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51.帰還
しおりを挟むわたしたちが着くとサンドラは目覚めていた。寝室のベッドの上で呆然としていた彼女はこちらを見てビクン!と反応した。
レドがベッドへ近づき、冷たい目で見下ろしながら言う。
「…命拾いしたな。もしシェストがお前の希望通りの事をしでかしてたら…今頃は指一本この世に残ってない。貴様…今度俺やソニアに何かしてみろ……消すぞ」
サンドラは激烈な憎悪を込めた言葉の武器にブルブルと震える。
話を終わらせ、サッサと寝室を出ようとするとか細い声が掛かった。
「あの…シェストは…どうなるの…?あたし…彼に見捨てられたら…」
まるで縋るように、慈悲を求めるか弱い女のように言われ・・・わたしの中の何かがブツッ、と切れた。ツカツカとサンドラの目の前まで戻り、彼女を睨みつけた。
「いい加減にして!自分で招いた事でしょう!?現実を見て、根性入れて、一からやり直しなさいよ!!」
思いっ切り怒鳴りつけると、サンドラの顔がぐしゃっ、と歪んで涙をボロボロこぼし始める。
「だって…だってシェストはあたしの…!それに…やり直すって、どうやってよ!どこも歌わせてくれないのに!」
「どこでだって歌おうと思えば歌えるじゃない!その位自分で考えなさいよ!!今のままでダメなら、自分で変わらなきゃ道なんて切り拓けない!!」
泣きながら騒ぐサンドラにますます怒りを募らせながら言い返して踵を返す。そのままレドと一緒に家を出て歩くうちに冷静になってきた。
・・・やっちゃったよ。我慢できなくていいたい事言っちゃった。それに・・・ドスンドスン足音立てて凄い歩き方してきた気がする・・・。100年の恋も冷める、みたいな事だって無いとは言えないし・・・うぅ・・・どうしよう。威圧を止めちゃった事もあるし・・・。
恐る恐る隣のレドを見てみると・・・
笑いを堪えていました・・・。ああ・・いつかもこんな事あったな~。
「レド…」
「ん?…フフッ、やっぱりお前はおもしろい…いや、凄い女だよ」
多少拗ねながら見上げると笑顔が返ってくる。やっぱり怒ってないみたい。
「…良かった。勝手に言いたい事言っちゃったし、その、威圧も止めちゃったし…怒られるかな、と思ってた」
「ソニア…」
レドは急に立ち止まってわたしを片手で抱き上げ、足早に集会所に戻った。
扉を閉めてすぐに口を塞がれた。抱き上げられたまま頭を引き寄せられているから少しの隙間もない。久し振りの激しいキスが嬉しくて、彼の首に腕を回して舌を絡める。
「ぅんんっ、んふぅ、ふ、ッン」
息継ぎも上手く出来なくて苦しくなり、漸く離れる。レドがわたしの首筋に伝った唾液を舐め上がって来る。それだけで気持ち良くて声が漏れてしまい、うさ耳としっぽが出そうになるのを何とか堪えた。
「んぁ…あふぅ…」
「…そんなに可愛く啼くなよ…勃っちまう…」
掠れた声に色欲を感じてぞくりとする。
「だって…レドが舐めるから…」
「あぁ、ソニア…」
「…っん…」
わたしたちはもう一度唇を合わせた。
互いに欲を抑え込みながらも離れられなくて、抱き合ったまま静かに話す。
「デッカーを潰した俺も、威圧を放つ俺も…怖くはなかったか?」
「ちょっとは怖かったけど…わたしに隠さないで見せてくれて良かった。それに、シェストに言った事…感激した。…凄くカッコ良かったよ?」
「……」
「それと…ごめんね?途中で止めたりして。さっきだって頭にきて言っちゃったし…その…」
ドスドス歩いちゃったし、とは言えなかった。恥ずかしくてもじもじしてしまう。
と、突然抱きしめる腕に力が篭って息が詰まりそうになった。
「あッ!ン…レド?」
「…お前は俺の忍耐力でも試す気か?煽るような事ばかり言って…それとも…今すぐここで突っ込まれたいか…?」
そう囁き、服の上から片手で胸を鷲掴みにして揉みしだく。ビリッと快感が走って背を仰け反らせながらもレドを止める。
「ッあぁん!あん…レド…だめ…もう行かなきゃ…ぁふ…」
わたしたちだって早く帰らなくてはいけないのだ。盗賊やシェストの事もまだ終わったわけじゃない。
「…クソッ、今すぐお前に挿れたいんだがな…」
「あ、あッ、レド…帰ったら…抱いて…?わたしだって…2人が欲しいよ…」
「ソニア…」
見つめながら訴えるとまたキスが降ってきた。
ルイさんたちから遅れる事数時間、わたしたちもシャハールへの帰路に就いた。
◇
その頃、シェストを護送中の馬車内では―――――
