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56.結婚指輪
しおりを挟む馬車は遠回りしてジュエリーショップへ到着した。うさ耳も無事に引っ込んで一安心・・・でもないです。実はこの馬車、一目でレドとルーカスのものだと分かるようになっているらしい。それが今ここに停まっている、それだけで注目を集めていた。
まずはルーカスが馬車を出た。続いてわたしが席を立つとレドが止めて先に降りてしまった。
そして・・・
「「ソニア」」
左右に分かれた2人がそれぞれ手を差し出して待っている。これは結構勇気がいりますよ?・・・よし、女は度胸!わたしは思い切って2つの大きな手に自分のものを重ねた。
ソニアが導かれて馬車を降りると、周囲で野次馬していた人たちが騒めく。レドモンドとの噂はすっかり街人に周知されているが、彼女がハーフである事とそこへルーカスが加わった事を知る者はまだ少ない。グラベットのNo.2までがボスの妻をエスコートしている目を疑うような光景に、驚嘆の声が上がった。
彼女は歌い手としてもシャハールで名が広まっている。その歌声と凛々しくも可憐な容姿から、すでに“歌姫”と呼ばれていた。明るくてサッパリとした性格が酒場の常連たちから伝わり、密かな女性ファンも増え始めている。
手を借りて馬車を降りると、レドに肩を、ルーカスに腰を抱かれてジュエリーショップへ入った。周囲の騒めきも視線も気にはなったし恥ずかしさもあったが、一度思い切ってしまったら不思議と大丈夫になる。それに2人が一緒なのだ、これ以上心強い事があるだろうか。
ショップ内は上品で高級感のある雰囲気に溢れていた。床も壁もシャンデリアも、全て綺麗に磨かれ、塵ひとつ落ちていない。
オーナーらしき男性が出迎えてくれた。
「お待ちしておりました。ボス、ルーカス様。…そちらの方が?」
「ああ、ソニアだ」
レドが紹介してくれる。
・・・ちょっと待った。今なんと?ボス?ボスって言った?・・・もしかしてここもレドの・・・?
唖然としながらも挨拶だけは済ませ、奥へ通される。
そこはいわゆるVIPルーム。ビロードのように滑らかな深紅の絨毯、エレガントな家具、そこへ素敵な2人の男性にエスコートされてくるわたし・・・。
・・・前世とのあまりの違いに眩暈すらしますよ。
「…どうした?ぼんやりして」
「気分でも悪いですか?」
飲み物が出され、店長の男性が準備の為部屋を出て3人だけになると、2人がさっきから一言も発しないわたしを心配そうに覗き込む。
「そうじゃないの、大丈夫。…ねえ、ここもレドがオーナーなの?」
「ああ、一応な。だがここはルーカスに任せてる」
「ルーカスに?」
「ええ。レドがオーナーの店はかなりの数ですからね、私も幾つか任されていますよ」
「そうなんだ…」
「ふふ…もしかして、また驚いてました?」
「…うん」
「フフッ、まあ、俺とアクセサリーは連想しにくいかもな」
手に入れた装飾品を捌くにも、魔石で装飾品を創るにも、こういう店があると便利なのだとレドが笑いながら教えてくれた。
そんな話をしているうちに店長が戻ってきた。前もって事情を聞いていたらしい彼は、お祝いを述べてから様々なアクセサリーを見本として並べた。結婚の証に重要なのは魔石がついているかどうかで、ピアスだろうがアンクレットだろうが構わないそうだ。中には旦那さんが腕輪で奥さんがネックレス、という夫婦もいるという。
「ソニアの希望は?」
「わたし?」
「ええ、私達はソニアに合わせます。あなたと揃いならどれでもいいので」
「選んでいいの?」
「ああ、好きなのを選べ」
好きに選んでいいのなら、当然決まっている。
「なら指輪が良い」
わたしの希望で指輪に決定し、デザインや他の素材も選び、終了。
するかと思いきや、まだ序の口でした。テーブルいっぱいにジュエリーを広げ、始まってしまいました。ショッピングが。例の如くお前も選べ、と言われるも値段が全く分からず決められない。そんなわたしに次々ジュエリーをあてがって恐ろしいスピードで決めていく2人。
「このアンクレット、可愛いですね。きっとソニアに似合いますよ?今からの季節は素足が多いですし」
「この宝石いし、お前の瞳と同じ色だな。…ピアスもあるか?」
「はい、ございます」
ここにある品の正確な価格が分からなくとも、安物じゃないことくらい分かる。それをこんな勢いで・・・こんなにたくさん・・・ちょっとコワイですよ。
「ねえ、こんなにたくさんは…」
「「ソニア」」
さすがに買い過ぎ、と言おうとしたが左右から咎めるような目で見られる。
「はい…?」
「お前はいつもそうやって俺たちの楽しみを阻止したがるな」
「え、あの…」
「夫が妻に贈り物をするのがいけませんか?」
「いや、そうじゃなくて…」
贈り物の範疇超えてるよね?なんで買い過ぎを止めようとして怒られるかな・・・?
「結婚記念と3人初デート記念、といったところです」
「ああ、そんな感じだ」
まさか記念日のたびにこんなに買わないよね?今日だけだよね?
「…記念?今日だけ?」
「ああ、今日だけ、今日だけ」
いかにもテキトーに言うレド。・・・ゼッタイチガウ!
「…いいから、黙って贈られろ」
「あなたが着飾った姿を見たいだけですから。ね?」
「…ん、ありがとう…嬉しい」
2人の旦那さまの愛のこもった微笑みと声に、結局は頷く。
嬉しいに決まってる。でも怖いんですよ。この状況に慣れてきている自分が!これが当たり前になったらダメ人間まっしぐらな気がしてならない・・・。
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