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48.共同経営
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バザールまでは後30日ほどある。その間に試作や試食を重ね、メニューを考えながら他の準備も進める。
レオンさんはスイーツ用のカトラリー製作を担当。素材にはデルタ山で採掘してきた鉱石使うので物凄く低コストだ。イスやテーブルについては購入する予定だったが、私がインベントリに木がある事を言うとそれもレオンさんが製作する事になった。
結局購入するのは食材と陶器のケーキ皿くらい。エヴァさんの“商売上手”の称号はダテじゃありませんでした。ここまで自分たちで準備出来るって、凄いパーティーだよね…。
バザールへの出店が決まった数日後の朝、私はお弁当を作っていた。街の宿屋では頼めば昼用に用意してくれる所もあるようで、お弁当箱は普通に売っていた。懐かしいアルミのお弁当箱にそっくりだ。
レオンさんは早速カトラリー製作のために鍛冶屋さんに炉を借りている。キングトロールの時に私もご一緒したあの鍛冶屋さんだ。その人は毎日昼に通っている食堂(可愛い看板娘がいるらしい)があるそうで、昼食は別々なのだとか。
おかずは卵焼きに野菜のオーク肉巻き、コールスローサラダ、それにこないだ多めに作っておいたクリームコロッケなど。
朝食後、出掛ける前に私を抱き寄せて口づけるレオンさん。
「…行ってくるぜ」
「…ん…いってらっしゃい。あの…お弁当作ってみたから、お昼に食べて?」
「…」
インベントリから出して差し出すと彼は目を見開く。そして若干沈黙した後ガバッと私を抱きしめた。
「ひゃっ…レオンさん?」
「キラ…ッん…」
「んンっ…んぅ…」
耳元で嬉しそうな声がしたと思ったら熱烈なキスが降ってきた。喜んでもらえたのは嬉しいけど、朝からこんな官能的な…それに胸の谷間でスノウが『またちゅぅなの』って言ってるし…ちょっと恥ずかしい。
「…ありがとな」
「…う、うん…」
漸く離れると満面の笑みでお礼を言い、ご機嫌で出掛けて行った。すると今度はエヴァさんに後ろから抱きしめられる。
「お弁当、か。ちょっとレオンが羨ましいな」
「…エヴァさんのもあるよ?」
「えっ…本当?」
「うん、家でお弁当っていうのも何だか変だけど…」
些細な事かもしれない。でも。彼らが同じくらい大きな愛を注いでくれるように、私も2人を同じくらい精一杯愛したい。
「ありがとう、キラ…すごく嬉しいよ…ん…」
「エヴァさ…ん…」
彼は柔らかく笑って唇を寄せる。
「おべんとってなに?スノウにもある?」
ちゃんと?キスが終わるのを待ってスノウが聞いた。…うん、スノウのもあるよ。
異世界にも愛妻弁当はあるが、その役割りは日本のそれよりも重要だ。コンビニやスーパーなど、あちこちで食料品が手に入る日本と違い、ここでは街を一歩出れば自分でどうにかするしかない。他の街や村に移動するのだって何日も掛かる。現地調達出来れば良いが、それにはやはり攻撃手段や実力が必要になるからみんなが出来る訳じゃない。そうなると重要なのは保存食やお弁当、特にお弁当は外で家族や恋人の想いを感じられる大切なもの。
死が身近にあるこの世界では、生命線である水や食料がより貴重なのだ。だからこそ、レオハーヴェンもエヴァントも感激したのである。
■
その日の夕食後、コーヒーを飲みながら本日の報告会。メニューの進み具合などを話した後、レオンさんが製作したカトラリーをテーブルに出す。銀で作られたそれはとても綺麗で、見事な出来栄えだった。
「わ…綺麗…」
「うん、良いね。さすがだね、レオン」
「スキルのおかげだ。やっぱS級は凄え」
シンプルだけど銀食器って素敵だな…。コーヒーショップならこれにロゴとか…って、あれ?そういえばお店の名前聞いたことない。看板もないし。
「エヴァさん、私お店の名前知らなくて…今頃ごめんなさい」
