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119.不思議な2人
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翌日。
宿を出た私たちはゴレの街よりも上にある洞窟に向かった。それはもちろん採掘するため。洞窟までの道は馬車がすれ違えない箇所もあるので移動は徒歩か馬と決まっている。洞窟は馬なら昼頃には着くという事だが、スノウに魔物を倒させる約束を果たすためゆっくりと進んだ。
魔物はスネーク系やコンドル系が多く翼を持つスノウには恰好の相手となった。サニーとサックスはちょこちょこ参戦したが私たちは手を出さず見守る事に専念していた。
サニーとサックスがバランスよく風魔法と蹴りなどを混ぜて戦うのに対し、スノウは火魔法を多用している。やはり火を噴くのが一番好きらしい。火魔法耐性がある筈のフレイムコンドルが、自分の10分の1もない小鳥の吐く業火に包まれる様子は何とも哀れだ。
こうして魔物の丸焼きを量産してやっと満足したスノウでした。
■
15時過ぎ、目的地に到着。
洞窟の入口は広く、中は松明で照らされていて暗くはない。洞窟前はスペースがあり、現在人気は無いが他の採掘師や冒険者のものであろうテントが建っていた。採掘に来た者たちはレアな石を狙って何日も野営するらしいのだ。
時間も半端なので採掘は明日からに決定したが、スペース的にコテージを出すのは躊躇われたため野営することに。ダンジョン内でテントを使ったことはあったけど、純粋な野営は随分久しぶりな気がする。
私たちは空いている場所にテントとタープテントを建て、タープテントの中にテーブルとイス、サニーとサックスの寝床も設置。9月も3分の2を過ぎたとはいえ南大陸はまだ夏、火は熾さず食事はストックしている物で済ませる事にした。
準備は終えたが夕食にはまだ早いので、サニーとサックスに留守番を頼んで周囲の見回りに出かける。
洞窟の前を通り過ぎて10分ほど進むと道は直進と右手の二又に別れていた。地図だと右は上への道、直進は行き止まりだが一応確かめに行く。左右を岩壁に挟まれた狭い道を進むと、程なくして急に視界が広がった。そこはまさに断崖絶壁。崖までの距離は10mくらい、高所ならではの強風が吹きつけていて端に立てば煽られて落下しそうだ。
しゃがみ込んで地面を眺めていたレオンが立ち上がる。
「ちょいと下を覗いてくる」
「ならオレは岩壁側を見ておくよ」
「頼む。キラ、お前はエヴァと一緒に居ろ。崖側には近付くなよ?」
「うん、分かった。…けど、気を付けてね?」
「ああ、心配すんな。スノウ、来い」
(はいなの!)
「キラはこっちだよ」
「うん」
こういう場所はコンドル系やヘビ系の巣穴ができやすい。空から人を襲うコンドル、地面を這って音もなく近付くヘビ、地を駆ける魔物に比べるとどちらも発見が遅れやすい。しかし予め巣穴などを発見しておけば注意を心に留めておける。もちろん無くても安心は禁物。
調べた結果双方の巣を発見。現時点では空っぽだが、どちらも比較的新しいようだったので注意が必要だ。
その後来た道を引き返して上へも少し登ってみたが特に異常なし。私たちはサニーとサックスが待つ野営場所へと戻った。
私たちが戻ると、サニーとサックスの足元に1匹の白い子犬がじゃれついていた。傍には親らしき2頭の白犬…いや、犬じゃない、ウルフだ。そして1人の男性がウルフに声を掛けている。
「おい、離れろって。ほら、スレイプニルも困ってるだろ?」
「「…」」
だが親ウルフは男のいう事を全く聞かず、サニーとサックスに挨拶している。ウチの2頭も迷惑そうな様子はなく、挨拶を返していた。
「あれプラチナウルフじゃない?珍しい…」
「プラチナ?」
「うん、ホワイトウルフの亜種だよ」
「へえ…」
「ホワイトは気位が高くてなかなか契約出来ねえと聞いたが…どうやらあいつの契約獣じゃねえらしいな」
「…だね、全然相手にされてない」
話していると男がこちらに気が付いて声を上げる。
「すまねえ!今避けるからよ!…おい、おいったら!ったく、お前らいい加減にしろって!」
「…こいつらの主は留守なのか?」
男は茶色い短髪に鳶色の瞳、やはり色黒で、マッスルというほどでは無いがいかにも鍛えられた体躯をしていた。
「ああ、何やら花摘みとやらに…「ランド!余計な事言わないでください!」」
答えかけた声に割り込んだのは1人の女性。グレーのローブに身を包んだ彼女は顔を真っ赤にして走ってきた。
「すみません、ウチの子たちが…」
「いえ、大丈夫ですよ。挨拶してただけです」
「そうですか」
ホッとした様子の彼女にウルフたちがすり寄る。やはりこの女性が主のようだ。するとサニーとサックスも私の元へ来て大きな馬体で左右からすりすりする。
「この立派なスレイプニル、あなたの契約獣だったんですね。自分以外の女性冒険者テイマーに初めて会いました」
「私もです」
「まあ、そうですか」
そう言って笑う彼女は女冒険者には珍しいほんわかした雰囲気。ローブのフードから覗く髪は淡いブルーで、後ろで束ねてある。肌は街の女性たちより幾分白く、優しそうな瞳は綺麗な翠色で背丈は私と同じくらい。年齢は若干上だろうか。
そんなことを考えているとスノウが肩に飛んで来て鳴く。
(スノウもきらのけいやくじゅうなの!)
