異世界ライフは前途洋々

くるくる

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98.可愛い後輩へ

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 翌日の午前中は予定通り買い物に行った。お目当ては港町ならではの海産物。ヴェスタにも売ってはいたが足の早い魚などはやはり現地でないと手に入らない。

 お店を回っていると彼方此方で露店でソープを買ってくれた女性に会い、皆綺麗になった髪を見せながら嬉しそうにお礼を言ってくれる。そんな街の人たちの笑顔を見ていると売って良かったと思えた。後はギルドが上手く販売してくれるのを祈るばかりです。

 そんな感じで思っていたよりも買い物に時間がかかってしまい、帰宅したのは昼を回った頃だった。

 いつもより若干遅め昼食を済ませた後はそれぞれの製作に取り掛かる。今から私が作る食材は豆腐。実はカルコに来る前から海水が手に入ったら作ろうと思っていたので、豆腐箱はすでに作ってもらってある。実際に豆腐を手造りしたことはないけれど、作ってみたかったので手順などは以前ネットで調べたことがあった。

 さて始めよう。私は張り切って豆腐作りに挑んだ。

 が、結果は失敗だった。にがりの成分抽出は問題なかったが最終段階が上手くいかなかった。固まらなかったのだ。

 そういえば天然のにがりを使った豆腐作りは難しいと調べた時に読んだ気がする。残念…でもにがりは料理にも使えるし、また挑戦しよう。はあ…。



 その夜、失敗して落ち込む私をレオンとエヴァが慰めてくれました。…そりゃもう色んな方法で。











 出発を明後日に控えた今日は昼過ぎに商業ギルドへ行き、その後シュカたちと食事することになっている。午前中レオンとエヴァは昨日の製作の続きをし、豆腐を一旦諦めた私は船で食べる物を作り置きしていた。船の中にも一応食堂があるようなのだが、やはり携帯食を持参して食べる人が多いのだとか。これは乗船の申し込みをした時に聞いてきたのだ。

 まあ船で食べる食事と言っても汁物は避けようかなと思うくらいで後はいつもと大して変わらない。明日も時間があるから、ちょっとしたおつまみと念のための酔い止めを調合する予定です。




 午後。準備をある程度終えて約束通り商業ギルドへ。ギルマスの執務室でに通され、取引が始まった。



 今回のように条件付きの取引が行われる際は誓約書の作成が必要になる。その内容はギルドと当人たちのカードに記録され、破られた場合は相応の処罰が下る。取引相手がギルドの場合でも同様の誓約書が要るし、違反があれば罰せられる。商人は信用が大事、一度誓約違反で罰などくらえば除名にならなくとも商いはやっていけない。誓約書の効力は大きいのだ。



 互いに条件を確認し、誓約書を隅々までチェックして3人のサインを入れる。メモルさんはマスターなので魔印を押す。誓約書の内容をカードに記録した後は代金を受け取って終わりだ。

「条件を飲んでいただいてありがとうございました」
「お礼を言うのは僕の方だ。君たちの出した条件は街人の生活を豊かにする為には必要なもの、無ければソープの価格高騰は時間の問題だっただろう」

 エヴァがお礼を言うとメモルさんは人の好さそうな笑顔を浮かべてそう返した。

「その分利益は減りますが良いのですか?」
「僕だってイチ商売人だから利益は上げたい。でもギルドマスターとしては街人の生活の方が大切だよ。商人も冒険者も、街があるから商売が出来るし依頼があるんだ。それにね、人々の生活が豊かになれば街も豊かになり、結局は商人も冒険者も得をするのものさ」

 自分の利益より人々の生活。私は当たり前のようにそう言える彼がカルコの商業ギルドマスターで良かったと思った。レオンとエヴァも同じだったようで、彼の言葉を聞いて微笑んでいた。

「…そうですね。では、後はよろしくお願いします」
「ああ、任せてくれ」

 私たちは安心して商業ギルドを後にした。




 外へ出るとサニーとサックスのところにシュカたちが来ていた。今日はスノウも外に居たのでリランが手に乗せてにやにやしている。

「おう、来てたのか」

 レオンが声を掛けると一斉に振り向く。

「はい」
「これから教会に行くつもりなんだが」
「教会ですか?」
「うん。そうだ、このまま一緒にコテージへ来るなら教会へ案内してくれると嬉しいだけど」
「はい、もちろんです。あっちですよ」

 それから彼らの案内で教会でお祈りを済ませ、そのままコテージへと移動した。











 夕食を終えた後、レオンが切り出す。

「お前らにやる物がある。エヴァ」
「うん」

 声を受けてエヴァが布袋を出す。

「これはバイト代、それとオマケで店に出した商品。遅くなってごめんね、一緒に渡した方が良いと思ってさ」
「え…一緒?」

 意味が分からなくてキョトンとする3人。私たちは視線を交わしてから頷き、まずはレオンがある物をシュカに差し出した。

「これは俺が前に使ってた装備だ。サイズは調節してある。防御よりスピードを重視してあるが中級で討伐する魔物相手なら防げるだろう。それにシュカはメインが双剣だからちょうど良いんじゃないか?」
「…」

 ポカンするシュカ。続いてエヴァがメイズに渡す。

「オレのも前に使ってた物だけど、ディフェンダーのメイズ用に手を加えてある。防御力が高い割には動きを制限されなくて使い勝手が良いと思うよ」
「…」

 こちらも同じ表情。最後は私からリランに。

「リランには私のと同じローブ。防御力も結構あるし肌触りも良いよ」

 これらはシュカたちに渡そうと昨日と今日とで2人が手直ししたものだ。私はお古としてあげられる物がないのでディア革ローブを複製した。

「…姐さんとお揃い…嬉しいです!ありがとうございます!」

 彼女も暫し驚いていたがすぐに覚醒して声を上げた。

「でもでも、バイト代かてホンマは要らんのです。ウチらが手伝いたかっただけなんですから。その上装備まで…なんや恵まれずぎててコワイですわ」
「手伝ってもらって本当に助かったし、バイト代は貰ってくれなきゃ困るな。それに装備だって今は使ってないお古だよ?」
「そうそう、後輩におさがりあげただけ。ね、レオン?」
「ああ。深く考えねえで貰っとけ」

 それを聞いた3人は顔を見合わせ、揃って頭を下げる。

「「「ありがとうございます!」」」

 その後早速貰った装備を着けて着心地や動きを確かめているうちに、いつの間にか戦い方の指南まで始まった。シュカたちも、レオンとエヴァもとても楽しそう。もちろん私も。

 明るい声は遅くまで辺りに響いていた。

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