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57.隠し武器屋
しおりを挟むジュエリーショップを出た後、わたしたちは馬車を置いて広いストリートを歩いていた。両手を繋いで2人の間に挟まれていると、何だか子供に戻ったような不思議な気分になった。男2人の間に女1人。はたから見れば妙な光景だろうと思うし、実際かなりの視線を感じる。
でもあまり気にならない。だってレドとルーカスが楽しそうだから。
「ソニア、何か見たいものとか、行きたい所はありますか?」
ルーカスに聞かれて考えるがイマイチ思い浮かばない。映画館やカラオケがあるわけではないし・・・そうだ。
「レドとルーカスがよく行く所があったら行ってみたいな」
「俺たちが行く場所?お前が行っても楽しくないと思うぞ?」
「いいよ、大丈夫」
「レド、モーベットの店はどうです?近いうちに紹介する予定でしたし」
「そうだな…そうするか。ソニア、少し裏に入る。傍を離れるな」
そう言ったレドに肩を、ルーカスに腰を抱かれてそのお店へ向かった。
◇
着きました・・・。裏道に入り、細い道を何度も曲がってきたので一度来たくらいでは道順など覚えられそうもない。加えてわたしは方向音痴なので1人では来られない自信があります。
目の前には一軒の家。お店だと言っていたのに看板すら見当たらない。日が射さない為、まだ昼間なのに薄暗くジメジメしている。人通りなども全く無い。ふと、以前レドに言われたことを思い出した。
“裏道へ連れ込まれたらひとりで逃げ出せるか?”
ここへ連れ込まれたら・・・逃げ出せない、よね・・・。彼らの心配を改めて肌で感じた。
「…怖いか?大丈夫だ」
「そうですよ、私たちが付いてます。最強のボディーガードですよ?」
2人が声を掛けてくれる。
「大丈夫、ありがとう。…ここがお店なの?」
「ああ、グラベットメンバー以外は買えないからな。店らしさは必要ない」
「…もしかして、ここも?」
「はい、オーナーはレドです」
・・・さすがに慣れてきましたよ。
レドが扉を開け、促されて中に入ると一気に店っぽくなった。そう広くもない店内は割と明るかったが、雑然としていてどこに何があるのやら・・・店の人はちゃんと分かってるのか疑いたくなるレベル。2人の後について奥へ進んでいると、わたしの前に音もなくぬぅっ、と何かが現れる。
「うひゃっ!」
驚いてつい色気のない叫び声を上げてしまった。
「モーベット…その出方やめろと言ってるだろ」
「うひゃひゃ、これが楽しみだと言っとるだろうが」
レドがため息を吐くが出てきた人は全く意に介さない。
この人がモーベットさん・・・ここの店主。わたしが見下ろすくらい小さくてガッチリとした体、肌は浅黒く、短い白髪に皺くちゃの顔、長〜い顎髭、嗄れた声。それに、全く隠すつもりのなさそうな紫の印。魔人でこの風貌、かなりのご高齢なのかな。
「で?このお嬢さんが噂の方かの?」
「ああ、ソニアだ。昨夜3人で儀式も済ませた。…ソニア、この爺さんがモーベット、先代のボスの頃からここを任せられてる人だ」
「ソニアです、よろしくお願いします」
「よろしくの。ソニアちゃんか…可愛いの〜。レドモンドとルーカスが揃って落ちたおなごはどんなかと色々想像してたんじゃ。ハーフと聞いておったが…魔人並みじゃの。…それに何と綺麗な魔力か…」
モーベットさんはわたしを見上げて眩しそうに眼を細め、レドとルーカスに向かって続けた。
「良い子を見つけたの、レドモンド、ルーカス、おめでとう。先代も安心しとるじゃろうて」
「ありがとう、爺さん」
「ありがとうございます」
気の遠くなるような永い時を過ごしてきたであろうモーベットさんの、心から安堵したような表情が印象的だった。
モーベットさんのお店は武器や防具を扱っていて、魔石鞄のようなものも少し棚に並んでいた。
「爺さん、ソニアが扱えるような小さい得物と防具を作ってもらえないか?」
「ソニアちゃんのか?どれ、手を見せてごらん」
「はい」
手を差し出すと手相占いでもするようにしげしげ眺める。ちと触るぞい、と呟いてから裏返したりして隅々まで観察して離した。そして一枚の紙をレドに差し出す。
紙を受け取ったレドに促がされて奥の部屋へ。もちろんルーカスも一緒だ。試着室のような小部屋で下着姿にされ、スリーサイズどころか全身隈無く計測された。
うぅ・・・そりゃ、2人にはもう全部見られてるけど・・・改めて数字にして書き出されると何とも言えない羞恥心が湧きます。
計測が終わると当然のように服を着せられて戻る。
この間、わたしは歩いただけ。脱ぎ着などは全て2人によって行われました。はい。
その後、いくつか質問に答えて店を後にした。
「そういえば今回は止めに入りませんでしたね?ソニア」
「うん、だってこれは必要でしょう?武器なんて上手く使える自信ないけど、魔法で身を守るのは限界がありそうだし。そうだ!武器の扱い教えて欲しいな」
ルーカスに聞かれてそう答える。
この前は大丈夫だったけど、いつか皆の足手纏いになるかもしれない。そうなる可能性を少しでも減らしておかなきゃ。魔眼で敵が来るのが分かっても迎え討つ手がなきゃどうにもならない。そう思って話したのだが・・・。
「「・・・・・」」
立ち止まって左右からわたしを見る2人は目を見開いて驚いていた。
女性が戦えないわけではない。戦闘に向いている種族は女性でも戦いに参加する。だがそれは住んでいる村や街が襲われたり、といった緊急時が殆どだ。無論、普段から熱心に訓練などもしない。
ソニアはいくらハーフといえど女性、ましてや戦いに不向きな白兎族。だからこそレドモンドはソニアをミクサへ連れて行くのを内心躊躇った。ルーカスもケガは勿論、精神的なショックを心配したのだ。
確かに守られるだけの女じゃ無い、とは言ったが・・・
「レド?ルーカス?」
呼び掛けると顔を見合わせ、大笑いする。
・・・またですか?よく笑われる日だな〜。何も可笑しい事なんか言ってないってば。
「ねえ、わたしそんなに可笑しい事言った?」
多少膨れながら彼らを交互に見る。
「いや、そうじゃないが…フフッ、やっぱりお前は最高だ。ソニア」
「すみません。あまりにも意外な答えだったので。あなたは最高の妻です。ソニア」
ちゅっ、と頬にキスする2人。
「??」
訳がわからないわたし。
肩と腰を抱かれながら裏道を抜けるのだった。
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