「あら、あなたも契約獣?なんて可愛らしい」
(えっへん!)
小鳥の声に聞こえるはずだが妙に会話がかみ合っていて何だか微笑ましい。それに常に真眼を使っているスノウがこういう反応をするという事は悪い人ではないという事。
レオンとエヴァが男と挨拶を交わしている。
「わたしライラといいます」
「…キラです」
私たちも互いに名を告げた。
■
互いに自己紹介した後結局一緒に食事した私たちは、食後のコーヒーで一息ついていた。他の採掘師や冒険者たちも皆日が暮れる前に自分たちのテントへ戻って休んでいる。ただスレイプニルにプラチナウルフという珍しい契約獣の共演と、同じく珍しい女冒険者2人が会話に花を咲かせる様子はかなり目立っていた。だがライラさんたちも目立つのは慣れっこらしく、全く気にする感じはない。セッティングされたテーブルやイス、私たちの食事にも少し驚いただけだった。
食事しながら色々話したが、未だに謎なのは2人の関係。流れの上級冒険者でパーティーを組んでいるそうだけど、夫婦でも恋人でもないらしく、兄妹でもない。只の友人にも見えないのだけど、何だか話しにくそうにするのでその辺を聞くのは早々に止めた。誰にだって探られたくない事の1つや2つあるものだし、それは私たちだって同じ。気にしないでおこう。
ちなみにランドさんは33才、ライラさんは27才。自分の年をペラペラしゃべってしまったランドさんをライラさんが睨んでいました…。
「ふわぁ…可愛い~…」
まだ膝に乗るほど小さなプラチナウルフの子供、ジネは、間近で見ると確かに綺麗な白銀の毛並みだった。主のライラさんと、親である2頭に許可を得て抱っこさせてもらっているのだが…ランドさんが若干落ち込んでいる。
「おれには滅多に触らせてくれないのに…」
そう。何故だか知らないが、プラチナウルフのジルとジラはランドさんにジネをなかなか触らせないらしい。というか親2頭もあまり撫でさせてくれないようで、さっき私に撫でられて気持ち良さそうにしているのを見て彼はショックを受けていた。
「自業自得です」
一言そう言い放つライラさん。彼女もまた私たちには穏やかな顔を見せ、彼にはちょっと冷たい。ケンカ中かな?…まあ、お花摘みの事をあっさり他人に話した事もあるし、その辺りに原因があるのかもね。というか、異世界でもお花摘みなんて隠語を使うとは驚きです。
「きゅう~…」
私の膝の上で気持ち良さそうに鳴くジネ。それをスノウが首を傾げて見ている。
(じねはスノウよりあかちゃん?)
「うん、そうだよ」
ジネが生まれたのは2か月ほど前、つまりスノウより後だ。
(…じねかわいい?スノウは?)
ちょっとだけイジケモードな声に思わず笑みが零れた。
「ふふ…。ジル、ジラ、ありがとね。…おいでスノウ」
声を掛けてジネを返し、スノウを手に乗せてくりくり撫でる。
(…スノウかわいい?)
