異世界ライフは前途洋々

くるくる

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138.凱旋

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 ダンジョン跡地を発って3日後の夕方、私たちはバリリアに到着した。

 この街の門番は兵士ではなくギルド員。その門番たちはスレイプニルである2頭とガーディアンの乗ったラクダを見て驚き、文字通り飛び上がった。報せに走ろうとする彼らをゴルドさんが止め、そのまま真っ直ぐギルドへ向かう。街中を通っていても声を掛けてくる人が多数いた。皆ガーディアンの帰還を喜んでいる。

 ギルド前で馬車を仕舞い、ラクダを繋いで中へ。すると受付嬢や冒険者たちの視線が集まる。そしてガーディアンを見た瞬間、些か活気が無いようだったギルド内は一気に沸いた。その声を聞きつけたのかすぐにギルマスが姿を見せる。

「よく無事で戻った!疲れているだろうが直ぐに話を聞かせてくれ!」

 私たちは揃ってギルマスの部屋に通された。




 ソファーに腰掛け、早速話を始める。口を開いたのはレオン。

「攻略は成功、ダンジョンは崩壊した」
「!!」

 目を見開くベリルさん。ゴルドさんが続ける。

「ギルマス。ガーディアンは最下層まで辿り着いただけでボスには歯が立たなかった。色々あって絶望的な状況だったがレックスが救ってくれたんだ」

 アイシクルさんが引き継いで話す。

「レックスは救済パターンの緊急措置を取り、見事攻略に成功した。その上帰路も世話になった。彼らは命の恩人だ」
「…そうか。君たちはガーディアンとバリリアの恩人だな。この街を代表して礼を言う、本当に…ありがとう」

 ギルマスは声を詰まらせながら深々と頭を下げた。レオンは一拍置いてから答える。

「…礼は確かに受け取った。だがな、俺らはやりたいようにしただけだぜ?ダンジョン攻略も、ガーディアンの事も。ゴルド達が碌でもない奴らだったら頼まれても助けなかった。…結局は、ギルマスやガーディアンの人徳だ。あんたら自身がこの街を救ったんだ」

 本当にその通りだと思う。彼らが冒険者にありがちな荒くれ者だったなら、あまり人に見せたくない事を露見してまで助けなかっただろう。

 呆気にとられたように私たちを見回すベリルさんに、エヴァと私もレオンと同意だと頷いてみせた。

「なんて無欲な…もしかして君たちは…神様の使いか?」
「…はぁ?」

 突然素っ頓狂な事を口走るギルマス。レオンは呆れ顔だが、彼は目に見えて高揚していて声高らかに妄想的な話を続ける。

「いいか、考えてもみたまえ。報酬は要らないと言いながらこちらの要望を全て叶えてくれる。その上エンシェントドラゴンのダンジョンを攻略するほどの強者!これが神の使いでなくて何なのだ!?」
「「「…」」」

 使いではないけれど、実際に会ったことのある私たちは何とも複雑な気分で思わず無言になってしまう。するとアイシクルさんが尋ねてきた。

「頼まれたと言っていたが、正式な依頼ではなかったのか?」
「攻略を依頼されたがハナっからそのつもりで来たんだ、と言って断った」
「フッ、成る程…神の使いか、と言いたくなる気持ちも分かるな」

 ベリルさんの熱弁はまだ続いている。

「…ギルマスは少々信心深くてな、興奮が頂点に達するとこうなる事が間々ある。まあ…放っておけばそのうち治る」

 アイシクルさんが溜息を吐きながら言った。

 偶にある状況みたいです。それにしてもこれは…少々、でしょうか?











 暫く待って正気を取り戻した?ベリルさんにまた2日後に来てくれと言われ、約束してカウンター付近に戻ると、ガーディアンはあっという間に冒険者たちに囲まれた。皆彼らの帰還を喜び、アレコレと質問責めにしている。私たちが少し後ろで眺めているとマルキーズ君が来た。

「やはり皆さんだったんですね、ダンジョンに向かった旅のパーティーって」

 彼は回復屋に来た冒険者の客から、ドラゴンダンジョンやガーディアンの事、そこに新たに向かったパーティーがある事などを聞いていたらしい。

「僕は皆さんなら攻略して帰って来ると思ってましたよ。でもご無事で何よりです」
「ありがとう。それにしても回復屋はだいぶ馴染んだみたいだね」
「ああ、それだけ客から情報を引き出せるところをみればな」
「ええ、良くして頂いてます」
「そうか。なら――」

 レオンが更に何か言おうとした時、オォ!と歓声が上がって冒険者達が皆こちらに注目する。

「こいつらがガーディアンとバリリアの恩人であるレックスだ」

 オオォォ!

