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47.真夜中の出発
しおりを挟むルイとビスタは夜が明ける前にミクサの街に着いた。少し離れた場所に馬を隠し、気配を消して物陰に隠れながら街の入り口を窺う。そこには若い門番がひとり。
2人は眉を寄せる。門番は怪しいヤツを止めなければならない為、普通は中堅のある程度強い者が立つ。だがあの若い保安官はいかにも新入りで頼りない。キョロキョロと落ち着かなく、何かに怯えているようにも見えた。・・・シェストは何を考えているのか?
ルイとビスタは顔を見合わせて頷き合う。偵察方法は相談済みだ。二手に分かれて予定通り開始した。
20分後、2人は馬を繋いだ場所で落ち合っていた。
「街人はいつもと変わらなかったけど、保安官を1人も見なかった…。そっちはどうだったビスタ」
「はい。保安局ももぬけの殻。シェストの家に行ってみましたが…居たのはサンドラでした」
「なっ…サンドラ!?何であの女がここに…?」
「それだけじゃないですよ、どっかの富豪の令嬢みたいな大人しい感じの…ワンピース?ってのを着てました。別人みたいでしたよ」
「……サンドラの事は後回しだね。それよりも…まさか…もうアジトへ向かったのか?」
「…早過ぎませんか?俺らみたいに計画を立ててた訳でもないのに…ここからだってどんなに急いでも2日はかかります」
「……」
ルイは必死に頭を巡らせる。サンドラがどうしてここにいるか分からないが、今はシェストをはじめとする保安官達が居ない事が重要だ。恐らく事態は最悪の方向へ向かっている。街人に話を聞いて大至急ボスに知らせなければ。
「街人に話を聞こう。そして…」
「はい、ボスの元へ知らせに走ります」
「ああ、僕はここに残る」
◇
午前2時。わたしたちは私室のリビングにいた。ルイさんとビスタさんが発ってからお酒は控えている。いつ知らせが来ても動けるように。
そろそろ休もうとしていた時、私室の玄関を叩く音。
来た!
レドがドアの前まで行って相手を確かめ、ビスタを中へ入れた。
コンゴさんや奇襲に行く筈だったメンバーがオーナー部屋に集められた。
「シェストはシャハールから帰ってすぐ、部下を連れてアジトへ出発した模様です。保安官は若いのが街の入り口に1人だけ残されていました。後、シェストの家にサンドラが居ました」
「ええぇっ!」
ビスタさんが口にした事実にわたしは驚いて声を上げてしまった。レドとルーカスが頭を抱える。他の皆も騒めく。
「またサンドラですか…それに…レド、これは…」
「…ああ…あの女よりシェストだ。…何の準備もせずに奇襲など成功するはずが無い。死にに行くようなものだ…!あのクソ野郎が!!」
ドゴォン!!
バガァン!!
レドが怒りにまかせて拳をローテーブルに叩きつけ、真っ二つに割ってしまった。
わたしが思わずビクッ!と跳ねると、隣にいたルーカスが手を握ってくれた。
場は暫し静寂に包まれた。
盗賊のアジトを潰すのは至難の技だ。だからこういう時レドモンドは、強く、戦闘に慣れていて、何があっても臨機応変に対処出来る者しか連れて行かない。作戦も、メンバーも、犠牲者が出ないよう熟考されたものなのだ。
シェストはレドモンド達の作戦も覗いたのだろうが、それは選ばれたメンバーだからこそ実現できるものだ。何の準備もなしにこれをそのまま実践したところで上手くいく訳がない。シェスト自身はある程度強い魔人だから逃げ帰ってくる事も可能だろうが、部下達はそうもいかない。最悪の場合部下は皆殺され、彼のみが逃げ帰ってくるだろう。
やがてレドがルーカスと顔を見合わせてから口を開いた。
「すぐに発つ。メンツは奇襲メンバーに加えて…ソニア、お前もだ」
「え…わたし…?」
「ああ、お前の力が必要だ。一緒に行ってくれるな?」
「…はい」
「皆も聞け。行き先はアジトではなくミクサだ。…おそらくシェストはデッカーを仕留められずに逃げ帰ってくる。一方でデッカーの頭の中身は至極単純にできてる。逃げたら追い、やられたらやり返す。このまま放っておいたらミクサは壊滅だ。…だが、まだ手はある。ミクサを守り、デッカーを仕留める手がな。詳細はミクサに着いてからだ。各自大至急準備にかかれ。コンゴ、荷の最終確認を頼む」
「「「「「はい!」」」」」
皆、各自の支度へ向かった。
「ルーカス、ソニアの準備を頼む。俺も支度する」
「分かりました」
レドはオーナー部屋で支度すると言って残ったので、わたしとルーカスは2人でベッドルームへ来た。動きやすい服装に着替え、髪も邪魔にならないよう纏める事にした。その間にルーカスが荷物を準備してくれる。
ドレッサーに座って髪を纏めているとウォークインクローゼットからルーカスが出てきた。
「いいですかソニア、ちゃんとレドの言う事を聞いて下さいね。ひとりでの行動は禁止ですよ。必ず誰かと一緒に居て下さい。何かあったらレドかルイにきちんと言わなきゃダメですよ?」
彼の声に振り返ったわたしはその表情を見て驚く。エメラルドグリーンの瞳は心配と淋しさが入り混じって揺れ、潤んでいるように見えた。
「ルーカス…わたしは大丈夫。きちんと言いつけ守るよ?…ちゃんとルーカスのところに帰ってくる」
彼の傍へ行き、その胸に両手を置いて見上げる。
「ソニア…必ずですよ?約束しましたからね?」
「…うん。約束」
わたしは笑顔で答え、伸び上がって小さくキスした。彼はわたしを抱き締めて優しく頭を撫でた。
もしかしてレドはわざと2人きりにしてくれたのかもしれない。そんな気がした。
午前3時、わたしたちはシャハールを発ち、一路ミクサの街を目指した。
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