「うん、とっても可愛いよ」
(えへへ~なの)
どうやら機嫌を直したようです。
「くくっ…まだまだチビだな」
「…フフ、そうだね」
会話を聞いていたレオンとエヴァは笑いながら傍にいたサニーとサックスを撫でた。ライラさんも笑顔でスノウを見ている。同じテイマースキル持ち、雰囲気で分かったのだろう。
「…??」
ただ1人、ランドさんだけ訳が分からず首を捻っていた。
宿を出た私たちはゴレの街よりも上にある洞窟に向かった。それはもちろん採掘するため。洞窟までの道は馬車がすれ違えない箇所もあるので移動は徒歩か馬と決まっている。洞窟は馬なら昼頃には着くという事だが、スノウに魔物を倒させる約束を果たすためゆっくりと進んだ。
魔物はスネーク系やコンドル系が多く翼を持つスノウには恰好の相手となった。サニーとサックスはちょこちょこ参戦したが私たちは手を出さず見守る事に専念していた。
サニーとサックスがバランスよく風魔法と蹴りなどを混ぜて戦うのに対し、スノウは火魔法を多用している。やはり火を噴くのが一番好きらしい。火魔法耐性がある筈のフレイムコンドルが、自分の10分の1もない小鳥の吐く業火に包まれる様子は何とも哀れだ。
こうして魔物の丸焼きを量産してやっと満足したスノウでした。
■
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洞窟の入口は広く、中は松明で照らされていて暗くはない。洞窟前はスペースがあり、現在人気は無いが他の採掘師や冒険者のものであろうテントが建っていた。採掘に来た者たちはレアな石を狙って何日も野営するらしいのだ。
時間も半端なので採掘は明日からに決定したが、スペース的にコテージを出すのは躊躇われたため野営することに。ダンジョン内でテントを使ったことはあったけど、純粋な野営は随分久しぶりな気がする。
私たちは空いている場所にテントとタープテントを建て、タープテントの中にテーブルとイス、サニーとサックスの寝床も設置。9月も3分の2を過ぎたとはいえ南大陸はまだ夏、火は熾さず食事はストックしている物で済ませる事にした。
準備は終えたが夕食にはまだ早いので、サニーとサックスに留守番を頼んで周囲の見回りに出かける。
洞窟の前を通り過ぎて10分ほど進むと道は直進と右手の二又に別れていた。地図だと右は上への道、直進は行き止まりだが一応確かめに行く。左右を岩壁に挟まれた狭い道を進むと、程なくして急に視界が広がった。そこはまさに断崖絶壁。崖までの距離は10mくらい、高所ならではの強風が吹きつけていて端に立てば煽られて落下しそうだ。
しゃがみ込んで地面を眺めていたレオンが立ち上がる。
「ちょいと下を覗いてくる」
「ならオレは岩壁側を見ておくよ」
「頼む。キラ、お前はエヴァと一緒に居ろ。崖側には近付くなよ?」
「うん、分かった。…けど、気を付けてね?」
「ああ、心配すんな。スノウ、来い」
(はいなの!)
「キラはこっちだよ」
「うん」
こういう場所はコンドル系やヘビ系の巣穴ができやすい。空から人を襲うコンドル、地面を這って音もなく近付くヘビ、地を駆ける魔物に比べるとどちらも発見が遅れやすい。しかし予め巣穴などを発見しておけば注意を心に留めておける。もちろん無くても安心は禁物。
調べた結果双方の巣を発見。現時点では空っぽだが、どちらも比較的新しいようだったので注意が必要だ。
その後来た道を引き返して上へも少し登ってみたが特に異常なし。私たちはサニーとサックスが待つ野営場所へと戻った。
私たちが戻ると、サニーとサックスの足元に1匹の白い子犬がじゃれついていた。傍には親らしき2頭の白犬…いや、犬じゃない、ウルフだ。そして1人の男性がウルフに声を掛けている。
「おい、離れろって。ほら、スレイプニルも困ってるだろ?」
「「…」」
だが親ウルフは男のいう事を全く聞かず、サニーとサックスに挨拶している。ウチの2頭も迷惑そうな様子はなく、挨拶を返していた。
「あれプラチナウルフじゃない?珍しい…」
「プラチナ?」
「うん、ホワイトウルフの亜種だよ」
「へえ…」
「ホワイトは気位が高くてなかなか契約出来ねえと聞いたが…どうやらあいつの契約獣じゃねえらしいな」
「…だね、全然相手にされてない」
話していると男がこちらに気が付いて声を上げる。
「すまねえ!今避けるからよ!…おい、おいったら!ったく、お前らいい加減にしろって!」
「…こいつらの主は留守なのか?」
男は茶色い短髪に鳶色の瞳、やはり色黒で、マッスルというほどでは無いがいかにも鍛えられた体躯をしていた。
「ああ、何やら花摘みとやらに…「ランド!余計な事言わないでください!」」
答えかけた声に割り込んだのは1人の女性。グレーのローブに身を包んだ彼女は顔を真っ赤にして走ってきた。
「すみません、ウチの子たちが…」
「いえ、大丈夫ですよ。挨拶してただけです」
「そうですか」
ホッとした様子の彼女にウルフたちがすり寄る。やはりこの女性が主のようだ。するとサニーとサックスも私の元へ来て大きな馬体で左右からすりすりする。
「この立派なスレイプニル、あなたの契約獣だったんですね。自分以外の女性冒険者テイマーに初めて会いました」
「私もです」
「まあ、そうですか」
そう言って笑う彼女は女冒険者には珍しいほんわかした雰囲気。ローブのフードから覗く髪は淡いブルーで、後ろで束ねてある。肌は街の女性たちより幾分白く、優しそうな瞳は綺麗な翠色で背丈は私と同じくらい。年齢は若干上だろうか。
そんなことを考えているとスノウが肩に飛んで来て鳴く。
(スノウもきらのけいやくじゅうなの!)
