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6. シャハール
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「…シャハールだ。やっと着いた…」
タラン村を出てから約10日、やっと視界に入った街を見て思わず呟く。体力には自信があった私だが、かなり疲れていた。それにはいくつか要因がある。
まず1つはシャハールに近づくにつれて魔物との遭遇率が上がってきたこと。普通逆じゃないの!?と思ったが文句を言っても減る訳はなく、何とか魔法で撃退してきた。白魔法は使える種族が少ない。バレない為にもあまり使いたくなかったが、身の安全が優先なので仕方がなかった。おかげで力加減は分かってきたがそれは白魔法だけで、相変わらず魔人の身体能力や魔眼の力は分からないままだし、印も出なかった。
2つ目は、旅は道連れ、のお誘いである。タラン村を出てすぐ、広い街道へ合流して行き交う馬車や人が増えた。そうすると、乗せていってあげようか?と下心満載の顔で言われたり、目的地は同じなんだから一緒に行こう、としつこくされたり。全てが男数人のグループだ。誰が一緒に行くか!とは言わなかったが、丁重に、お断りさせて頂きました。はい。
そして一番気になっているのは・・・誰かに見られているような感じがすることだ。そう思い始めたのは広い街道に入った辺り。人目が無いかを気にしながら魔法を使っていたらふと視線を感じた。慎重に探ってみたが結局分からなかった。気にしすぎかな?とも考えたが、私はそんなに繊細には出来ていない。その私が気になって仕方がないのだから、たぶん見られているんだろう。相手も事情も分からないが、とにかく行動には気を付けている。
という訳で、主に精神的で疲れていた。
街は高い木の塀で囲まれ、入口には保安官が立っている。入る際怪しい者は保安官に止められる事もあるが、身分証明書の提示などはない。
私は保安官に言って求人誌を買い、シャハールの街に足を踏み入れた。
シャハールはゲームでも主な舞台となる街。種族ごとに小さな集落で暮らすことも多い世界だが、ここは種族も、物も、非常に様々で活気がある。自分の集落から出てきてここで稼ごうという者も多い。だからこそ、私のような変わり種も受け入れてくれるし、あまり目立たないですむ。
街並みは異世界ものによくある中世ヨーロッパ、ではない。
ベースは古い西部劇。道は土だが広く、平らに均されていてたくさんの馬車が行き交っている。両脇に立ち並ぶ多種多様な店は殆どが木造だが、エスニック風やメキシコ風も混ざっていて面白い。私はこの多国籍な感じが好きだ。
広いストリートはマス目状になっていて分かりやすいが、細い脇道もかなりあって入り組んでいる。その辺は昼夜問わず危ないので注意が必要となる。
記憶にある街並みとそっくりで安心する。今は見て回る暇はないが、その内ゆっくり見たい。私は買った求人誌を開いて目当ての場所を探した。
この求人誌は仕事を探しに来た者向けに、保安官が入口で売っている。求人情報はもちろんだが、宿や公衆浴場、街の地図まで載っている優れものだ。こういう便利なアイテムが売ってるとこ、ゲームっぽいよね。
あ、あった!良かったぁ~。ここやっぱり求人出してる!条件もほぼ同じ!私は地図の位置を確認して店へと急いだ。
◇
広いストリートから少しだけ脇に入った所にある1件の酒場。ここは、主人公が働こうとするが訳あって止める場所。
条件はこんな感じ。
・性別、種族は問わない。
・年齢制限なし。
・即日雇用可。
・住み込み可。
・採用は面接で決定。
私的にはとても都合の良い条件だ。普通、雇用は種族指定が多いがここは違う。白兎族がバレないように出来る。住み込み可なのも助かる。採用も面接だし、給料も中々いいのだ。ここも依頼や情報を管理しているが、仕事内容にそれは含まれていない。面倒な事になる確率は低いはずだ。
