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95.露店最終日
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4日目は前日と同等、またはそれ以上の売れ行きで多めに複製した商品も売り切れ寸前だった。そして今日は5日目、露店最終日である。その旨は看板にも記してあった。
旅商人の露店は3日~5日間が普通でそれ以上はあまりない。長期になれば商品管理や在庫の面で色々な不都合や面倒が出てくるのだ。私たちにはそういう問題はないのだが、品物が売れれば売れるほどどうやって数を揃えたかなどの疑問が浮かぶ。ギルドに有らぬ疑惑を持たれるのも面倒なので、通常と同じ5日間で営業を終える事にした。
「レックスの露店が無くなったら困るわぁ。ヘアソープ使い切ってももう買い足せないじゃない」
「ホントよぉ、お店持たないの?」
「絶対成功するわよねえ?」
奥様3人組が残念そうに言う。こういう時私は何と答えたらいいか困ってしまうのだけど、決まってエヴァがフォローしてくれる。
「すみません、奥様方。オレたちは旅が好きなんですよ」
「…お、惜しいけど仕方ないわね」
「旅商人ですものねえ…?ほほほ」
「そうね…本当に惜しいけど」
世の多くの女性を虜にするであろう彼の必殺スマイルに頬を赤らめる奥様達。この5日間こういう光景よく見たな…。
「「ありがとうございました」」
エヴァと私は声を揃えて奥様達を見送った。
一方、カウンター横に置かれたテーブルの周囲にも人だかりが出来ていた。そこに居るのはスノウ。近くで愛でたいというリクエストが多く寄せられたため、おさわり禁止というルールの元今日だけ特別に設置された。ただ放っておくとずっと離れない人もいるため、一定時間で入れ替えという措置まで取られている。
「ああ、スノウちゃんとも会えなくなるのね…」
「あたしの癒しが…」
「…スノウちゃん、可愛い…」
スノウは水の張られた桶で水浴びしたり、おやつ用に置かれたフルーツを食べたりと、視線など気にすることなく気ままに楽しんでいる。
「泳ぎが上手いのね、スノウちゃんは水鳥かしら」
「真っ白な水鳥なんて聞いたことないわよ」
「きっと北の大陸から来たのよ」
「じゃあ雪の鳥かしら?素敵ね」
こうしてスノウを愛でているお客さんを、時々リランが羨ましそうに見ていた。
その後も最終日という事で買い足すお客さんも多く、商品はまさに飛ぶように売れて終了時間前に完売。昨日よりも多くの数を揃えたのだがそれでも足りなかったのだ。売り切れ後に来たお客さんには謝るしかなくて申し訳なかった。
こうして旅商人版レックスの初露店は大盛況のうちに幕を閉じた。
■
その夜はコテージで打ち上げ的な飲み会をした。お酒は成人しないと飲めないので19才のリランはソフトドリンクだ。私たちはいつもワインやウィスキーが多いが、今日はビールも用意してある。おつまみも多種多様なものを出して好きなものを取って食べてもらっていた。
コテージの周囲に他の家はなく、多少テラスで騒いでも問題ない。スノウは疲れて眠ってしまったがサニーとサックスはまだ元気いっぱいで、打ち上げの雰囲気を感じ取って楽しそうにしている。2頭はこの3日間ですっかりシュカたちに馴れ、彼らが食べているものを狙ってちょっかい出したりしてじゃれあっていた。
この3日間といえば、シュカとメイズが手伝ってくれたおかげで金属製のタープテントやコテージの周囲を囲う木製の柵も完成。シュカが獲得を目指している大工スキルはまだ取れないが、筋が良いので近いうちに取れるだろうとレオンが言っていた。
そしてそろそろお開きになろうという時、シュカが思い切ったように聞いた。
「みなさんはいつ…南の大陸へ発つんですか?」
3人でその質問に顔を見合わせる。実はもう大体決まっていた。ギルドにレシピを売るつもりなのであちらの出方次第でもあるのだが、長引く心配は少ない。ヴェスタでショーケースなどのレシピを売った記録がカードに残っているからだ。本部のあるヴェスタでの取引記録は、ここでの売買を円滑に進めるのにはもってこいの材料なのだ。1日や2日待たされるかもしれないが、その間に発つ準備を進めておけば良い。
そして南の大陸までの交通手段である船は5日後に出る。私たちはその便に乗るつもりだ。
「5日後だ、次の便に乗る」
「5日後…そうですか…」
シュンとしてしまうシュカたち。
「今生の別れみてえな顔すんな。縁がありゃまた何処かで会う」
「…縁」
「そう、縁。人の出会いは不思議なものだよ。時として奇跡のような出会いがある」
レオンとエヴァは『きっとまた会える』なんて気休めは口にしなかった。何故なら、私と彼らの出会いからして奇跡だったから。縁や運命というものは確かに存在するのだと、身をもって体験しているから。
「さ、そろそろお開きにしようか」
「…はい」
もう結構な時間だ。エヴァが閉会を宣言するが彼らの表情は冴えない。それを見たレオンが苦笑しながらエヴァと視線を交わし、口を開く。
「今日は男同士で寝るか?」
「え、良いんですか?」
「まあ、たまには良いかもね。キラとリランちゃんは女同士で寝てくれる?」
「うん、良いよ」
飲み会を終えれば遅くなるだろうし、元々泊まることにはなっていたのだ。男同士でなければ出来ない話もあるだろうから私としては構わない。たまには女同士というのも楽しい。