「謝らなくても良いよ、名前無いから」
「え」
「不定期営業だったし…、エヴァの酒場、で通ってたからね」
「…」
名前が無い…そんなのアリ?いや、RPGなんかじゃナントカの酒場、とかあるけど…
「この際だから名前も考えたらどうだ?」
「そうだね……ならさ、レックスの名前使わせてくれない?」
レオンさんの提案を受けて少し考えてからそう言う。
「パーティー名をか?」
「うん。2人も商業ギルドに登録して、共同経営にしてくれれば色々ありがたいんだけど」
「…共同経営か…先々の事を考えればその方が良いかもな。キラ、お前はどう思う?」
「私…?えっと…」
「あ、そうか。キラに商業ギルドの事教えてなかったね」
戸惑う私にエヴァさんが説明してくれた。
・商業ギルドのランクは店舗の大きさや数で決まり、年に一度、ランク毎に定められた税金と会費を納める事になっている。
・共同経営の場合、ランク分けは個人と同じだが税金と会費の金額は異なる。
・支払いの滞納、迷惑行為、犯罪行為などで除名処分になる場合がある。
・ランク変更時、店舗の規模が一定以上の場合は審査が入る。
・ギルドでは商人同士の売買の仲介もしており、情報はファイルにまとめられていて申し出れば閲覧出来る。
【Fランク】旅商人
【Eランク】小規模店
【Dランク】小規模店複数
【Cランク】中規模店
【Bランク】中規模店複数
【Aランク】大規模店
【Sランク】大規模店複数
「共同経営の税金と会費は個人より割安なんだ。多角経営もやり易くなるし、オレたちみたいな生産系スキル持ちにはもってこいだよ」
「素材調達も自分らで出来るしな」
「なるほど…」
素材は討伐依頼を熟しながらでも集められるし、複製スキルもある。エヴァさんの料理と魔力加工で造る魔道具、レオンさんは鍛治で武器や防具、金属製品、私も薬師スキルで役に立つ事が出来れば…これってかなり凄いんじゃ…
「それに、共同経営の商人は少ないんだよね。ソロで多角経営してる大商人はいるけど」
「そうなんだ…」
「利益も分配だから、儲けが増えれば増えるほど揉める原因になるんだよ」
若い頃は一緒に頑張ろうと言って店を始めても、人は金が絡むと本性が出やすい。商人はやはりがめつい者が多く、『個人だったらこの儲けは全て自分のものだった…』などと考えるのだ。だから長続きしない。
「だが俺らは金で揉める心配もねえし、これからも商売するなら組んだ方が良い」
「…キラの正直な気持ち、聞かせて?」
エヴァさんに問われて今一度考える。
レオンさんの言った通り、私たちは同じサイフなのだから金銭の揉め事は心配いらない。それ以前に彼らはそんな人じゃないし。2人と一緒なら商売してみたいけど、経営に関しては全くの素人だから迷惑かけないかという不安はある。
「正直言うと一緒にやってみたい。でも私…経営とか商売とか素人で…」
「何も不安になる事ねえよ。今回のバザールみてえに、みんなで相談しながら商売するんだ」
「そうだよキラ。一緒にやるんだから心配いらない。それに、分からないなら何でも教えるよ?」
素直に打ち明けると優しい言葉が返ってくる。
「レオンさん…エヴァさん…」
…そうだよね、分からないなら学べば良い。迷ったら相談すれば良い。ひとりじゃない、3人一緒なんだから。…あぁ、まただ。また2人の言葉で大切なことに気が付けた。2人の優しさはいつも私を救ってくれる。
「うん、やる。一緒にやってみたい。頑張るよ」
「そうか。…だがあまり気張らなくて良いぜ、お前はいつも頑張りすぎだ。面倒な交渉はエヴァに任せれば良い。交渉スキルと“商売上手”の称号持ちだしな」
「フフ…まあ、職人気質のレオンに交渉は難しいよね。その辺は任せてよ。でもレオンの言った通り、無理は禁物だよ?一緒に頑張るんだから」
2人はむんっ、と気合いを入れる私を見て両隣りに座り、微笑みながら肩を抱く。
「…うん、ありがとう」
「「キラ…」」
この後、3Pに移行したのは言うまでもありません…。
ちなみにスノウは話の途中で眠ってしまいました。ちょっと内容が難しかったようです。
レオンさんはスイーツ用のカトラリー製作を担当。素材にはデルタ山で採掘してきた鉱石使うので物凄く低コストだ。イスやテーブルについては購入する予定だったが、私がインベントリに木がある事を言うとそれもレオンさんが製作する事になった。
結局購入するのは食材と陶器のケーキ皿くらい。エヴァさんの“商売上手”の称号はダテじゃありませんでした。ここまで自分たちで準備出来るって、凄いパーティーだよね…。
バザールへの出店が決まった数日後の朝、私はお弁当を作っていた。街の宿屋では頼めば昼用に用意してくれる所もあるようで、お弁当箱は普通に売っていた。懐かしいアルミのお弁当箱にそっくりだ。
レオンさんは早速カトラリー製作のために鍛冶屋さんに炉を借りている。キングトロールの時に私もご一緒したあの鍛冶屋さんだ。その人は毎日昼に通っている食堂(可愛い看板娘がいるらしい)があるそうで、昼食は別々なのだとか。
おかずは卵焼きに野菜のオーク肉巻き、コールスローサラダ、それにこないだ多めに作っておいたクリームコロッケなど。
朝食後、出掛ける前に私を抱き寄せて口づけるレオンさん。
「…行ってくるぜ」
「…ん…いってらっしゃい。あの…お弁当作ってみたから、お昼に食べて?」
「…」
インベントリから出して差し出すと彼は目を見開く。そして若干沈黙した後ガバッと私を抱きしめた。
「ひゃっ…レオンさん?」
「キラ…ッん…」
「んンっ…んぅ…」
耳元で嬉しそうな声がしたと思ったら熱烈なキスが降ってきた。喜んでもらえたのは嬉しいけど、朝からこんな官能的な…それに胸の谷間でスノウが『またちゅぅなの』って言ってるし…ちょっと恥ずかしい。
「…ありがとな」
「…う、うん…」
漸く離れると満面の笑みでお礼を言い、ご機嫌で出掛けて行った。すると今度はエヴァさんに後ろから抱きしめられる。
「お弁当、か。ちょっとレオンが羨ましいな」
「…エヴァさんのもあるよ?」
「えっ…本当?」
「うん、家でお弁当っていうのも何だか変だけど…」
些細な事かもしれない。でも。彼らが同じくらい大きな愛を注いでくれるように、私も2人を同じくらい精一杯愛したい。
「ありがとう、キラ…すごく嬉しいよ…ん…」
「エヴァさ…ん…」
彼は柔らかく笑って唇を寄せる。
「おべんとってなに?スノウにもある?」
ちゃんと?キスが終わるのを待ってスノウが聞いた。…うん、スノウのもあるよ。
異世界にも愛妻弁当はあるが、その役割りは日本のそれよりも重要だ。コンビニやスーパーなど、あちこちで食料品が手に入る日本と違い、ここでは街を一歩出れば自分でどうにかするしかない。他の街や村に移動するのだって何日も掛かる。現地調達出来れば良いが、それにはやはり攻撃手段や実力が必要になるからみんなが出来る訳じゃない。そうなると重要なのは保存食やお弁当、特にお弁当は外で家族や恋人の想いを感じられる大切なもの。
死が身近にあるこの世界では、生命線である水や食料がより貴重なのだ。だからこそ、レオハーヴェンもエヴァントも感激したのである。
■
その日の夕食後、コーヒーを飲みながら本日の報告会。メニューの進み具合などを話した後、レオンさんが製作したカトラリーをテーブルに出す。銀で作られたそれはとても綺麗で、見事な出来栄えだった。
「わ…綺麗…」
「うん、良いね。さすがだね、レオン」
「スキルのおかげだ。やっぱS級は凄え」
シンプルだけど銀食器って素敵だな…。コーヒーショップならこれにロゴとか…って、あれ?そういえばお店の名前聞いたことない。看板もないし。
「エヴァさん、私お店の名前知らなくて…今頃ごめんなさい」
「謝らなくても良いよ、名前無いから」
「え」
「不定期営業だったし…、エヴァの酒場、で通ってたからね」
「…」
名前が無い…そんなのアリ?いや、RPGなんかじゃナントカの酒場、とかあるけど…
「この際だから名前も考えたらどうだ?」
「そうだね……ならさ、レックスの名前使わせてくれない?」
レオンさんの提案を受けて少し考えてからそう言う。
「パーティー名をか?」
「うん。2人も商業ギルドに登録して、共同経営にしてくれれば色々ありがたいんだけど」
「…共同経営か…先々の事を考えればその方が良いかもな。キラ、お前はどう思う?」
「私…?えっと…」
「あ、そうか。キラに商業ギルドの事教えてなかったね」
戸惑う私にエヴァさんが説明してくれた。
・商業ギルドのランクは店舗の大きさや数で決まり、年に一度、ランク毎に定められた税金と会費を納める事になっている。
・共同経営の場合、ランク分けは個人と同じだが税金と会費の金額は異なる。
・支払いの滞納、迷惑行為、犯罪行為などで除名処分になる場合がある。
・ランク変更時、店舗の規模が一定以上の場合は審査が入る。
・ギルドでは商人同士の売買の仲介もしており、情報はファイルにまとめられていて申し出れば閲覧出来る。
【Fランク】旅商人
【Eランク】小規模店
【Dランク】小規模店複数
【Cランク】中規模店
【Bランク】中規模店複数
【Aランク】大規模店
【Sランク】大規模店複数
「共同経営の税金と会費は個人より割安なんだ。多角経営もやり易くなるし、オレたちみたいな生産系スキル持ちにはもってこいだよ」
「素材調達も自分らで出来るしな」
「なるほど…」
素材は討伐依頼を熟しながらでも集められるし、複製スキルもある。エヴァさんの料理と魔力加工で造る魔道具、レオンさんは鍛治で武器や防具、金属製品、私も薬師スキルで役に立つ事が出来れば…これってかなり凄いんじゃ…
「それに、共同経営の商人は少ないんだよね。ソロで多角経営してる大商人はいるけど」
「そうなんだ…」
「利益も分配だから、儲けが増えれば増えるほど揉める原因になるんだよ」
若い頃は一緒に頑張ろうと言って店を始めても、人は金が絡むと本性が出やすい。商人はやはりがめつい者が多く、『個人だったらこの儲けは全て自分のものだった…』などと考えるのだ。だから長続きしない。
「だが俺らは金で揉める心配もねえし、これからも商売するなら組んだ方が良い」
「…キラの正直な気持ち、聞かせて?」
エヴァさんに問われて今一度考える。
レオンさんの言った通り、私たちは同じサイフなのだから金銭の揉め事は心配いらない。それ以前に彼らはそんな人じゃないし。2人と一緒なら商売してみたいけど、経営に関しては全くの素人だから迷惑かけないかという不安はある。
「正直言うと一緒にやってみたい。でも私…経営とか商売とか素人で…」
「何も不安になる事ねえよ。今回のバザールみてえに、みんなで相談しながら商売するんだ」
「そうだよキラ。一緒にやるんだから心配いらない。それに、分からないなら何でも教えるよ?」
素直に打ち明けると優しい言葉が返ってくる。
「レオンさん…エヴァさん…」
…そうだよね、分からないなら学べば良い。迷ったら相談すれば良い。ひとりじゃない、3人一緒なんだから。…あぁ、まただ。また2人の言葉で大切なことに気が付けた。2人の優しさはいつも私を救ってくれる。
「うん、やる。一緒にやってみたい。頑張るよ」
「そうか。…だがあまり気張らなくて良いぜ、お前はいつも頑張りすぎだ。面倒な交渉はエヴァに任せれば良い。交渉スキルと“商売上手”の称号持ちだしな」
「フフ…まあ、職人気質のレオンに交渉は難しいよね。その辺は任せてよ。でもレオンの言った通り、無理は禁物だよ?一緒に頑張るんだから」
2人はむんっ、と気合いを入れる私を見て両隣りに座り、微笑みながら肩を抱く。
「…うん、ありがとう」
「「キラ…」」
この後、3Pに移行したのは言うまでもありません…。
ちなみにスノウは話の途中で眠ってしまいました。ちょっと内容が難しかったようです。
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