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78.気怠い朝
しおりを挟む重い瞼を上げるとわたしはベッドにひとりだった。霧が掛かったみたいにハッキリしない頭を無理矢理働かせて考える。
そうだ・・・ふ、二穴挿しでイッた瞬間、真っ暗になって・・・あぁ~・・・初めてイキ落ちた。こんなのゲームや小説の中だけかと思ってた。
時間を確かめようと首を巡らせ、時計を見て目を剥く。
昼過ぎ!?確かに寝たのは朝方だったけど、こんな時間まで目が覚めなかったなんて!仕事は遅番だけど、今日はベッドルームにある楽器を空き部屋に移動す・・・あれ、終わってる・・・。
楽器が無いのに気がついて起き上がろうとするが、何だか上手く力が入らない。それでものろのろと動いてベッドの端に座った時、ルーカスが入ってきた。
「ソニア、目が覚めました?身体は大丈夫ですか?」
「ルーカス、あの、身体に力が入らなくて…」
「あぁやはり…なかなか目覚めないのでそうではないかと思っていましたが…」
彼は分かっていたようだ。申し訳なさそうに言って隣に座る。
「セックスで気を失うほどの刺激を受けて、更に男性の魔力が女性の魔力を大きく上回っていると…翌日に身体が動かない、なんて事がたまに起こるんです」
「…夕方までに治る?」
「それは微妙ですね。今も多少動けているので可能性はありますが」
「…こうなるかもって、2人は知ってたんだよね?」
「え…それは…その」
ルーカスがバツの悪そうな表情をする。わたしとしては、刺激はいつもの何倍か強烈でも1回だけならそこまで翌日に影響は無いと思っていた。だから昨夜OKしたのだ。こうなると知っていれば休日の前夜まで待って、とお願いしただろう。
「…これ以上仕事休みたくない」
半月程前もチビになって何日も休んだ。誰もボスとNo.2の妻に文句など言わないが、わたしは酒場の仕事もきちんとしたい。
「…すみません…」
俯くわたしに謝る。
昨夜まで数日間何かと忙しくてエッチしてなかったから溜まってたのは分かってたし、必ずしもイキ落ちるとは限らない。それにいつもこうなるわけじゃないみたいだから・・・彼らが悪いかと言われれば微妙。でもチビの時と違って今回は避けようと思えはそう出来たのだ。
「…白魔法効くかな?」
「待ってください、今魔力を使うのはあまり良くありません。もう少し、様子を見てからにしてください。…ね?」
しばらく黙っていたわたしが話した事にホッとしながら、また申し訳なさそうにするルーカス。
「………コーヒー飲みたい」
「はい。ではリビングへ行きましょう」
面白くなくて膨れっ面で要求するが彼は嬉しそうに答える。チビの時みたいに子供抱っこされてベッドルームを出た。
コーヒーを飲みながらの軽い食事を終えた頃、レドがオーナー部屋からリビングへ来た。わたしの顔を見て一言。
「…ご機嫌斜めだな」
ルーカスと視線を交わしてから隣に腰掛けた。
「だってこれ以上仕事休みたくない」
「酒場の仕事、好きか?」
「好き。でも休みたくない理由はそれだけじゃない。2人の奥さんだからこそ、適当に仕事してると思われたくない。仕事でもちゃんと役に立ちたい」
レドとルーカスはわたしの言葉に顔を見合わせ・・・笑う。
「何で笑うの!」
笑われてますます膨れると左右からのキス。誤魔化されないんだからね!
「昨夜はすまなかった。今夜からまた忙しいからつい、な。だが、おかげで頑張れる」
「……」
「適当だなんて思ってるスタッフは居ませんよ?それに今でも充分、貢献してもらっています。その辺りの自覚が薄いのはあなたらしいですがね」
「……」
「「ソニア」」
「……ん」
「機嫌直せ。次から二穴挿しはお前の許可なしにはしない」
「…ホント?約束だよ?」
「ああ」
「はい」
2人の返事を聞いて機嫌を直したわたしでしたが・・・許可などいつも簡単に取られている事に、後から気がつくのです。
この日は結局数時間遅刻して出勤し、皆に心配されながら仕事をしました・・・。遅刻の原因がイキ落ちしたからだなんて・・・恥ずかし過ぎます!!
◇
翌日は午前中からわたしとルーカス、シトロンで練習していた。場所は元空き部屋で、楽器を運び込んで練習室となった部屋だ。
今まではわたしとルーカスだったからベッドルームでも良かったが、シトロンが居るので私室というわけにいかなくなったのだ。
「凄いです!伴奏者が2人なんて初めてでしたが、迫力が違いますね!それに曲も素晴らしい!こんなテンポ初体験です!」
「そうですね、あなたの言っていた通りでした。ソニア」
ピアノとヴァイオリンの演奏で歌うのは、わたしも楽しかった。
「良かった。お祭りのステージもこんな感じでやりたいんだけど、どうかな?」
「ええ、良いと思いますよ。賛成です」
「今年もステージに立てるなんて夢のようです!頑張ります!」
その後、新しい曲について説明したり、シトロンに楽譜を書いてもらったりしているうちに結構な時間が経った。一度休憩を入れようという事でコーヒーを飲んでいると、シトロンが部屋にある楽器を見て言った。
「ここには色んな楽器がありますね。ルーカスさんの他にも楽器が出来る方が?」
「昔居たんですよ。今はソニアと私だけですね」
「…それは残念です。ヴィオラもチェロもあるのに…弦楽器とも一緒に演奏してみたいです。…触っても?」
「ええ、どうぞ」
ルーカスの許可を得てヴィオラを構え・・・なんと弾き始めた!!しかもヴァイオリンと比べても全く遜色無い。シトロンはわたしたちが目を丸くしているのも全く気にせず、短い曲を弾き終えてしまった。
「素晴らしい音だ…使われていない楽器もちゃんと手入れや調弦がされていて…ここは理想の職場です」
「シトロン…ヴィオラも弾けるの?」
ひとりで感激している彼に聞いてみる。いや、見てたから弾けるのは分かったんだけどね。
「はい。弦楽器は大体弾けます。言ってませんでしたっけ?」
「「・・・・」」
驚いて言葉を失くすわたしとルーカスを不思議そうに見るシトロン。
私の頭に浮かんだのは、天才、の2文字でした。
ちなみに、わたしがシトロンに対してタメ口になったのは彼が1歳年下で、この方が良いと本人に言われたからです。
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