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13. 意外
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少年はオーナーの前で見事な直立不動の姿勢を披露していた。
少年の名はガイ。まだ15歳(成人は18才)だ。狼の耳と尻尾が出っ放し。両親を亡くしてからオーナーのお世話になっていて、各村の状況調査や報告が仕事らしい。この世界では子供にも相応の仕事があるのだ。オーナーは魔人のいない村やその周辺を調べ、異常がないか、盗賊の痕跡が無いかたまにチェックしている。この辺、ゲームと同じだ。
そのオーナーは今、ソファーの背に寄りかかり足を組んでガイを見上げている。
「ちゃんと、順を追って、分かるように、話せ」
明らかに不機嫌だ。まあ無理もない。ガイの説明は支離滅裂で、訳が分からなかった。
「あの…その…」
睨まれてオドオドする。
「はぁ~…ソニアを初めて見たのは?」
大きな溜息を吐いてから聞く。質問形式にしたようだ。
「ゴア村です!」
え・・・。い、いや、とりあえず聞こう。
要約するとガイの話はこうだ。
ゴア村の酒場(ジュースを飲んで寝ていたらしい)で私を見て、変わった匂いがするのが気になって後をつけた。シャハールの手前までつけたが白兎族だという事しか分からなくて、報告するまでもないと思ってオーナーには言わなかった。ところが今日私をここで見て、珍しい白兎族だという事を武器にしてオーナーに擦り寄る悪い女だと思い込んだ。そしてあのような行動に出た。
あの視線の原因が分かりましたよ。それに、確かにゲーム内でもそういう女はわんさか居たけど・・・まさか私がそんな女だと思われていたとはね。
「ほお…?つまり、お前の勘違いでソニアを襲ったと。こういう事だな?」
オーナーが怒りの籠った声で凄み、射抜くような視線を向ける。
「ヒッ!しいませんでしたぁ!!!」
ガイががばっと頭を下げる。口が回っていない。
これは怒られても仕方ないね。うん。まあ・・・オーナーの時の方が断然怖かったですけど。とか考えているとふと気になった。
・・・ゴア村からずっとって言ってたよね?・・・・・まさか。
「あの…一つだけ質問しても良いですか?」
「ああ、いいぞ」
オーナーが私の方を向いたのでガイはへにゃっと力を抜いた。許しを得たので意を決して聞く。
「…水浴びした時も…見てたの?」
ずっとつけてたならあの水浴びも見てた可能性は大きい。なら私は…素っ裸を知らない子に曝した事になる。
ガイの顔が、みるみるうちに真っ赤になる。
「!!!」
み、見られた!素っ裸。全裸。知らない男の子に。狼だもん、目が良いはず。遠くてもバッチリ見えるはず。
「まさか…ずっと、終わるまで見てた?」
せめて見たのが一瞬だったならまだ救いがある!そう思ってガイの答えに一縷の望みをかける。
「だって!ずっと見てなきゃ逃げるかもしれねえだろ!!」
なんじゃそりゃ!!
「そんなこと…!」
言いかける私の声を遮ったのはオーナー。
「…ガイ…見たのか?」
さっきとは全く違う凄み。絶対強者の威圧に、ガイどころか向けられていない私までヒヤッ、とする。
「う、ぐ…」
ガイは声さえ出せず、汗をダラダラ流してガクガク震えている。
「返事はどうした…?」
返事など出来るはずもない。見ていられなくなってオーナーの近くへ行く。
「…オーナー。もういいですから」
そう声を掛けた途端、パッと威圧が霧散する。ガイはその場に崩れ落ち、気を失った。
「良くない」
「え?」
「俺は見てない」
「……はあ?」
オーナーの言葉に耳を疑う。
「着替えはさせたがブラジャーとショーツは我慢した。だから俺は見てない」
「ブ、ブラ…!な、なん、あ、当たり前です!!」
「ガイは見たんだろう」
憮然としてそっぽを向くオーナーに唖然とする。もしかして・・・拗ねてるの?
