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74.お祭り
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異世界初唐揚げから僅か3日後、試食会が行われた。
この酒場はシャハールで一番古い店。もう何百年もここで商売をしていて、メニューなどはもうすっかり固定されてしまっていた。その為新しいメニューは久しぶりだし、試食会に至っては初めてだ。
会にはレドモンド、ルーカス、ルイ、コンゴ、調理場のリーダーと副リーダー、そしてソニアが参加。
最初にルーカスの簡単な説明があってから試食。ソニアたち3人以外、皆ショーユは初体験で戸惑いも見られたが、食べてみてその美味しさに驚いていた。唐揚げと一緒にビールも用意されていて、実際につまみとしてどうか試された。コンゴがライスを食べたい!と言い出し、急遽ライスも出されてビールとライス、どちらとも相性が良いと証明された。
マリネのドレッシングは一度にあれこれ変えるのもどうか、という理由から今回は見送りとなったが唐揚げは満場一致でメニュー入りが決まった。そして材料の調達や価格について大まかな相談が行われた。だが肉はともかく、ショーユは王都でしか手に入らない。そこで王都へ戻ったエドガーの元に使いが走る事になり、細かな決定はショーユを定期的に仕入れる目処がたってからとなった。
◇
乾期も半分が過ぎ、夏は終わりを迎えようとしていた。ソニアを見に酒場に来る客も落ち着き、新たな常連客は増えたが平常を取り戻しつつある。
遅番での仕事が終わり、シャワーを済ませてリビングでワインを飲む。至福のひとときです。
「ソニアは祭りの事は知ってるか?」
早くもグラスを空けたレドがわたしに聞く。
「お祭り?知らない。ここにもお祭りがあるの?」
「ああ、乾期の後半半ばにな。あとひと月ちょっとだ」
「へえ、何のお祭りなの?」
「すべての労働者への感謝の祭りです」
「すべての労働者…?」
「ええ。この街で働く全ての人々が互いに感謝し、労わり、楽しんでまた来年まで頑張りましょう。というものです」
全ての労働者に感謝。何だかすごくこの世界らしいお祭りだな。好きだなぁ、こういうの。
「楽しみ!どんな事するの?屋台とか出る?」
「フフッ、出るさ。うちも出す」
「え、そうなんだ!わたし屋台の売り子やりたい!」
買う側も楽しいけど、売る方も前から一度やってみたかった。張り切って言ってみる。
「ソニアが売り子ですか。なら今年は過去最高の売り上げが期待できそうですね」
「売り子もいいが、ソニアにはステージの依頼がくるぞ」
「ステージ?」
「ああ、祭りは3日間、14時~22時、メイン会場は中央広場だ。その3日間、毎夜18時頃から広場の特設ステージで歌や演奏がある。お前はそこに呼ばれるだろう」
「貴女だけじゃありませんよ。たくさんの歌い手や演奏家がそこで披露して、寒冷期に呼んでもらえるようにアピールするんです」
なんと・・・そんなステージがあるんですか。
「…聞いておいて良かった…練習しておかなきゃ」
酒場のステージでしか歌った事がないのだ。練習しておかないと不安でしょうがない。
「お前なら大丈夫だ」
「それに、私に伴奏させてくれるでしょう?一緒ですから、大丈夫ですよ」
「…うん、そうだね。ルーカスが一緒で良かった。ね、レドは聴きに来られる?忙しい?」
「始まってしまえばそんなに忙しくはない。ちゃんと聴いててやる」
「うん!…っていうか…依頼がくる前からこんな…は、恥ずかしい」
やる気満々で練習して、依頼が来なかったなんてことなったら目も当てられませんよ。とか考えていると、レドがニヤッと笑って言う。
「フフッ、こない可能性はゼロに近い。ソニアはシャハールの歌姫、だからな」
・・・・・?暫し意味を考える。
「…はい?歌姫?」
「ふふふ、やっぱり知りませんでしたか。まあ、その名で呼ばれる訳ではありませんから無理も無いですが。もう結構前からそう呼ばれてますよ?」
「し、知らなかった…」
