R18、アブナイ異世界ライフ

くるくる

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11. 動き始めた心

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 翌朝、目が覚めて部屋を見渡す。

  ・・いない。帰ってこなかったのかな。いや、寝てる間に来たらそれはそれで困るけど。

  体は随分楽になった。昨夜はまだあった熱も粗方下がっている。喉が渇いてベッド脇のサイドテーブルにあった水差しから貰って飲む。汗びっしょり、と思って身体を見る。

  ・・・え?これ、もしかして魔人の印?

  見えたのは胸の谷間の印。淡いピンク色をしている。…綺麗。そこでふと気が付く。

  下着はそのままだが、服が…ユニフォームじゃない。昨夜はそこまで気が回らなかったが、今着ているのは明らかに男物のシャツだ。下は履いていない。これはもしかしなくてもオーナーの物だろう。という事は…

 み、見られた!

  汗をかいたから着替えさせてくれたのだろうが、恥ずかしい事に変わりはない。下着がそのままだったのはちょっと意外だったけど。

  私の服は見当たらない。どうしよう。このままで部屋には戻れないし。戸惑っていると部屋の外から声。

 「入るぞ」

  オーナー!

 「は、はい」

  ドアを開けたオーナーの手には料理の載ったトレーがある。ベッドの傍に来てイスに腰掛け、私を見る。

 「熱はどうだ?食えそうか?」
 「…大丈夫です」
 「そうか、ならこれ食え」
  そう言ってトレーを私の膝に置く。
 「…」
 「食わせてやろうか?」
 「え!い、いえ、結構です!」
  慌てて断ると若干眉を顰める。…力一杯拒否しちゃった。

  料理はリゾットとスープ。リゾットはさらっとしていて食べやすい。スープはコンソメで、野菜が細かく切ってある。どちらも薄味だが美味しい。病人の事を考えて作られている気がした。

  黙々と食べてしまい、気が付くと皿は空になっていた。

 「…ありがとうございます。ごちそうさまでした。あの、美味しかったです」
  何だか顔を見られなくて俯いたままお礼を言う。
 「そうか」
  フッ、と笑う気配。落ち着いた声色につられて顔を上げると、昨日までとはどこか違う笑顔に出会う。
 「…もしかして、オーナーが作ってくれたんですか?」
  まさか、と思いながら聞いてみる。
 「ああ、料理なんて滅多にしないが、中々だろ?」
  ちょっと自慢げだ。意外な反応。
 「はい…」
 「後はこの薬を飲め。で、着替え…そうだ、お前の服は汗で濡れて脱がせた。後で持ってくる。今はこれに着替えろ」
  トレーを避けて服をくれるとさっさと出ようとする。
 「待ってください!あの…」
 「俺も話がある。着替えてから聞く」
  私の言葉を遮ってそう言うと、今度こそ出ていった。

  オーナーの話ってなんだろう?昨日あんな態度取ったから・・クビ、とかかな・・・。

  あまり待たせる訳にはいかない。考えるのは後にして着替えを見た。

  服は女物で、どうやら新品だ。エスニック風のチュニックワンピースで、肌触りが良くゆったりしていて楽だ。色も綺麗なクリーム色。…可愛い。これをオーナーが選んだの?そういえば部屋の家具も、上質だけど華美じゃなくて品の良い物が揃っていた。もうゲーム時の印象なんて完全に吹き飛んでいる。だって彼は物凄いSで、こんな風な優しさは持っていなかった。

  ワンピースを持ち上げると何かが落ちた。

  ・・・・ブラとショーツ。

  何故か恐る恐る持ってみる。ワンピースと同じクリーム色で小花柄。これも可愛い。まあ、確かに下着も替えたかったからありがたいけど…。着替えてみようか…。ベッドの下にはストラップ付のサンダルまでありましたよ…。

  全てサイズがピッタリなのが怖いです。部屋にあった鏡に映してみる。うわ、可愛い。どちらかというと綺麗、という顔立ちだけどこういう服を着ると可愛い、になる。

  ・・・自画自賛してしまった。でも今だにこれが自分だなんて信じられない思いなのです。だから大目に見てください。

  ベッドルームのドアを開けると、ソファーに座っていたオーナーが立ち上がってくる。私を上から下まで眺め、一言。

 「可愛いな」

  おふぅ!直球!服、きっと服が可愛いのだ!

 「ありがとうございます…」











 リビングのソファーに座って話す。向かい合っているので距離は近くない。

 「昨日は失礼な態度を取ってしまってすみませんでした」
  私が頭を下げると目を丸くする。
 「された事は…その…嫌、でしたけど、いずれは起きる事でしたし。そもそも、オーナーのおかげでここに居られるのに…だから、すみませんでした」

  話を聞くうちにオーナーの顔が険しくなる。少しの間、沈黙が降りた。

 「態度がどうとか、それはどうでもいい。確かに、いずれは起きただろう。普通なら魔力が強くても、痺れたり高熱が実際出たりしない。あそこまで強いのは全く範疇に無かった。だが、俺がもう少し早く気が付けば、気絶まではいかなかっただろう。痺れも少しはマシだった筈だ。その事については謝る」

  ん?どうでもいい?それなら、今は何で怒ってるの?それに、その事については謝る?…もしかして、強引にキスした事自体は謝らないって事?

 「何だ?言いたいことがあるなら言え」
  怒ってる、というより不機嫌、が正解っぽい。
 「…怒りませんか?」
  念のため聞く。
 「ああ」
 「さっきの話…キスしたことは謝らないって事ですか?」
 「その通りだ」

  ・・・は?いや、嫌だったって言いましたよね?

 「何で…いえ、何でもないです」
  キスしたんですか?と言いかけて止めた。聞いてもどうにもならない。クビにもならなかったし、もう忘れて仕事に集中しよう。
「あの、オーナーの話は…」
「…済んだ」
 「そうですか…。服、ありがとうございました。ユニフォームはどこにあるんですか?自分で取りに行きます」
  言いながら立ち上がる。
 「…どこへ行く」
 「え?いえ…自分の部屋に帰りますけど。あっ、ベッド、2晩も占領してすみませんでした」
 「…ユニフォームはマスターの所にある」
 「分かりました。ありがとうございます。では、失礼します」

  頭を下げてドアに向かうと、開く直前に後ろから手が伸びてきてドアを押さえた。

 「ッ!」
  思わずビクン!と身体が跳ねる。
 「…嫌、だったのか?キス」
  すぐ後ろでした声が何だか悲しそうで戸惑う。
 「あの…だって…突然で、何でそうなったのか訳が分からなくて…痛くて、苦しくて…」
 「そうか…すまなかった。だが、キスしたことは謝らない。どうしても、お前としたかったんだ」
  一瞬、胸がキュッと締め付けられた気がした。
 「…仕事は明日からにしとけ」

  オーナーはそう言ってドアを開けてくれた。 
 
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