私はガイが気を失っている事も忘れ、信じられない思いで彼の顔を見ていた。
「見られたのは不可抗力ですよ?それに外で水浴びした私にも責任はあります」
「…ガイの肩を持つのか」
「な、何でそうなるんですか!」
「・・・・」
むくれてる・・・むくれてるよ。泣く子も黙るレドモンドが。どうすんのこれ。そろそろ仕事の準備しなきゃいけないんだけど。
その時助け船が現れた。途中で店に呼ばれたマスターだ。
「オーナー。ソニアさんは仕事の時間です。…ソニアさん、行っていいですよ。後は任せてください」
優しい笑顔でそう言ってくれるマスターは後光が射して見えましたよ。ありがたやありがたや。
「ありがとうございます、マスター。あの、オーナーも…ありがとうございます」
勘違いで襲われるなんて冗談じゃない。つけられていた事もあって結構頭に来ていた。でもオーナーがガツンと怒ってくれて、安心した。でも気絶しちゃったのはかわいそうだったかな。
私は2人に頭を下げてから部屋を出た。
「今日も珍しいものが見られました」
ソニアが出ていった後ルーカスが楽しそうに言った。実は水浴びの事を聞いた辺りからドアの外にいた。
「ガイの所為だ」
「ガイはもう勘弁してあげてくださいね?ソニアさんに返り討ちにされてましたから」
「返り討ち?」
「ええ、私が見た時は地面にうつ伏せで抑え込まれていました」
「ソニアが抑え込んだのか。…全く、面白い女だ」
「同感です」
「…白兎の事、後で口止めしておけよ」
「はい、もちろんです」
ガイは数日間酒場の居住スペースに泊まることになった。
少年の名はガイ。まだ15歳(成人は18才)だ。狼の耳と尻尾が出っ放し。両親を亡くしてからオーナーのお世話になっていて、各村の状況調査や報告が仕事らしい。この世界では子供にも相応の仕事があるのだ。オーナーは魔人のいない村やその周辺を調べ、異常がないか、盗賊の痕跡が無いかたまにチェックしている。この辺、ゲームと同じだ。
そのオーナーは今、ソファーの背に寄りかかり足を組んでガイを見上げている。
「ちゃんと、順を追って、分かるように、話せ」
明らかに不機嫌だ。まあ無理もない。ガイの説明は支離滅裂で、訳が分からなかった。
「あの…その…」
睨まれてオドオドする。
「はぁ~…ソニアを初めて見たのは?」
大きな溜息を吐いてから聞く。質問形式にしたようだ。
「ゴア村です!」
え・・・。い、いや、とりあえず聞こう。
要約するとガイの話はこうだ。
ゴア村の酒場(ジュースを飲んで寝ていたらしい)で私を見て、変わった匂いがするのが気になって後をつけた。シャハールの手前までつけたが白兎族だという事しか分からなくて、報告するまでもないと思ってオーナーには言わなかった。ところが今日私をここで見て、珍しい白兎族だという事を武器にしてオーナーに擦り寄る悪い女だと思い込んだ。そしてあのような行動に出た。
あの視線の原因が分かりましたよ。それに、確かにゲーム内でもそういう女はわんさか居たけど・・・まさか私がそんな女だと思われていたとはね。
「ほお…?つまり、お前の勘違いでソニアを襲ったと。こういう事だな?」
オーナーが怒りの籠った声で凄み、射抜くような視線を向ける。
「ヒッ!しいませんでしたぁ!!!」
ガイががばっと頭を下げる。口が回っていない。
これは怒られても仕方ないね。うん。まあ・・・オーナーの時の方が断然怖かったですけど。とか考えているとふと気になった。
・・・ゴア村からずっとって言ってたよね?・・・・・まさか。
「あの…一つだけ質問しても良いですか?」
「ああ、いいぞ」
オーナーが私の方を向いたのでガイはへにゃっと力を抜いた。許しを得たので意を決して聞く。
「…水浴びした時も…見てたの?」
ずっとつけてたならあの水浴びも見てた可能性は大きい。なら私は…素っ裸を知らない子に曝した事になる。
ガイの顔が、みるみるうちに真っ赤になる。
「!!!」
み、見られた!素っ裸。全裸。知らない男の子に。狼だもん、目が良いはず。遠くてもバッチリ見えるはず。
「まさか…ずっと、終わるまで見てた?」
せめて見たのが一瞬だったならまだ救いがある!そう思ってガイの答えに一縷の望みをかける。
「だって!ずっと見てなきゃ逃げるかもしれねえだろ!!」
なんじゃそりゃ!!
「そんなこと…!」
言いかける私の声を遮ったのはオーナー。
「…ガイ…見たのか?」
さっきとは全く違う凄み。絶対強者の威圧に、ガイどころか向けられていない私までヒヤッ、とする。
「う、ぐ…」
ガイは声さえ出せず、汗をダラダラ流してガクガク震えている。
「返事はどうした…?」
返事など出来るはずもない。見ていられなくなってオーナーの近くへ行く。
「…オーナー。もういいですから」
そう声を掛けた途端、パッと威圧が霧散する。ガイはその場に崩れ落ち、気を失った。
「良くない」
「え?」
「俺は見てない」
「……はあ?」
オーナーの言葉に耳を疑う。
「着替えはさせたがブラジャーとショーツは我慢した。だから俺は見てない」
「ブ、ブラ…!な、なん、あ、当たり前です!!」
「ガイは見たんだろう」
憮然としてそっぽを向くオーナーに唖然とする。もしかして・・・拗ねてるの?
私はガイが気を失っている事も忘れ、信じられない思いで彼の顔を見ていた。
「見られたのは不可抗力ですよ?それに外で水浴びした私にも責任はあります」
「…ガイの肩を持つのか」
「な、何でそうなるんですか!」
「・・・・」
むくれてる・・・むくれてるよ。泣く子も黙るレドモンドが。どうすんのこれ。そろそろ仕事の準備しなきゃいけないんだけど。
その時助け船が現れた。途中で店に呼ばれたマスターだ。
「オーナー。ソニアさんは仕事の時間です。…ソニアさん、行っていいですよ。後は任せてください」
優しい笑顔でそう言ってくれるマスターは後光が射して見えましたよ。ありがたやありがたや。
「ありがとうございます、マスター。あの、オーナーも…ありがとうございます」
勘違いで襲われるなんて冗談じゃない。つけられていた事もあって結構頭に来ていた。でもオーナーがガツンと怒ってくれて、安心した。でも気絶しちゃったのはかわいそうだったかな。
私は2人に頭を下げてから部屋を出た。
「今日も珍しいものが見られました」
ソニアが出ていった後ルーカスが楽しそうに言った。実は水浴びの事を聞いた辺りからドアの外にいた。
「ガイの所為だ」
「ガイはもう勘弁してあげてくださいね?ソニアさんに返り討ちにされてましたから」
「返り討ち?」
「ええ、私が見た時は地面にうつ伏せで抑え込まれていました」
「ソニアが抑え込んだのか。…全く、面白い女だ」
「同感です」
「…白兎の事、後で口止めしておけよ」
「はい、もちろんです」
ガイは数日間酒場の居住スペースに泊まることになった。
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