歌い手といってもCDを出す訳でも、音楽配信する訳でもない。ただありがたい事に、店のお客さんには好評で多少の人気があるのは怒られて以来自覚してるけど・・・そこまでとは・・・。
「…プレッシャーを感じてしまいましたか?」
「…ちょっとだけ」
「どう呼ばれようが関係ない。お前はいつも通り歌えばいい」
「レドの言う通りです」
「…うん、ありがとう」
2人の言葉で気が楽になる。まだ実際感じてもいない人気に戸惑うなんて調子に乗ってるぞ。イカンイカン、気を付けなきゃ。わたしはいつも通り練習して歌おう。
◇
その頃、シャハールへ続く大きな街道を歩くひとりのオオカミ少年がいた。ガイだ。今回の調査はいつになくスムーズに進み、予定よりも早く到着しそうでとても機嫌良さそうである。
もう辺りは真っ暗で、曇っている為月明かりもないが夜目が利く彼は難なく進んでいた。
が、ふと立ち止まって耳を澄ませる。獣耳が音を探してキョロキョロし、街道脇の深い茂みがある方向で止まった。注意深く辺りを窺い、足音を消して音の方へ忍び寄っていく。
「…気のせいかな」
何も見当たらず、再び街道へ戻ろうとした時、ガッ!!と足首を掴まれた。
「!!」
もう片方の足で手を蹴飛ばし、緩んだ隙を逃さず茂みに身を隠す。蹴飛ばした時に聞こえた呻き声が苦しそうだったが、相手が誰か分からないうちは容易に近づいてはいけない。ガイは五感に神経を集中して必死に相手を探る。
すると・・・
「…う…た…すけ…て…」
微かだが確かに助けを求める声が聞こえた。ガイは一瞬考えてから声の方へ近付いた。
茂みの中に倒れているらしく蹴飛ばした手しか見えない。思い切ったように声をかける。
「誰かいるのか」
その声に反応して茂みがガサッと動く。
「…たすけ…て…」
さっきよりもハッキリと、振り絞った声。ガイは茂みをかき分け、倒れている人物を見た。
「…あれ、アンタ確か…名前なんだっけ?…まあいいか。どうした?ケガでもしたか?そうは見えないけど…」
知っている人物だったらしく、緊張を解いて話しかけた。
その人物は
「食べ…もの……くださ…い」
と言った・・・。
※お気に入り1,000突破。
読者の皆様、ありがとうございます。
この酒場はシャハールで一番古い店。もう何百年もここで商売をしていて、メニューなどはもうすっかり固定されてしまっていた。その為新しいメニューは久しぶりだし、試食会に至っては初めてだ。
会にはレドモンド、ルーカス、ルイ、コンゴ、調理場のリーダーと副リーダー、そしてソニアが参加。
最初にルーカスの簡単な説明があってから試食。ソニアたち3人以外、皆ショーユは初体験で戸惑いも見られたが、食べてみてその美味しさに驚いていた。唐揚げと一緒にビールも用意されていて、実際につまみとしてどうか試された。コンゴがライスを食べたい!と言い出し、急遽ライスも出されてビールとライス、どちらとも相性が良いと証明された。
マリネのドレッシングは一度にあれこれ変えるのもどうか、という理由から今回は見送りとなったが唐揚げは満場一致でメニュー入りが決まった。そして材料の調達や価格について大まかな相談が行われた。だが肉はともかく、ショーユは王都でしか手に入らない。そこで王都へ戻ったエドガーの元に使いが走る事になり、細かな決定はショーユを定期的に仕入れる目処がたってからとなった。
◇
乾期も半分が過ぎ、夏は終わりを迎えようとしていた。ソニアを見に酒場に来る客も落ち着き、新たな常連客は増えたが平常を取り戻しつつある。
遅番での仕事が終わり、シャワーを済ませてリビングでワインを飲む。至福のひとときです。
「ソニアは祭りの事は知ってるか?」
早くもグラスを空けたレドがわたしに聞く。
「お祭り?知らない。ここにもお祭りがあるの?」
「ああ、乾期の後半半ばにな。あとひと月ちょっとだ」
「へえ、何のお祭りなの?」
「すべての労働者への感謝の祭りです」
「すべての労働者…?」
「ええ。この街で働く全ての人々が互いに感謝し、労わり、楽しんでまた来年まで頑張りましょう。というものです」
全ての労働者に感謝。何だかすごくこの世界らしいお祭りだな。好きだなぁ、こういうの。
