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106.最下層へ
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それから更に降りて地下15階までやって来た。ここは水が無く地面は泥で覆われている。実際は深くないが、ぱっと見では分からない。
「そろそろアリゲーター辺りがきそうだな」
「だね、このフロアの感じだとマッドアリゲーターかな」
「だろうな。スノウ、何か感じるか?」
一旦立ち止まり、周囲を探るスノウの答えを待つ。
(ん~…あっちとそっちにつよいのいるの)
「よし、行ってみるか」
「うん、アリゲーターの皮は取っておきたいしね。ね?キラ」
「え?う、うん…」
…言ってないのに何故バレたんでしょうか?そんなに皮が欲しそうな顔してたのかな…
私は不思議に思いながらここでも2人に手を引かれて移動した。
「この先だな。キラ、奴は体長が5mはある。距離を取っててもあっという間に差を詰められるから気をつけろ」
「一番多いのは咬みつき攻撃かな。あの牙でやられたら即死も有り得るから充分用心して?」
「うん」
体長5m…それだけ大きかったら雷も当たるかな。そう考えた時ふと思い付いた。
「…ねえ、マッドアリゲーターに毒か眠りの攻撃は効く?」
レオンとエヴァが顔を見合わせる。
「毒は耐性があるが眠りは分からねえ。だがやってみる価値はあるな」
「そうだね。キラの睡眠薬の効果を確かめる良い機会かも」
2人は私が何を言わんとしているかすぐに分かってくれたようだ。後は方法だが、睡眠薬は粉なのでエサに塗り込んで口に放り込むのが一番確実だという事になった。
「ダンジョンの魔物ってエサ食べるの?」
「ああ。違う魔物を捕食してる話は聞いたことねえが毒餌なんかには喰い付く」
「口に放り込んでしまえば食べると思うよ。ダンジョンの魔物は基本的に空腹状態だし」
「そうなんだ」
なるほど、確かに空腹の方が凶暴になるよね。満腹で敵が襲ってこないダンジョンなんて聞いたことない。
「よし、これで良いだろ」
レオンとエヴァと私で作業をし、エサの準備を終える。大した作業でもないのだが、こうする事によって3人にエサで倒した魔物の経験値が入るのだ。
「俺が奴を引き付ける。エサはエヴァに任せたぜ」
「了解」
「キラはスノウたちと一緒に下がってろ」
「うん、分かった。気を付けてね」
「ああ」
「大丈夫だよ」
言葉と共にキスが降ってくる。どこに居ようが全くブレない夫たちです。
緩やかに左へカーブしている道の前方にマッドアリゲーターが見えた。まだ気が付いていないようで、こちらに背を向けて泥の中をのっそのっそと進んでいる。
ここからはレオンとエヴァだけで行く。2人は私に頷いてみせてから互いに視線を交わし、そっと近づいていった。しかし足元が泥の中での移動は音が立たない筈が無く、すぐに気配を察知されてしまった。
アリゲーターは凄い勢いで突進してきたと思ったらいきなりビタッ、とストップし、その巨体からは想像できない速さで体を回転させて尻尾を振り回す。まだ結構あったように見えた距離はその回転と共に一瞬で縮み、前を歩いていたレオンを完全に射程圏内に置いていた。彼はそれをバックステップで避ける。尻尾が空を切った勢いのままこちらを向いた魔物は、レオンを嚙み砕くべく凶悪な牙を見せつけた。
その瞬間レオンが叫ぶ。
「エヴァ!」
「OK!」
絶妙な位置に下がっていたエヴァが声と同時に飛び出し、エサを大きな口腔へと投げ込む。即効性の睡眠薬をたっぷり擦り込んだ肉塊は、ストライク!と声を上げたくなるほどピンポイントに喉奥へと消えていった。
突如口内に入ってきたものを丸飲みしたマッドアリゲーターは、その口を閉じる間もなく泥の中に倒れた。
「…効いたな」
「だね。少し様子見る?」
「ああ」
傍に行こうとした私は2人の会話を聞いてその場に留まった。スノウたちも黙って待っている。
――5分経過
「これだけ効けばこの間に充分止めを刺せるね」
