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177.滞在決定
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「な、なんて乗り心地の良い馬車…それにこのふかふかな毛皮…」
地主さんの元へ向かう最中、アギーラさんは馬車内で感嘆の言葉を漏らしていた。そういえば西大陸のカルコで土地を借りた時も、案内してくれた職員の男性が同じような事を言ってたっけ。
十字路を右折して進むとアギーラさんが表を見ながらレオンに道を示す。馬車はそれに従って右側の斜めに伸びる道に入った。そこは綺麗な並木道で、青々と茂った葉が目にも優しい。
そんな木々に目を奪われていると急に視界が開けて馬車が停まった。この先は行き止まりとなっていて、周囲をたくさんの木々の囲まれている。地面は馬車の通り道以外芝生で、その馬車道はいくつかある建物へと伸びていた。建物の周りにはそれぞれ木の柵があり、きちんと区分けされている。見える範囲が全て地主さんの敷地なら大地主といっても過言ではないだろう。ただ建物の一つが教会だったのには驚いた。
「…教会?」
「ええ、この教会も地主さんが建てたんですよ」
「…へぇ」
「地主さんの家は薬屋のあるあそこです」
そのまま馬車で薬屋の前に行くと、小さな馬車が1台停まっていた。先に御者台から降りてきたレオンが私を抱えて降ろしてくれる。
「ありがとう」
「お客さんがいるようなので、僕が先に入って様子を見てきます。少しここでお待ちいただけますか?」
「分かりました」
アギーラさんは薬屋の前で何度か深呼吸してから扉を開けた。
30分後、私たちは薬屋の中で地主さんと対面していた。地主さんは見た目60代の女性で、身長は140㎝ほどと小柄。白髪混じりの髪は黒に近い茶色、眼光が鋭く、背筋が伸びていて聞いていた通り厳しそうな印象を受ける。
「…地主のカルマじゃ」
「レオハーヴェンだ」
「エヴァントです」
「キラです」
「「「「「…」」」」」
…何故か皆沈黙。カルマさんの眼がコワイ。
「家長はおぬしか?」
「ああ」
「アギーラから大体の話は聞いたが、貸すかどうか決めるのはアタシじゃ。…視せてもらうぞ」
カルマさんがレオンを見据えてそう言うと、体からふわっと魔力が舞う。確かロンワン統括もこうして私を見極めた。もしかして同じスキルかもしれない。
「…ふむ」
レオンを視た後エヴァと私のチェックも終え、目を瞑る。そして一言。
「合格じゃ」
「え!」
驚きの声を上げたのはアギーラさん。カルマさんが目を開く。
「何じゃアギーラ、何故驚く」
「い、いえ…いつももっとあれこれ煩…いやその…今回は随分早く決まったと…」
「ほぉ、アタシゃいつももっと煩いか」
「わわ、すみません!」
「ふん…まあよいわ。さっさと手続きせい」
「は、はい!」
アギーラさんがテーブルに書類を出し、借地の手続きが始まる。手続きは期間や代金、約束事などを双方が確認、了承して書類にサインし血判を押す。そして手付金を支払うと終了になる。一応身分証の提示もある。
借地は半年単位だという事で、期間は1年に。土地は空いている所を好きに使って良いが、柵を立てる事などと確認したところでレオンが聞く。
「これだけ広くて便の良い場所にしては安すぎないか?」
「そこにも書いてあるじゃろ。アタシの手伝いをするのがするというのが、その値段と土地を貸す条件じゃと。高くても良いから手伝いを無しにしろなどという注文は聞かんぞ」
「手伝いの内容を教えていただけませんか?」
今度はエヴァが尋ねる。
「大したことじゃないわい。別にこき使ったりせんから安心せい」
「話して納得していただいた方が良いですよ、カルマさん。以前それで揉めたじゃないですか」
アギーラさんがそう進言すると、カルマさんは彼をひと睨みしてから教えてくれた。
「詳しい内容は別に決まってないが、そんな大層なこと頼む訳じゃないよ。ウチの所と教会の手伝いじゃ。あたしは薬師兼産婆じゃから患者も客も多い。人も雇っておるが、いざという時のためにも人手が多くて困る事はない。次に教会じゃが、あそこもわしの管轄で当然孤児院も兼ねておる。男手が要る時は街の冒険者に頼むんじゃがいつも居るわけじゃないからの」
なるほど。良い土地を安く貸すのは人手を確保するためでもあるんだ。チェックが厳しいのは当然かもしれない。
カルマさんは私を見て続けた。
「それに、アタシはこれまで数えきれんほどの赤子をこの手で取り上げてきた。出産するのにここ以上に安心な土地はなかろう」
私たちは3人で顔を見合わせ、頷き合う。そしてまずレオンが頭を下げた。
「よろしく頼む」
「「よろしくお願いします」」
続いてエヴァと私も頭を下げると、カルマさんはにっこりと笑う。その表情は最初の厳格そうな印象とは真逆の優しい笑顔だった。
その後約束事を再確認し、署名、血判、手付金支払いも済ませた。身分証として冒険者カードを提示すると、3つ揃ったSの文字にカルマさんもアギーラさんも目を丸くしていた。そして最後に外で待っていたスノウたちも紹介し、契約は無事終了。カルマさんは私のお腹を撫でて『明日にでも診せにおいで』と言ってくれた。
