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152.渡航準備
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港街といえばカルコを思い出すが、ここはそれほど大きな街ではなかった。ただ雰囲気的には似通ったものがあり、街並みは綺麗で通りも幅広くきちんと均されていた。
店には南大陸ではあまり見かけなかった生鮮食品、特に鮮魚関係の品が並んでいる。カラフルな鱗の魚は如何にも南国といった感じだ。
ちらほらと他大陸の人も見受けられる。服がバザールで見た民族衣装に似ているので東大陸の人だろう。
私たちはメインの通りを突っ切って海辺にある船券の販売所に来ていた。販売所は小屋に窓口が付いたダンジョンの管理小屋と同じ作りの建物だ。
「大型船に乗りたい。大人3、小型契約獣2、中型契約獣2、計7人だ」
レオンが男性販売員に3人の冒険者カードと旅の許可証を出す。契約獣がいるので必然的にこちらを出さざるを得ないのだが…案の定、Sの文字が目立つ3枚のカードを確認した販売員は目を見開いている。カードと私たちとスノウたち、3方向を何度も見ている。おそらく確認の最中なのだろうが、彼はまだ一言も発していない。まだ若いようなのであまり慣れていないのかもしれない。
「…おい」
「…は、はいッ!」
「いつまで確認してる。次の便はいつだ?」
「す、すみません…次は…3日後の16日で…それが今年最後の大型船になります」
低い声で尋ねられた販売員はあからさまに緊張しながら答えた。
これは通常のレオンです…決して凄んだわけでも、威圧したわけでもありません。実はこの世界でも金色の瞳というのは珍しいらしく、これがレオンの強面を増強しているようなのですよ。これはルリアちゃんのお母さんであるファニーさんから聞いた事で、子供から見れば同じ強面でもバルドさんのような厳つい方がマシなのだとか。
「大きめの個室が良いんだけど、空いてるかな?」
「あ、少々お待ちください」
続いてエヴァが聞くとホッとした表情になる。分かりやすいなぁ。
「…一夫多妻用の個室に2部屋の空きがあります。通路の最奥とその手前ですが」
「奥で良いよね?」
「ああ」
「うん」
「奥の部屋でお願い」
「かしこまりました」
手続きを終え、すっかり冷静さを取り戻した販売員に幾つか質問してから次の場所へ。
次は冒険者ギルド。ダンジョン攻略証明書を提出し、スレートの契約獣確認を行う。建物はそこそこの大きさだったが、念の為サニーとサックスには外で待機してもらって中へ入る。暇な時間帯ということもあり冒険者の数は多くない。レオンが空いている窓口で受付嬢に声を掛けた。
「ダンジョンの攻略証明書と契約獣の確認を頼む」
「はい、では先に契約印を拝見します。主はどなたですか?」
「はい、私です」
私はスレートを抱えてカウンターに置き、自分のとスレートの契約印を見せる。
「ス、スライム…」
受付嬢の女性が超小声で呟く。やはり最弱の魔物と言われるスライムと契約する冒険者はあまりいないのだろう。
「…はい、結構です。冒険者カードをお願いします」
「はい」
差し出したカードにはSランクの表記。暫しストップする受付嬢。
「…」
「…あの」
「…ハッ!し、失礼いたしました。少々お待ちください」
彼女は一度席を外し、すぐに戻ってきた。
「契約獣手続きはこれで終了です」
「ありがとうございます」
「証明書はこれだ」
レオンが2枚の証明書を提示し、3人のカードも出す。
手続きはすぐに終わり、私たちはカウンターを離れた後一応ボードのチェックをしてから外に出た。カウンターでは受付嬢が『3人ともSランク…3人とも…』とブツブツ呟いていた。
街の外にコテージを設置して夕食を済ませた後、恒例の相談会。
「16日出航か。7日間だから順調に行けば23日には東大陸だな」
「今度は港街があるって話だったね。ならそこで情報収集出来るかな」
「ああ、そうだな」
「ふねにのるの?またうみみれる?」
スノウがテーブルの上でぴょこぴょこ跳ねながら聞く。何故かスレートも一緒に跳ねている。
「ああ、見れるぜ」
「やったぁなの!こんどはすなない?」
