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64.トラブルメーカー本領発揮!?
しおりを挟む翌日、目が覚めたのはもうお昼過ぎだった。
昨夜はレドの言葉通り朝まで2人に喘がされ、眠ったのはたぶん7時頃。やっと終えてシャワーしにバスルームへ向かった辺りで記憶が途絶えている。
・・・今日、わたし休みで良かった。身体が辛い訳ではないけど何となく重い。起き上がって着替え、誰もいないベッドルームを出た。2人はもう仕事に出たらしく、リビングやキッチンにも居なかった。洗顔を済ませてコーヒーを飲んでいるとルーカスが来た。手にはトレイ。
「ああ、ソニア、起きてましたか。身体は大丈夫ですか?」
心配気に言いながらテーブルに軽食の乗ったトレイを置き、隣に座る。
「うん、大丈夫」
「…顔色が優れませんね。すみません、昨夜は少し責めすぎました」
冷たい手でわたしの頬を包む。彼は人より少し体温が低く、ふれられるといつもひんやりする。
「大丈夫、今日は休みだし」
「そうですね…食事は持ってきますから、休んでて下さいね?」
ちゅっ、と小さくキスする。
「ん…ありがとう」
そこまでしてもらうほどでもないが、それを訴えたところで結果はいつも同じでわたしが押し切られる。身体が重いのは本当なので今日は甘えておく事にした。
ルーカスはまた様子を見に来ます、と言って店に戻った。入れ違いにレドがキッチンに入ってくる。隣に座りながらルーカスと同じことを聞いた。
「身体大丈夫か?」
「ふふ…大丈夫」
「そうか?顔色が良くないぞ。…少し無理させたな」
「今日は休みだもん、だから大丈夫。ふふ…」
すごいシンクロぶりに思わず笑う。
「どうした?機嫌がいいな」
「うん。だって、2人して同じこと言うから」
「そうか?フフッ、お前が寝てから2人で少し反省したからな」
「そうなんだ」
レドはわたしが食べるのを眺め、キスしてから仕事に戻っていった。
食後、少し休んでからシャワーを浴びると随分スッキリした。身体の重みもだいぶ取れた感じ。これで2人に心配かけなくてすむ、と思いながらソファーでアイスコーヒーを飲む。
・・・ヒマ。
わたしはひとりになる時間があまりない。休みも大抵レドかルーカスと一緒だし、ここ最近は色々忙しかった。こんなに時間があるの久しぶりかも。ちょっと身体動かしたいな。合気道の訓練でもしようか、何かの役に立つかもしれないし。
・・・やっぱり止めとこう。今日そんな事したら後で怒られるかも。散歩にしよう、うん。
わたしは私室の玄関から出て裏庭へ向かった。
◇
その頃、裏庭にはエドガーとレドモンドの部下が数人いた。部下は獣人で、エドガーの珍しい魔人能力について興味津々で話を聞いていた。
「ホントにそんな事出来るんですか?」
「聞いた事ないよな」
部下たちがエドガーに疑いの視線を向ける。すると彼はニヤッと笑い、手の平を前に突き出して集中する。そして部下たちを見て言う。
「見せてあげるよ。あの木を見ててごらん……フッ!」
掛け声と共に彼の示した木からモヤっとしたものが湧き出した時、木の側に人影が出てきた。
「ッ!!避けて!!」
◇
私室の玄関から外へ出て、建物の裏へ回る。裏庭に近づくと話し声が聞こえてきた。
誰だろう?人がいるなんて珍しい。そう思いながらも足を止めずに進む。
もしもこの時、少しでも立ち止まっていたなら。或いは声の主に気が付いて引き返していたなら。こんな事にはならなかっただろう。でもわたしには分からなかった。この声が昨日訪れたトラブルメーカーのものだとは。
建物を抜けて裏庭の隅に出た時、急に変なモヤが目の前に現れた。
「避けて!!」
誰かが叫ぶ。だが時すでに遅く、モヤに包まれて身動き出来なくなってしまった。
「きゃあッ!」
魔力を吸い取られるような気持ち悪い感覚に思わず悲鳴を上げ、目を閉じる。
気持ち悪い感覚はすぐに収まった。恐る恐る目を開ける。
「ソニアちゃん!」
わたしの名を呼んで駆け寄ってきたのはエドガーさん。彼のすごい勢いに驚き、慌ててストップをかける。
「まって!」
ん?なんか声がおかしい。
困った顔で立ち止まるエドガーさん。あれ?何でこの人こんなに大きいの?と不思議に感じた時、自分の手が視界に入る。
・・・・・え、えええええ!!!なにこの手!!ちっちゃ!!
自分の身体を見下ろす。
・・・・・。
ゴシゴシ目を擦ってもう一度見る。
・・・・・なーにーこーれー!!!全部ちっちゃい!!!
ソニアの足元には大きくてずり落ちたショートパンツとショーツ。靴の中には小さな足。カットソーがワンピースみたいに長くて、ブラは片方の肩に辛うじて引っ掛かって落ちていない。見た目3才くらいの女の子。3才という事は・・・皆さんお気付きでしょう?そうです、うさ耳としっぽ、しっかり出てます。
「・・・・・」
ショックなのと訳が分からないのとで呆然とする。ただ一つ分かっているのは・・・トラブルメーカーエドガーが絡んでいる事。
「ソ、ソニアちゃん…あのさ…」
一歩踏み出して声を掛けてくるエドガーさん。わたしはまた彼を止める。
「ッ!ちかよらないれくらさい!」
・・・近寄らないで下さい、そう言ったつもりだったのに言えてないよ!この小ささだと2、3才くらいかな・・・そりゃ舌回らないよ・・・。うぅ・・・もう泣きそう。どうなってんのさ。とにかくレドたちのところまで戻ろう。
下がって役に立たなくなったショートパンツとショーツ、それに大きくて歩けない靴も脱いで何とか抱えようとした時。
「ソニア!!」
レドが裏口から飛び出して来た。わたしを見つけ、驚愕に目を見開く。わたしの方はレドの顔を見て安心し、あっという間に涙で視界が歪んだ。
「レド…ぅ…ぐすっ…レドぉ!」
持っていた服を放り投げ、裸足で駆け寄る。彼は戸惑いながらもしゃがんで抱きとめてくれた。
「確かにソニアだな…どうしてこうなった?」
「ひっく…ぅ、あのね、うらにわにきたら、もやっとしたへんなので、うごけなくなって、なくなったらこうなった」
「……もやっとした変なもの?……エドガー……貴様…この世から消されたいのか…?あ”あ”!?」
レドの全身から覇気が放たれる。エドガーさんは真っ青になって懸命に首を横に振っている。裏庭の隅っこで部下たちがブルブル震えている。
う~…ちっちゃい身体にこれはちょっとキツイ。わたしはくいくいっ、と両手でレドの服を引っ張った。
「レド…はきは…だめ…くるしく、なる」
「…ッ、すまない。大丈夫か?ソニア」
膨れ上がっていた覇気は訴えるとすぐに霧散した。
「…ふぅ、うん。もうだいじょうぶ」
ホッとして息を吐くと巨人のように大きな手が頭を撫で、片手でひょい、と抱き上げる。
「…エドガー、来い。お前らもだ」
レドは彼らに背筋の凍るような冷たい声色で言い、わたしの服と靴を拾って私室の玄関へ向かった。
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