「みんな色々聞いてみたいだろうが今はやめとけよ?帰って来たばっかりなんだからよ。オラオラ、今日のところは解散解散!」

 再度歓声が上がるが、ゴルドさんが興奮気味の冒険者達を宥めて解散させた。皆素直に散っていく。彼はガーディアンのリーダーであると同時にバリリアの冒険者達のリーダー的存在でもあるようだ。

「若い奴らのまとめ役、ってトコか」
「そうみたいだね。規模が大きくないっていうのもあるけど、他の街にもああいう冒険者が居れば荒くれ者も減りそうだけどね」
「まあな」

 ゴルドさんを見ていたレオンとエヴァはそう呟いた。




 その後まだ仕事中のマルキーズ君と別れ、ガーディアンと一緒にギルドを出る。

 すると―――

「パパ!!」

 と幼い声がして、それを追い越すような勢いで女の子が駆けてきた。ルリアちゃんだ。

「おかえりパパ!!」
「ルリア!」

 胸に飛び込んできた我が子を抱き上げて目を細めるゴルドさん。

「良い子にしてたか?」
「うん!ルリアね、いっぱいママのおてつだいしたの!」
「そうか、偉いぞ。頑張ったな」
「うん!」

 ルリアちゃんはギュッ、と首にしがみついて離れない。やはり寂しかったのだろう。ゴルドさんはピンク色の髪を優しく撫でる。

 そこへルリアちゃんのお母さん、ファニーさんが赤ちゃんと一緒にやってきた。

「お帰りなさい、あなた。無事で良かった」
「おう、ただいま。心配かけたな」

 2人暫し見つめ合った後、ゴルドさんが赤ちゃんを抱っこする。我が子2人を抱っこしたその姿は如何にもお父さん、という感じ。ファニーさんもとても嬉しそうで、素敵な家族だと思った。





⬛️






「色々あったがドラゴンダンジョン攻略成功だな」
「だね、ガーディアンも街も無事で良かったよ」
「うん、本当に良かったね」
「「「乾杯」」」

 3人でカチン、とグラスを合わせる。

 私たちは街の外に設置したコテージのリビングでワインを飲んでいた。今夜はゆっくり飲もうと、既に夕食やお風呂も済ませてある。ダンジョン内も合わせると5日間はガーディアンと一緒だったので3人だけは久しぶりだ。大勢も楽しいけどやはりこれが一番落ち着く。スノウは寝ちゃったけどね。

「やっと夫婦水入らずだな」
「そうだね。大人数もそれなりの良さがあるけどやっぱりね?」
「ああ。これが一番良い」
「ふふ、私も同じ」

 ソファーに並んで座っていた私たちは小さくキスする。

「んっ…ね、これ食べてみて?お豆腐使ったおつまみなの」

 薦めたのは豆腐のトマトチーズ焼き。時間も結構遅いのであまり重くならないようにしたつもり。

「へぇ、どれどれ?……うん、良いね、美味しいよ。結構チーズが乗ってるけど豆腐のおかげで意外とサッパリ食べられる」
「ああ、これはイケるな。腹に溜まりすぎないのも良い」
「ありがとう。良かった」
「豆腐って創作意欲が湧く食材だね。オレも何か考えてみようかな」

 エヴァが豆腐を見つめながら言う。

「わ、楽しみ!」
「フフ、その時はキラの意見も聞かせてくれる?」
「うん、もちろん」
「俺に出来るのは試食くらいだな」
「ふふっ」

 レオンが呟いた言葉に思わず笑うと、彼は珍しくちょっとイジけた表情になった。

「何だよ」
「ふふ…だってスノウと同じ事言うんだもん」
「フフ、確かにそうだね。スノウが良く言うセリフだ」
「…良いだろ、別に。スノウと一緒に試食してやるよ」
「じゃあみんなに手伝ってもらおうかな。フフ」

 そう言って笑うエヴァ。

 楽しくて優しい夜はゆっくりと更けていった。


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