「楽しみ!どんな事するの?屋台とか出る?」
「フフッ、出るさ。うちも出す」
「え、そうなんだ!わたし屋台の売り子やりたい!」
買う側も楽しいけど、売る方も前から一度やってみたかった。張り切って言ってみる。
「ソニアが売り子ですか。なら今年は過去最高の売り上げが期待できそうですね」
「売り子もいいが、ソニアにはステージの依頼がくるぞ」
「ステージ?」
「ああ、祭りは3日間、14時~22時、メイン会場は中央広場だ。その3日間、毎夜18時頃から広場の特設ステージで歌や演奏がある。お前はそこに呼ばれるだろう」
「貴女だけじゃありませんよ。たくさんの歌い手や演奏家がそこで披露して、寒冷期に呼んでもらえるようにアピールするんです」
なんと・・・そんなステージがあるんですか。
「…聞いておいて良かった…練習しておかなきゃ」
酒場のステージでしか歌った事がないのだ。練習しておかないと不安でしょうがない。
「お前なら大丈夫だ」
「それに、私に伴奏させてくれるでしょう?一緒ですから、大丈夫ですよ」
「…うん、そうだね。ルーカスが一緒で良かった。ね、レドは聴きに来られる?忙しい?」
「始まってしまえばそんなに忙しくはない。ちゃんと聴いててやる」
「うん!…っていうか…依頼がくる前からこんな…は、恥ずかしい」
やる気満々で練習して、依頼が来なかったなんてことなったら目も当てられませんよ。とか考えていると、レドがニヤッと笑って言う。
「フフッ、こない可能性はゼロに近い。ソニアはシャハールの歌姫、だからな」
・・・・・?暫し意味を考える。
「…はい?歌姫?」
「ふふふ、やっぱり知りませんでしたか。まあ、その名で呼ばれる訳ではありませんから無理も無いですが。もう結構前からそう呼ばれてますよ?」
「し、知らなかった…」
歌い手といってもCDを出す訳でも、音楽配信する訳でもない。ただありがたい事に、店のお客さんには好評で多少の人気があるのは怒られて以来自覚してるけど・・・そこまでとは・・・。
「…プレッシャーを感じてしまいましたか?」
「…ちょっとだけ」
「どう呼ばれようが関係ない。お前はいつも通り歌えばいい」
「レドの言う通りです」
「…うん、ありがとう」
2人の言葉で気が楽になる。まだ実際感じてもいない人気に戸惑うなんて調子に乗ってるぞ。イカンイカン、気を付けなきゃ。わたしはいつも通り練習して歌おう。
◇
その頃、シャハールへ続く大きな街道を歩くひとりのオオカミ少年がいた。ガイだ。今回の調査はいつになくスムーズに進み、予定よりも早く到着しそうでとても機嫌良さそうである。
もう辺りは真っ暗で、曇っている為月明かりもないが夜目が利く彼は難なく進んでいた。
が、ふと立ち止まって耳を澄ませる。獣耳が音を探してキョロキョロし、街道脇の深い茂みがある方向で止まった。注意深く辺りを窺い、足音を消して音の方へ忍び寄っていく。
「…気のせいかな」
何も見当たらず、再び街道へ戻ろうとした時、ガッ!!と足首を掴まれた。
「!!」
もう片方の足で手を蹴飛ばし、緩んだ隙を逃さず茂みに身を隠す。蹴飛ばした時に聞こえた呻き声が苦しそうだったが、相手が誰か分からないうちは容易に近づいてはいけない。ガイは五感に神経を集中して必死に相手を探る。
すると・・・
「…う…た…すけ…て…」
微かだが確かに助けを求める声が聞こえた。ガイは一瞬考えてから声の方へ近付いた。
茂みの中に倒れているらしく蹴飛ばした手しか見えない。思い切ったように声をかける。
「誰かいるのか」
その声に反応して茂みがガサッと動く。
「…たすけ…て…」
さっきよりもハッキリと、振り絞った声。ガイは茂みをかき分け、倒れている人物を見た。
「…あれ、アンタ確か…名前なんだっけ?…まあいいか。どうした?ケガでもしたか?そうは見えないけど…」
知っている人物だったらしく、緊張を解いて話しかけた。
その人物は
「食べ…もの……くださ…い」
と言った・・・。
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