78 / 213
68.新たな旅立ち
しおりを挟む
翌日の朝は体調もだいぶ良くなって怠さもほぼ残っていない。それでも2人の夫はとても過保護で午前中はベッドで過ごした。夜はお別れ会的な飲み会が行われたが、何故か場所は家の酒場で料理担当もエヴァ。私も手伝いながら参加したけれど、先に休めと言われて早々に部屋の方へ引っ込んだ。
彼らは夜中まで飲んで食べて、楽しいひとときを過ごした。
そして今日は冒険者ギルドへ申請しに来ていた。すでに届け出は済ませてあるが許可が下りるのに少々時間がかかる。酒場でクレーブスさんと話しながら待っていると統括からお呼びがかかった。部屋へ通され、挨拶を交わしてソファーに座るとロンワン統括が手元の書類を見てから言った。
「他国活動の申請…いつかこういう日が来るかもしれんと思っとったよ。予想より早いがの」
統括は穏やかに微笑む。
「エヴァとレオンがこのヴェスタへきてもう10年以上経つんじゃのぅ。…旅は良い。儂も若い頃は世界中を回ったもんじゃ。…よいか?レックスの面々よ、存分に旅を楽しみ、様々な物をその眼で見て、耳で聞いて、肌で感じて、多くの経験を積んで自らの糧とするのじゃ。…そしてこれは儂個人の勝手な思いじゃが…願わくば…いつかこの街に帰ってきてほしい」
彼の言葉はその表情と同様にとても優しく、まるで息子や孫にでも語りかけているように感じた。
「許可は出しとくよ。儂の魔印入りでな」
「…ありがとうございます」
「「ありがとうございます」」
レオンが先に言い、頭を下げる。続いてエヴァと私も頭を下げた。
魔印というのは前世でいうと実印に近い。機密書類のやり取りなどの重要な用途で使われるもので、この魔印があるとその者が認めた証となる。これを扱っているのは王族やマスター統括を始めとした各ギルドのマスター。通常はギルドの印が入っているだけでこの魔印がある許可証は少ない。その上マスター統括の魔印となればかなり珍しい。その効果も推して知るべし、である。
その後商業ギルドでもランク変更の手続きを終え、買い出ししてから家へ帰った。
■
最終チェックも済ませ、明日はいよいよ旅立ちの日。みんなでお風呂に入った後、レオンが細長いケースを取り出して言った。
「これは俺とエヴァで創ったアクセサリだ」
彼がケースを開くと、そこには4組のアクセサリが並んでいる。菱形の石に銀色の上品な装飾が施されたもので、石は綺麗な金色、全体の大きさは1㎝弱。4組のうち1つは片方だけで大きさも5㎜くらいだ。とても素敵だけど、指輪でもピアスでもネックレスでもない。
「綺麗…でもこれ、どこに着けるの?」
「の?」
ケースを覗いていたスノウも首を傾げる。何度見ても可愛い。
「これは魔装備の一種で、台座はミスリル、石はゴールドゴーレムの魔石だ」
「え…」
「どこに着けるか決まってるものじゃないんだ。魔力を込めると肌に張り付く仕組みになってて、その魔力の持ち主にしか装備できない」
レオハーヴェンとエヴァントは平然として言っているが、これは素材も製造方法も出来具合も全て一級品だ。ミスリルはこの世界でも採掘量が少ない希少な鉱石だし、ゴールドゴーレムはS級の魔物で魔石の付加価値は測り知れない。製造方法もS級スキルを持つ2人だからこそ上手くいったようなものだ。
「ミスリルは魔力伝導率が良くて変形や変色もまず無い。魔石は防御力上昇効果と、弱いが全属性の魔法耐性がある」
「…す、すごい…」
目の前にある物の高性能さに驚嘆していると2人は笑う。
「フフ…効果はオマケだよ。ここでは結婚したらお揃いのアクセサリを身に着ける人が多いんだ。なら素材も手段もあるし、オレたちで創ろうって事になったんだよ」
「オマケ…」
この性能をオマケと言える夫たちは充分チートだと思います。でもそれが霞むくらい…お揃いのアクセサリは嬉しい。
「早速着けよう」
「スノウのは?スノウのもある?」
エヴァが私の手に1組乗せるとスノウが羽を広げて聞く。
「ああ、あるぜ。これがお前のだ。自分の魔力を込めてみろ」
「やったあ!なの!やってみるの!」
スノウはアクセサリを口に咥えて始める。私たちも魔力を込めた。着ける場所は両手、両足、両耳などどこでも良いという事だったけど、話し合った結果耳に着けることに。スノウは胸のあたりにした。
鏡の前に行って耳朶に当てるとひたっと付いて違和感なく肌に馴染む。