「あら、あなたも契約獣?なんて可愛らしい」
(えっへん!)
小鳥の声に聞こえるはずだが妙に会話がかみ合っていて何だか微笑ましい。それに常に真眼を使っているスノウがこういう反応をするという事は悪い人ではないという事。
レオンとエヴァが男と挨拶を交わしている。
「わたしライラといいます」
「…キラです」
私たちも互いに名を告げた。
■
互いに自己紹介した後結局一緒に食事した私たちは、食後のコーヒーで一息ついていた。他の採掘師や冒険者たちも皆日が暮れる前に自分たちのテントへ戻って休んでいる。ただスレイプニルにプラチナウルフという珍しい契約獣の共演と、同じく珍しい女冒険者2人が会話に花を咲かせる様子はかなり目立っていた。だがライラさんたちも目立つのは慣れっこらしく、全く気にする感じはない。セッティングされたテーブルやイス、私たちの食事にも少し驚いただけだった。
食事しながら色々話したが、未だに謎なのは2人の関係。流れの上級冒険者でパーティーを組んでいるそうだけど、夫婦でも恋人でもないらしく、兄妹でもない。只の友人にも見えないのだけど、何だか話しにくそうにするのでその辺を聞くのは早々に止めた。誰にだって探られたくない事の1つや2つあるものだし、それは私たちだって同じ。気にしないでおこう。
ちなみにランドさんは33才、ライラさんは27才。自分の年をペラペラしゃべってしまったランドさんをライラさんが睨んでいました…。
「ふわぁ…可愛い~…」
まだ膝に乗るほど小さなプラチナウルフの子供、ジネは、間近で見ると確かに綺麗な白銀の毛並みだった。主のライラさんと、親である2頭に許可を得て抱っこさせてもらっているのだが…ランドさんが若干落ち込んでいる。
「おれには滅多に触らせてくれないのに…」
そう。何故だか知らないが、プラチナウルフのジルとジラはランドさんにジネをなかなか触らせないらしい。というか親2頭もあまり撫でさせてくれないようで、さっき私に撫でられて気持ち良さそうにしているのを見て彼はショックを受けていた。
「自業自得です」
一言そう言い放つライラさん。彼女もまた私たちには穏やかな顔を見せ、彼にはちょっと冷たい。ケンカ中かな?…まあ、お花摘みの事をあっさり他人に話した事もあるし、その辺りに原因があるのかもね。というか、異世界でもお花摘みなんて隠語を使うとは驚きです。
「きゅう~…」
私の膝の上で気持ち良さそうに鳴くジネ。それをスノウが首を傾げて見ている。
(じねはスノウよりあかちゃん?)
「うん、そうだよ」
ジネが生まれたのは2か月ほど前、つまりスノウより後だ。
(…じねかわいい?スノウは?)
ちょっとだけイジケモードな声に思わず笑みが零れた。
「ふふ…。ジル、ジラ、ありがとね。…おいでスノウ」
声を掛けてジネを返し、スノウを手に乗せてくりくり撫でる。
(…スノウかわいい?)
「うん、とっても可愛いよ」
(えへへ~なの)
どうやら機嫌を直したようです。
「くくっ…まだまだチビだな」
「…フフ、そうだね」
会話を聞いていたレオンとエヴァは笑いながら傍にいたサニーとサックスを撫でた。ライラさんも笑顔でスノウを見ている。同じテイマースキル持ち、雰囲気で分かったのだろう。
「…??」
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