R18、アブナイ異世界ライフ

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44.アジト発見

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 乾期に入って7日くらい経った日の朝方、ビスタさんが調査から戻った。

 「盗賊のアジトを発見しました。居たのは腹心の一人のデッカーです」
 「確かか?」
 「はい。岩のような巨漢に金髪モヒカン、この目で確認しました」
 「他は」
 「人数は確認が取れたのが6人、ですがもう少し中に居ます。恐らく3人〜5人程度」
 「デッカーですか…厄介ですね」
 「ああ、計画を練る必要があるな」

  聞き覚えのある名だった。確かゴリッゴリの体をした脳筋野郎だ。

  デッカー。ビスタの言った通り、岩のような巨漢に金髪モヒカン。盗賊だというのに目立つ気満々のおかしな奴。だが実力は折紙付で、とにかく力が強く、巨漢という表現からもわかるとおり防御力も凄い。だが奴の厄介な点はそこじゃない。自らの危機を察知する固有能力を持っているのだ。その為奇襲も余程注意しなければならない。

 「保安局はどうします?」
 「少し計画を立ててから決める」

  その後ビスタさんから詳しい話を聞き、今日の閉店後、ルイさんとコンゴさんを含めて会議が行われる事になった。

  わたしはとにかく情報を頭に叩き込み、理解するよう努めた。











 その後、数日間かけて緻密な計画を立てた。

  作戦決行は10日後、実行隊はレドを筆頭にルイさん、ビスタさん、他数名に決定した。

  決定した翌日の閉店後、保安局の支局長と副長がオーナー部屋を訪れていた。一応定期的に顔合わせはしているため、わたしも顔だけは見たことがあった。支局長の名はオーキッド。パッと見はただの厳ついおじさんだが彼も魔人だと聞いた事がある。

  互いの自己紹介を終え、早速詳しい話をした。

 「俺とルイが居ない間に何かあった場合、ルーカスやコンゴが出る事になる。すると街の守りが手薄になる。その時は保安局の力を貸してくれ」
  レドが保安局の2人を見て言う。
 「分かった」
 「分かりました」
 「今話したのは極秘事項だ。決して人に漏らすな。王都にも知らせるな」
 「王都にもか?」
 「ああ、そうだ。盗賊の情報網を甘く見るな。知る人数が多いほど危険だ」
 「…よし、分かった。…成功を祈ってるよ」
 「ああ」

  話が終わってオーキッドさんが席を立とうとした時、副長さんが彼に声をかけた。

 「支局長、シェストさんの事をまだ…」
 「おお、そうだった。実は最近、シェストがミクサの街に配属になったんだ」

  思い出したように話すオーキッドさん。その名を聞いたレドとルーカスは顔を顰める。

 「シェストですか…よく了承しましたね」
 「いや、それが不思議なんだ。挨拶に来た時、やけに張り切っててなぁ」
 「シェストか……面倒な…」

  レドは心底嫌そうにため息を吐いた。

  シェストは王都の本局に長く勤務している魔人で、腕もなかなかだし頭も良い。そして野心家だ。困った事に保安局だけが正義だと陶酔しきっていて、グラベットを敵視している。王都の本局こそがエリートである自分に相応しいと信じて疑わない。実際検挙率も良いのだがその極端な性格が災いして人望が低く、中々上層部の仲間入りを果たせずにいる。

  その彼がシャハールからほど近いミクサという小さな街に来た。レド達が嫌がるのも仕方の無い事だった。











 遡ること数時間前、ミクサの街の保安局内の一室。

  ひとりの男がイライラと執務机を指で叩いていた。ピシッと七三に整えた銀髪に細くて吊り上がった眼、如何にも神経質そうな顔立ち。

 「クソッ!何で僕がこんな街に!…いや、落ち着け、ここでの任務を果たしたら…いよいよ昇格だ!王都本局、上層部に入れるんだ!そして彼女と結婚だ。…少しの我慢だ」

  心を落ち着けようとお茶に手を伸ばした時、ノックの音がした。

  コンコン

「誰だ!」

  ドアを開けて室内に入ってきたのは、鐔の広い帽子と清楚なワンピースに身を包んだ女性。

 「おお!サンドラさん!」

  男はイスを倒しそうな勢いで立ち上がってサンドラの元へ駆け寄る。

 「ああ、本当に来てくれたんですね…」
 「もちろんですわ。だってわたくしは貴方の妻になるんですもの…お逢いしたかったわ…シェスト様」

  サンドラはさり気なくシェストに近寄り、男の胸に手を置いて下から見上げる。その手を握られて頬を染めた。

 「あっ…シェスト様…」
 「ああ…サンドラさん…僕も逢いたかった」
 「…嬉しいですわ」

  そっとキスする2人。触れるだけの軽いキス。サンドラは顔を真っ赤に染めて俯く。

 「こんな口づけだけで真っ赤になるなんて…なんて純真な…」
 「言わないでくださいな…あぁ、恥ずかしい…」
 「さあ、僕の屋敷へ行きましょう。王都よりだいぶ狭いですが…堪えてくれますか?」
 「ええ、もちろんですわ」
 「ありがとうございます。では参りましょう」

  シェストはサンドラの肩を抱いて部屋を出た。



  シェストの寝室で抱き合う2人。男の手が女の尻に伸びる。

 「アッ…ま、待ってください、シェスト様…あの、お伝えしたい事があるのです」
 「…何です?」

  男は手を止めた。

 「実は私わたくし…初めてではないのです。以前、ある男性に強引に…その…怖くて、抵抗できなくて…」

  涙ぐみ、つっかえながらも話すサンドラ。シェストは目を見開いて驚く。

 「誰がそんな…あ、いえ…思い出したくないですよね。ああ、その男を殴ってやりたい…」
 「や、止めてください!いくら貴方様でも、あのレド…アッ…!」

  サンドラがしまった!というように口を押さえた。

 「相手は、レドモンド、なのですか?あの男…女が出来たと聞きましたが…魔人が重婚出来るのをいいことにそんな非道を…」
 「いえ、あの…」
 「もういいですよ、話さなくても。辛い体験を打ち明けてくれて…不謹慎ですが嬉しいです。そんな思い出、僕が全て消してあげますよ…」

  女の言葉を遮って言い、口の端を上げる。そしてサンドラを優しく抱きしめて小さく呟いた。

 “同じ思いを味わわせてやる…”と。

 「ああ、シェスト様…」

  サンドラはその胸に顔を埋め、男から見えないようにほくそ笑んだ。



  この数日後、あんな事件が起ころうとは…誰一人予想だにしていなかった。


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