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24.姐御
しおりを挟むその夜、食事を終えて一休みしているとマスターがやって来た。
「お休みの所すみません、レド」
「どうした?」
レドが聞く。
「ビスタがぜひソニアさんに挨拶したいと言ってまして」
「ソニアに?そういえばまだ会ってないな」
「はい。通しても良いですか?」
「ああ」
「では連れてきます」
マスターは一旦部屋を出ていった。
・・・挨拶?お礼なら分からないではないが。さっきの言い方は微妙にニュアンスが違ったような?
とか考えているうちにマスターがビスタさんを伴って戻って来た。立ち上がろうとするとレドに止められる。何で?座ったままなんて凄くエラそうなんですけど。
「ボス!姐御への挨拶を許可いただきましてありがとうございます!」
・・・姐御?って、私の事?・・・は!?
ビスタさんはガイと同じ直立不動からビシッと90度に頭を下げた。彼はガイほど背は無いがとても鍛えられた身体をしていた。濃い赤、臙脂色の固くて短い髪に同色のツリ目。血気盛んな雰囲気で、いかにもレドの部下という感じ。
「ああ、いいから済ませろ」
「は、はい!姐御!先日は助けていただきありがとうございました!」
私にも頭を下げる。
「いえ、あの、それはいいんです。私に出来る事をしただけなので」
「とんでもない!古傷までキレイに治る白魔法の使い手なんて滅多に居ないんです!」
「え…そ、そうなの?」
レドの方を向いて聞く。
「ああ、その通りだ。お前の白魔法は凄い」
「そうです!ですからお礼を言わせてください!」
ビスタさんは頭を下げたままだ。
「分かりました。お礼は受け取りました。ですから頭を上げてください」
頭を下げられるなんて慣れなくて落ち着かない。彼はやっと頭を上げた。初めて目が合いましたよ。話すときはこうじゃなきゃ。さて、さっきの“姐御”発言について聞いてみよう、と思ったんだけど・・・。
目が合った瞬間、感電でもしたような変な反応をするビスタさん。それっきり固まる。
「…!?…あ、あの?」
こっちまでビクン!としてしまった。コワゴワ声を掛けるとハッと我に返る。
「ボス!姐御!俺はお2人の為ならたとえ火の中水の中!命を懸ける所存であります!」
「え…あの、命は大事にしてください」
あまりの必死さに思わず言ってしまう。
「はい!頑張ります!」
・・・何か話がかみ合ってないような?それにそういう事は普通ボスを見て言うもんでしょ?彼は私から目を逸らさない。今のセリフといい、姐御呼びといい、任侠物でも見ている気分だ。さっきレドに立つのを止められた訳がやっと分かった。ボスの女なのだから鷹揚に構えろ、という事だ。
「…姐御は止めてくれませんか?」
「お気に召しませんか!?では姐さんで!」
「いや、それ同じだから」
素でツッコんでしまいました。
「え…でもボスの奥様になられるんですよね?」
「…え?」
「…え?そう、ですよね?」
私が驚いたことにビスタさんが驚く。そして隣から無言の圧力がひしひしと伝わってきます。おぉう・・・またもやレドの機嫌が危ないです。
「そ、そうですけど、呼ばれ慣れなくて。それに酒場でそう呼ばれると困ります」
ホッ、圧力は収まった。
「そうでした!姐御は酒場の仕事もなさってるんでしたね!では酒場では控えます!」
目をキラキラさせて頬を染めている。・・・何を言っても無駄に終わりそうです。
「…それでお願いします」
◇
「何故驚いた」
マスターとビスタさんが出て言った途端、抱きしめられて詰問され中です。
「だって…急に奥様なんて…」
いずれそうなるだろうと想像はしたけど、昨日の今日だもん。驚いても仕方ないと思うんです。
「スタッフにも言ったが」
「ええっ!」
「スタッフも客も男だからな。万が一にも言い寄られる何て事のないように注意は必要だ」
理由を聞いてちょっと呆れてしまう。
「…そんな事心配してたの?」
「…そんな事、だと?」
私の言葉に目を眇める。
「私がレド以外の誘いに乗ると思ってるの?」
「いや、そうじゃないが…」
「心配してくれるのは嬉しいけど…私が愛してるのはレドだけなんだから」
好き、ではなく、愛してる、と意識して言った。少しでも想いが伝わると良い。私だって言う時は言うのだ。
「ソニア…」
レドがフッ、と笑う。
「…その言葉は嬉しいが魔人は多夫多妻が当たり前だからな」
「え、それって男性だけじゃないの?」
私の中ではレドのハーレムイメージしかない。主人公と結ばれるまではハーレム三昧だった。勿論目の前の彼は違うと思っているが。
レドが知らない私に飽きれながらも説明してくれる。
多夫多妻が許されている理由は、魔人の少なさと子供が出来難いところにある。
男性の場合、相手が獣人なら何人も妻を娶る事も多い。だが相手も魔人なら妻は1人だ。何故なら、一緒に長い生を生きられ、子作りに費やせる時間が長い。それに魔人と獣人の妻を同時に娶っても妻同士は大抵上手くいかないからだ。
そして女性の場合は一妻多夫となる。それが魔人は勿論、世間一般にとっても常識だという。原因は当然魔人女性の希少さにある。魔人をこれ以上減らさない為にも必要な事。
「2人目からは伴侶の承諾が必要だ。無ければ結婚出来ない」
「知らなかった…。そうだったんだ」
「だから俺は心配してるんだ。お前ほどの女に男が寄ってこない訳がない。…まあ、俺が認めるほどの男などそうそう居ないがな」
彼の心配の原因は分かったけど・・・前世と違いすぎて今は2人目なんて考えられない。それに私にだって心配はある。
「…ありがとう。でも私だってレドが心配」
「ほぉ?俺が他の女に手を出すとでも?…いい度胸だ」
睨みながらそう言うと、私をソファーに押し倒して覆いかぶさり胸をギュッと掴む。
「きゃ、んあ!レド、違…」
「何が違う」
がばっ、と服を捲ってブラもずらし、両胸を鷲づかみにして強く揉みしだく。私は刺激に悶えながら言い募る。
「あ、あッ、だって…んン!私、ハーフだも、っん…2人目の、奥さん…」
「ハーフでも魔人の女はかなり珍しい、と言っただろ?お前の魔力なら純粋な魔人とさほど変わりは無い。それに、俺はお前以外の女を抱く気はない。…分かったか?」
話し終わる前にきっぱりと言われる。
「はい…」
「よし…おしゃべりは終わりだ」
そう囁いて私の口を塞ぐ。
「んン…ぁん…」
「ッん…次はお前のいやらしい啼き声が聞きたい」
「あぁ…レド…」
そして今夜も、レドに全てを支配されるのだった。
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