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151.baby計画
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スライムダンジョンの跡地を発った2日後、王都までの中継点であるもう一つの街に着いた。
道中スレートはとても大人しく、何処かでジッとしている事が多かった。馬車内のキングボアの毛皮の上でウトウトしていたり、御者台で風に体をぷにょぷにょと靡かせながら景色を眺めていたり。スノウはそんなスレートと一緒に居るのが面白いらしく、共に行動して楽しんでいる。
そしてびっくりしたのはスレートが私たちの言うことを理解していたこと。もちろん簡単な言葉や指示だけだが、種族がスライムなだけに驚きも一入だ。それに朧げながら感情が伝わってくるので意思の疎通も可能になった。栄養は魔力だけでも大丈夫のようだが、スノウたちも食べているので魔力の他にご飯も一緒にあげている。あらゆるものを消化吸収するスライムだけあって好き嫌いはありません。スライムの習性なのか、ゴミ的な物も率先して吸収してくれます。因みにスレートの契約印は何故か頭のてっぺんにあって、つつきたい衝動にかられます。
街は中規模といったところ。いつものように情報を集めた私たちは、ここで海越えについて予想外の事実を知った。
早速街の外にコテージを設置して話し合いを開始。
「さて、どうする?」
私たちは考えを巡らせる。
予想外の事とは東大陸に渡れる時期についてで、何と船は1~4月は殆ど休船だというのだ。原因はしけや嵐の発生確率が高いことにあるようだが、年明けには渡りたいと話していた私たちにとっては好ましくない事態。
どうして春前に渡りたいか、それは…いよいよ私たちも子供を作ろうということになったから。
バリリアでバルドさん家族を見てからというもの、夫たちの赤ちゃんが欲しいという思いが膨らんでいた。それはレオンとエヴァも同じで、あれから度々話題に上がるようになった。だから色々相談した上で東大陸に着いたらと決めたんです。妊婦で船旅は大変だろうし。
この街から先の街道は二手に分かれていて、一方は王都へ、もう一方は東大陸との玄関口である港街へと向かって伸びている。王都に寄ってから港街に向かうつもりだったが、それでは間に合わないかもしれない。
「…まあ…渡っちまうか待つか、答えは二つに一つだな。まずはキラの気持ちを聞かせてくれ」
「そうだね。キラの正直な気持ちを教えて?」
「うん」
私の気持ちはとうに決まっている。
「私は東大陸に渡りたい」
「王都は良いのか?」
「うん。最初に王都へ行きたいと言ったのは私だけど…それより今はレオンとエヴァの赤ちゃんが欲しいの。勝手言ってごめんね?」
謝る私の手を2人が握ってくれる。
「何で謝るの?すごく嬉しいよ」
「そうだぜ、俺も嬉しい」
「…良かった。ありがとう」
「「…キラ…」」
「レオン…エヴァ…」
「「「愛してる」」」
私たちは愛を囁きながら小さく口づけを交わす。
次の目的地港街に決定した。
⬛︎
中継点を発ってから3日、私たちの馬車は順調に港街に向かっていた。このままならあと5日、12月13日には着くはずなので焦りはない。道中移動店舗は開けず、各々冬仕度に時間を使っている。レオンは馬小屋と馬車を冬仕様に、エヴァは普通家具だった暖炉を魔道具に改造、私は羽毛布団や冬服の制作を行っていた。
その夜はホットワインを飲んでまったり。
「温かいものが美味しい季節になってきたね」
「…ドリア食いてえな」
「良いね。オレはラクレットも食べたいな」
「ふふ…近いうちに作るね」
いつもならここでスノウのひと声が入るのだが、今はテーブルの上でミニクッションをベッド代わりにして眠っていた。そんなスノウをみょーんと体を縦長にしたスレートが覗いている。スライムだけあって体型が変幻自在なのだ。
「スレートって…この感じだとそのうち手とか使えるようになりそうだよね」
「くくっ…有り得るな。こいつ何でもよく食うし、右手に水、左手に肉、とかやりそうだ」
名を聞いて自分の事を話していると分かったのか、点のように小さな目をキョロキョロさせるスレート。
「ふふ、スレートは手が使えそうだって話してたの」
私が手を見せながらそう言うと、にょきっと細い触手のようなものを体から生やしてぷるぷる振ってみせた。
「エッ…」
「「…」」
まさか本当に出来ると思っていなかった私たちは目をパチクリさせてしまう。スレートが『ナンカチョーダイ』というように手?を前に出したので、レオンがそこにあったチーズをあげた。するとまるでドラ○もんの手みたいに引っ付いたチーズを、口だと思われる辺りに押し込んで瞬く間に吸収した。
「あったな、手」
「あったね」
「うん…」
「くくくっ…面白え奴だな」
「ホントだよ、フフフ…」
堪え切れず笑い始める夫たち。私はそのうちナイフやフォークまで使い熟すんじゃないかと考えてしまいました。だってスレートは日に日に賢くなってる気がするんですよ。
何故だかは分からないけど。
実は『スレートが日に日に賢くなってる』というキラの見解は間違っていない。それはスレートが毎日彼女の魔力を貰っているから。
契約獣の食事は基本的に主の魔力と種族別の好物の併用。その魔力の性質や相性などの組み合わせによってはステータスや進化に影響を与える事がある。スレイプニルになったサニーとサックスが良い例で、スレートは知能の高くない種族だったのでその発達具合が著しく感じられるのだ。
まあ…スライムを契約獣にするテイマーは滅多に居ないので、どこまで賢く成長するのかは謎だが。
