異世界ライフは前途洋々

くるくる

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69.旅路

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 私たちは今南に向かって馬車を走らせている。目的地はカルコという港町で、そこから船で南の大陸へ行く。何故南の大陸かというと、それは単純に一番近いから。旅をするなら普通は王都にも行くのだろうが、王都はヴェスタからずっと西にあってその先に目ぼしい街もない。それにジャスティン王子の事もある。面倒が無いとは言えないので避けて他国へ行くことにした。

 カルコまでは順調に行けば20日前後で着くが別に急ぐ訳ではない。中継点となる街や村も道中にあるし、その辺り特有の素材採取や魔物討伐などもしながら進む予定だ。

 新しい馬車内にイスなどは無く、床にはゴールドボアの毛皮と大小いくつかのクッションがあるだけ。でも馬車自体の乗り心地は悪くない。毛皮も意外と毛足が長く、浄化したらふかふかの金色絨毯みたいになった。スノウが毛皮の上にいると体が半分埋まって模様みたいに見え、毛をもさもさとかき分けながら歩く姿はものすごく、ものすごく、可愛い。今のままでも充分快適なのだが、夫2人は馬車を少しずつ改造すると張り切っている。

 昼間は街道を進み、夕方になるとコテージを出して休む。皆野営は大抵街道脇の比較的安全な場所で行うため、他人同士が視界に入る範囲に居る事もしばしばある。手段は野宿かテントで食事はほぼ携帯食、良くて現地調達した肉だ。周囲の人々は、私たちが突如出現した馬小屋付きコテージで寝泊まりするのを驚愕の表情で見つめていた。











 ヴェスタを発って6日目。

 午後からポツポツと降り始めた雨は夕方には本降りとなった。私たちは早めにコテージに入って休んでいた。

「この感じなら明日も雨だよね、1日ここに留まろうか」
「そうだな、のんびり行こうぜ。キラはそれで良いか?」

 夕食後のコーヒーを飲みながら明日の相談する。これは旅に出てから何気なしに始まった事だけどすでに日課になりつつあった。

「うん、良いよ」
「スノウもいいよ」
「フフ、全員一致で決まりだね。自由行動で良いんだよね?」
「ああ。俺はキッチンカウンター終わらせる」
「ならオレはオーブン完成させようかな」

 コテージ内はまだ完成していない。できるだけ自分たちで作っているため、必要最低限のものだけ出発に間に合わせたのだ。現在あるのはキッチンのシンクに水道、コンロ、ベッド、絨毯、テーブル、ソファー、バスルームのバスタブやチェアー。ベッドと絨毯、ソファーは購入したものだ。

「キラはどうするんだ?」
「私は調合。作ってみたいものがあるの」
「へえ、何が完成するか楽しみだな」
「魔除け香の事もあるしな」

 2人が前の調合を思い出して笑う。確かに薬かどうかすら定かでない物を作ってしまったけど…今回も自分で使う物だから手加減せずに最高級を目指します。



 件の魔除け香は玄関の外に置かれている。状態が良い物ほど効果範囲も広いので、コテージ周辺は万全のセキュリティー。そしてキラの施したラベンダの香りが周囲の旅人まで癒している事をレックスの面々は知らない。



「さて、お風呂入ろうか」
「きのおふろはいるの!」

 エヴァが立ち上がるとスノウが嬉しそうに言う。コテージのバスタブは木で出来ていていい香りがする。スノウはこの香りがお気に入りで毎晩のお風呂を楽しみにしていた。もちろん私も。旅で毎晩入れるってすごい贅沢だよね。

 みんなでお風呂に入った後、スノウはこれまた超お気に入りのロフトに自分で飛んでいって眠る。私たちは少しだけお酒を楽しんでからベッドへ。当然の如くエッチに突入するのだけど、さすがに新婚初夜の時のような無茶はしませんよ。











 翌日、やはり雨はまだ降っていた。

 6月も三分の二を過ぎたこの時期、この辺りは雨が多いのだそう。梅雨のようなものかな?とも思ったけど、不快なジメジメ感は少なくて恵みの雨という感じだ。元々雨が嫌いじゃない私は、雨音をBGMにして気分良く調合をしていた。

 今日作りたいのは化粧水や石鹸、シャンプーなどのボディケア用品。それぞれこの世界にもあるし使えない訳じゃない。でもやはり現代日本とは雲泥の差があった。浄化を掛ければすっきりサラサラにはなるけれど、実際洗うと気分が違う。