地主さんの元へ向かう最中、アギーラさんは馬車内で感嘆の言葉を漏らしていた。そういえば西大陸のカルコで土地を借りた時も、案内してくれた職員の男性が同じような事を言ってたっけ。
十字路を右折して進むとアギーラさんが表を見ながらレオンに道を示す。馬車はそれに従って右側の斜めに伸びる道に入った。そこは綺麗な並木道で、青々と茂った葉が目にも優しい。
そんな木々に目を奪われていると急に視界が開けて馬車が停まった。この先は行き止まりとなっていて、周囲をたくさんの木々の囲まれている。地面は馬車の通り道以外芝生で、その馬車道はいくつかある建物へと伸びていた。建物の周りにはそれぞれ木の柵があり、きちんと区分けされている。見える範囲が全て地主さんの敷地なら大地主といっても過言ではないだろう。ただ建物の一つが教会だったのには驚いた。
「…教会?」
「ええ、この教会も地主さんが建てたんですよ」
「…へぇ」
「地主さんの家は薬屋のあるあそこです」
そのまま馬車で薬屋の前に行くと、小さな馬車が1台停まっていた。先に御者台から降りてきたレオンが私を抱えて降ろしてくれる。
「ありがとう」
「お客さんがいるようなので、僕が先に入って様子を見てきます。少しここでお待ちいただけますか?」
「分かりました」
アギーラさんは薬屋の前で何度か深呼吸してから扉を開けた。
30分後、私たちは薬屋の中で地主さんと対面していた。地主さんは見た目60代の女性で、身長は140㎝ほどと小柄。白髪混じりの髪は黒に近い茶色、眼光が鋭く、背筋が伸びていて聞いていた通り厳しそうな印象を受ける。
「…地主のカルマじゃ」
「レオハーヴェンだ」
「エヴァントです」
「キラです」
「「「「「…」」」」」
…何故か皆沈黙。カルマさんの眼がコワイ。
「家長はおぬしか?」
「ああ」
「アギーラから大体の話は聞いたが、貸すかどうか決めるのはアタシじゃ。…視せてもらうぞ」
カルマさんがレオンを見据えてそう言うと、体からふわっと魔力が舞う。確かロンワン統括もこうして私を見極めた。もしかして同じスキルかもしれない。
「…ふむ」
レオンを視た後エヴァと私のチェックも終え、目を瞑る。そして一言。
「合格じゃ」
「え!」
驚きの声を上げたのはアギーラさん。カルマさんが目を開く。
「何じゃアギーラ、何故驚く」
「い、いえ…いつももっとあれこれ煩…いやその…今回は随分早く決まったと…」
「ほぉ、アタシゃいつももっと煩いか」
「わわ、すみません!」
「ふん…まあよいわ。さっさと手続きせい」
「は、はい!」
アギーラさんがテーブルに書類を出し、借地の手続きが始まる。手続きは期間や代金、約束事などを双方が確認、了承して書類にサインし血判を押す。そして手付金を支払うと終了になる。一応身分証の提示もある。
借地は半年単位だという事で、期間は1年に。土地は空いている所を好きに使って良いが、柵を立てる事などと確認したところでレオンが聞く。
「これだけ広くて便の良い場所にしては安すぎないか?」
「そこにも書いてあるじゃろ。アタシの手伝いをするのがするというのが、その値段と土地を貸す条件じゃと。高くても良いから手伝いを無しにしろなどという注文は聞かんぞ」
「手伝いの内容を教えていただけませんか?」
今度はエヴァが尋ねる。
「大したことじゃないわい。別にこき使ったりせんから安心せい」
「話して納得していただいた方が良いですよ、カルマさん。以前それで揉めたじゃないですか」
アギーラさんがそう進言すると、カルマさんは彼をひと睨みしてから教えてくれた。
「詳しい内容は別に決まってないが、そんな大層なこと頼む訳じゃないよ。ウチの所と教会の手伝いじゃ。あたしは薬師兼産婆じゃから患者も客も多い。人も雇っておるが、いざという時のためにも人手が多くて困る事はない。次に教会じゃが、あそこもわしの管轄で当然孤児院も兼ねておる。男手が要る時は街の冒険者に頼むんじゃがいつも居るわけじゃないからの」
なるほど。良い土地を安く貸すのは人手を確保するためでもあるんだ。チェックが厳しいのは当然かもしれない。
カルマさんは私を見て続けた。
「それに、アタシはこれまで数えきれんほどの赤子をこの手で取り上げてきた。出産するのにここ以上に安心な土地はなかろう」
私たちは3人で顔を見合わせ、頷き合う。そしてまずレオンが頭を下げた。
「よろしく頼む」
「「よろしくお願いします」」
続いてエヴァと私も頭を下げると、カルマさんはにっこりと笑う。その表情は最初の厳格そうな印象とは真逆の優しい笑顔だった。
その後約束事を再確認し、署名、血判、手付金支払いも済ませた。身分証として冒険者カードを提示すると、3つ揃ったSの文字にカルマさんもアギーラさんも目を丸くしていた。そして最後に外で待っていたスノウたちも紹介し、契約は無事終了。カルマさんは私のお腹を撫でて『明日にでも診せにおいで』と言ってくれた。
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