R18、アブナイ異世界ライフ

くるくる

文字の大きさ
上 下
31 / 113

29.王都一の歌い手

しおりを挟む

 私が転生して3ヶ月が過ぎようとしていた。季節は雨季へと移り変わり、雨の日が多くなっていた。

  ここに曜日はなく、ひと月30日、1年は12か月。

  季節は3、4、5月が過ごしやすい温暖期。6、7月は雨期で雨が続く。8、9、10、11月は乾期で雨が降らず、12、1、2月は寒冷期で雪もたまに降る。乾季は寒冷期に近くなるほど昼夜の気温差が激しくなる。

  雨期や寒冷期はどうしても酒場の客足が減る。そんな時期に活躍するのがステージや楽器だ。この世界で歌や演奏のみを生業としているのは王都に極少数居るのみ。殆どが兼業でこの時期だけ酒場やレストランなどを回る。人気が出ればご指名でお呼びがかかったりするのだ。

  この酒場も例外ではなく、日々演奏家や歌手が来て自らの音楽を披露している。他の街から来て回っている人も多い。演奏家は男性が多く歌手は女性ばかりで、綺麗で優しい歌声と美しい音色に癒された。私は昔からこういった酒場やバーで歌う歌手に憧れていた。その憧れを間近で感じられてとても嬉しかった。

  そしてある日、彼女がやって来た。











 その日は王都からプロの歌手と演奏家、2人が来る事になっていた。宣伝効果もバッチリで酒場は満席。2人はステージの数時間前に酒場を訪れた。そして控室にしている部屋へ通されて軽い食事を終えると、歌手の女性がスタッフに言った。

  ソニアという女に会わせて!と。レドモンドは外出していて、判断はルーカスに委ねられた。




  私はマスターに連れられ、ホールから控室へ向かった。

  中にいたのは水色の髪の女性と、ラベンダー色の髪の男性。女性は真っ赤なドレスに同じ色のルージュが良く似合うちょっときつい感じの美人。豊満な胸をこれでもかとアピールしている。男性は対照的に大人しい・・・というかオドオドした感じで中性的な顔立ち。

 「アンタがソニア?」
  明らかに棘を含んだ口調で言い、値踏みするような目で私を見る。
 「な~んだ、大したことないじゃない!レドモンド様の妻になる女、何て街で聞いたからどんな美人かと思ったら。大体おかしいと思ったのよね!特定の女を作らない事で有名なあの方に妻なんて!…あんた、まさか噂も自分で流したんじゃないでしょうね!?」

  畳みかけるように早口で騒ぐ女性。

  あちこちでイチャつきまくったあの初デート以来、私はレドモンドの妻になる女、として街中に知られている。彼女たちは数日前からシャハールに滞在していて、もう何軒もの酒場やレストランの指名を受けて回っているらしい。だからそれを耳にしたのだろうが・・・今までがどうだったかは知らないけど、今回は真実だ。

  女性は更に続ける。

 「アタシのレドモンド様に色目使ってないでしょうね!?ま、アンタの身体じゃ無理でしょうけど!あ、知らないだろうから教えてあげる!アタシ、レドモンド様と夜を一緒に過ごす仲なのよ!」

  開いた口が塞がらない、とはこの事だ。

  自分でレドは女を作らない、と言っておいて夜を過ごす仲だとも言う。すんごく矛盾してない?過去にそういう事実があったとしても、恋人ではない。それを自ら吹聴して回っているのだろうか?もう少し考えて話した方が良いと思いますよ・・・。

  こういう時、少女漫画のヒロインや乙女ゲームの主人公なら気にしたり、落ち込んだり、泣いたりするのかな?私は小さい頃から変に冷静な所がある。こうやって捲し立てられても何だか客観的に見てしまう。そんな性格が、可愛くない、冷たい、と言われ、結局お前はひとりでも大丈夫だろ、となる。

  今だって結構な事を言われているが、レドに他の女性がいないのは分かっているから割と平気なのだ。嫌な気分なのはどうしようもないが。可愛くないな、と自分でも思う。

  そんな私の態度が気に入らなかったのだろう。彼女が金切り声を上げる。

 「何なのよアンタ!!さっきから返事もしないでボケっとして!…そうだ、アンタアタシに謝んなさいよ。今夜、アタシが歌わないと困るでしょ?謝ってお願いしたら歌ってあげても良いわ!」

