異世界ライフは前途洋々

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49.商業ギルド

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 翌日。私たちは商業ギルドを訪れていた。商業ギルドと冒険者ギルドは、街のメインストリートを挟んで左右対称の位置にある。ギルド前はやはり広場になっていたが、停車している馬車の数は段違いに多かった。レンガ造りの3階建ての建物は冒険者ギルドより一回り小さいけれど垢抜けている気がする。

 中へ入ると一層違いが感じられた。正面のカウンターにはいくつもの窓口、左側には酒場、依頼ボードは無くてお知らせを貼った掲示板、所々に観葉植物がある。最も違う点は雰囲気だろうか。酒場で呑んだくれる者は居ないし、怒声も聞こえない。皆少なくとも表面上は和やかに会話していた。

 エヴァさんがギルド内の説明をしてくれる。2階はショップと商談室、3階は本部と特別商談室、倉庫は裏に別棟があり、地下にも金庫がある。ギルドに宿はないが、周辺には多数あるという。

 私たちは手続きをするべくカウンターへ向かった。




 キラたちが登録手続きをしている様子を、周囲は驚きの表情で見ていた。商人は冒険者に護衛を依頼する事も多い上、情報収集を得意としているため彼らの最新情報を知っている者は結構いる。だが、まさかS級冒険者のレオハーヴェンが商業ギルドに登録するなんて…誰が予想出来ただろうか。更には強面の頭上に可愛い真っ白な小鳥、そしてレオハーヴェンとエヴァントの間にいるとびっきりの美女。

 皆がポカン、としてこの目立ちまくりの3人を目で追うのも仕方のない事である。




 さすがは商業ギルドの受付嬢、目を見開いたのはほんの一瞬ですぐににこやかな笑みを浮かべて手続きを進めた。差し出された用紙に記入すると、次は別室でテストがある。すぐに開始するという事だったので、スノウをエヴァさんに預けて移動した。

 男性ギルド員に案内され部屋には、オフィスの会議用そっくりのテーブルが並んでいる。席に着くとそのままテストが始まった。

 まさか異世界でペーパーテストを受ける事になるとはね。でも一般常識とかじゃなくて良かった。読み書きは大丈夫だし、計算もまさか因数分解とかが出てくる訳じゃないだろう。

 私は勉強嫌いのヤンキーみたいな態度でテストを受けるレオンさんを横に感じ、込み上げる笑いを堪えながらペンを走らせた。











 テスト終了後、結果が出るまでの待ち時間を酒場で潰していた。

「はぁ…肩凝った。こんなかったるい事、2度とやりたくねえ…」
「ふふっ…」
「…何だよ」

 文句を言いながらコキコキと肩を鳴らすレオンさんに、思わず笑ってしまう。彼は膨れっ面で私を見た。

「ふふっ…だって、テストの時も凄い姿勢でイスに座ってて…ギルド員さんがビクビクしてたよ?」
「仕方ねえだろ…計算出来ねえ訳じゃねえけど、こういうの苦手なんだよ」
「ここのギルド員は、レオンみたいに如何にも冒険者って感じの人と接する機会が少ないからね。それに若い男だったし、怖がるのも無理ないよ」
「チッ…だがまあ、テストはこれだけだからな」

 レオンさんはやれやれ、というように息を吐いてコーヒーカップを口に運んだ。

「ぴぃ…ぴぴぃ…」(えば…てくにしゃん…)

 エヴァさんに首元をコリコリとイジられていたスノウが眠そうな声で鳴く。

 …確かに彼はテクニシャン…って、そうじゃなくて!そんな言葉、どこで覚えたの?

「スノウ、もう少しだから寝るな」
「ぴぃ~…」(ん~…)
「…エヴァ。そろそろやめとけ」
「フフ、気持ち良さそうな顏するからつい」

 …なんか…昨夜バスルームで聞いたような会話…。…はっ!真っ昼間のこんな場所でそんな連想するなんて…すっごくエロい女みたいじゃないの!いけないいけない…。

 2人が夜のキラの事をすでに『凄くエロくて可愛い最高に良い女』と思っているとは…彼女は知りません。



 その後、無事テストに合格して商業ギルドのカードを手に入れ、共同経営の手続きも済ませて家へ帰った。

【店名】レックス
【ランク】E
【代表者】エヴァント
【メンバー】レオハーヴェン・キラ











 その日の深夜。商業ギルド本部の一室で、1人の男が報告書の束に目を通していた。

 広い室内の床には絨毯が敷かれ、センス良く配置された高級家具と豪華な調度品が商業ギルドトップの威厳を示している。男が身に付けている服も派手さはないが地味過ぎず、如何にもインテリという顔立ちによく似合っていた。