「砂埃で困るのは南大陸くらいだと思うよ。東大陸の四季は西と似てると聞いたことがある」
「あ、そうか。ヴェスタに居た鍛冶屋の…」
「うん」
エヴァが聞いた相手はヴェスタで常連さんだった鍛冶屋のおじさんだ。あの3人のうちの1人、少し違う言葉使いだった人は東大陸出身だと言っていた。
「よかったの!またそとであそべるの!」
「…喜んでるとこ悪いが、今東大陸は冬だぞ」
「ん?ふゆってなに?」
「「「…」」」
冬の景色にぴったりマッチしそうな白毛のスノウが首を傾げる。私たちは一瞬無言になってしまいましたよ。
「…神は何で四季なんて基本を教えてねえんだ?」
「さぁ…?やっぱりちょっと変わった教え方してるよね」
「うん…基準が分からない」
「??」
「冬はね、気温が下がって寒い日が続くの。暗くなるのも早いし雪も降るかもね」
「…さむいの?」
私の説明を聞いて明らかにテンションが下がる。
「やっぱりフェニックスは寒いの苦手?」
「…うん…」
「フフ、大丈夫だよ。家の中は暖かいし、南大陸の夏みたいに長くないから」
「…ほんと?」
「ああ。それに東大陸内でも南の方はそれほど厳しい寒さじゃねえはずだ」
「…じゃスノウのねどこもあったかくしてくれる?」
「うん、暖かい羽毛たくさん入れておくよ」
「ん、わかったの。ありがとなの」
スノウは私たちに励まされて気を取り直したようです。
「さにーとさっくとすれーはさむいのへいきなの?」
「スレイプニルは寒さにも強い、暑いのより平気なはずだ。スライムは適応力が高いから大丈夫だと思うが…どうだ?スレート」
レオンに聞かれたスレートは肯定するようにゆっくりと瞬きをした。
「大丈夫みたいだね」
「みんなだいじょぶでよかったの!スノウもがんばるの!」
「じゃあ明日から渡航の準備だね」
「ああ、そうだな。さて、風呂で温まるか」
「おふろ!すれー、おふろいくの!」
スノウとスレートは仲良くバスルームへ行く。私たちはその後ろからついて行った。
スレートもお風呂が気に入ったようで、バスタブにぷかぷかと浮かびながらスノウと遊んでいる。それを見たレオンとエヴァはバスルームを拡張する相談を始めました。今のままでも充分な広さだと思うけど、これから家族が増えることを考えればやっておいた方から良いのかもしれませんね。
店には南大陸ではあまり見かけなかった生鮮食品、特に鮮魚関係の品が並んでいる。カラフルな鱗の魚は如何にも南国といった感じだ。
ちらほらと他大陸の人も見受けられる。服がバザールで見た民族衣装に似ているので東大陸の人だろう。
私たちはメインの通りを突っ切って海辺にある船券の販売所に来ていた。販売所は小屋に窓口が付いたダンジョンの管理小屋と同じ作りの建物だ。
「大型船に乗りたい。大人3、小型契約獣2、中型契約獣2、計7人だ」
レオンが男性販売員に3人の冒険者カードと旅の許可証を出す。契約獣がいるので必然的にこちらを出さざるを得ないのだが…案の定、Sの文字が目立つ3枚のカードを確認した販売員は目を見開いている。カードと私たちとスノウたち、3方向を何度も見ている。おそらく確認の最中なのだろうが、彼はまだ一言も発していない。まだ若いようなのであまり慣れていないのかもしれない。
「…おい」
「…は、はいッ!」
「いつまで確認してる。次の便はいつだ?」
「す、すみません…次は…3日後の16日で…それが今年最後の大型船になります」
低い声で尋ねられた販売員はあからさまに緊張しながら答えた。
これは通常のレオンです…決して凄んだわけでも、威圧したわけでもありません。実はこの世界でも金色の瞳というのは珍しいらしく、これがレオンの強面を増強しているようなのですよ。これはルリアちゃんのお母さんであるファニーさんから聞いた事で、子供から見れば同じ強面でもバルドさんのような厳つい方がマシなのだとか。
「大きめの個室が良いんだけど、空いてるかな?」
「あ、少々お待ちください」
続いてエヴァが聞くとホッとした表情になる。分かりやすいなぁ。
「…一夫多妻用の個室に2部屋の空きがあります。通路の最奥とその手前ですが」
「奥で良いよね?」
「ああ」
「うん」
「奥の部屋でお願い」
「かしこまりました」
手続きを終え、すっかり冷静さを取り戻した販売員に幾つか質問してから次の場所へ。
