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37.転生告白
しおりを挟むあれから、何度もレドに全て打ち明けようとしては止める、という事を繰り返していた。レドは当然、私の様子がおかしいと気が付いていたが聞いては来なかった。私が自分から話すのを待ってくれているのだ。
マス・・ルーカスとはまだまともに話していない。なんと言っていいか分からず戸惑う私に、彼は優しく微笑んでくれる。
・・・なのに。いつまでもくよくよしている自分が情けなくて、嫌いになりそうだった。
◇
雨期も終わりに近づいたある夜。私は私室のリビングで2人と向き合って座っていた。
「…ソニア。お前が何を悩んでいるか知らないが、いつまでもこのままではダメだ。もう結論を出そう」
レドの言葉にビクッ、としてしまう。そんな私を見て2人がため息を吐く。
「ソニアさん、もういいですよ」
ソニアさん・・・・・そう呼ばれた事にショックを受ける。自分が招いた事なのに。
「あなたをそんなに悩ませる事になるなんて…すみませんでした。あの告白はもう忘れてください」
・・・忘れてください。ハッキリと告げられて涙が零れた。自分勝手な涙。
なんて馬鹿なの!泣くほど好きなのに・・・いつまでそうやってうじうじしてるの!
自分で自分を叱る。
「明日からは前の通りに…」
「違うの!そうじゃないの!」
ルーカスの言葉を遮って叫んだ私に2人が目を見張るが構わず続ける。今言わなきゃいずれ全てダメになる、そんな気がしてならなかったから。
「私、2人に言ってない事があるの」
一度目を閉じ、深呼吸してから話し始めた。
自分が元々異世界の人間だったこと。子女神様のミスで死亡し、前世の心のまま転生したこと。ここは自分の知っている物語に似た世界で、半端な知識と常識しかないこと。前の世界は一夫一妻で、多夫多妻に戸惑いがある事。
ここにも物語や本などの娯楽はあるが、数は少ない。異世界などという言葉が出てくるものなどないだろう。予想通り、2人は私の話を呆然として聞いていた。
「私…レドを愛してる。ルーカスも好き。でもまだ気持ちの大きさに違いがあるの。それに前の世界の常識から完全には抜け出せてなくて…こんな気持ちで2人と付き合っていいのか迷いがある。相談したかったけど…そしたら転生の事を話さないといけないし…信じてもらえなかったら、もし嫌われたらって思ったら…怖くて…黙っててごめんなさい」
とにかく全てを正直に話した。これで信じてもらえなかったら仕方がない。
その時は・・・ここを出よう。
いつも頭の片隅にあった。いつか全てを話す時が来て、ダメだったらそうするしかないと。でもそうなるなんて思いたくなくて・・・考えないようにしてた。
2人とも驚いたままで反応がない。・・・やっぱりダメなのかな。・・・そりゃそうだよね。急に異世界から来た、何て言われてもね。転生する前に同じことを言われたら私だってかなり疑う。
・・・よし、ここは一つ気合を入れようじゃないの!女は度胸!!
「あの、私…ここを…」
「何故もっと早くに言わなかった」
別れを切り出そうとした言葉は、急に動いたレドに遮られた。隣に座って私を抱きしめる。
「レド…?」
「…最近、ろくに寝ていないだろう?食欲もないし…少し痩せた。何故こんなに辛くなるまで…俺がお前を嫌いになる?信じない?そんな事あるはずないだろう」
頬を撫でながらそう断言して小さくキスする。
逆隣りにルーカスが座り、レドから私を受け取って抱きしめた。
「あっ…」
「ソニア…あなたの悩みも知らず、自分の気持ちばかり押し付けてしまって…すみませんでした。でも、とても嬉しいです。…もう一度、言ってくれませんか?私への気持ちを」
・・・ソニアって呼んでくれた。・・・2人とも、信じてくれたの?
