異世界ライフは前途洋々

くるくる

文字の大きさ
上 下
108 / 213

95.露店最終日

しおりを挟む
 4日目は前日と同等、またはそれ以上の売れ行きで多めに複製した商品も売り切れ寸前だった。そして今日は5日目、露店最終日である。その旨は看板にも記してあった。

 旅商人の露店は3日~5日間が普通でそれ以上はあまりない。長期になれば商品管理や在庫の面で色々な不都合や面倒が出てくるのだ。私たちにはそういう問題はないのだが、品物が売れれば売れるほどどうやって数を揃えたかなどの疑問が浮かぶ。ギルドに有らぬ疑惑を持たれるのも面倒なので、通常と同じ5日間で営業を終える事にした。

「レックスの露店が無くなったら困るわぁ。ヘアソープ使い切ってももう買い足せないじゃない」
「ホントよぉ、お店持たないの?」
「絶対成功するわよねえ?」

 奥様3人組が残念そうに言う。こういう時私は何と答えたらいいか困ってしまうのだけど、決まってエヴァがフォローしてくれる。

「すみません、奥様方。オレたちは旅が好きなんですよ」
「…お、惜しいけど仕方ないわね」
「旅商人ですものねえ…?ほほほ」
「そうね…本当に惜しいけど」

 世の多くの女性を虜にするであろう彼の必殺スマイルに頬を赤らめる奥様達。この5日間こういう光景よく見たな…。

「「ありがとうございました」」

 エヴァと私は声を揃えて奥様達を見送った。




 一方、カウンター横に置かれたテーブルの周囲にも人だかりが出来ていた。そこに居るのはスノウ。近くで愛でたいというリクエストが多く寄せられたため、おさわり禁止というルールの元今日だけ特別に設置された。ただ放っておくとずっと離れない人もいるため、一定時間で入れ替えという措置まで取られている。

「ああ、スノウちゃんとも会えなくなるのね…」
「あたしの癒しが…」
「…スノウちゃん、可愛い…」

 スノウは水の張られた桶で水浴びしたり、おやつ用に置かれたフルーツを食べたりと、視線など気にすることなく気ままに楽しんでいる。

「泳ぎが上手いのね、スノウちゃんは水鳥かしら」
「真っ白な水鳥なんて聞いたことないわよ」
「きっと北の大陸から来たのよ」
「じゃあ雪の鳥かしら?素敵ね」

 こうしてスノウを愛でているお客さんを、時々リランが羨ましそうに見ていた。




 その後も最終日という事で買い足すお客さんも多く、商品はまさに飛ぶように売れて終了時間前に完売。昨日よりも多くの数を揃えたのだがそれでも足りなかったのだ。売り切れ後に来たお客さんには謝るしかなくて申し訳なかった。

 こうして旅商人版レックスの初露店は大盛況のうちに幕を閉じた。











 その夜はコテージで打ち上げ的な飲み会をした。お酒は成人しないと飲めないので19才のリランはソフトドリンクだ。私たちはいつもワインやウィスキーが多いが、今日はビールも用意してある。おつまみも多種多様なものを出して好きなものを取って食べてもらっていた。




 コテージの周囲に他の家はなく、多少テラスで騒いでも問題ない。スノウは疲れて眠ってしまったがサニーとサックスはまだ元気いっぱいで、打ち上げの雰囲気を感じ取って楽しそうにしている。2頭はこの3日間ですっかりシュカたちに馴れ、彼らが食べているものを狙ってちょっかい出したりしてじゃれあっていた。

 この3日間といえば、シュカとメイズが手伝ってくれたおかげで金属製のタープテントやコテージの周囲を囲う木製の柵も完成。シュカが獲得を目指している大工スキルはまだ取れないが、筋が良いので近いうちに取れるだろうとレオンが言っていた。




 そしてそろそろお開きになろうという時、シュカが思い切ったように聞いた。

「みなさんはいつ…南の大陸へ発つんですか?」

 3人でその質問に顔を見合わせる。実はもう大体決まっていた。ギルドにレシピを売るつもりなのであちらの出方次第でもあるのだが、長引く心配は少ない。ヴェスタでショーケースなどのレシピを売った記録がカードに残っているからだ。本部のあるヴェスタでの取引記録は、ここでの売買を円滑に進めるのにはもってこいの材料なのだ。1日や2日待たされるかもしれないが、その間に発つ準備を進めておけば良い。

 そして南の大陸までの交通手段である船は5日後に出る。私たちはその便に乗るつもりだ。

「5日後だ、次の便に乗る」
「5日後…そうですか…」

 シュンとしてしまうシュカたち。

「今生の別れみてえな顔すんな。縁がありゃまた何処かで会う」
「…縁」
「そう、縁。人の出会いは不思議なものだよ。時として奇跡のような出会いがある」

 レオンとエヴァは『きっとまた会える』なんて気休めは口にしなかった。何故なら、私と彼らの出会いからして奇跡だったから。えにしや運命というものは確かに存在するのだと、身をもって体験しているから。

「さ、そろそろお開きにしようか」
「…はい」

 もう結構な時間だ。エヴァが閉会を宣言するが彼らの表情は冴えない。それを見たレオンが苦笑しながらエヴァと視線を交わし、口を開く。

「今日は男同士で寝るか?」
「え、良いんですか?」
「まあ、たまには良いかもね。キラとリランちゃんは女同士で寝てくれる?」
「うん、良いよ」

 飲み会を終えれば遅くなるだろうし、元々泊まることにはなっていたのだ。男同士でなければ出来ない話もあるだろうから私としては構わない。たまには女同士というのも楽しい。

 その後チャチャッと後片付けを終わらせ、男はリビング、女はベッドルームへと移動した。

しおりを挟む
感想 170

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない

一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。 クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。 さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。 両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。 ……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。 それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。 皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。 ※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?

すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。 一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。 「俺とデートしない?」 「僕と一緒にいようよ。」 「俺だけがお前を守れる。」 (なんでそんなことを私にばっかり言うの!?) そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。 「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」 「・・・・へ!?」 『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!? ※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。 ※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。 ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

処理中です...