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82.唐揚げ新発売
しおりを挟む開始時刻を過ぎ、広場はあっという間に賑やかになった。小さな子も、大人も、獣耳を付けている。それにレドが言っていた通り服装も派手な人が多い。
ベッタリくっついてイチャつきながら歩いているカップル、お揃いの獣耳を付けた親子連れ、ナンパ目的丸わかりの若い男の子達、真剣にスイーツを選んで歩く女の子達。
初めてなのにどこか懐かしい、そんな光景の中に自分も居る事に嬉しくなる。わたしも張り切って仕事しよう!
キッチンの方から唐揚げを揚げる音と匂いが漂うと、チラホラ立ち止まってくれる人が出始めた。わたしは試食の皿を持って声を張る。
「今揚げているのは今日新発売の唐揚げです!こちらに試食がありますので皆さん食べてみて下さいね!」
すると早速来てくれたのは、いつも酒場に来る常連さん。
「ソニアちゃん、今日は一段と可愛いね!新発売ってこれ?食べてもいいの?」
「いらっしゃいませ、ありがとうございます。はい、どうぞ」
「じゃあいただき。……美味っ!何これ!?初めて食った!ここで売ってんの?いくら?」
「ここでも中でも売ってますよ。5個入りで150リムです。お祭り期間中はサービス価格です」
まるでサクラみたいな質問してくれる常連さんに感謝!とびっきりの笑顔サービスしておこう!
「安!ビール飲みたくなる味だな~。中でビールと一緒にもらうよ、ありがとソニアちゃん!」
「ありがとうございます、中へどうぞ!」
常連さんがへにょっ、と笑って中へ入っていくと、会話を聞いていたお客さん達が試食しに来てくれる。初体験の味に驚きながらも、安さも功を奏して購入してくれる人が続出。中には子供連れの家族もいて、そういう方には食事のおかずにも出来ますよ、と一言添えるとまとめて買ってくれたりした。
当初の予定では暫く1人で売るはずだったが、販売カウンターはすぐにわたしだけでは回せなくなった。中の手が空いているスタッフが手伝ってくれて、唐揚げは次々売れていく。お客さんが広場のテーブルで食べると、それを見た他のお客さんが来てくれる。一時間もすると列が出来てきて、予想よりもずっと早く今日の分がなくなりそうだった。
◇
辺りはすっかり暗くなって18時を過ぎ、ステージが始まる頃には唐揚げは売り切れとなった。この時間になるとお客さんも歌い手や演奏家に見入るので、どこの屋台も休憩モードになる。それはうちも例外ではなく、中にお客さんは居ない。スタッフたちもイスに座り、思い思いに休憩を取っていた。
わたしはカウンターにいるルーカスと一緒に休んでいた。レドの所には今他の屋台のオーナーさんが挨拶に来ているから。初日だからか、次々とやって来ていてレドもあまり休めてはいないようだった。
「唐揚げ売れて良かったね」
「売り切れは当然ですよ、ソニアのレシピでソニアが売り子だったんですから」
「…そ、そうかな?明日は少し増やすの?」
「そうですねぇ…売り切れてからも来てくれたお客さんが結構いましたからね。厨房の者と要相談ですね」
話していると、仮オーナー部屋から出てきた男性がルーカスとわたしにも頭を下げて帰っていく。
「おそらくさっきの方で終わりです。行きますか」
「うん」
声をかけてカーテンの奥へ入る。そこは地面に敷物が敷かれ、ソファーとテーブルが置かれていた。広くはないが意外とちゃんとしたオーナー部屋になっている。外に、しかもたった3日間の為にこんなの作っちゃうんだから・・・もうスゴイ以外言いようがありません。
「ソニア」
レドに呼ばれたと思ったら膝の上で横抱きにされた。わたしを腕の中にすっぽり収めてため息を吐く。こんなトコで!と抗議しようとした声を飲み込んで顔を見上げる。
「レド…大丈夫?」
「ああ、ちょっと補充させろ」
・・・これで何の補充が出来るの?と疑問に思うが疲れた表情が気になるからこのままにしておく。・・・黒豹の耳が垂れてる。ナ、ナデナデしたい・・・!レドの獣耳をガン見していると、隣にルーカスが座って我に帰る。
「ふふ、今年は皆さん長いですね。初めての顔も居ましたし」
「まあ、しょうがないんだが…全員が同じ事を話す。ここぞとばかりにゴマをする奴もいるし…聞いてるだけで疲れる」
「同じ事?」
「他の店のオーナーは、こういう機会でもないとレドに会えないんですよ。今年は結婚もありましたし、皆さんお祝いを述べてくれたんでしょう。擦り寄ってくる輩がいるのもいつもの事です」
「そうなんだ…」
不思議そうにしたわたしにルーカスが答えてくれた。
「あわよくば自分の店でソニアに歌って欲しい魂胆がミエミエだ。一睨みでビビるくらいなら言わなきゃいいと思うんだがな」
「それくらい、ソニアの歌が素晴らしい証拠ですよ。ふふふ」
睨んで断った、という事ですか。まあそれに関しては、わたしだって他の店で歌う気ないからいいんだけど・・・そろそろ2人して身体撫でるの止めてくれないかな・・・。途中からいつものように間に挟まれ、さわられているわたしの身にもなってくださいよ。獣耳があるからうさ耳は出ないけど・・・段々手つきが大胆になってます。
「ねえ、そろそろ休憩終わった方が…」
「ソニアは今日はもう上がってください。後は最後の一時間に少し来るくらいですから」
「え、でも…」
「貴女だけじゃありませんよ、他にも何人か上げます。私は初日なので最後まで残りますから」
「…うん、分かった」
「ソニア、ステージ見るか?初めてだろう?」
「あ、見たい!」
「フフッ、なら行くか」
レドがわたしの手を握って立ち上がる。
ルーカスと軽くキスしてから屋台を出た。
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