異世界ライフは前途洋々

くるくる

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61.刺客

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 翌日、設計図を仕上げてから昨日と同じ時間に商業ギルドを訪れた。昨夜のダグラムの事もあるので警戒しながらの移動となったが今のところ変わりない。解析したステータスも2人に伝えてある。

 統括の執務室へ通され、ソファーに腰掛けると早速話を始める。

「カトラリーについては王子様の個人注文だけお引き受けします。そしてケースや帽子なのですが、レックスで製作販売する気はありません」

 きっぱりとしたエヴァの言葉を聞いた統括は短く息を吐いた。

「ですがこれをご覧ください」
「…何だね?…」

 設計図を手渡すと一瞬怪訝そうな顔をするが目を通すうちに驚きに変わる。

「…これは噂のケースの設計図だね?なんて精巧な図面なんだ…それに工程も分かりやすい。こっちは帽子と…しゅしゅ…?」
「それをギルドにお譲りしようと思います」

 統括はエヴァさんの言葉に表情を引き締めた。

「…何故だね?これをレックスで売れば儲けはすべて自分たちのものだろう?作る必要もないし、冒険者との両立も可能じゃないか」
「大商人ならともかく、不定期営業のオレたちでは信用が足りません。それに話題になったからといっても設計図という前例のない品がそれほど売れるとも思えません」
「前例がないという点でいえばギルドも同条件だが?」
「それは設計図を品物にするなら、でしょう?」
「…なるほど。この設計図をもとに製作した品を売ったらどうか、という事か。だがギルド内にこれを作れる者など居ない。それについてはどうする?」
「委託です。職人さがしならギルドに出来ない筈が無いですよね」
「…」
「…」

 エヴァさんと統括、双方目を逸らさず真剣な表情で相手を見据える。

 先に表情を崩したのは統括だった。

「フフフ…やはり君には商才がある。おそらくレックスで商品化はしないだろうと思っていたが、まさかこんな手でくるとは…嬉しい誤算だよ」
「ありがとうございます。ですがオレは代表して言っただけで、全員で考えた結果ですから」
「ほお、委託についてもかね?」
「はい」
「…そうか、レックスは優秀なメンバーが揃ってるんだな。ではもう少し話を詰めようか」

 その後。王子様注文のカトラリーについてなども話し合い、設計図の買い取り価格が決定してから再度訪れる事にしてギルドを出た。



「…ロンワン殿の言う通り、美しくて清い気配の女性だったな。彼女がどういう人物か知りたかったが…しっかりガードされたな…あからさまだっただろうか?」

 執務室に残ったデュパリーは暫し悩む。何度かキラを探ろうと試みたがすべてエヴァントとレオハーヴェンによって躱されてしまったのだ。

「仕方ない…また機会はあるだろう」

 彼は気を取り直すようにそう呟いて仕事を再開した。











 冒険者ギルドへ寄って依頼を受けてから夕方に帰宅し、そのまま食事の支度をしようとしたらレオンさんに止められた。

「先にちょっと明日の事話そうぜ」

 確かに明日は採取兼依頼のために街を出る予定だけど、いつもは夕食後に話すのに…。

 私は不思議に思ったが、彼は目だけ動かして家の裏へ意味ありげな視線を向けてから私たちを見る。外に何か居るのだろうか?

「…そうだね、そうしようか」
「うん」

 エヴァさんが合わせたので私も頷いてリビングへと移動した。スノウも何かを察して黙っている。




 ソファーへ落ち着くと一枚の白紙がテーブルに出された。レオンさんはさもそこに地図が書かれているように話し始め、作戦を書き込む振りをして別の文字を綴る。

 レオン(裏で誰かがこっちを探ってる気配がする。スノウ、真眼で何か見えねえか?しゃべるなよ)
 スノウ(…なにかいるけどよくわかんないの)←鳴いてます。

 レオン(スノウが分からねえってことは今は探ってるだけか…)
 エヴァ(ダグラムの差し金だね、どうする?)
 レオン(今追ったところで逃げられるのがオチだ。気付かねえフリして明日街の外で捕まえる)
 エヴァ(今の所殺気はなしか。キラ、1人での行動は避けて)
 キラ(分かった)