私たちはそれから5日後の13日の昼、予定通り港街に到着した。
道中スレートはとても大人しく、何処かでジッとしている事が多かった。馬車内のキングボアの毛皮の上でウトウトしていたり、御者台で風に体をぷにょぷにょと靡かせながら景色を眺めていたり。スノウはそんなスレートと一緒に居るのが面白いらしく、共に行動して楽しんでいる。
そしてびっくりしたのはスレートが私たちの言うことを理解していたこと。もちろん簡単な言葉や指示だけだが、種族がスライムなだけに驚きも一入だ。それに朧げながら感情が伝わってくるので意思の疎通も可能になった。栄養は魔力だけでも大丈夫のようだが、スノウたちも食べているので魔力の他にご飯も一緒にあげている。あらゆるものを消化吸収するスライムだけあって好き嫌いはありません。スライムの習性なのか、ゴミ的な物も率先して吸収してくれます。因みにスレートの契約印は何故か頭のてっぺんにあって、つつきたい衝動にかられます。
街は中規模といったところ。いつものように情報を集めた私たちは、ここで海越えについて予想外の事実を知った。
早速街の外にコテージを設置して話し合いを開始。
「さて、どうする?」
私たちは考えを巡らせる。
予想外の事とは東大陸に渡れる時期についてで、何と船は1~4月は殆ど休船だというのだ。原因はしけや嵐の発生確率が高いことにあるようだが、年明けには渡りたいと話していた私たちにとっては好ましくない事態。
どうして春前に渡りたいか、それは…いよいよ私たちも子供を作ろうということになったから。
バリリアでバルドさん家族を見てからというもの、夫たちの赤ちゃんが欲しいという思いが膨らんでいた。それはレオンとエヴァも同じで、あれから度々話題に上がるようになった。だから色々相談した上で東大陸に着いたらと決めたんです。妊婦で船旅は大変だろうし。
この街から先の街道は二手に分かれていて、一方は王都へ、もう一方は東大陸との玄関口である港街へと向かって伸びている。王都に寄ってから港街に向かうつもりだったが、それでは間に合わないかもしれない。
「…まあ…渡っちまうか待つか、答えは二つに一つだな。まずはキラの気持ちを聞かせてくれ」
「そうだね。キラの正直な気持ちを教えて?」
「うん」
私の気持ちはとうに決まっている。
「私は東大陸に渡りたい」
「王都は良いのか?」
「うん。最初に王都へ行きたいと言ったのは私だけど…それより今はレオンとエヴァの赤ちゃんが欲しいの。勝手言ってごめんね?」
謝る私の手を2人が握ってくれる。
「何で謝るの?すごく嬉しいよ」
「そうだぜ、俺も嬉しい」
「…良かった。ありがとう」
「「…キラ…」」
「レオン…エヴァ…」
「「「愛してる」」」
私たちは愛を囁きながら小さく口づけを交わす。
次の目的地港街に決定した。
⬛︎
中継点を発ってから3日、私たちの馬車は順調に港街に向かっていた。このままならあと5日、12月13日には着くはずなので焦りはない。道中移動店舗は開けず、各々冬仕度に時間を使っている。レオンは馬小屋と馬車を冬仕様に、エヴァは普通家具だった暖炉を魔道具に改造、私は羽毛布団や冬服の制作を行っていた。
その夜はホットワインを飲んでまったり。
「温かいものが美味しい季節になってきたね」
「…ドリア食いてえな」
「良いね。オレはラクレットも食べたいな」
「ふふ…近いうちに作るね」
いつもならここでスノウのひと声が入るのだが、今はテーブルの上でミニクッションをベッド代わりにして眠っていた。そんなスノウをみょーんと体を縦長にしたスレートが覗いている。スライムだけあって体型が変幻自在なのだ。
「スレートって…この感じだとそのうち手とか使えるようになりそうだよね」
「くくっ…有り得るな。こいつ何でもよく食うし、右手に水、左手に肉、とかやりそうだ」
名を聞いて自分の事を話していると分かったのか、点のように小さな目をキョロキョロさせるスレート。
「ふふ、スレートは手が使えそうだって話してたの」
私が手を見せながらそう言うと、にょきっと細い触手のようなものを体から生やしてぷるぷる振ってみせた。
「エッ…」
「「…」」
まさか本当に出来ると思っていなかった私たちは目をパチクリさせてしまう。スレートが『ナンカチョーダイ』というように手?を前に出したので、レオンがそこにあったチーズをあげた。するとまるでドラ○もんの手みたいに引っ付いたチーズを、口だと思われる辺りに押し込んで瞬く間に吸収した。
「あったな、手」
「あったね」
「うん…」
「くくくっ…面白え奴だな」
「ホントだよ、フフフ…」
堪え切れず笑い始める夫たち。私はそのうちナイフやフォークまで使い熟すんじゃないかと考えてしまいました。だってスレートは日に日に賢くなってる気がするんですよ。
何故だかは分からないけど。
実は『スレートが日に日に賢くなってる』というキラの見解は間違っていない。それはスレートが毎日彼女の魔力を貰っているから。
契約獣の食事は基本的に主の魔力と種族別の好物の併用。その魔力の性質や相性などの組み合わせによってはステータスや進化に影響を与える事がある。スレイプニルになったサニーとサックスが良い例で、スレートは知能の高くない種族だったのでその発達具合が著しく感じられるのだ。
まあ…スライムを契約獣にするテイマーは滅多に居ないので、どこまで賢く成長するのかは謎だが。
私たちはそれから5日後の13日の昼、予定通り港街に到着した。
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