「私…ルーカスが好き」
「私もです、ありがとう。…キスしても、良いですか?」
「…はい」
コクンと頷くと、穏やかに微笑んでそっと唇を寄せる。
「んっ…」
小さく何度も繰り返されるキスの間に見えた彼の顔は、とても嬉しそうで・・・迷っていた気持ちがすぅっ、と萎んでいくのを感じた。
「ソニア、こっちもだ」
後ろから聞こえたレドの声に振り向くと、すぐに口を塞がれた。
「んふ…ん」
唇を食まれて身体をふるわせると、首筋を冷たい舌が這う。思わずひくん、と背を反らせば、それに対抗するようにキスが激しくなった。
「っんぅ、んぁ…んはっ」
2人の口づけに愛しさが募る。嬉しくて自然と溢れた涙を2つの唇が拭ってくれる。私はしばらくの間その愛と官能に身を任せた。
◇
右にレド、左にルーカス、と2人に挟まれた状態でソファーに座りながら、今一度確かめておきたい事を聞いてみる。
「私の話…信じてくれたの?」
「当たり前だろう?俺を誰だと思ってる。相手が嘘を吐いてるかどうかくらい判る」
レドが私の右手を握って言う。
「私も信じてますよ。嘘を見抜けないようでは、ここのマスターは務まりません」
ルーカスは左手を握る。
嬉しい・・・。話して良かった。
「ありがとう。ごめんね?その…ずっとうじうじしてて」
「礼なんていらない。それに、言えなかったのも仕方がない。随分と突拍子もない話だったからな」
「レドの言う通りですよ、もう気にしないでください」
「ありがとう…」
「ふふ、そういえば、異なる世界と聞いて納得のいく事も多々ありますね」
「そうなの…?」
「ああ、そうだな。その代表格がお前の歌だ。他にない歌詞、メロディー、歌い方、アイディア。挙げればまだまだある」
「音楽については本当に学ぶ事が多いですね。これからもどんどん教えて下さい」
「…うん」
私とルーカスはほわん、と笑いあった。
その後、食事をどうしようか?と話していると、思い出したようにレドが聞いた。
「そういや話の後何か言いかけたな、何だったんだ?」
・・・!!
コ、コレハ正直に言うとマズイ気がします・・・。全力で誤魔化そう!
「何でもない!」
思いっきり首を振る。・・・イカン・・・これじゃあ、何かあります!と言っているも同然だ。
「…言え」
あぅ!やっぱり!
「あの…えと…」
「私、ここを…とか言ってましたね?続きが気になります」
何か当たり障りのない事を探しているとルーカスがいらんことを言った。レドが眉間に皺を寄せる。
「ここを…?ソニア、まさかとは思うが…出ていく気だったとか言わないよな?」
怒気が篭った声に一瞬迷うが、彼に隠し事など出来るはずもなく・・・
「…前から考えてたの。全てを打ち明けた時、もしも信じてもらえなかったら…ここを出ようって。だから余計に言うのが怖くかった。傍に居たかったから…」
段々下を向いてしまう。
「お前、俺たちが信じていないと思ったのか?」
「うん…だって、話し終わっても無言で…ダメだったんだと思ったの」
言った途端、きつく抱き竦められて顎を持って上を向かされる。漆黒の瞳と出逢ったと思ったら嚙みつくようなキスが待っていた。口内を蹂躙され、舌を噛まれ、流れてくるレドの唾液で溺れたように酸素が足りなくなる。
「ッんン!ん"ぅ、っあ"…」
唇が解放された時にはもう立っていられず、彼に全身を預けた。
「んくっ、ン…ッあん」
飲み込めずにいたとろっとしたものを喉へ流し込むと、身体の奥に熱が生まれる。
「何度言えば解る?俺は、何があってもお前を手放すつもりはない。泣いても嫌がっても無駄だ。逃げても必ず連れ戻す」
「…私達から逃げられると思ったんですか?」
ルーカスが後ろから耳を舐める。
「ッあ…」
「…離れるなんて許さない。二度と考えるな」
「は、い…」
「…よし」
2人の言葉を嬉しく思う私は・・・ドンドンМっ気が強くなってる気がします・・・。
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