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41.小さな不安
しおりを挟む工事を開始して3日後、改装が無事終了しました。本当に3日で出来ました。凄い大人数でやってましたよ。
改装された点は、まずはベッドルームと旧物置部屋の間の壁を取っ払って広くなった。そしてその奥に部屋が2つ増えた。1つは物置部屋、もう1つは広~いウォークインクローゼットだった。
「急がせてすまなかったな。助かった。何かあったらいつでも言え」
「今度店に来てください。ご馳走させていただきますよ」
レドとルーカスが職人さん達に声をかける。
「ありがとうございました。お疲れ様でした」
わたしもお礼を言った。
「いえ、仕事ですから!」
ビシッと整列した彼等のリーダーはそう答えると意を決したように続けた。
「ボス!早速ひとつお願いがあるんですが、聞いていただけますか!」
「言ってみろ」
「はい!…ソニア様の歌が聞きたいです!」
・・・え?
「もう乾期に入ってしまったので、寒冷期まで聴けないんですよね!?お願いします!」
「「「「「お願いします!!」」」」」
全員が一斉に頭を下げた。
「…どうします?レド」
「そうだな…ソニアはどうだ?歌うのはお前だからな、お前が決めろ」
「え、わたし?」
「ああ」
皆がわたしに注目する。
・・・3日で、なんて無理言って頑張ってもらったのだ。断れるわけがない。
「分かりました」
こうしてわたしは急遽1曲歌うことになったのだった。
◇
歌の後、職人のリーダー、ヘリオトさんが残ってレドに声をかけた。
「ボスのお耳に入れておきたい話があるのですが」
今までとは打って変わった深刻な表情にレドとルーカスが視線を交わす。
「あちらで話しましょう」
ルーカスの言葉でリビングへ移動し、ソファーに腰を落ち着けるとヘリオトさんが口を開いた。
「部下が北東にある山で新しい足跡を見つけたんです。半年くらい前に見つけた山なんですが、今回初めて木を切り出しに行ったんです。場所的に考えてもオレら以外は誰も使っていないはずなんですが…」
そこは他の街からは離れすぎているし、近くの村も使っていない事は確認済みだという。
「木を切られた形跡は?足跡は幾つだった?」
「切られた跡はありません。足跡はそんなに多くはなかったそうで…次の日には消えていたと」
「レド…もしや」
ルーカスがレドを見る。
「…可能性はある。見つけたのはいつだ?」
「6日ほど前です。昨夜、木も切らずに帰って来た部下から報告を受けました」
「ヘリオト、その山は暫く使うな。調査に入る」
「実際に見た部下と一緒に閉店後もう一度来てください。詳しく聞きます」
「かしこまりました」
ヘリオトさんは頭を下げてから帰っていった。
・・・いても良いって言われて一緒に聞いてたけど・・・その足跡が何に繋がるのか、わたしにはまだ分からなかった。
その夜、約束通りヘリオトさんが足跡を目撃した部下と一緒にやってきた。部屋にはビスタさんも呼ばれ、地図を広げながらの詳しい説明が行われた。
終了後、ビスタさんは少数の部下を連れて山へ調査に向かった。
・・・ビスタさんは魔人でした。
・・・・知らなかったよ。だって前に治療した時全身見たけど印はなかったし。あ、パンツの中は見てない。・・・お尻にでもあるのかな?
3人になってから、何故調査をするのか教えてくれた。
「その山には、盗賊のアジトがある可能性が高い」
盗賊は頭のグループが本隊、腹心の部下達がいくつかの小部隊に分かれている。それぞれの隊ごとにアジトがあり、そのアジトは不定期に変わる。古いアジトに移る事もあれば、新しい場所を探す場合もある。
今回の場合、小部隊が新しくアジトをそこへ移したかもしれないのだ。
アジトの場所や探し方には何の規則性もなく、奴らの居所を掴むのは至難の技だ。見つけたとしても、頭と腹心の部下達は力ある魔人で、下手に手を出せば返り討ちにあう。その為、盗賊を討つには熟考が必要になる。これだけ聞けば不利に感じるかもしれないが、魔人の数や総力でいえばこちらが有利なのだ。腹心までは辿り着かなくとも盗賊を捕まえてもいる。ただ守るべき場所が多くある為、総力を結集して、とは中々いかないのが現実。今は膠着状態が続いている。
一通り説明を受けて息を吐く。
アジトが見つかれば捕まえるチャンスだが、危険も伴う。知っている誰かが怪我したり・・・死んだりするかもしれない。知識として知ってはいても、実際身近でこんなことが起こった経験などない。わたしは不安と恐怖を感じずにはいられなかった。・・・情けない。守られるだけは嫌だと思った。彼らの傍にいると誓った。完全開眼した時はこれで自分も役に立てると思った。なのに・・・。
「…怖いか?」
レドに聞かれてコクン、と頷く。すると2人は向かい側のソファーからわたしの隣へきて座る。
「怖くて当たり前、誰だって同じだ。ただ…それを抑えるのが上手くなるだけでな。最初から怖くない方がおかしい」
「そうですよ。それにあなたはまだ28でしょう?大人になったばかりだ。焦らなくて良いんです。あなたが共に居てくれるだけでも私達には救いです」
両側から肩を抱いてくれる。
「救い…?」
わたしが?
「ああ、お前の存在が俺たちを明るく照らす。将来への希望になる。…生きる事への執着に繋がる。白魔法だってある。今までは救えなかった命が、その魔法で救える。ビスタはお前がいなかったら恐らくあのまま目覚めなかった」
ビスタさんが・・・。
「「ソニア」」
2人がわたしの顔をのぞき込む。
わたしって、なんて幸せ者なんだろ。こんなに自分を必要としてくれて、愛してくれている人達がいて。わたしは、自分に出来ることを頑張ろう。うん。
「ありがとう…レド、ルーカス」
「…そこは愛してる、だろ?」
「同感です」
「ふふっ、もう…レド、ルーカス、愛してる」
笑ってそう言った途端、レドの唇が迫ってくる。それがわたしへたどり着く前に迎えにいった。小さく何度も啄ばんでは角度を変え、頬にキスしてくれたルーカスに交代する。2人の手が着ていたワンピースを脱がし、ブラも外されてショーツだけにされた。胸を片方ずつ弄られてくぐもった喘ぎ声を漏らしてしまった。
「ん”ん”っ…んぅ…っは…あぁん、お風呂、入りたい…」
唇が解放されてそう訴える。
「駄目だ、もう待てない」
「そうです、ダメです。洗ったらソープの香りであなたの匂いが薄くなる」
なんで即否定?それにルーカス、その発言なんかマニアックだよぅ。
「…耳と尻尾、見せてみろ。そうしたら風呂に入れてやる」
レドの発言にきょとん、となってしまう。しまっているのが当たり前で、存在を忘れてた・・・。
「え…耳と尻尾?…見たいの?」
「「見たい」」
即答・・・。確かにバニーちゃんみたいで可愛いけど・・・交換条件出すほどの物でもない気がするよ。まあいいか。
「いいけど…」
わたしは久しぶりにうさ耳と尻尾を出した。
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