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10. 本当は
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重たい瞼を少し上げると暗い天井がぼんやり見えた。まだ夜?
また、知らない天井。私どうしたんだっけ。まだ鈍い頭を動かして考える。
「ソニア…?」
聞き覚えのある声がする。ゆっくり横を向く。
「オーナー…?」
喉から出たのは掠れた声。
・・・そうだった。顔を見た途端思い出した。
「すまん。俺が悪かった」
そう言う彼にいつもの覇気は全くない。凄く情けない顔をしている。こんな顔初めて見た。
「今、何時ですか」
「…11時だ」
・・・?11時?暗いから夜だろうが・・・あれ?私、1時まで仕事で・・・ま、まさか!!
「お前は丸1日近く気を失ってた」
…!!い、1日!し、仕事!慌てて起きようとするが半分も起き上がれずにバランスを崩す。
「ッ!おい!」
咄嗟にオーナーが抱き留めてくれる。が、身体が勝手に反応してしまい、ビクン!と縮こまる。
「――ッ!……っは、あの、大丈夫なので…離して、ください」
もう痺れがこなかった事に少しだけホッとして言った。でもこれでは今日は仕事にならない。
「ああ…すまん」
いえ、いいんです。とはまだ言えなかった。仕方なく再び横になる。
「……仕事はしばらく休め。後、マスターには事情を話した」
「なッ!なん…で、げほ、げほ!」
掠れた声で叫んで咽込む。
せっかく仕事も住む場所も見つかって、これから頑張ろうって思ってたのに…何で強引にあんな事…それにマスターにも話ちゃうし。いくらオーナーだからって…。
仕事が出来なくて、身体も動かなくて、その原因がオーナーで、なんて思ったら凄く悲しくなってまた泣きたくなった。でも涙なんて2度と見せたくなくて。掛かっていた毛布を顔が隠れるまで上げて背を向けた。
後ろでため息を吐く気配がするが、とことんマイナス思考になってしまってる今は何も言えなかった。
・・・八つ当たりも入ってるのは分かってる。マスターに強引に引き起こされたけど、今じゃなくてもいつかは起った事だろうし。そもそも私を採用して、住み込みさせてくれたのはオーナーだし。
でも、苦しかった。怖かった。痛かった。必死に訴えても止めてはくれなかった。
オーナーは一応謝ってくれた。私も謝らなきゃ、とは思うものの、その勇気が出るのにはもう少し時間が掛かりそうだった。
◇
どのくらい毛布を被っていただろうか。オーナーがベッドルームを出ていく音がした。
毛布を取って静かに起き上がる。さっきよりはふらふらしない。歩けるようなら部屋に戻りたいが…もしも途中で倒れたら騒ぎになるかもしれない。
どうしよう…。もう少し待って夜中、皆が寝静まった頃なら…。とか考えていたら、部屋をノックする音。ノック?誰?
「ソニアさん、私です。入っても良いですか?」
マスター!
「は、はい!どうぞ!」
慌てて身だしなみを整える。
マスターは入ってきてベッドの横のイスに腰掛けた。
「どうですか?少しは良くなりましたか?」
優しく聞いてくれる。
「はい、大丈夫です」
私の答えを聞いてふふ、と笑い、静かに話し始めた。
私はあれから高熱を出して気を失っていたが、普通は違うらしい。熱は体の中だけのもので、実際に熱が出たりしない。痙攣したり、痺れて動けなくなったりもしない。
そして、熱を効率よく発散させるには・・・やる、のが1番いい・・のだそうだ。
オーナーはまさか気を失ったりすると思わず、発散させようとしていた?そういえば鎮めるとか言ってた気がする・・・まあ、それでも会ったばかりの嫌がる女を抱こうとしたのには変わりないですけどね!
「オーナーが慌てて、そりゃもう慌てて私の元へ来ましてね。驚きましたよ、私も長年お世話になっていますがあんな表情初めて見ました。…女性を看病するのも初めて見ました。そして、これも凄く珍しいですが…オーナーがグイグイ迫ったのでしょう?私からもお詫び申し上げます」
頭を下げられて慌てる。
「そんな、マスターが謝る事なんてないです」
「いえ、オーナーは私の恩人で唯一無二の方ですからね。幸せになっていただきたいんですよ」
「幸せ…?」
「はい」
マスターが何故私にそう言ったのか、この時はまだ分からなかった。
「では、ちゃんと体調が良くなってから仕事に出てきてください。あなたが居ないと煩い連中が山ほど待ってますから。もちろん私もです」
「はい、ありがとうございます」
優しい言葉に嬉しくなる。
そしてマスターは、部屋を出る前に振り返って言った。
「言い忘れていましたが、私も魔人です。お仲間ですね」
え・・・?ええ!!私は暫くポカーンと口を開けていた・・・。
◇
マスターが帰ってから、ベッドに横になって考えていた。
発散させるために・・・?
それに、ずっと付いててくれたんだ。なら、あのぼんやりした記憶はオーナーの?…温かい何か、冷たい手。どちらもとても優しくて、気持ち良くて。
強引なオーナーと優しいオーナー。どちらが本当?
