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3. 歩く
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大蛇との闘いの前からやけに聞こえるようになった耳と見えるようになった目。加えて鼻まで良くなった。考えてみれば私は白兎なのだから当たり前だった。そんな事も思いつかないほど視野が狭くなっていたのだ。反省。…あれ?でも確か兎って目は良くないよね?…まあいいか。
私は鋭くなった五感を活用して水場を探していた。とにかく喉が渇いた。
そして太陽が真上に来る頃、ようやく水音が聞こえた。音を頼りに進み、川へと辿り着くと走り寄って喉を潤した。
…しまった。このまま飲んでも大丈夫な水か確かめもせずにがぶ飲みしてしまった。今更だが川の水を眺める。見た感じは綺麗に澄んでいて匂いも大丈夫。ほっとしてやっと人心地つくと、水に知らない女の子が映っている。ちゃんとは見えないがくっきり二重の可愛い子だ。眼とお揃いの長いはちみつ色の髪もふわふわ。だが一番目を惹かれるのは頭の上の真っ白な兎耳。可愛い~。
・・・・・・あれ?
顔を上げ、辺りを見回してもう一度水鏡を覗く。耳がピコピコおもちゃみたいに動く。手で自分の顔を触ってみると兎耳の女の子も触る。
・・・・・・え。ええ!!コレ私!?ウソぉ・・・・。
その後何度確かめても同じ。可愛い兎耳の女の子は私だった……。耳、いつの間に…。
…そっか、私白兎だもんね。この耳のおかげで聞こえるようになったんだね。
でもちょっと待って。ステータスの年齢は28才で前の私と同じだったはず。でも…これはとても28には見えない。せいぜい20才だ。…ここでは魔力が強いと寿命も長いから、その関係で若く見えるのかな…?街に着いて他の人に会えば分かるかな。…まあ、今考えても仕方ないか。
という事で半ば無理やり思考を切り替えてこれからを考える。
大きな目標は街や村を見つける事だけど、いつ見つかるか分からない以上は食べ物の確保が先。川に魚がいるのはさっき見えたから分かったが火がない。生で食べる勇気はまだないから別の食べ物を探さなくては。
でも…。
立ち上がって川下を見ながら耳を澄ませる。今は水音以外聞こえないが…ゲームの街や村では川から水を引いていた。ここでもそうならこのまま川を下れば人に会えるかもしれない。この辺りには木の実さえ生っていない。さっさと下った方が早いかも。また魔物に遭遇してもさっきみたいに倒せる自信などないし。……よし、行ってみよう。
私は川に沿って歩き始めた。
◇
結局この日は暗くなるまで歩いても何も見つからなかった。途中、魔物化した小型犬大のネズミに遭遇したがホーリーで倒せた。
何度か魔法を使ううちに思い出した事がある。それは主人公が魔法の練習をするイベントの内容だ。
この世界の魔法は種族毎に色分けされ、白は光、黒は闇、赤は火、という感じの属性になっている。決まった詠唱はなく、とにかくイメージが大事。大きな魔力を持っていても想像力が貧困では活かしきれないのだ。私が初めての白魔法を使えたのは、よくRPGなどにある光景をはっきり連想出来たからかもしれない。レベルやHP、MPなどの表記は存在しないので自分の強さがどのくらいかは分からないが。
休憩がてら巡らせていた思考を頭の隅に追いやり、また歩き始める。本当は眠りたいが怖くてとても眠れないだろう。火を起こせればいいんだけど、原始的な方法をやる気力は湧いてこなかった。だから、休み休み歩き続けた。試しにヒールをかけたら歩けるようにはなったが、MPがどのくらいかわからないので何度もかけるのは躊躇われた。それに、心の疲れや空腹はヒールじゃどうにもならない。
夜が明けた。これで丸1日は歩いた事になる。どうやらここは山だったようで途中から下りになった。足を引き摺るように進んでいると、耳にほんの微かな音。だけどその音は確かに人の声だった。心は急くが足が付いてこない。私は必死に音の方へと向かう。
やがて眼下に小さな村が現れた。そして川端に女の子の姿が見える。その子の方へ足を進めると可愛い耳と尻尾を揺らして駆け寄ってくれる。
「大丈夫ですか?」
声を掛けられた途端に力が抜け、目の前が真っ暗になった。
私は鋭くなった五感を活用して水場を探していた。とにかく喉が渇いた。
そして太陽が真上に来る頃、ようやく水音が聞こえた。音を頼りに進み、川へと辿り着くと走り寄って喉を潤した。
…しまった。このまま飲んでも大丈夫な水か確かめもせずにがぶ飲みしてしまった。今更だが川の水を眺める。見た感じは綺麗に澄んでいて匂いも大丈夫。ほっとしてやっと人心地つくと、水に知らない女の子が映っている。ちゃんとは見えないがくっきり二重の可愛い子だ。眼とお揃いの長いはちみつ色の髪もふわふわ。だが一番目を惹かれるのは頭の上の真っ白な兎耳。可愛い~。
・・・・・・あれ?