次は冒険者ギルド。ダンジョン攻略証明書を提出し、スレートの契約獣確認を行う。建物はそこそこの大きさだったが、念の為サニーとサックスには外で待機してもらって中へ入る。暇な時間帯ということもあり冒険者の数は多くない。レオンが空いている窓口で受付嬢に声を掛けた。
「ダンジョンの攻略証明書と契約獣の確認を頼む」
「はい、では先に契約印を拝見します。主はどなたですか?」
「はい、私です」
私はスレートを抱えてカウンターに置き、自分のとスレートの契約印を見せる。
「ス、スライム…」
受付嬢の女性が超小声で呟く。やはり最弱の魔物と言われるスライムと契約する冒険者はあまりいないのだろう。
「…はい、結構です。冒険者カードをお願いします」
「はい」
差し出したカードにはSランクの表記。暫しストップする受付嬢。
「…」
「…あの」
「…ハッ!し、失礼いたしました。少々お待ちください」
彼女は一度席を外し、すぐに戻ってきた。
「契約獣手続きはこれで終了です」
「ありがとうございます」
「証明書はこれだ」
レオンが2枚の証明書を提示し、3人のカードも出す。
手続きはすぐに終わり、私たちはカウンターを離れた後一応ボードのチェックをしてから外に出た。カウンターでは受付嬢が『3人ともSランク…3人とも…』とブツブツ呟いていた。
街の外にコテージを設置して夕食を済ませた後、恒例の相談会。
「16日出航か。7日間だから順調に行けば23日には東大陸だな」
「今度は港街があるって話だったね。ならそこで情報収集出来るかな」
「ああ、そうだな」
「ふねにのるの?またうみみれる?」
スノウがテーブルの上でぴょこぴょこ跳ねながら聞く。何故かスレートも一緒に跳ねている。
「ああ、見れるぜ」
「やったぁなの!こんどはすなない?」
「砂埃で困るのは南大陸くらいだと思うよ。東大陸の四季は西と似てると聞いたことがある」
「あ、そうか。ヴェスタに居た鍛冶屋の…」
「うん」
エヴァが聞いた相手はヴェスタで常連さんだった鍛冶屋のおじさんだ。あの3人のうちの1人、少し違う言葉使いだった人は東大陸出身だと言っていた。
「よかったの!またそとであそべるの!」
「…喜んでるとこ悪いが、今東大陸は冬だぞ」
「ん?ふゆってなに?」
「「「…」」」
冬の景色にぴったりマッチしそうな白毛のスノウが首を傾げる。私たちは一瞬無言になってしまいましたよ。
「…神は何で四季なんて基本を教えてねえんだ?」
「さぁ…?やっぱりちょっと変わった教え方してるよね」
「うん…基準が分からない」
「??」
「冬はね、気温が下がって寒い日が続くの。暗くなるのも早いし雪も降るかもね」
「…さむいの?」
私の説明を聞いて明らかにテンションが下がる。
「やっぱりフェニックスは寒いの苦手?」
「…うん…」
「フフ、大丈夫だよ。家の中は暖かいし、南大陸の夏みたいに長くないから」
「…ほんと?」
「ああ。それに東大陸内でも南の方はそれほど厳しい寒さじゃねえはずだ」
「…じゃスノウのねどこもあったかくしてくれる?」
「うん、暖かい羽毛たくさん入れておくよ」
「ん、わかったの。ありがとなの」
スノウは私たちに励まされて気を取り直したようです。
「さにーとさっくとすれーはさむいのへいきなの?」
「スレイプニルは寒さにも強い、暑いのより平気なはずだ。スライムは適応力が高いから大丈夫だと思うが…どうだ?スレート」
レオンに聞かれたスレートは肯定するようにゆっくりと瞬きをした。
「大丈夫みたいだね」
「みんなだいじょぶでよかったの!スノウもがんばるの!」
「じゃあ明日から渡航の準備だね」
「ああ、そうだな。さて、風呂で温まるか」
「おふろ!すれー、おふろいくの!」
スノウとスレートは仲良くバスルームへ行く。私たちはその後ろからついて行った。
スレートもお風呂が気に入ったようで、バスタブにぷかぷかと浮かびながらスノウと遊んでいる。それを見たレオンとエヴァはバスルームを拡張する相談を始めました。今のままでも充分な広さだと思うけど、これから家族が増えることを考えればやっておいた方から良いのかもしれませんね。
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