的に多くて、こんな感じはすごく新鮮。白豹の耳をピコピコ動かしながら素直に口を開く姿が可愛い。ふと見ると、近くに座っているカップルもぴったりとくっついて似たような事をしている。ルーカスも私の視線の先を見つける。
わたしたちももう一度見つめ合って口づけを交わし、長い尻尾を絡め合った。
そんな光景をウェイターが羨ましそうに見ているのだった。
カフェを出て歩いていると、レドが道の向こうから来た。
傍へ来るとわたしを抱きしめてキスする。
「ん…お疲れさま、レド」
「ああ。…どこか回ったか?」
「いいえ、まだそんなには。コーヒーを飲んでいたので」
「そうか」
2人が顔を見合わせて笑いあう。
「…どうしたの?」
間に挟まっていたので見上げながら聞くが、何でもないですよ、とか、いいから行くぞ、とか、2人だけで分かり合って教えてくれない。
「もう少し回ってみるか?」
「うん!」
わたしはレドとルーカスの腕をぎゅっ、と引き寄せて返事した。
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