顔を上げ、辺りを見回してもう一度水鏡を覗く。耳がピコピコおもちゃみたいに動く。手で自分の顔を触ってみると兎耳の女の子も触る。
・・・・・・え。ええ!!コレ私!?ウソぉ・・・・。
その後何度確かめても同じ。可愛い兎耳の女の子は私だった……。耳、いつの間に…。
…そっか、私白兎だもんね。この耳のおかげで聞こえるようになったんだね。
でもちょっと待って。ステータスの年齢は28才で前の私と同じだったはず。でも…これはとても28には見えない。せいぜい20才だ。…ここでは魔力が強いと寿命も長いから、その関係で若く見えるのかな…?街に着いて他の人に会えば分かるかな。…まあ、今考えても仕方ないか。
という事で半ば無理やり思考を切り替えてこれからを考える。
大きな目標は街や村を見つける事だけど、いつ見つかるか分からない以上は食べ物の確保が先。川に魚がいるのはさっき見えたから分かったが火がない。生で食べる勇気はまだないから別の食べ物を探さなくては。
でも…。
立ち上がって川下を見ながら耳を澄ませる。今は水音以外聞こえないが…ゲームの街や村では川から水を引いていた。ここでもそうならこのまま川を下れば人に会えるかもしれない。この辺りには木の実さえ生っていない。さっさと下った方が早いかも。また魔物に遭遇してもさっきみたいに倒せる自信などないし。……よし、行ってみよう。
私は川に沿って歩き始めた。
◇
結局この日は暗くなるまで歩いても何も見つからなかった。途中、魔物化した小型犬大のネズミに遭遇したがホーリーで倒せた。
何度か魔法を使ううちに思い出した事がある。それは主人公が魔法の練習をするイベントの内容だ。
この世界の魔法は種族毎に色分けされ、白は光、黒は闇、赤は火、という感じの属性になっている。決まった詠唱はなく、とにかくイメージが大事。大きな魔力を持っていても想像力が貧困では活かしきれないのだ。私が初めての白魔法を使えたのは、よくRPGなどにある光景をはっきり連想出来たからかもしれない。レベルやHP、MPなどの表記は存在しないので自分の強さがどのくらいかは分からないが。
休憩がてら巡らせていた思考を頭の隅に追いやり、また歩き始める。本当は眠りたいが怖くてとても眠れないだろう。火を起こせればいいんだけど、原始的な方法をやる気力は湧いてこなかった。だから、休み休み歩き続けた。試しにヒールをかけたら歩けるようにはなったが、MPがどのくらいかわからないので何度もかけるのは躊躇われた。それに、心の疲れや空腹はヒールじゃどうにもならない。
夜が明けた。これで丸1日は歩いた事になる。どうやらここは山だったようで途中から下りになった。足を引き摺るように進んでいると、耳にほんの微かな音。だけどその音は確かに人の声だった。心は急くが足が付いてこない。私は必死に音の方へと向かう。
やがて眼下に小さな村が現れた。そして川端に女の子の姿が見える。その子の方へ足を進めると可愛い耳と尻尾を揺らして駆け寄ってくれる。
「大丈夫ですか?」
声を掛けられた途端に力が抜け、目の前が真っ暗になった。
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