「ああ。そのうちもっと体のデカい奴で試すか」
「そうだね、大きさや量で効き目が変わるかもしれないし」
魔物から目を離さずにそう話し、レオンが剣で止めを刺すと巨体は消え去った。そこで私たちも近くへ行く。
「さすがキラの睡眠薬、効き目抜群だったな」
「ホントだよ。でも頻繁に使うのは控えないと、全然出番が無いから運動不足になりそうだ」
「ふふ、良かったちゃんと効いてくれて」
私は毒と睡眠薬も複製して多めに常備しておこうと決めた。
■
最下層である地下17階の上にはセーフティーゾーンがある。ここは休憩所兼待機場所だ。ボスの居るフロアには一組ずつしか降りられない。下り階段前に扉があり、前に入った冒険者が居なくならないと開かない仕組みになっているのだ。攻略出来れば別の扉が開き、魔物と戦うことなく地上へ出られる道を通れる。だが途中で断念する場合はセーフティーゾーンへ戻るしかなく、もれなく周囲からバカにされる事になってしまう。
私たちが着いたのは16時頃。そこには3組のパーティーが居たが上のセーフティーゾーンで見た顔は無かった。到着する時間によっては一晩休んでからボスに挑む冒険者もいるようだが、私たちはこのまま行くので扉前の列に並ぶ。他の3組のうち1組は明日挑戦するようで扉近くにテントを張っていた。休憩組は別に列を作るらしい。
「腹ごしらえしておくか」
「そうだね」
(ごはん!ごはん!)
2人の言葉にお腹を空かせていたスノウが騒ぐ。まあ昼食抜きだったから仕方ないけどね。昨日は人の来ない場所を選んでちゃちゃっとランチ出来たのだが、今日はずっと地面が水か泥だったので諦めたのだ。
(はやくごはん!)
「はいはい」
ぴーぴー鳴いて急かされ、エヴァが出したテーブルに食事を並べる。といってもおにぎりやフライドチキンなど手で食べられる物ばかり。もちろんサニーとサックスにも準備したが、魔物は基本的に朝夕2食なので2頭とも大人しくしている。スノウの場合神獣だからなのか、はたまた個性なのかは今のところ不明です。
「キラは先にアイスコーヒー飲む?」
「うん、飲みたいな」
「フフ…そう言うと思ったよ。はい」
「ありがとう」
私は手渡されたグラスを傾けて乾いた喉を潤した。
「そろそろアリゲーター辺りがきそうだな」
「だね、このフロアの感じだとマッドアリゲーターかな」
「だろうな。スノウ、何か感じるか?」
一旦立ち止まり、周囲を探るスノウの答えを待つ。
(ん~…あっちとそっちにつよいのいるの)
「よし、行ってみるか」
「うん、アリゲーターの皮は取っておきたいしね。ね?キラ」
「え?う、うん…」
…言ってないのに何故バレたんでしょうか?そんなに皮が欲しそうな顔してたのかな…
私は不思議に思いながらここでも2人に手を引かれて移動した。
「この先だな。キラ、奴は体長が5mはある。距離を取っててもあっという間に差を詰められるから気をつけろ」
「一番多いのは咬みつき攻撃かな。あの牙でやられたら即死も有り得るから充分用心して?」
「うん」
体長5m…それだけ大きかったら雷も当たるかな。そう考えた時ふと思い付いた。
「…ねえ、マッドアリゲーターに毒か眠りの攻撃は効く?」
レオンとエヴァが顔を見合わせる。
「毒は耐性があるが眠りは分からねえ。だがやってみる価値はあるな」
「そうだね。キラの睡眠薬の効果を確かめる良い機会かも」
2人は私が何を言わんとしているかすぐに分かってくれたようだ。後は方法だが、睡眠薬は粉なのでエサに塗り込んで口に放り込むのが一番確実だという事になった。
「ダンジョンの魔物ってエサ食べるの?」
「ああ。違う魔物を捕食してる話は聞いたことねえが毒餌なんかには喰い付く」
「口に放り込んでしまえば食べると思うよ。ダンジョンの魔物は基本的に空腹状態だし」
「そうなんだ」
なるほど、確かに空腹の方が凶暴になるよね。満腹で敵が襲ってこないダンジョンなんて聞いたことない。
「よし、これで良いだろ」
レオンとエヴァと私で作業をし、エサの準備を終える。大した作業でもないのだが、こうする事によって3人にエサで倒した魔物の経験値が入るのだ。
