R18、アブナイ異世界ライフ

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12. オオカミ少年

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  次の日、初めて自室で目覚めた。

  身支度を整えて、魔石鞄に残っていた携帯食で朝食を済ませた。

  昨日は昼も夜もご馳走になった。マスターが準備してくれたのだ。遠慮すると言ったのだが、オーナーにそうするように言われているから、と聞いて返す言葉が無かった。確かに食材の買い出しにも行っていないから助かったが…そこまでしてもらっていいのか、戸惑いを感じた。

  今日は体調も戻ったし買い物に行きたいけど止めておく。病み上がりで無理してまた具合を悪くしたら元も子もない。

  ぽふっとベッドに仰向けになる。

  昨日起きた時点ではまだ燻っていたオーナーへの怒りは、食事や服、それに最後のあの言葉でどこかへ行ってしまった。現金な奴、と言われるかもしれない。でも食べやすいように作られた食事もゆったりとした服も、マスターは知らなかった。本当に自分で準備してくれたのだ。その気持ちは嬉しかった。

  服は代金を払おうと思っていたが止めて、慰謝料的な感じで貰っておく事にした。

  その日仕事に復帰した私は皆に謝った。皆は笑って許してくれた。その上、病み上がりなんだから、と気を使わせてしまい、何だか凄く甘やかされてる気がして申し訳なくなった。

  お客さんにも、皆のソニアちゃんなんだから身体を大事にして!と微妙な言葉を貰いました。

  そして…今日もオーナーは2階から私を見ている。監視かともちょっと思ったが、違うみたいで。視線をビンビン感じて落ち着かなかった。











 次の日、私は買い物に来ていた。

  最初は服。ゴア村で買ったのは旅の為の服だし、サイズも微妙なので普段着には向かない。だから今日は普段着やパジャマ的な服、靴を買った。次に雑貨や食器などの足りない物を見た。

  お昼時、食事する店を探していたらコーヒーのいい香りがした。匂いに吸い寄せられて辿り着いたのは小さなコーヒーショップ。軽食もあるようなので早速入る。

  カウンターとテーブル席が3つあるだけのこじんまりとした店。だが豆は沢山あって、ケースに入って並んでいた。ご夫婦でやっているようだ。人の良さそうなご主人に快活な奥さん、という感じ。

  私は窓際の2人掛けのテーブルに座ってコーヒー付きのランチを頼んだ。

  大きな窓から街並みを眺め、大好きなコーヒーを飲む。たったこれだけの事がとても幸せに思えた。ホッと息を吐く。

  “ゲームに似た世界” 

  ある程度の知識もあった。知ってる人もいた。でも、パソコンの画面と現実には差があり過ぎた。

  今は仕事も住む場所も決まり、空き時間にこうして街で買い物したり、美味しいコーヒーショップを見つけたり。私は、ようやくこの世界の住人になり始めた気がしていた。

  店を出て最後に食材を見る。穀物は日持ちするから多めに。肉、魚、野菜、タマゴ、乳製品なども選んで買った。

  今日も遅番(18時~)、明日は早番(11時~)で、明後日は休み、と頭の中でスケジュールを確かめながら、居住スペース専用ドアの近くまで来た時だった。

  ガッ!と急に後ろから口を塞がれた。

 「ッ!!んン!!」

  何が起こったのか分からないまま路地に連れ込まれ、壁に押し付けられる。頭に浮かんだのは盗賊。乱暴される?それとも連れて行かれる?恐怖に身が竦む。

  が、

  目の前にいたのは―――オオカミ少年だった。しかも一人。

  え・・一人?

 「お前、ここで何してんだよ!ボスに取り入ろうったってそうはいかねえぞ!」

  ・・・取り入る?何言ってんの?この子。

  半ば呆れながら少年を見る。獣の目をぎらつかせ、私の口を抑えて凄むがさっきまでの恐怖はなかった。何故なら。尻尾が若干内側に丸まってるし、耳もせわしなく動き、おまけに手が汗びっしょりで気持ち悪い。そして背は高いが力は強くない。少年は答えない私にイラついているようだ。いや、口塞がってるから。

「くそ!ガキだと思って甘く見んなよ!」
  シビレを切らしてもう片方の手で私に掴みかかろうとする。

  私はその手を掴んで――――――次の瞬間には少年の手首と肘を抑え込んでうつ伏せに倒していた。

  こんな所で合気道が役に立つとは。お父さんに感謝。

 「イデデデデ!!!は、放せ!!」
 「いや~、そう言われても…」

  どうしよう?コレ。とその時誰かが路地に顔を出した。

 「おい!何の騒ぎ…え…ソニアちゃん?と、ガイ?え?」
  来たのはルイさんだった。私が少年を押さえつける姿を見てポカーンとしている。この子を知っているようだ。
 「ルイさん、少年を知ってるんですか?」
 「少年…あ、ああ、知ってるよ。その…離してあげてくれないか?その子はオーナーの部下なんだ」
 「え!」
  オーナーの部下、と聞いてパッと手を放す。少年は腕を押さえて起き上がり、私を睨む。
 「ルイさん、この女知ってるのかよ!こいつは―――」

 「オーナーが採用した子ですよ。ガイ。…さて、説明してもらいましょうか。オーナー部屋で」

  少年に答えたのは騒ぎを聞きつけてきたらしいマスターだった。

  マスター・・・。こ、怖いデス。黒いオーラが見えた気がします。 
 
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