 字を読めるスノウはジッと紙を覗き込んで自分も分かったと小さく頷く。ウチの子天才。

 その後エヴァさんと一緒に夕食の支度をし、残念ながらお風呂は止めてベッドへ入る。スノウと私は眠ったが2人は交代で眠ったフリをしていた。




「…」

 レックスの家の裏では全身黒ずくめの男が闇に潜んで中を窺っている。ジッと壁を凝視するその眼は昏く、何の感情も持っていないように見える。

 やがて男は音もなく立ち上がって去っていった。











 翌朝、いつもの時間に目覚めるとエヴァさんが私を見つめていた。ふわっと笑ってキスする。

「おはようキラ」
「おはようエヴァさん」

 挨拶を交わすとレオンさんも目を開き、探るように視線を動かした。

「…日を跨いだ辺りから気配が消えたが…やっぱりいねえな。キラ…ちゃんと眠れたか?」
「うん」
「よし。ちょいと見てくる」

 彼も私に軽く口づけてからベッドを出て裏へ行った。

「さ、支度しよう」
「うん」

 残った私たちは予定通り支度を始めた。











 北門から街を出た私たちは半日ほど歩けば着くという丘を目指していた。素材を採取し、ついでにゴールドボアの群れを討伐する。ゴールドボアはワイルドボアのボスで、その名の通り金色のイノシシの魔物。5頭~10頭ほどの群れで行動し、餌場を求めて山から山へ移動する。最近群れが丘に現れて辺りを荒らしているという。

 馬車や旅人が行き交っている街道を歩き始めて2時間ほど経った頃、一台の小さな馬車が私たちを追い越していった。何の変哲もない馬車だったが、それを見てスノウが鳴く。

(おなじ!)

 同じとは昨夜家の裏から感じた気配と同じものを見つけた、という事。スノウには真眼を使ってチェックしてもらっていたのだ。もちろんレオンさんも探しているがスノウの方が相手に警戒されないで済む。私たちがそうだったように、誰も幻獣フェニックスがこんなところに居るとは思わないからだ。

 レオンさんは頭上にいるスノウを褒めるように指で撫で、ちょうど視線の先に居る馬車を観察する。それが視界から消えてから口を開いた。

「ほんの僅かだが昨夜と同じ気配を感じた。スノウ、何か分かったか?」
(ん~、きのうとおなじでわかんないの)
「また探ってただけって事?なら遠耳スキルかな」
「ああ、透視もまだ否定出来ねえが遠耳はほぼ決まりだな」

 襲ってきたところを捕まえる作戦なので話していた内容は本当の事だ。バレてないと思っているのだろうが大胆な行動をするな、と思いながら聞いてみる。

「昨夜の話を聞いて先回りしたって事?」
「だろうな。話の真偽を確かめてから先回りしたんだ。馬車は仲間が乗ってると思った方がいいな」
「そうだね。小さな馬車だったから乗っても3、4人だろうけど、囲まれた時の作戦も考えておこう」
「ああ」

 囲まれる…それはちょっと怖いかも。魔物相手なら薙ぎ払えばいいけど人相手ならそうはいかない。いや、命の危険を感じたらやるべきかな…でも生きたまま捕まえないと黒幕に辿り着かないし…。

「キラ、大丈夫だよ。君には指一本触らせない」
「心配するな」

 考え込んでいた私に2人が優しく声をかけてくれる。彼らの言葉だけで心が落ち着く。

「うん、ありがとう」
(スノウもいるの!てきはまるやきなの!)

 スノウが小さな胸を張って過激な発言をする。…最近ちょっと心配です。

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