「素敵…ありがとう、凄く嬉しい」
後ろに来た2人にお礼を言ってちゅっとキスする。
「…似合うぜキラ」
「ますます可愛い奥さんになったよ」
彼らもキスをくれる。するとスノウが飛んできてレオンの頭に止まり、ちっちゃな胸を張って言う。
「スノウもにあう?かわいい?」
真っ白の体に金と銀の配色がとても合っている。
「凄く可愛いよスノウ」
「そうだね、似合うよ」
「ああ、良いな」
「えへへ~なの」
最後の夜は笑顔のまま過ぎていった。
■
翌朝、外へ出て家を見上げる。本当にこんな大きな物が入るか少し心配だったけどあっさりインベントリに収納された。馬小屋もさっきしまったしコテージも入っているからだいぶ容量が減った…と思いきや全然だった。自分の事ながら驚きです。広くなったスペースで馬車を出し、馬を繫いで乗り込む。御者はレオンとエヴァが交代ですることになった。
門を一歩出ると、街から出てきた何台もの馬車や旅人、冒険者が街道を進んで行くのが見える。
私たちは一度馬車を止めて振り返り、開いた門の中に広がる街を眺める。レオンとエヴァは寂しくはないだろうか?それが気になって2人を見ると柔らかく微笑んでいた。
「…行こうか」
「…ああ」
「…うん」
レオンが馬車を出す。
こうして私たちはヴェスタを発った。
レックスがヴェスタを去った後。街は彼らが残した設計図によって更に経済が潤い、女性の間ではプードルヘアが、男性の間ではハンチングが大流行した。また髪を束ねるシュシュは、端切れで作れる上に意外と簡単だという事もあって皆競うように様々な色彩で髪を飾った。
そして数年後、ヴェスタが"おしゃれの最先端"と呼ばれる街になる。その立役者はキラに髪の結い方を尋ねたあの姉妹。彼女たちは周囲に持て囃されるようになっても一貫して『レックスのキラさんのおかげです』と言い続けたという。
彼らは夜中まで飲んで食べて、楽しいひとときを過ごした。
そして今日は冒険者ギルドへ申請しに来ていた。すでに届け出は済ませてあるが許可が下りるのに少々時間がかかる。酒場でクレーブスさんと話しながら待っていると統括からお呼びがかかった。部屋へ通され、挨拶を交わしてソファーに座るとロンワン統括が手元の書類を見てから言った。
「他国活動の申請…いつかこういう日が来るかもしれんと思っとったよ。予想より早いがの」
統括は穏やかに微笑む。
「エヴァとレオンがこのヴェスタへきてもう10年以上経つんじゃのぅ。…旅は良い。儂も若い頃は世界中を回ったもんじゃ。…よいか?レックスの面々よ、存分に旅を楽しみ、様々な物をその眼で見て、耳で聞いて、肌で感じて、多くの経験を積んで自らの糧とするのじゃ。…そしてこれは儂個人の勝手な思いじゃが…願わくば…いつかこの街に帰ってきてほしい」
彼の言葉はその表情と同様にとても優しく、まるで息子や孫にでも語りかけているように感じた。
「許可は出しとくよ。儂の魔印入りでな」
「…ありがとうございます」
「「ありがとうございます」」
レオンが先に言い、頭を下げる。続いてエヴァと私も頭を下げた。
魔印というのは前世でいうと実印に近い。機密書類のやり取りなどの重要な用途で使われるもので、この魔印があるとその者が認めた証となる。これを扱っているのは王族やマスター統括を始めとした各ギルドのマスター。通常はギルドの印が入っているだけでこの魔印がある許可証は少ない。その上マスター統括の魔印となればかなり珍しい。その効果も推して知るべし、である。
その後商業ギルドでもランク変更の手続きを終え、買い出ししてから家へ帰った。
■
最終チェックも済ませ、明日はいよいよ旅立ちの日。みんなでお風呂に入った後、レオンが細長いケースを取り出して言った。
「これは俺とエヴァで創ったアクセサリだ」
彼がケースを開くと、そこには4組のアクセサリが並んでいる。菱形の石に銀色の上品な装飾が施されたもので、石は綺麗な金色、全体の大きさは1㎝弱。4組のうち1つは片方だけで大きさも5㎜くらいだ。とても素敵だけど、指輪でもピアスでもネックレスでもない。
「綺麗…でもこれ、どこに着けるの?」
「の?」
ケースを覗いていたスノウも首を傾げる。何度見ても可愛い。
「これは魔装備の一種で、台座はミスリル、石はゴールドゴーレムの魔石だ」
「え…」
「どこに着けるか決まってるものじゃないんだ。魔力を込めると肌に張り付く仕組みになってて、その魔力の持ち主にしか装備できない」