私は気合を入れて酒場の扉を開いた。
中は広々としていて2階席もあり、カウンター、丸テーブル、イスも全て木製。入って右側にカウンター、その奥の棚には酒瓶が並んでいる。正面の階段は幅広く、踊り場の先は右にカーブしている。そして左側には小さめのステージ。楽器もいくつかあって、たまにここで歌や演奏などが行われて酒場の夜を盛り上げる。こういう雰囲気好きだな~。まだ昼過ぎの酒場には数人の客がいて遅い昼食を取っていた。
「いらっしゃい」
声を掛けてくれたマスターの顔には見覚えがある。名は確かルーカス。見た目は30代半ば。さらっとしたエメラルドグリーンの髪はサイドもトップも綺麗に後ろへ撫でつけてある。同色の瞳は細めで優しげで、唇は微笑みを絶やさない。すらっとしているが脆弱な感じは全くない。魔力の強さによって寿命が変わるので見た目通りの年齢かは分からないが。
「求人を見てきたんですが」
「ああ、採用希望ですか。少々お待ちください」
マスターはそう言って奥へ行き、少しして戻ってきた。
「面接はオーナーが行います。どうぞ」
奥の頑丈そうな扉の前に1人残される。マスターが面接するのかと思っていたが違うらしい。オーナーが居るんだ…初耳。
コンコン。
「入んな」
おわぁ…良い声…。ノックに返った声の良さに感激しながら扉を開けた。
・・・・。
・・・閉めた。
な、何でここに!?彼がオーナーなの!?ど、どうしよう!!今から違う所に・・・いや、ソレ無理だから!落ち着けワタシ!!
1人脳内騒ぎをしていると扉が開く。
「オイ、お前俺の顔見て逃げたな?」
鋭い目で睨まれて思わず後退るが手首を掴まれる。
その瞬間、手首にピリッと静電気のような痛みが走る。
「「――ッ!?」」
それは相手も同じだったようで、弾かれたように私を見る。
「……お前は…いや、今はいい。…来い」
ほんの一瞬瞳が揺らぎ、何か言いかけて…止める。すぐに平静に戻って手を引いたまま部屋に入った。
タラン村を出てから約10日、やっと視界に入った街を見て思わず呟く。体力には自信があった私だが、かなり疲れていた。それにはいくつか要因がある。
まず1つはシャハールに近づくにつれて魔物との遭遇率が上がってきたこと。普通逆じゃないの!?と思ったが文句を言っても減る訳はなく、何とか魔法で撃退してきた。白魔法は使える種族が少ない。バレない為にもあまり使いたくなかったが、身の安全が優先なので仕方がなかった。おかげで力加減は分かってきたがそれは白魔法だけで、相変わらず魔人の身体能力や魔眼の力は分からないままだし、印も出なかった。
2つ目は、旅は道連れ、のお誘いである。タラン村を出てすぐ、広い街道へ合流して行き交う馬車や人が増えた。そうすると、乗せていってあげようか?と下心満載の顔で言われたり、目的地は同じなんだから一緒に行こう、としつこくされたり。全てが男数人のグループだ。誰が一緒に行くか!とは言わなかったが、丁重に、お断りさせて頂きました。はい。
そして一番気になっているのは・・・誰かに見られているような感じがすることだ。そう思い始めたのは広い街道に入った辺り。人目が無いかを気にしながら魔法を使っていたらふと視線を感じた。慎重に探ってみたが結局分からなかった。気にしすぎかな?とも考えたが、私はそんなに繊細には出来ていない。その私が気になって仕方がないのだから、たぶん見られているんだろう。相手も事情も分からないが、とにかく行動には気を付けている。
という訳で、主に精神的で疲れていた。
街は高い木の塀で囲まれ、入口には保安官が立っている。入る際怪しい者は保安官に止められる事もあるが、身分証明書の提示などはない。
私は保安官に言って求人誌を買い、シャハールの街に足を踏み入れた。
