異世界ライフは前途洋々

くるくる

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94.台風一過

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 コテージに帰って夕食を食べた後、明日の相談。

 その結果明日はエヴァ、私、リラン組とレオン、シュカ、メイズ組に分かれる事になった。レオンたちはコテージで大工と鍛治仕事をする。早速しっかりとしたターフテントを作る為だ。スノウは店に行き、サニーとサックスはコテージに残る。

 話し合いが終わった時はもう時間も遅く、結局彼らはそのまま泊まる事になった。




 翌朝、私とエヴァが朝食の支度をし始めた時3人が起きて来た。挨拶を交わすとシュカとメイズは外で朝練中のレオンの元へ。リランは手伝うと言って残ったのだが…オレンジ色の髪がぴょこんと跳ねてネコミミみたいになっている。可愛らしくて思わず笑顔になるとエヴァもフフ、と笑う。するとエヴァの肩にいたスノウが彼女の頭に飛んで行き、首を傾げて立った髪を見る。

(おもしろいかみなの。なんでたったの?ひっぱっていい?)
「引っ張ったらダメだよ」
(…だめなの?)

 エヴァに注意されて残念そうにするもののまだ興味津々である。当のリランはといえば、至福の表情で固まっていた。

「ふふっ…リラン、髪跳ねてるよ?」
「ほぁ!またですか…しょっちゅう跳ねよるんです、ウチの髪…直してきます」
「うん。スノウ、こっちおいで」
(…はいなの)

 スノウが名残惜しそうしながら戻ってくると、彼女も残念そうにしてからバスルームの方へ行った。











 10時頃に露店の場所に到着し、準備を終えて早めのお昼ご飯を食べた。

「美味しかったです。食事もお風呂も…お世話になりっぱなしですね。ありがとうございます」
「手伝ってもらうんだし気にしないで」

 お風呂に入ってもらったのは、今日からヘアソープを販売する売り子が使っていなかったら説得力が無いから。もちろんそんな商売利益だけが理由ではないけど。

「それに今日あたりから忙しくなるはずだから助かるよ」
「そうですか?ならウチがんばります!」
「よろしくね。じゃあリランもこれ着けて?」

 彼女に私たちと同じレックスのロゴ入りエプロンを渡す。

「はい。…わ、これレックスって名前入ってるんですね!カッコエエ…さすがや…って、スノウちゃんまで同じ布着けとる、めっちゃ可愛い!」
(おなじなの!えっへん!)

 小さな胸を張るスノウを見てますますデレるリラン。

「さあ、そろそろだよ」
「うん」
「はい!」
(はいなの!)

 エヴァの声にそれぞれ返事する。3日目の営業開始です。




「オールセットちょうだい」
「わたしも」
「あたしはソープセットよ」

 エヴァの言っていた通り、今日は開店直後から引っ切り無しにお客さんが訪れて品物を買っていってくれている。それもミニではなく通常サイズだ。

 リランは元気良く接客している。在庫がなくなりそうになるとサッと馬車から補充し、頼まなくても自分から動いてくれていた。私はお客さんに説明を求められると手が離せなくなるし、正直とても助かっている。偶に彼女の顔見知りが来てリランの髪の変化に驚き、喜んで買っていく。ソープケースも順調に売れていた。

 交代での休憩を挟みつつ忙しく働いていると時間が経つのも早い。夕方にはレオンたちも合流してテントの幕を外し、補充などを手伝ってもらった。




 そんなこんなで営業時間も残りわずかとなってお客さんも途切れた時、1人の女性が喜び勇んで店にやってきた。

「あなたのおかげよ!ありがとう!」

 そう言った顔を見て分かった。彼女は初日の一番最初にヘアソープを買ってくれたお客さんだ。女性は続ける。

「ここに来た時、わたしずっと付き合ってた恋人と大喧嘩の最中だったのよ」

 その大喧嘩の原因が彼女の髪に対する彼の発言にあったらしい。潮風で傷んだ髪を気にしていたら『髪なんてどうでもいい』と言われて憤慨したのだとか。そんな時に公衆浴場で私たちの会話を聞き、翌日リランの髪を見て驚いた。

「あの日早速使ってみたら…見てよほら!あんなに傷んでたのに治ったのよ!次の日も使ったらサラサラ!だから彼にこの髪を見せつけに行ったの。そしたら、随分反省したみたいで謝ってくれて、髪も綺麗だって褒めてくれて、それでプロポーズしてくれたの!」

 手を胸の前で握ったお祈りポーズで話す、というより叫んでいる彼女の話は後半少し支離滅裂気味だったけど、ヘアソープがきっかけでゴールインしたのは分かった。

「それはおめでとうございます」
「ありがとう!そのヘア…「ユン…!急に、走って、いかないで、くれよ…はぁ、はぁ」」

 さらに続けようとした彼女…ユンさんというらしいが…の声に割り込んだのは1人の男性。彼女より息切れが激しい。

「はぁ…何で逃げるんだ?返事を聞いてないよ。断るにしたってその態度は無いんじゃないか?」

 …え?返事を聞いてない…?

「あら、まだ返事してなかった?ごめんなさい」
「…」

 謝られた彼は目に見えて青くなる。

「いやだ、そうじゃないわよ。今のごめんなさいは返事しないで走ってきちゃった事に対してよ。プロポーズならもちろん受けるわ、あなたを愛してるもの。ありがとう、凄く嬉しい」
「そ、そう…よよ、良かった…」

 人前でハッキリ愛を告げた彼女の言葉に、今度は真っ赤になる男性。忙しい。

「ねえ、聞いてよ!彼女が私の髪の恩人なの、延いてはわたしたちの恩人なのよ!あなたもお礼を言って?」
「え、お、恩人?そうか…あ、ありがとうございます」
「いえ…この度はおめでとうございます」
「あ、ど、どうも…その、お騒がせして申し訳ありませんでした。彼女、ユンは少し思い込みが激しい直情型なんです。でも悪気がある訳ではないので…」

 直情型で突っ走りやすい彼女の抑止役が彼、という事だろうか?

「いいえ、喜んでいただけて私たちも嬉しいです。お幸せに」
「ありがとうございます。…皆さんお騒がせしました、失礼します。ほら、行こう」
「ええ。では失礼します」

 ユンさんは漸く落ち着いたのか、私たちに頭を下げてから彼と腕を組んで歩き出す。

「…ねえ、さっきの直情型ってわたしのこと?わたしってそんなに突っ走ってる?」
「え…いや…その…」

 自覚があるのかないのか、笑っているのにどこかコワイ。

 …ガンバレ彼氏。

「「「「「…」」」」」

 まさに台風一過。私たちだけでなく通りがかりの人たちまでポカン、としている。

「…あれは完全に尻に敷かれるね」
「…だろうな」

 レオンとエヴァがボソッと呟いた。

 私たちはこうして無事?3日目の営業を終えました。


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