その後チャチャッと後片付けを終わらせ、男はリビング、女はベッドルームへと移動した。
旅商人の露店は3日~5日間が普通でそれ以上はあまりない。長期になれば商品管理や在庫の面で色々な不都合や面倒が出てくるのだ。私たちにはそういう問題はないのだが、品物が売れれば売れるほどどうやって数を揃えたかなどの疑問が浮かぶ。ギルドに有らぬ疑惑を持たれるのも面倒なので、通常と同じ5日間で営業を終える事にした。
「レックスの露店が無くなったら困るわぁ。ヘアソープ使い切ってももう買い足せないじゃない」
「ホントよぉ、お店持たないの?」
「絶対成功するわよねえ?」
奥様3人組が残念そうに言う。こういう時私は何と答えたらいいか困ってしまうのだけど、決まってエヴァがフォローしてくれる。
「すみません、奥様方。オレたちは旅が好きなんですよ」
「…お、惜しいけど仕方ないわね」
「旅商人ですものねえ…?ほほほ」
「そうね…本当に惜しいけど」
世の多くの女性を虜にするであろう彼の必殺スマイルに頬を赤らめる奥様達。この5日間こういう光景よく見たな…。
「「ありがとうございました」」
エヴァと私は声を揃えて奥様達を見送った。
一方、カウンター横に置かれたテーブルの周囲にも人だかりが出来ていた。そこに居るのはスノウ。近くで愛でたいというリクエストが多く寄せられたため、おさわり禁止というルールの元今日だけ特別に設置された。ただ放っておくとずっと離れない人もいるため、一定時間で入れ替えという措置まで取られている。
「ああ、スノウちゃんとも会えなくなるのね…」
「あたしの癒しが…」
「…スノウちゃん、可愛い…」
スノウは水の張られた桶で水浴びしたり、おやつ用に置かれたフルーツを食べたりと、視線など気にすることなく気ままに楽しんでいる。
「泳ぎが上手いのね、スノウちゃんは水鳥かしら」
「真っ白な水鳥なんて聞いたことないわよ」
「きっと北の大陸から来たのよ」
「じゃあ雪の鳥かしら?素敵ね」
こうしてスノウを愛でているお客さんを、時々リランが羨ましそうに見ていた。
その後も最終日という事で買い足すお客さんも多く、商品はまさに飛ぶように売れて終了時間前に完売。昨日よりも多くの数を揃えたのだがそれでも足りなかったのだ。売り切れ後に来たお客さんには謝るしかなくて申し訳なかった。
こうして旅商人版レックスの初露店は大盛況のうちに幕を閉じた。
■
その夜はコテージで打ち上げ的な飲み会をした。お酒は成人しないと飲めないので19才のリランはソフトドリンクだ。私たちはいつもワインやウィスキーが多いが、今日はビールも用意してある。おつまみも多種多様なものを出して好きなものを取って食べてもらっていた。
コテージの周囲に他の家はなく、多少テラスで騒いでも問題ない。スノウは疲れて眠ってしまったがサニーとサックスはまだ元気いっぱいで、打ち上げの雰囲気を感じ取って楽しそうにしている。2頭はこの3日間ですっかりシュカたちに馴れ、彼らが食べているものを狙ってちょっかい出したりしてじゃれあっていた。
この3日間といえば、シュカとメイズが手伝ってくれたおかげで金属製のタープテントやコテージの周囲を囲う木製の柵も完成。シュカが獲得を目指している大工スキルはまだ取れないが、筋が良いので近いうちに取れるだろうとレオンが言っていた。
そしてそろそろお開きになろうという時、シュカが思い切ったように聞いた。
「みなさんはいつ…南の大陸へ発つんですか?」
3人でその質問に顔を見合わせる。実はもう大体決まっていた。ギルドにレシピを売るつもりなのであちらの出方次第でもあるのだが、長引く心配は少ない。ヴェスタでショーケースなどのレシピを売った記録がカードに残っているからだ。本部のあるヴェスタでの取引記録は、ここでの売買を円滑に進めるのにはもってこいの材料なのだ。1日や2日待たされるかもしれないが、その間に発つ準備を進めておけば良い。
そして南の大陸までの交通手段である船は5日後に出る。私たちはその便に乗るつもりだ。
「5日後だ、次の便に乗る」
「5日後…そうですか…」
シュンとしてしまうシュカたち。
「今生の別れみてえな顔すんな。縁がありゃまた何処かで会う」
「…縁」
「そう、縁。人の出会いは不思議なものだよ。時として奇跡のような出会いがある」
レオンとエヴァは『きっとまた会える』なんて気休めは口にしなかった。何故なら、私と彼らの出会いからして奇跡だったから。縁や運命というものは確かに存在するのだと、身をもって体験しているから。
「さ、そろそろお開きにしようか」
「…はい」
もう結構な時間だ。エヴァが閉会を宣言するが彼らの表情は冴えない。それを見たレオンが苦笑しながらエヴァと視線を交わし、口を開く。
「今日は男同士で寝るか?」
「え、良いんですか?」
「まあ、たまには良いかもね。キラとリランちゃんは女同士で寝てくれる?」
「うん、良いよ」
飲み会を終えれば遅くなるだろうし、元々泊まることにはなっていたのだ。男同士でなければ出来ない話もあるだろうから私としては構わない。たまには女同士というのも楽しい。
その後チャチャッと後片付けを終わらせ、男はリビング、女はベッドルームへと移動した。
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