 この世界では石鹸で髪も洗う。原料はユザの実という植物と水、それにオイルが加えられる事もあるがそれだけ。ここには前世と似た植物も多いが、当然存在しなかった物も多々ある。ユザの実もそうだ。

 作り方だが、まずはユザの実の皮を剥き、中身を乾燥して磨り潰す。このままでも洗濯には使える。細かくなったらここに水を加える。注意するのは水の量くらいであとは固まれば終わり。スキルなどなくても作れるくらい簡単なのに、より良いものを作ろうとしないのは生活魔法を持っている人が多いからだろう。

 私はアレンジします。水は浄化済みのもの、オイルは質の良いオリーブオイル。そして髪に良いハーブをいくつかブレンドして加える。加えて良い物がどうか分かるのはたぶんスキルの効果、本当に便利です。これを魔力を込めながら弱火でゆっくり温め、冷ましたら出来上がり。オイルや水の量を増やしたのでとろみのある液体になるかと思っていたが、固形になってしまった。

 名称は髪用石鹸とかになるのかな?せめてヘアソープとかにしてほしい。

 昼食を挟んで続きをする。

 次は石鹸だが、これも同じように肌に良い植物などを加えて作った。化粧水は簡単で、これに手を加えて洗い流さないトリートメント的な物も出来上がった。その時、『ピンポン』と電子音。確認してみると薬師スキルの技、成分抽出(10)を獲得。素材から欲しい成分だけを抽出できる技のようだ。今度試してみよう。今は解析解析。



【名前】ヘアソープ
【種類】石鹸
【状態】最高
【備考】状態改善効果有り(最大)・状態維持効果有り(最大)・ハーブの香り



 あ、名前が希望通りになってる!オリジナルだから名付けまでできたのかな?これは嬉しい。

 続けて解析してみると、名前はやはり私の希望に添ったものになっていた。効果も期待通りだし、大成功と言って良いと思う。

 片付けも終えて時間を確認するともうすぐコーヒーブレイク兼スノウのおやつの時間。私はまだ作業中の2人に声を掛けに行った。




 今日のおやつはパウンドケーキでプレーンとチョコチップの2種類。スノウが食べ過ぎるといけないのでサイズは通常の半分以下だが、小さい分違う味を楽しめて中々良い。わざわざレオンに小さい型を作ってもらった甲斐があります。

「キラ、今日はどんなのが出来たんだ?」
「見たいな」

 2人に言われて作ったものをテーブルに出して説明する。

「化粧水は知ってるがヘアソープは初めて聞いたな」
「そうだね、髪専用か…キラの故郷に魔法は無いって言ってたけど、色々便利なものがあったんだね」
「だからこそ便利な物が作れたのかもな」
「うん、凄いね」
「ああ」
「ふふ、ありがとう」

 ふるさとを褒められるのはやはり嬉しい。

「…スノウかみない…からだのけもきれいになる?」

 夢中でおやつを食べていたはずのスノウが聞く。顔が食べかすだらけでチョコまで付いている。

「…くくっ、そう言えば髪はねえな」
「フフ、だね。でもスノウが石鹸の話を聞いてたのは予想外だな」
「スノウおふろすき。こしこしもすきなの」
「大丈夫、スノウの毛も綺麗になるよ。今夜早速使ってみようね」
「やったあ!なの!」

 喜んでバッと羽を広げるとパウンドケーキの屑が飛び散った。

「コラ、食いもんの前で羽広げんな」
「…ごめんなさいなの」
「ふふ、おいでスノウ。食べかす取ってあげる」
「はいなの」

 テーブルの上をちょこちょこ歩いて私の前まで来る。あぁ可愛い。

 こうして、小雨の降る中屋根付きテラスで楽しいひとときを過ごした。

 夕方までには2人の作業も終わり、カウンターとオーブンが完成。カウンターは私の希望通り北欧風で、明るい色合いの木製。収納も付いていて便利だし可愛い。オーブンは家電的魔道具なのでスキル持ちのエヴァによって最高級の物が出来上がった。細かく焼き加減を調節出来て時短もバッチリ、さすがです。

 これで作った料理をレオン作の銀食器で食べる、幸せで贅沢な時間が楽しみです。早速使ってみた石鹸とヘアソープも好評で、我が家では常時これを使うことになりました。

 そうそう、この数日間で私の危機察知スキルがDに、エヴァの生活魔法がBになりました。

 察知できる範囲は広がった気がするけれど他に違いは感じられない。もっと上がれば何か変化があるかな?今後に期待です。


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