  ・・・はあ?・・・そうくるか、ワガママ女め。

  でも歌に関してはその通りだ。もうお客さんが彼女を待ってる。ここで言い返すのは簡単だけど、中止にでもなったら雨の中来てくれたお客さんに申し訳ない。それに・・・酒場の評判にキズがついたらレドや皆が困るかも。

  彼女は足を組んで私を見上げている。さあ早くなさい!とでも言いたげだ。

  仕方ない…それで気が済むなら。

 「…申し訳ありませんでした。歌ってください、お願いします」
  謝って頭を下げる。

 「それでいいのよ!全く…もう邪魔しないでよね!…あら、時間ね、行くわよ!」

  コロッと機嫌を良くした彼女はにこやかに言って颯爽と出ていった。後に残ったのは演奏家の男性で、私とマスターに土下座せんばかりの勢いで頭を下げた。

 「申し訳ありません!サンドラが酷い事を…」

  それに答えたのはマスターだった。

 「早く行った方が良いのでは?また機嫌を悪くされたら困ります」
  何となく笑顔が怖いのは気の所為だろうか・・・?
 「すみません…精一杯演奏させて頂きます!」
  男性は慌てて出ていった。

  ホッと息を吐く。良かった、中止にならなくて。

 「マスター、私ホールに出ない方がいい……マスター?」

  言いかけて止まってしまった。・・・マスターが私の頭を撫でているから。

 「すみませんでしたね、頭なんか下げさせて。余程追い出してやろうかと思ったのですが…そんな事をしたら、あなたがしたことが無駄になってしまいますからね」
 「マスター…」
 「助かりました。確かにもう中止になど出来ませんでしたからね。彼女、サンドラというんですが、もう随分前からレドに熱を上げていまして。時期になると呼ばなくても来るんです。王都一上手いとの評判でして、断る訳にも行かず我が儘し放題なんですよ。レドは今日出掛けるのを嫌がっていましたよ、あなたに何を言うか分からないって」
 「そうだったんですか」

  言われて思い出す。そういえばレドが出掛ける前なんか言いたそうにしていた。珍しく奥歯に物が挟まったような話し方で、不思議に感じたのだ。

 「…何してる?」

  いきなり声が掛かる。

  現れたのはレド。何だか不機嫌?と思っていると頭が軽くなる。・・・もしかして、頭を撫でられていたのが気に食わないのだろうか?

 「ソニアさんが頑張ってくれたのでお礼を」
 「何でお礼がナデナデなんだ?…全く。で?あの女、また何かやったのか」

  また・・・?ホントに困ったちゃんなんだな~。

  その後、マスターの説明を聞くレドの顔が憤怒の形相なったのは言うまでもない。

  サンドラの運命や如何に。 
しおりを挟む
感想 30

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?

すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。 一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。 「俺とデートしない?」 「僕と一緒にいようよ。」 「俺だけがお前を守れる。」 (なんでそんなことを私にばっかり言うの!?) そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。 「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」 「・・・・へ!?」 『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!? ※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。 ※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。 ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。

こわいかおの獣人騎士が、仕事大好きトリマーに秒で堕とされた結果

てへぺろ
恋愛
仕事大好きトリマーである黒木優子(クロキ)が召喚されたのは、毛並みの手入れが行き届いていない、犬系獣人たちの国だった。 とりあえず、護衛兼監視役として来たのは、ハスキー系獣人であるルーサー。不機嫌そうににらんでくるものの、ハスキー大好きなクロキにはそんなの関係なかった。 「とりあえずブラッシングさせてくれません?」 毎日、獣人たちのお手入れに精を出しては、ルーサーを(犬的に)愛でる日々。 そのうち、ルーサーはクロキを女性として意識するようになるものの、クロキは彼を犬としかみていなくて……。 ※獣人のケモ度が高い世界での恋愛話ですが、ケモナー向けではないです。ズーフィリア向けでもないです。

悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!

ペトラ
恋愛
   ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。  戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。  前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。  悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。  他サイトに連載中の話の改訂版になります。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

番から逃げる事にしました

みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。 前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。 彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。 ❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。 ❋独自設定有りです。 ❋他視点の話もあります。 ❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。

処理中です...