「俺が奴を引き付ける。エサはエヴァに任せたぜ」
「了解」
「キラはスノウたちと一緒に下がってろ」
「うん、分かった。気を付けてね」
「ああ」
「大丈夫だよ」
言葉と共にキスが降ってくる。どこに居ようが全くブレない夫たちです。
緩やかに左へカーブしている道の前方にマッドアリゲーターが見えた。まだ気が付いていないようで、こちらに背を向けて泥の中をのっそのっそと進んでいる。
ここからはレオンとエヴァだけで行く。2人は私に頷いてみせてから互いに視線を交わし、そっと近づいていった。しかし足元が泥の中での移動は音が立たない筈が無く、すぐに気配を察知されてしまった。
アリゲーターは凄い勢いで突進してきたと思ったらいきなりビタッ、とストップし、その巨体からは想像できない速さで体を回転させて尻尾を振り回す。まだ結構あったように見えた距離はその回転と共に一瞬で縮み、前を歩いていたレオンを完全に射程圏内に置いていた。彼はそれをバックステップで避ける。尻尾が空を切った勢いのままこちらを向いた魔物は、レオンを嚙み砕くべく凶悪な牙を見せつけた。
その瞬間レオンが叫ぶ。
「エヴァ!」
「OK!」
絶妙な位置に下がっていたエヴァが声と同時に飛び出し、エサを大きな口腔へと投げ込む。即効性の睡眠薬をたっぷり擦り込んだ肉塊は、ストライク!と声を上げたくなるほどピンポイントに喉奥へと消えていった。
突如口内に入ってきたものを丸飲みしたマッドアリゲーターは、その口を閉じる間もなく泥の中に倒れた。
「…効いたな」
「だね。少し様子見る?」
「ああ」
傍に行こうとした私は2人の会話を聞いてその場に留まった。スノウたちも黙って待っている。
――5分経過
「これだけ効けばこの間に充分止めを刺せるね」
「ああ。そのうちもっと体のデカい奴で試すか」
「そうだね、大きさや量で効き目が変わるかもしれないし」
魔物から目を離さずにそう話し、レオンが剣で止めを刺すと巨体は消え去った。そこで私たちも近くへ行く。
「さすがキラの睡眠薬、効き目抜群だったな」
「ホントだよ。でも頻繁に使うのは控えないと、全然出番が無いから運動不足になりそうだ」
「ふふ、良かったちゃんと効いてくれて」
私は毒と睡眠薬も複製して多めに常備しておこうと決めた。
■
最下層である地下17階の上にはセーフティーゾーンがある。ここは休憩所兼待機場所だ。ボスの居るフロアには一組ずつしか降りられない。下り階段前に扉があり、前に入った冒険者が居なくならないと開かない仕組みになっているのだ。攻略出来れば別の扉が開き、魔物と戦うことなく地上へ出られる道を通れる。だが途中で断念する場合はセーフティーゾーンへ戻るしかなく、もれなく周囲からバカにされる事になってしまう。
私たちが着いたのは16時頃。そこには3組のパーティーが居たが上のセーフティーゾーンで見た顔は無かった。到着する時間によっては一晩休んでからボスに挑む冒険者もいるようだが、私たちはこのまま行くので扉前の列に並ぶ。他の3組のうち1組は明日挑戦するようで扉近くにテントを張っていた。休憩組は別に列を作るらしい。
「腹ごしらえしておくか」
「そうだね」
(ごはん!ごはん!)
2人の言葉にお腹を空かせていたスノウが騒ぐ。まあ昼食抜きだったから仕方ないけどね。昨日は人の来ない場所を選んでちゃちゃっとランチ出来たのだが、今日はずっと地面が水か泥だったので諦めたのだ。
(はやくごはん!)
「はいはい」
ぴーぴー鳴いて急かされ、エヴァが出したテーブルに食事を並べる。といってもおにぎりやフライドチキンなど手で食べられる物ばかり。もちろんサニーとサックスにも準備したが、魔物は基本的に朝夕2食なので2頭とも大人しくしている。スノウの場合神獣だからなのか、はたまた個性なのかは今のところ不明です。
「キラは先にアイスコーヒー飲む?」
「うん、飲みたいな」
「フフ…そう言うと思ったよ。はい」
「ありがとう」
私は手渡されたグラスを傾けて乾いた喉を潤した。
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