異世界ライフは前途洋々

くるくる

文字の大きさ
上 下
160 / 213

145.またいつの日か

しおりを挟む

 私たちは出発をライラたちの誓いの翌日に決めて砂漠越えの仕度を始めた。といっても必要な物はほぼ揃っているので、消耗品の確認や馬車の点検、後は料理のストックを作っておくくらい。

 今回は自家製スパムにも初挑戦。飲み会の時にファニーさんが持ってきてくれた差し入れにスパム的なのが使われていたので作ってみる事にしました。保存食という感じではなく、塩分控えめにしてみました。これを使った料理なら最初はやっぱりスパムおにぎりかな?個人的にはジャーマンポテトに入れてビールと一緒に楽しみたい。寝かせる時間が必要なので出来上がりはちょっと先ですが。




 そうそう、マル君は流れを止めて回復屋としてバリリアに落ち着くことにしたそうです。兄であるランドさんたちのパーティーに入るという選択肢もあったけれど、下級ランクの自分が加入するとパーティーランクが下がるので止めたのだとか。それに居場所がハッキリしていればまた会う事もできる。彼はそう言って笑っていた。

 ランドさんたちはもう少しここに留まり、依頼などを熟してから次を決めるそうです。子供の事を話し合っておいた方が良い、と夫たちがアドバイスしていたのでその辺りも相談してから発つのだろう。大陸を出る気はないようなのでいずれどこかの街に落ち着くのかもしれない。

 私はそれがバリリアなら素敵だと秘かに思った。











 そして出発の日。朝早い時間なのにも拘わらず、ランドさんたちを始めマル君やガーディアンの面々、ギルマス、ファニーさんとルリアちゃんといった人たちが見送りに来てくれていた。

「バリリアはレックスに受けた恩を忘れません。君たちの旅路が幸福であるよう祈っています」

 ギルドマスターというより神父さんのような口調のベリルさん。

「世話になった。達者でな」

 言葉は短いけれど微笑みを見せてくれるアイシクルさん。

「ガーディアンもSランク目指して頑張るぜ!今度こそ、何があってもおれたちがここを守る」

 気合い充分、ガッツポーズのゴルドさん。

「皆さんのおかげで命拾いし、兄にも会えました。本当にありがとうございました」

 すっきりした笑顔のマル君。

「本当に、色々お世話になりました。皆さんに背中を押されなければどうなっていたか…ありがとうございました」

 頬を赤らめながら頭を下げるライラ。

 そしてランドさんがガッ!とレオンとエヴァの手を握る。

「お前らに出会えて良かったよ、感謝してる。マルの事も、ライラとの事も、それに…」

 彼は一度目を瞑り、深呼吸してから目を開けて続ける。

「ずっと流れでやってきたのに、見送るのが寂しいなんて初めてだ。それくらい…お前らが好きだぜ。…じゃあな、元気でやれよ」

 鳶色の瞳が僅かに潤む。3人はガッチリと握手を交わした。



 旅に出会いと別れはつきもの。分かっていても、こうして親しくなった人たちと別れるたびに寂しさを感じる。そして心の中で呟くのだ。

 "またいつの日か会えますように" と。





⬛︎





 馬車は砂漠を順調に進んでいる。11月半ばになれば暑さも和らぐと聞いたが、10月もあと数日となった今日でも来た時よりは幾分かマシだ。バリリアを出てからいつもより静かだった馬車内はもう平常を取り戻し、私の胸の谷間に埋まっていたスノウも元気に外を飛び回っていた。

 次の目的地は王都でその次が港街、そして東大陸へと向かう予定になっている。ただ王都までの道中にはダンジョンや中継点となる街もあるので立ち寄るつもりだ。最初に寄るのはダンジョンで、砂漠越えに5日、それからダンジョンまで3日で計8日間ほどの移動となる。

 道中私はBランクになった複製スキルの検証をした。ランクアップする度に色々試しているのだが、Cの時は家具やテント、タープテントくらいまでは出来たけれど魔道具や馬車は無理だった。今回は一部の魔道具、馬車、馬小屋などが成功、コテージそのものやエアコンは失敗しました。




 バリリアを発って5日、砂漠を抜けた私たちの馬車は久しぶりに街道を走っていた。11月に入った南大陸は涼しく、風もあまりなくて過ごしやすい。体感温度からすると一気に秋がやって気が感じだけれど、緑が少ない所為か秋になったという実感は少なかった。砂漠への道だからなのか、他の馬車や馬などとすれ違う事もほぼ無くて閑散とした雰囲気が続いていた。




 砂漠を抜けた日の夜、コテージで日課の会議。

「この調子だと明日の夕方には着くな」
「そうだね。もう1日掛かるかと思ってたけど、やっぱり涼しいと進みやすい」
「あしただんじょんつくの?」
「ああ、おそらくな」
「こんどはなにがいるの?」

 わくわくを隠せない様子のスノウの質問にレオンが答える。

「獣系だな。スノウの知ってる魔物で言うとウルフ、オーク、ボア辺りだ」
「難易度は低いみたいだね。高く見積もっても最初に行ったスパイダーダンジョンと同じくらいかな」
「まるやきできる?」
「そこは入ってみなきゃ何とも言えねえな。だがレベル的にはスノウとサニー、サックスには丁度良いと思うぜ?」
「れべりんぐできる?」
「ああ」
「やったぁなの!さにーとさっくとれべりんぐするの!」

 ニットスパイダーに挑戦した時20前後だったスノウたちのレベルは30を越えた。私たち抜きでも良い所までいけると思うな。

「ドラゴンダンジョンではサニーとサックスに我慢してもらったからね」
「そうだな。状況にもよるが、今度は思いっきりやらせてみるか。キラ、お前はどう思う?」
「うん、賛成」
「じゃあ決まりだね」
「やったぁなの!」

 スノウのは羽を広げて喜び、そのまま2頭に元へと飛んでいった。

しおりを挟む
感想 170

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない

一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。 クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。 さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。 両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。 ……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。 それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。 皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。 ※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?

すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。 一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。 「俺とデートしない?」 「僕と一緒にいようよ。」 「俺だけがお前を守れる。」 (なんでそんなことを私にばっかり言うの!?) そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。 「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」 「・・・・へ!?」 『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!? ※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。 ※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。 ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

処理中です...