異世界ライフは前途洋々

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68.新たな旅立ち

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 翌日の朝は体調もだいぶ良くなって怠さもほぼ残っていない。それでも2人の夫はとても過保護で午前中はベッドで過ごした。夜はお別れ会的な飲み会が行われたが、何故か場所は家の酒場で料理担当もエヴァ。私も手伝いながら参加したけれど、先に休めと言われて早々に部屋の方へ引っ込んだ。

 彼らは夜中まで飲んで食べて、楽しいひとときを過ごした。




 そして今日は冒険者ギルドへ申請しに来ていた。すでに届け出は済ませてあるが許可が下りるのに少々時間がかかる。酒場でクレーブスさんと話しながら待っていると統括からお呼びがかかった。部屋へ通され、挨拶を交わしてソファーに座るとロンワン統括が手元の書類を見てから言った。

「他国活動の申請…いつかこういう日が来るかもしれんと思っとったよ。予想より早いがの」

 統括は穏やかに微笑む。

「エヴァとレオンがこのヴェスタへきてもう10年以上経つんじゃのぅ。…旅は良い。儂も若い頃は世界中を回ったもんじゃ。…よいか?レックスの面々よ、存分に旅を楽しみ、様々な物をその眼で見て、耳で聞いて、肌で感じて、多くの経験を積んで自らの糧とするのじゃ。…そしてこれは儂個人の勝手な思いじゃが…願わくば…いつかこの街に帰ってきてほしい」

 彼の言葉はその表情と同様にとても優しく、まるで息子や孫にでも語りかけているように感じた。

「許可は出しとくよ。儂の魔印入りでな」
「…ありがとうございます」
「「ありがとうございます」」

 レオンが先に言い、頭を下げる。続いてエヴァと私も頭を下げた。



 魔印というのは前世でいうと実印に近い。機密書類のやり取りなどの重要な用途で使われるもので、この魔印があるとその者が認めた証となる。これを扱っているのは王族やマスター統括を始めとした各ギルドのマスター。通常はギルドの印が入っているだけでこの魔印がある許可証は少ない。その上マスター統括の魔印となればかなり珍しい。その効果も推して知るべし、である。



 その後商業ギルドでもランク変更の手続きを終え、買い出ししてから家へ帰った。





 ■





 最終チェックも済ませ、明日はいよいよ旅立ちの日。みんなでお風呂に入った後、レオンが細長いケースを取り出して言った。

「これは俺とエヴァで創ったアクセサリだ」

 彼がケースを開くと、そこには4組のアクセサリが並んでいる。菱形の石に銀色の上品な装飾が施されたもので、石は綺麗な金色、全体の大きさは1㎝弱。4組のうち1つは片方だけで大きさも5㎜くらいだ。とても素敵だけど、指輪でもピアスでもネックレスでもない。

「綺麗…でもこれ、どこに着けるの?」
「の?」

 ケースを覗いていたスノウも首を傾げる。何度見ても可愛い。

「これは魔装備の一種で、台座はミスリル、石はゴールドゴーレムの魔石だ」
「え…」
「どこに着けるか決まってるものじゃないんだ。魔力を込めると肌に張り付く仕組みになってて、その魔力の持ち主にしか装備できない」

 レオハーヴェンとエヴァントは平然として言っているが、これは素材も製造方法も出来具合も全て一級品だ。ミスリルはこの世界でも採掘量が少ない希少な鉱石だし、ゴールドゴーレムはS級の魔物で魔石の付加価値は測り知れない。製造方法もS級スキルを持つ2人だからこそ上手くいったようなものだ。

「ミスリルは魔力伝導率が良くて変形や変色もまず無い。魔石は防御力上昇効果と、弱いが全属性の魔法耐性がある」
「…す、すごい…」

 目の前にある物の高性能さに驚嘆していると2人は笑う。

「フフ…効果はオマケだよ。ここでは結婚したらお揃いのアクセサリを身に着ける人が多いんだ。なら素材も手段もあるし、オレたちで創ろうって事になったんだよ」
「オマケ…」

 この性能をオマケと言える夫たちは充分チートだと思います。でもそれが霞むくらい…お揃いのアクセサリは嬉しい。

「早速着けよう」
「スノウのは?スノウのもある?」

 エヴァが私の手に1組乗せるとスノウが羽を広げて聞く。

「ああ、あるぜ。これがお前のだ。自分の魔力を込めてみろ」
「やったあ!なの!やってみるの!」

 スノウはアクセサリを口に咥えて始める。私たちも魔力を込めた。着ける場所は両手、両足、両耳などどこでも良いという事だったけど、話し合った結果耳に着けることに。スノウは胸のあたりにした。

 鏡の前に行って耳朶に当てるとひたっと付いて違和感なく肌に馴染む。

「素敵…ありがとう、凄く嬉しい」

 後ろに来た2人にお礼を言ってちゅっとキスする。

「…似合うぜキラ」
「ますます可愛い奥さんになったよ」

 彼らもキスをくれる。するとスノウが飛んできてレオンの頭に止まり、ちっちゃな胸を張って言う。

「スノウもにあう?かわいい?」

 真っ白の体に金と銀の配色がとても合っている。

「凄く可愛いよスノウ」
「そうだね、似合うよ」
「ああ、良いな」
「えへへ~なの」

 最後の夜は笑顔のまま過ぎていった。











 翌朝、外へ出て家を見上げる。本当にこんな大きな物が入るか少し心配だったけどあっさりインベントリに収納された。馬小屋もさっきしまったしコテージも入っているからだいぶ容量が減った…と思いきや全然だった。自分の事ながら驚きです。広くなったスペースで馬車を出し、馬を繫いで乗り込む。御者はレオンとエヴァが交代ですることになった。

 門を一歩出ると、街から出てきた何台もの馬車や旅人、冒険者が街道を進んで行くのが見える。

 私たちは一度馬車を止めて振り返り、開いた門の中に広がる街を眺める。レオンとエヴァは寂しくはないだろうか?それが気になって2人を見ると柔らかく微笑んでいた。

「…行こうか」
「…ああ」
「…うん」

 レオンが馬車を出す。

 こうして私たちはヴェスタを発った。



 レックスがヴェスタを去った後。街は彼らが残した設計図によって更に経済が潤い、女性の間ではプードルヘアが、男性の間ではハンチングが大流行した。また髪を束ねるシュシュは、端切れで作れる上に意外と簡単だという事もあって皆競うように様々な色彩で髪を飾った。

 そして数年後、ヴェスタが"おしゃれの最先端"と呼ばれる街になる。その立役者はキラに髪の結い方を尋ねたあの姉妹。彼女たちは周囲に持て囃されるようになっても一貫して『レックスのキラさんのおかげです』と言い続けたという。


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