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72.ショーユ!!
しおりを挟む大人に戻った翌朝、わたしは早くに目が覚めた。例によってホールドされていてまだ起き上がれはしない。が、そんな事はいいのだ。自分の左手を掲げ、薬指の指輪を見てニヤニヤする。じっくり眺めてからレドとルーカスを見る。2人の同じ指に光る指輪にますますニヤける。
自分はもちろんずっと付けておくつもりだったが、彼らまで同じようにしてくれるとは思っていなかった。
腕が緩んでベッドに起き上がると、レドが目を開ける。
「おはよう、レド」
「ああ、おはよう」
小声で話しておはようのキス。これが軽く済めばいいんだけど、レドは濃厚にしないと終わらない。もうすっかり日課になっているが。
わたしがベッドを抜けるとルーカスが目を覚ました。まだ眠そうだ。意外な事に朝はいつもレドの方が早いし目覚めもいい。ルーカスは完全に覚めるまで少しかかる。
「おはよう、ルーカス」
「…はい、おはようございます…」
ちゅっ。
キスするとにこっ、と笑う。・・・可愛い。
朝食を済ませ、数日ぶりのコーヒーを満喫する。さっきから何度も指輪を眺めるわたしを見て2人が笑う。
「フフッ、嬉しそうだな」
「うん、もちろん!レドとルーカスと結婚した証だもん。それに体も戻ったし。嬉しいに決まってる」
「貴女はまたそんな可愛いことを言って…」
「朝から押し倒されたいか?」
左右から肩と腰を抱かれ、交互に口を塞がれる。身体を撫でられて焦る。
「ンんっ…ふ、ちょ…だめ、ッん」
散々口内を満喫してやっと離れる。
「…ふあ…もう…」
「お前がいちいち可愛いから仕方がない。諦めろ」
「レドの言う通りです」
もう脳内が完全にピンクな3人です。
◇
その夜、レドからエドガーに下した沙汰を聞いた。それは、暫くの間エッチ出来なくする事でした・・・。そういう道具があるそうですよ、どんなですか・・・。
彼には女断ちさせるのが一番効くという事です。
話が終わってワインを飲もうとした時、私室のドアが叩かれた。
「ボス、ルイです。エドガーが渡したいものがあると言ってここに来てるんですが…」
視線を交わす2人。わたしの肩に薄いショールを掛けてから答える。
「入れ」
「失礼します」
先に入ったルイさんに促されてエドガーが入ってくる。わたしを見てホッとした表情をし、一礼してからレドの近くへくると腰のポーチから1本のビンを取り出した。
・・・一升瓶?
「それは?見た事ない大きさのビンだが」
「これは王都でも一件の店でしか扱ってない物です。こんな大きさですが中身はソースで、ショーユとい…」
「醤油!?」
説明の途中だったが思わず立ち上がって叫んだ。皆わたしの反応に驚いて一瞬シーンとなった。
「…ソニア、これを知ってるのか?」
「え…と…あの、知ってる物と同じか分からないので…続きをお願いします…すみません…」
そう言ってソファーに座りなおす。
ショーユという名前、ここでは見た事のない一升瓶、中の液体の色から、まず間違いない事は分かっていた。だがもし造ったのが異世界の人で、それを周囲も知っていたら・・・そのショーユを知っているわたしも異世界出身だとバレるかもしれない。それは避けた方が良い気がしていた。
エドガーが続ける。
「これはショーユというソースです。とても珍しいですけど用途が少なくて、人気もイマイチなんです。オレはこの味好きで、造った親父さんにも世話になったんで知り合いとかに勧めてるんです」
へえ・・・世話になった人の為、か。
「…質問して良い?」
「ああ」
一応レドに確かめてから聞く。
「造った方はどこの出身なんですか?」
「これを造った親父さん夫婦は完成間もなく亡くなって、息子が引き継いだんだ。父親は王都だけど、母親の出身は息子も、周囲の人もハッキリは知らなくて…ただ、とても遠いところだと」
「そうですか…」
周囲にも、息子にも言わない、とても遠いところ・・・。やっぱり異世界から来た可能性が高いよね、しかも日本から。わたしが居るんだから、全く前例がないとは言い切れない。
「それ、味見させて下さい」
わたしははやる気持ちを抑えてそう言った。
皿に少し入れたショーユは、香りもわたしの知っているのと同じ。指につけて舐めてみる。
「!!!」
やっぱり醤油だ!!
「どうだ?ソニア」
「うん、わたしの知ってるのと同じ」
「…ソニアちゃんはどこで知ったの?」
そう聞いたのはずっと黙って待っていたルイさん。
「…前に知り合った人が持ってて、ご馳走になったんです。その時の料理がとても美味しくて、これを探した事もあるんですけど見つからなくて」
記憶がない、というわたしの言い訳はレドとルーカス、それにゴア村のハンクさん夫婦にしか言っていない。それを言った相手だと以前ご馳走になったという説明も苦しいが、ルイさんは知らない。だからこれで誤魔化されてくれると良いんだけど。
「へえ、凄い偶然だね」
ほっ、ごめんねルイさん。
「…これ、料理に使うの?ソースとして上からかけるんじゃなくて」
エドガーさんは目を丸くしていた。
ああ、そうか。だから用途が少ない、だったんだ。
「わたしがご馳走になった中には料理に調味料として使われているのもありました」
「そうなんだ…持ってきて良かった。やっと知ってる人に会えたよ。これ、使ってくれる?」
「…はい、ありがとうございます」
レドが頷くのを確かめてから受け取った。
努めて冷静を装っていますが・・・心の中では小躍りしてます!!
「珍しいですね、エドガーが誰かの為にここまでするなんて」
「…そうだな。まあ、良い変化だがな。わざわざソニアの顔を見に早めの報告に来たと思っていたが…ショーユが本命か?」
ルーカスが何故かわたしの腰に手を置きながら言うと、レドも肩を抱いて話す。
ちょっと・・・今、割と真面目なお話の真っ最中ですよ?
「…どっちもです」
「フフッ、そうか…まあ良い。ソニアが喜んでるからな」
「ですね。エドガー、ありがとうございます。ショーユに関してはお礼を言いますよ」
・・・バレてます、装ったのに。
「…ありがとうございます。オレ、明日王都へ帰ります。色々と申し訳ありませんでした」
彼、何だか来た時より落ち着いた感じがする。
そうわたしが思ったように、レドもルーカスも、そしてルイさんも感心しているようだった。
翌朝、エドガーは王都へと帰っていった。
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