R18、アブナイ異世界ライフ

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50.シェストの真意とレドモンドの怒り

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 その後暫く待つと、レドモンドの予想通り残りの盗賊が馬で現れた。数は7人。

  迎え討ったのはルイとビスタ。

  ビスタの動きはとても素早い。暗器で相手の手足を狙って動けなくし、意識を奪う。小柄な身体を活かした方法だ。

  ルイは全て素手だ。伸した男の足首を持って振り回し、あっという間に残りも倒した。見かけとは裏腹の腕力にものを言わせた戦い方。

  盗賊たちはたった2人を相手に、為す術なく倒れた。

  獣人の盗賊たちには黒い印が無く、突然息絶えることも無かった。

  街へ帰ったのはもう明るくなってから。予め手配しておいた馬車に薬で深く眠らせた盗賊達とレドの部下が乗り込み、一足先にシャハールへ発った。

  残るはシェストとサンドラである。

  まだ眠ったままのシェストを集会所へ連れて行き、少しだけ白魔法で回復させて強制的に起こした。念の為まだ拘束は解いていない。




 「…レドモンド…」

  目を開いたシェストが掠れた声を出した。その目に力は無く、弱々しい。心配されていた兆しはなかった。

 「随分とナメたマネしてくれたな…洗いざらい吐け」

  鋭い瞳で見据えて追及すると、シェストはフン、と鼻で笑う。

 「どうせ分かってるんだろう?今更話すことなどない」
 「どう行動したかは分かってる。俺が言ってるのは貴様の頭の中だ。何故こんな危ないマネをした?部下達はどうした?…この一件にサンドラはどう絡んでる?」

  縛られたままの彼はフゥ、と息を吐いてから話し始めた。

  サンドラから、ある男に乱暴されたと告白を受け、それがレドモンドだと知って仕返ししようとした事。情報を持っていそうなオーキッドを襲って計画を知り、オーキッドとレドモンドを出し抜いてやろうと思って実行した事。上手くいけば女も地位も名誉も手に入ると、本気で考えていた事。…部下達は皆殺された事。

  抑揚無くスラスラと話す彼は、もう全て諦めているみたいに見えた。

 「サンドラを連れて来い」
 「はい」

  レドの指示を受けてビスタさんが出て行くと、シェストは初めて感情を見せた。

 「サンドラ…は、まだここに居るのか…?」

  だがレドはそれには答えず、声色で威嚇する。

 「…俺に嘘が通じると思うなよ…?」

  それきり双方が黙り込み、部屋に静寂が訪れる。

  やがてビスタさんがサンドラを連れて戻って来た。騒ぐでも無く大人しく従っていたが、シェストが縛られて転がっているのを見て目を見開き、すぐに駆け寄った。だが声をかける事は出来ず、傍に座って俯いた。

  そして、シェストが口を開いた。

 「…知ってるさ、サンドラがどんな女かなんて。歌と顔と体はイイが…性格は最悪。高飛車で、我が儘で、嘘つきで、星の数ほど男と寝てる。レドモンドを怒らせて仕事が無くなって、助けてくれる男も居なくて、仕方なくグラベットを憎んでる僕のところへ来た。僕に取り入ってレドモンドに…というか、レドモンドの女に仕返ししたくて襲われたなんて嘘を吹き込んで…。何故、悪女で有名な自分の事を僕が知らないと思えたのか、不思議でならなかったよ」

  シェストは真っ青になって狼狽えるサンドラを見る。彼が全てお見通しだったとは思っていなかったのだろう。皆に自分のした事を晒された彼女は、声も出せずに口だけ動かした。

  ごめんなさい・・・と。

  シェストは話を続けた。

 「僕はエリートで、自分に出来ないことなどないと思っていた。保安局の上層部に入りたいのに入れず、イライラしていた。そんな時に話が来たんだ。ミクサの街で保安局を立ち上げ、成果をあげれば王都で昇進させるとな。そこへサンドラが来た。素性を知らなければバレないような、完璧な猫を被って。僕には何とも滑稽に見えたが考えたんだ。ずっと猫を被っていてくれるなら…このまま結婚するのも悪くないと。だからレドモンドの情報を探ってみた。後はさっき話した通りだ。……これで全部だ。後は好きにしてくれ。もう全てどうでもいい」

 「どうでもいい、だと…?随分と勝手だな…?」

  最後まで黙って聞いていたレドの全身から、ゆらりと威圧が立ち昇り猛烈な怒りが漆黒の瞳に篭る。

 「部下はどうなる。…貴様の私利私欲の為に死んだ部下は!!!解ってんだろうが…頭のキレる貴様なら…自分らじゃ奇襲など出来ない事くらい!!…何人が死んだ?何人が傷付いた?…その手前勝手に…どれだけの人数を巻き込んだ!!どうでもいい…?ふざけるな!!落とし前くらいテメエでつけろ!!」

  凄まじい怒声が響いて建物が地震のようにビリビリと揺れた。

  そして

 まるで覇王の如き覇気が爆発的に膨れ上がる。

  覇気は表へも轟き、街人にまで影響を及ぼす。

  サンドラは既に失神、ビスタさんは床に膝をつき、ルイさんまでが青くなって汗を浮かべている。覇気をぶつけられた張本人のシェストは必死に意識を保とうとしていた。




  斜め後ろに居たわたしも勿論体が強張って震えてはいたが・・・それ以上に、レドの言葉に心が熱くなるのを感じていた。

  オーナー部屋でローテーブルを割った時も、今も。彼が本気で怒ったのは巻き込まれた人達の為だった。そういえば言ってたっけ、街や獣人を守る事が自分達の為にもなるって。

  レドたちはずっと前からこうして守り続けてきたんだ・・・。

  そう思ったら、もう目いっぱいだと思っていた愛情がまた大きくなる。

  こんな時にこんな事思うなんて、すごく場違いで悪い事してる気になってしまった。




  レドの覇気はまだ放たれ続けている。このままじゃ街人まで失神するかもしれない。わたしは怒られるの覚悟で思いきって横に立ち、彼を見上げて黙って腕を引く。

 「・・・・・」

  レドは何も話さず、目線だけをチラッとこちらに向けた。怒りを宿した漆黒の瞳の奥に冷静な色を垣間見て安心した時、大きな手がわたしの肩を抱いた。

  すると

 あれだけ場を支配していた圧がフッ、と霧散して消え失せ、正常に戻った。

  皆は大きく深呼吸を繰り返しながら驚嘆の眼差しでわたしを見ていた。











 その後シェストは何も話さず、大人しくこちらの指示に従った。薬で深い眠りに入り、ルイさんとビスタさんの連れられて馬車でシャハールへと護送された。わたしは・・・レドの叫びが少しでも届いていればいいと、願わずにはいられなかった。

  レドとわたしは街長さんと話した後、まだ目覚めないサンドラの元へ向かった。

  彼女はシェストの希望で彼の家の寝室へ運ばれた。確かにサンドラは間接的にしか関わっていないが・・・正直、わたしは釈然としない気分だった。

 
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