シャハールはゲームでも主な舞台となる街。種族ごとに小さな集落で暮らすことも多い世界だが、ここは種族も、物も、非常に様々で活気がある。自分の集落から出てきてここで稼ごうという者も多い。だからこそ、私のような変わり種も受け入れてくれるし、あまり目立たないですむ。
街並みは異世界ものによくある中世ヨーロッパ、ではない。
ベースは古い西部劇。道は土だが広く、平らに均されていてたくさんの馬車が行き交っている。両脇に立ち並ぶ多種多様な店は殆どが木造だが、エスニック風やメキシコ風も混ざっていて面白い。私はこの多国籍な感じが好きだ。
広いストリートはマス目状になっていて分かりやすいが、細い脇道もかなりあって入り組んでいる。その辺は昼夜問わず危ないので注意が必要となる。
記憶にある街並みとそっくりで安心する。今は見て回る暇はないが、その内ゆっくり見たい。私は買った求人誌を開いて目当ての場所を探した。
この求人誌は仕事を探しに来た者向けに、保安官が入口で売っている。求人情報はもちろんだが、宿や公衆浴場、街の地図まで載っている優れものだ。こういう便利なアイテムが売ってるとこ、ゲームっぽいよね。
あ、あった!良かったぁ~。ここやっぱり求人出してる!条件もほぼ同じ!私は地図の位置を確認して店へと急いだ。
◇
広いストリートから少しだけ脇に入った所にある1件の酒場。ここは、主人公が働こうとするが訳あって止める場所。
条件はこんな感じ。
・性別、種族は問わない。
・年齢制限なし。
・即日雇用可。
・住み込み可。
・採用は面接で決定。
私的にはとても都合の良い条件だ。普通、雇用は種族指定が多いがここは違う。白兎族がバレないように出来る。住み込み可なのも助かる。採用も面接だし、給料も中々いいのだ。ここも依頼や情報を管理しているが、仕事内容にそれは含まれていない。面倒な事になる確率は低いはずだ。
私は気合を入れて酒場の扉を開いた。
中は広々としていて2階席もあり、カウンター、丸テーブル、イスも全て木製。入って右側にカウンター、その奥の棚には酒瓶が並んでいる。正面の階段は幅広く、踊り場の先は右にカーブしている。そして左側には小さめのステージ。楽器もいくつかあって、たまにここで歌や演奏などが行われて酒場の夜を盛り上げる。こういう雰囲気好きだな~。まだ昼過ぎの酒場には数人の客がいて遅い昼食を取っていた。
「いらっしゃい」
声を掛けてくれたマスターの顔には見覚えがある。名は確かルーカス。見た目は30代半ば。さらっとしたエメラルドグリーンの髪はサイドもトップも綺麗に後ろへ撫でつけてある。同色の瞳は細めで優しげで、唇は微笑みを絶やさない。すらっとしているが脆弱な感じは全くない。魔力の強さによって寿命が変わるので見た目通りの年齢かは分からないが。
「求人を見てきたんですが」
「ああ、採用希望ですか。少々お待ちください」
マスターはそう言って奥へ行き、少しして戻ってきた。
「面接はオーナーが行います。どうぞ」
奥の頑丈そうな扉の前に1人残される。マスターが面接するのかと思っていたが違うらしい。オーナーが居るんだ…初耳。
コンコン。
「入んな」
おわぁ…良い声…。ノックに返った声の良さに感激しながら扉を開けた。
・・・・。
・・・閉めた。
な、何でここに!?彼がオーナーなの!?ど、どうしよう!!今から違う所に・・・いや、ソレ無理だから!落ち着けワタシ!!
1人脳内騒ぎをしていると扉が開く。
「オイ、お前俺の顔見て逃げたな?」
鋭い目で睨まれて思わず後退るが手首を掴まれる。
その瞬間、手首にピリッと静電気のような痛みが走る。
「「――ッ!?」」
それは相手も同じだったようで、弾かれたように私を見る。
「……お前は…いや、今はいい。…来い」
ほんの一瞬瞳が揺らぎ、何か言いかけて…止める。すぐに平静に戻って手を引いたまま部屋に入った。
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