 書類をめくっていた男の手が止まる。

「…ほぉ、これは面白い。噂を聞いてはいたが、まさか共同経営に踏み切るとは…ふむ…件の女性に一度会ってみたいものだな…」

 書いてあったのは“レックス”に関する報告。そしてそれを読んでいるのは…ヴェスタの商業ギルドマスターにして、マスター統括のデュパリー。

「…ロンワン殿に話してみるか」

 デュパリーはそう呟いて作業を再開した。











 共同経営となってから数日後、お店に出すスイーツの候補が出揃った。

 クッキー、チョコチップクッキー、スコーン、チーズケーキ、フルーツタルト、ガトーショコラ(チョコレートケーキ)。

 この世界に冷蔵が必要なケーキ類が無いわけではない。だが作るのに手間のかかるものが多いし冷蔵庫的魔道具も値が張るので、ちょっとお高いレストランや大きな商会でしか扱っていない。だから一般の人の口には中々入らないのが現状だとエヴァさんが教えてくれた。あと、ここではガトーショコラという呼び名はないそうで、チョコレートケーキが正解。

 バザールで使う冷蔵庫はレオンさんとエヴァさんのスキルを行使して制作する予定だ。

 今日はレオンさんも交えての選考会です。みんなで少しずつ全種類食べ、感想を言い合った。レオンさんはスコーンとチーズケーキが気に入り、私のイチオシはチョコレートケーキ、コーヒーにはチョコが合う。エヴァさんはというと…メニュー入りは2つと考えていたようで、かなり悩んでいた。

「困ったな…スコーンとチョコレートケーキは絶対なんだ。でも…フルーツタルトも捨てがたい。季節のフルーツにカスタードクリームが最高にマッチしてるんだ。それにクッキーも…色々形があって子供とか女性が好きそうなんだ…う~ん…」
「スノウはぜんぶがいいの!でもいちばんはたるとなの!かすたーくりむがいいの!」

 腕組みをして悩んでいるエヴァさんに興奮気味で話すスノウの前には、私たちと同じく全種類のスイーツが乗った皿がある。量は少ないが、いつもより色々食べられて超ご機嫌だ。カスタードクリームが言えてなくて可愛い。

「そうなんだよね…このカスタードクリーム、凄く美味しいんだよ…でもクッキーも捨てがたい」
「…クッキーはお持ち帰り用にする、とかじゃだめかな?」

 思い付いた事を提案してみる。チョコレートケーキやフルーツタルトと違って、クッキーなら布袋に入れておける。見本を出しておくか、イラストでも描いてメニューと一緒にボードに貼るとかすれば中身も分かる。

「お持ち帰り…キラ、何か案があるなら聞かせて?」
「うん。あのね…」

 2人は私の話を真剣に聞いてくれた。




「…イラストにするとこんな感じかな。今は黒一色だから味気ないけど、色が入ればもう少し現物に近くなるよ」
「「…」」

 説明を終え、試しにクッキーのイラストを描いたのだが…2人とも目を見開いたまま無言だ。

「…どうかした?」
「…どうもこうも…ねえ、レオン?」
「…ああ…こんなリアルなイラスト初めて見たぜ」
「凄いね…キラの言った通り、これに色を入れてメニューに載せればどんな物なのか一目で分かる」

 暫し沈黙した後感心したように言われた。ちょっと照れます。

「…ショーケースっていう手もあるけど…」
「しょーけーす?それはどんなの?」

 聞き慣れない単語にエヴァさんが食いつく。私はイラストを描いて説明した。

「…だから、これに冷蔵機能を付けられれば見本にも保管場所にもなるの。ただバザールのお店は外だから、何とかして直射日光は避けなきゃいけないんだけど…」

 話を聞くうちに2人の表情が明るくなってくる。

「天幕を張るから直射日光は大丈夫だよ。それに、これならオレとレオンで作れるよね?」
「ああ。これだけちゃんとした図があればケースは簡単だ」
「後はオレが冷蔵庫の魔道機能をケースに付与すれば…」
「バッチリだな。キラ、この図にサイズを描き込んでくれ。エヴァ、サイズどうする?」
「そうだね…店のスペースから考えて…」

 イラストやバザールの書類を見ながら話し込む彼らはとってもイキイキして、楽しそうで…何だか私まで嬉しくなった。

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