ビスタが薬で眠っているシェストを調べる。護送されるような奴は興奮している事も少なくない。眠らせる薬は興奮していると効き難かったりすぐに切れたりするため、チェックが必要なのだ。
「異常なしです」
「うん」
「「……」」
何となく黙る。だが付き合いも割合長くて組むことが多い2人は、今思っていることは同じだと互いに分かっていた。
「…凄かったですね」
「…うん」
顔を見合わせる。
「ソニアちゃん」
「姐御」
「「……」」
「…その姐御ってソニアちゃんのイメージじゃないよ」
「じゃあ姐さんで」
「それ同じだから」
ソニアと同じツッコミをしてくれる、貴重な方がココに居ましたよ。でもビスタは聞いてません。
「姐御は凄いです。白魔法も、魔眼も桁違いです。それに…」
「うん、あの覇気を纏ったボスを止めるなんてね」
「ルーカスさんくらいでしたよね。出来るのは」
「だね。あんなに怒ることは滅多にないけど、ああなると中々止まらないからな、ボス」
「姐御はボスの覇気、平気そうでしたね…」
「う、うん…」
「「……」」
暫し沈黙。
「姐御、怒ったら怖そうですね…」
「う、うん…」
「…美人で可愛くて色っぽくて歌も最高で性格も良くて強くて怖くてボスとルーカスさんの奥様で………」
はぁはぁ息切れするビスタ。
「…ビスタ、馬鹿みたいだよ、今の」
「…い、いや、姐御の凄いとこ並べてみたんです。…欠点ってどこですかね?」
「誰でも欠点くらいあるさ」
「じゃあどこです?姐御の欠点」
「……さあ?ソニアちゃんてお姫様みたいな子だよね」
至極真面目に言うルイに目を丸くするビスタ。
「…強くて怖いお姫様は居ないと思います」
「いや~、だって可愛いし。髪だってふわふわのはちみつ色でさ、一度でいいからこう…ふわっとした…プリンセスドレス?着て見せて欲しいなぁ。その中は絶対ガーターベルトが良いな」
にやにやしながら夢見心地になるルイ。色素の薄い顔に赤みがさしている。
「…ルイさん…変態っぽいです」
「は!?う、うるさいな!可愛いだろ、ドレスのソニアちゃん」
「それは同感です……ドレスのリクエストしたらボスとルーカスさん、怒りますかね?」
「う、う~ん…分からない。…賭けだな」
「一度2人で頼んでみませんか?」
「…か、考えておく」
「前向きに検討してくださいよ?」
「わ、分かったよ」
・・・護送中の馬車内での会話とは思えませんね。誰にも聞かれていないのは幸いです。
はたして2人がプリンセスドレスを着たソニアを見られる日は来るのでしょうか?
―――――オマケ―――――
盗賊を乗せた馬車の部下たちの会話
部下1 「可愛かったなぁ…ソニア様。ボスに報告に行った時、近くに居てさぁ…すげえ良い匂いした」
乙女のように両手で頬を包んで話す部下1。
部下2 「あ、オレも!オレも匂い嗅いだことある!あま~くて、濃い~んだよ!ボスとルーカス様はいつも嗅いでるんだよな?羨ましい…」
元気よく手を上げるバカっぽい部下2。
部下3 「フフン、よく聞けお前ら!俺なんかソニア様と会話したんだぞ!回復してもらったんだぞ!良いだろう!?」
自慢気に胸を張る部下3。
部下2 「ええ!?ズリィ!何でだよ!」
部下3 「俺だけ最初から最後まで街の出入り口だっただろ?ずっと寝てなかったんだよ、そしたら…お疲れ様です、回復しますね?…ってさぁ!にこっと笑ってから目を閉じて…その魔力がまた凄いんだよ!あったかくて、優しくて、甘くて、もう至福の時間だったよ。んで、頑張って下さいね。って、声も綺麗で…最高に可愛かった!」
部下4 「………僕、ソニア様のうさ耳、見たことある」
突然バクダンをぶっこむ地味な部下4。
部下1、2、3 「!!!!」
驚きの表情で固まるワンツースリー。
部下4 「…前、裏で見た。ルーカス様がソニア様のお尻をぺろっと撫でて…そしたら、ソニア様がびっくりして…うさ耳、出た。まっしろで…ピコピコ動いてて…うふふふふふ…すご~~く…エロかった。…さわってみたいよね~…」
目があらぬ方向を見ている何だかアブナイ部下4。
部下3 「お、お前…それ、もう誰にも言うなよ?俺らも黙っとくから。な?」
青くなりながら注意する部下3。必死に頷くワンツー。
部下4 「…ん?何で…?」
部下2 「何でじゃねえよ!それがボスやルーカス様にバレたら…お前、怒られる程度じゃ済まないぞ!ボコられるぞ!だ、だから、な?ぜぇったい黙っとけ!!」
部下4 「……うん。分かった」
その返事に一気に力が抜けたワンツースリーでした。
注)彼らはとても優秀な部下です。
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