いくら考えても答えは出ない。
その夜、オーナーは帰ってこなかった。
また、知らない天井。私どうしたんだっけ。まだ鈍い頭を動かして考える。
「ソニア…?」
聞き覚えのある声がする。ゆっくり横を向く。
「オーナー…?」
喉から出たのは掠れた声。
・・・そうだった。顔を見た途端思い出した。
「すまん。俺が悪かった」
そう言う彼にいつもの覇気は全くない。凄く情けない顔をしている。こんな顔初めて見た。
「今、何時ですか」
「…11時だ」
・・・?11時?暗いから夜だろうが・・・あれ?私、1時まで仕事で・・・ま、まさか!!
「お前は丸1日近く気を失ってた」
…!!い、1日!し、仕事!慌てて起きようとするが半分も起き上がれずにバランスを崩す。
「ッ!おい!」
咄嗟にオーナーが抱き留めてくれる。が、身体が勝手に反応してしまい、ビクン!と縮こまる。
「――ッ!……っは、あの、大丈夫なので…離して、ください」
もう痺れがこなかった事に少しだけホッとして言った。でもこれでは今日は仕事にならない。
「ああ…すまん」
いえ、いいんです。とはまだ言えなかった。仕方なく再び横になる。
「……仕事はしばらく休め。後、マスターには事情を話した」
「なッ!なん…で、げほ、げほ!」
掠れた声で叫んで咽込む。
せっかく仕事も住む場所も見つかって、これから頑張ろうって思ってたのに…何で強引にあんな事…それにマスターにも話ちゃうし。いくらオーナーだからって…。
仕事が出来なくて、身体も動かなくて、その原因がオーナーで、なんて思ったら凄く悲しくなってまた泣きたくなった。でも涙なんて2度と見せたくなくて。掛かっていた毛布を顔が隠れるまで上げて背を向けた。
後ろでため息を吐く気配がするが、とことんマイナス思考になってしまってる今は何も言えなかった。
・・・八つ当たりも入ってるのは分かってる。マスターに強引に引き起こされたけど、今じゃなくてもいつかは起った事だろうし。そもそも私を採用して、住み込みさせてくれたのはオーナーだし。
でも、苦しかった。怖かった。痛かった。必死に訴えても止めてはくれなかった。
オーナーは一応謝ってくれた。私も謝らなきゃ、とは思うものの、その勇気が出るのにはもう少し時間が掛かりそうだった。
◇
どのくらい毛布を被っていただろうか。オーナーがベッドルームを出ていく音がした。
毛布を取って静かに起き上がる。さっきよりはふらふらしない。歩けるようなら部屋に戻りたいが…もしも途中で倒れたら騒ぎになるかもしれない。
どうしよう…。もう少し待って夜中、皆が寝静まった頃なら…。とか考えていたら、部屋をノックする音。ノック?誰?
「ソニアさん、私です。入っても良いですか?」
マスター!
「は、はい!どうぞ!」
慌てて身だしなみを整える。
マスターは入ってきてベッドの横のイスに腰掛けた。
「どうですか?少しは良くなりましたか?」
優しく聞いてくれる。
「はい、大丈夫です」
私の答えを聞いてふふ、と笑い、静かに話し始めた。
私はあれから高熱を出して気を失っていたが、普通は違うらしい。熱は体の中だけのもので、実際に熱が出たりしない。痙攣したり、痺れて動けなくなったりもしない。
そして、熱を効率よく発散させるには・・・やる、のが1番いい・・のだそうだ。
オーナーはまさか気を失ったりすると思わず、発散させようとしていた?そういえば鎮めるとか言ってた気がする・・・まあ、それでも会ったばかりの嫌がる女を抱こうとしたのには変わりないですけどね!
「オーナーが慌てて、そりゃもう慌てて私の元へ来ましてね。驚きましたよ、私も長年お世話になっていますがあんな表情初めて見ました。…女性を看病するのも初めて見ました。そして、これも凄く珍しいですが…オーナーがグイグイ迫ったのでしょう?私からもお詫び申し上げます」
頭を下げられて慌てる。
「そんな、マスターが謝る事なんてないです」
「いえ、オーナーは私の恩人で唯一無二の方ですからね。幸せになっていただきたいんですよ」
「幸せ…?」
「はい」
マスターが何故私にそう言ったのか、この時はまだ分からなかった。
「では、ちゃんと体調が良くなってから仕事に出てきてください。あなたが居ないと煩い連中が山ほど待ってますから。もちろん私もです」
「はい、ありがとうございます」
優しい言葉に嬉しくなる。
そしてマスターは、部屋を出る前に振り返って言った。
「言い忘れていましたが、私も魔人です。お仲間ですね」
え・・・?ええ!!私は暫くポカーンと口を開けていた・・・。
◇
マスターが帰ってから、ベッドに横になって考えていた。
発散させるために・・・?
それに、ずっと付いててくれたんだ。なら、あのぼんやりした記憶はオーナーの?…温かい何か、冷たい手。どちらもとても優しくて、気持ち良くて。
強引なオーナーと優しいオーナー。どちらが本当?
いくら考えても答えは出ない。
その夜、オーナーは帰ってこなかった。
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