レオハーヴェンとエヴァントは平然として言っているが、これは素材も製造方法も出来具合も全て一級品だ。ミスリルはこの世界でも採掘量が少ない希少な鉱石だし、ゴールドゴーレムはS級の魔物で魔石の付加価値は測り知れない。製造方法もS級スキルを持つ2人だからこそ上手くいったようなものだ。
「ミスリルは魔力伝導率が良くて変形や変色もまず無い。魔石は防御力上昇効果と、弱いが全属性の魔法耐性がある」
「…す、すごい…」
目の前にある物の高性能さに驚嘆していると2人は笑う。
「フフ…効果はオマケだよ。ここでは結婚したらお揃いのアクセサリを身に着ける人が多いんだ。なら素材も手段もあるし、オレたちで創ろうって事になったんだよ」
「オマケ…」
この性能をオマケと言える夫たちは充分チートだと思います。でもそれが霞むくらい…お揃いのアクセサリは嬉しい。
「早速着けよう」
「スノウのは?スノウのもある?」
エヴァが私の手に1組乗せるとスノウが羽を広げて聞く。
「ああ、あるぜ。これがお前のだ。自分の魔力を込めてみろ」
「やったあ!なの!やってみるの!」
スノウはアクセサリを口に咥えて始める。私たちも魔力を込めた。着ける場所は両手、両足、両耳などどこでも良いという事だったけど、話し合った結果耳に着けることに。スノウは胸のあたりにした。
鏡の前に行って耳朶に当てるとひたっと付いて違和感なく肌に馴染む。
「素敵…ありがとう、凄く嬉しい」
後ろに来た2人にお礼を言ってちゅっとキスする。
「…似合うぜキラ」
「ますます可愛い奥さんになったよ」
彼らもキスをくれる。するとスノウが飛んできてレオンの頭に止まり、ちっちゃな胸を張って言う。
「スノウもにあう?かわいい?」
真っ白の体に金と銀の配色がとても合っている。
「凄く可愛いよスノウ」
「そうだね、似合うよ」
「ああ、良いな」
「えへへ~なの」
最後の夜は笑顔のまま過ぎていった。
■
翌朝、外へ出て家を見上げる。本当にこんな大きな物が入るか少し心配だったけどあっさりインベントリに収納された。馬小屋もさっきしまったしコテージも入っているからだいぶ容量が減った…と思いきや全然だった。自分の事ながら驚きです。広くなったスペースで馬車を出し、馬を繫いで乗り込む。御者はレオンとエヴァが交代ですることになった。
門を一歩出ると、街から出てきた何台もの馬車や旅人、冒険者が街道を進んで行くのが見える。
私たちは一度馬車を止めて振り返り、開いた門の中に広がる街を眺める。レオンとエヴァは寂しくはないだろうか?それが気になって2人を見ると柔らかく微笑んでいた。
「…行こうか」
「…ああ」
「…うん」
レオンが馬車を出す。
こうして私たちはヴェスタを発った。
レックスがヴェスタを去った後。街は彼らが残した設計図によって更に経済が潤い、女性の間ではプードルヘアが、男性の間ではハンチングが大流行した。また髪を束ねるシュシュは、端切れで作れる上に意外と簡単だという事もあって皆競うように様々な色彩で髪を飾った。
そして数年後、ヴェスタが"おしゃれの最先端"と呼ばれる街になる。その立役者はキラに髪の結い方を尋ねたあの姉妹。彼女たちは周囲に持て囃されるようになっても一貫して『レックスのキラさんのおかげです』と言い続けたという。
63
お気に入りに追加
4,894
あなたにおすすめの小説
俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる
十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
幼い公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~
朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた6歳のティアナ
お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。
お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない…
そんな中、夢の中の本を読むと、、、
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる