異世界ライフは前途洋々

くるくる

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35.互いの気持ち

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 テスト終了後。ランクアップの手続きをしてから昨日の代金を受け取り、ギルドを出て2人の家へ。

  リビングでエヴァさんの淹れてくれたコーヒーを飲んでホッと息を吐く。

 「くくっ、疲れたか?」
 「…はい」
 「そうだろうね。統括に呼び出されてその後すぐに昇級テストがあったんだから」

  身体がどうこうじゃなく、精神的に疲れた。Aランクなんて予想外過ぎる。

 「…いきなりDからAに飛び級なんて…本当に良いんでしょうか?」
 「フフ、そんなに不安がる事ないよ」
 「ああ、Sランクのサブマスターを一撃で倒したんだ。誰も文句なんか言えねえよ、統括もそう言ってたろ?」
 「そうそう。それにさ、Sランクを倒した冒険者をCランクになんかしたら、他の冒険者だってやる気失せるよ」
 「…なるほど、言われてみればそうですね。良かった、何だか安心しました」

  2人の言葉で心にあった不安が消える。ホッとしているとレオンさんが私を見つめて言った。

 「…なあキラ」
 「はい」
 「俺たちは1日でも早く一緒に暮らしたいと思ってる。お前はどうだ?」
 「急かせてごめんね。でも、君がキングトロール倒した時点でランクアップするだろうと分かってたんだ」
 「え」

  驚く私にエヴァさんが説明してくれる。

  トロールだけだったら確率は半々だった。だがキングトロールとなると話は別。ヴェスタのギルドでは力ある冒険者の噂はロンワン統括に話が行くようになっている。彼は自分の直感に引っかかった者を呼び出し、自らの目で見定めているという。2人も呼び出された経験があるため、今回のような事態に統括が食いつかない筈がないと分かっていたのだ。

 「だから昨夜のうちに部屋は用意したんだ」
 「家具はまだ入れてねえが、その気になりゃすぐ揃う。それより大事なのはお前の気持ちだ。もう少し先だと思ってただろ?…早く、って言っといて矛盾してるが、無理強いはしたくねえんだ」

  レオンさんの言葉にエヴァさんも頷き、答えを待つ。

  告白された時も、パーティーと同棲の話をした時もそうだった。彼らは嘘偽りない気持ちを曝け出し、私の心に入りこむ。そして最後は私の気持ちを尊重してくれる。

  答えは当然決まってる。私だって彼らが好き。ずっと一緒に居たい。

 「…私も同じです。早くここに来たい」
 「…そうか」
 「良かった…」

  返事を聞いた2人はホッとしたように呟く。

 「明日にでも家具を見に行くか」
 「そうだね、じゃあ今日は家の中を案内するよ。ほら、おいで」

  私はドキドキしながら同時に差し出された2人の手を取った。











 家の中を隅々まで案内してもらってリビングへ戻った私は疑問に思った事を聞いてみた。

 「何でこんなに広いんですか?」

  前もそう思ったのだが、予想以上に広かった。魔道具の揃ったダイニングキッチン、立派な家具のある広いリビング、2人の部屋は共に8畳ほどで同じタイプの部屋がもう一つ。更にリビングと同じく20畳はありそうな部屋もあった。バスルームらしきスペースにはバスタブがなかったが、そばに裏口があってそこから庭へ出られた。いくら何でも2人暮らしにしては広過ぎやしないだろうか?

 「フフ…ここはね、金持ちの商人が3人の妻と一緒に住んでた家なんだよ」

  エヴァさんが笑いながら言うとレオンさんが後を引き継ぐ。

 「だが商売に失敗して家具ごと家を売っぱらったのを俺らが買った。さすがにベッドは買い替えたがな」
 「その商人がまた悪どい奴で、捕まって犯罪奴隷になったんだ。だから中々買い手がつかなくて商業ギルドが困ってたんだよね」
 「そこを買い叩いたって訳だ」
 「なるほど…あ、じゃあ酒場はその商人の店だったんですか?」
 「いや、あそこも部屋だったんだけど潰してお店にしたんだ」
 「そうだったんですか…」

  事故物件的なやつだったんだ、納得。でも折角バスルームがあるんだから、いつか家にお風呂が欲しいな。などとのんきな事を考えていたら、2人が何だか不安そうな表情をしていた。

 「…やっぱり、元悪徳商人の家は嫌かな?」
 「え?」
 「すぐにとはいかねえが、嫌なら家は買い換える」
 「えっ、待って下さい。嫌じゃないですよ?お買い得素晴らしいです。魔道具付き最高です」

  私は事故物件とか全然気にしない。お得最高。

 「そう…?女の子はこういうの苦手な人が多いし、何か考え込んでたからてっきり…」
 「いえ、大丈夫ですよ」
 「…なら何をそんなに考えてた?」
 「えっ。え~と…その…」

  お風呂欲しいなんて、同棲し始め早々に言って良いもんだろうか?

 「…言えよ」
 「うん、言ってみてほしいな」

  ちょっと迷っているといつの間にか2人に挟まれ、更に至近距離で見つめられて照れてしまい白状する。

 「お、お風呂欲しいなぁ~、なんて…お高いのは分かってるんですけど、バスルームがあったから…」

  2人は目をパチクリさせてからおかしそうに笑う。

 「くくっ、そうか、風呂か。分かった」
 「最初にベッドと同じくお風呂も撤去したんだ。男2人だったから今までは別に要らなかったんだけど…フフ、言いにくそうにするから何事かと思ったら…フフフ」
 「だ、だって初っ端からそんな高い物強請るなんて図々しい…もう言っちゃいましたけど…」

  ちらっと2人を見上げながら言うと、両頬に小さくキスされた。

 「フフ…キラはホント可愛いね」
 「全くだ」

  あれ、何でそんな話に…っていうか、2人とも近すぎです。ドキドキしっぱなしです。

  私は俯きながら心臓を落ち着かせようと試みるのでした。











 今日までギルドの宿に泊まることになった私は、『今夜はオレに送らせて』と言ったエヴァさんと並んで歩いていた。

 「…ね、手を繋いでも良い?」
 「…はい…」

  私の返事を聞いてにっこり笑い、手を握って指を絡める。

  わ…よ、夜で良かった。今きっと顔赤い。

  赤い顔なんてもう何度も見られているんだけど、その度に可愛いとか言われて照れが倍増するのでちょっと隠したいです。言われ慣れていなくてどういう反応をしたらいいのか困ってしまうんですよ。

 「ちょっとだけ寄り道しても良い?」
 「はい」
 「じゃあこっち」

  私は彼に手を引かれるがままついて行った。




  着いたのは冒険者ギルドの横からずっと奥へと進んだ建物の少ない場所。大きな青い月が良く見える。

 「…15で冒険者になって、この街に来た当初は故郷が恋しくてよくここで月を眺めてた。16の時にレオンと出会って、恋しい気持ちが薄れても、この街に馴染んでも、何故かここに足が向く時があるんだ」

  私は月を見上げながら静かに語る彼の声を黙って聞いていた。

 「こんな情けない話、レオン以外にはした事なかったんだけど…キラと一緒に来てみたかった」

  そう言って私を見つめ、繋いでいる手を引き寄せて抱きしめた。

 「本当は一緒に住み始めてからデートに誘って、もっと雰囲気の良い場所で言うつもりだったんだ。でも…今日の練習試合で、オレたち以外の大勢の男が君に下衆な視線を送っているのを見たら…なんて言うか…焦った。早く伝えなくちゃ、って思った」

  少しだけ身体が離れ、熱い視線が注がれる。

 「キラ…愛してるよ。君の今の気持ちを、教えてくれないか」

  私は素直に答える。

 「私も…エヴァさんが好きです」
 「キラ…」

  彼は柔らかく微笑んで口づけを落とす。最初は啄むだけだった唇は徐々に深く繋がって私を酔わせた。

  それから暫く、私たちは唇で愛を伝えあった。

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