異世界ライフは前途洋々

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29.討伐依頼へ

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「いいか、湖から先へは進むな。夜は魔除け香を焚くのを忘れるな。明後日の夜までには帰ってこい」

  翌日の朝。街の南門の前で注意事項をおさらいするレオンさんの眉間にはギュッ、と皺が寄っていた。前にコーヒーミルの店に行くのを断った時と同じ表情だが、今なら怒っている訳じゃないと分かる。心配してくれているのだ。まあ、不満もちょっと入っているけど。

 「はい、行ってきます」
 「…ああ…行ってこい」

  レオンさんは小さなため息と共に言葉を吐き出し、私の腰を引き寄せて口づけた。



  街を出発する者は、冒険者でも街人でも皆朝早めに発つ事が多い。即ち、現在門の前は結構混み合っていて…ただでさえ視線を集めやすい2人が堂々と人前でキスなんかしたら、目立つ事この上ない。ってな状況である。



  ふわぁ!ひ、人前でぇ!

  …とか思っていても、拒否できるはずもなく。しかも次第に彼のキスに惹き込まれてしまう。

 「っん…」
 「……気を付けてな」
 「…はい…」

  顔が赤い事を自覚しながら街を出る。周囲を歩く人たちもチラチラ私を見ていて、まさに穴があったら入りたい、といった心境です。

  うぅ…もう歩くのに集中しよう。順調に進めれば夕方までには森に着くはず。今夜は森に入らず野営し、明日依頼の魔物を討伐してもう一泊野営。明後日帰路に就く予定だ。その間タマゴはレオンさんに預かってもらっている。

  私は街道を歩き始めた。

  デルタ山の麓にあるデルタの森は広く、採取できるものも出没する魔物も実に種類が多い。奥へ行くほど魔物は強くなり、デルタ山には上級ランクの冒険者にならなければ辿り着くのは困難とされている。。中心に大きな湖があり、そこから強力な魔物が増えるのだ。山では質の良い鉱石類が採掘できるが、当然鍛冶屋や採掘師だけでは危険なので冒険者が護衛に付いたりする。

  そのデルタの森が目的地だ。











 街を出た時は結構居た馬車や旅人も、途中で道が分かれるとグッと減った。森に近づくにつれて人は減り、魔物がチラホラ出てきたが梃子摺る相手ではなく峰打ちの練習台になってもらった。そして無事に予定通りの時間に到着。

  レオンさんに教えてもらった通り、森の手前に野営に適した場所があった。暗くなる寸前だったので先に火を熾してからテントを張って魔除け香を焚く。これらはレオンさんに借りたもので、魔除け香は私の持っている物より良質で効き目が高い。この辺りに出る魔物なら寄ってこないという事なので1人の野営でも眠れる。

  私は食事を摂りながらステータスを確認した。教会に行ってからまだ見ていなかったのを思い出したからだ。


【ステータス】

【名前】キラ
【年令】20才
【職業】冒険者

【レベル】30
【体力】150
【魔力】5030/5090
【攻撃力】259
【防御力】272
【素早さ】112

【スキル】剣術(S)・火魔法(E)・風魔法(F)・土魔法(F)・回復魔法(E)・解析(S)・薬師(S)
     浄化(S)・危機察知(F)・生活魔法(F)

【固有スキル】複製(E)5/5

【称号】転移人・神々に愛でられし者



  あれ?薬師の他にもスキル増えてる。浄化?これもSランクって事は、神様が?…あ、称号も増えてる。め、愛でられし者…。そういえば、称号には効果があるんだよね。ヘルプしてみよう。

  転移人は言語理解、全ての状態異常と急激な環境変化による精神的ショックなどの耐性、レベル・ランクアップ補助。愛でられし者は幸運値上昇と浄化スキルの獲得。

  なるほど、転移人の方は思い当たる内容ばかり。幸運値はまだ分からないけど、浄化は称号を頂いたから得られたんだ。しかもSランク。薬師も併せてヘルプしておこうかな。



  浄化は文字通り汚れや菌を取り除いて綺麗にする他、状態異常を治したり呪いを解いたり、更にはアンデッド系の魔物への攻撃にも使える。

  薬師は医師と薬剤師を兼ねた役割を持つ。回復薬などはもちろん、患者の状態を診てそれぞれに見合った薬を調合出来る。



  どっちもすごいスキルだ。状態異常の治癒は回復魔法でも出来るかもしれないが、明らかに浄化の方が効果が高いだろう。それにこれなら冷たい思いをせずに身体を綺麗に出来そう。薬師は調合スキルが欲しくて神様たちとお会いした時に頂いた。

  早速自分に浄化をかけてみる。

 【浄化】

  心で唱えた途端私の身体からふわっと光が広がり、自分だけでなくテントの辺りまで皮一枚剥いだように綺麗になった。髪もサラッサラでお風呂上がりの爽快感に全身が包まれている。

  わ…これはすごい。でも予定外の所まで綺麗になるのは場合によってはマズイよね?ちょっと気をつけないと。

  その後、念のため周囲を確認してから休んだ。











 翌朝、夜明けと共に目覚めた私は手早く支度を済ませて森へ入った。

  依頼内容はケルピー5体の討伐。

  ケルピーは馬の姿をした魔物で、毛色は黒、灰、栗の3種。普通の馬に化けて人を誘い、近付くと攻撃する。水魔法も使うが蹴りや咬みつきを多用し、まともに喰らえば危ないが遠隔攻撃が使えれば危険が減る(レオン談)。私は風魔法で攻撃しようと考えていた。

  この森には割と広い林道があって、入口付近はホーンラビットしか出なかった。薬素材も豊富らしいので採取したいが、先に討伐を済ませる。水場に出ることが多いと聞いたので、耳を澄ませて周囲を探りながら歩いた。

  進むにつれてオークやコボルトが出たが、驚いたのはブラウニーの出現だ。

  ドラ○エに出てくるブラウニーとは全く違い、私の膝くらいまでしか無い小人でとんがり帽子と茶色いボロ布を纏っている。前世の何かで髭を生やした小人だと読んだ気がするが髭もない。木の陰からこちらを伺い、チョロチョロと後をついてきて偶にぴょこっ、と近くにくる。何がしたいのか分からなくて対処に困ったが、確かギルドの本にも攻撃しなければ何ともないような事が書いてあったので放っておいた。

  やがて水の流れる音がしてきて川が近くなった時、茂みの中に一頭の馬を発見。一瞬何でこんな所に?と首をかしげるがこれがケルピーかも、と思い遠くから解析。


【解析結果】

【名前】ケルピー

【レベル】29
【体力】385
【魔力】190
【攻撃力】68
【防御力】44
【素早さ】34

【スキル】水魔法(E)・蹴り(D)・擬態(D)
【備考】皮は防具、その他の素材。肉は食用可



  やっぱりね、よし。

  私はそっと攻撃しやすい位置に移動し、念のため退路も確認してから深呼吸する。

  そして手を掲げたと同時に心で唱えた。

 【エアカッター!】

  放たれた風の刃は一瞬でケルピーの胴体を通過し、木を何本か倒してから消滅した。ケルピーは真っ二つに切断され、断面からゴポゴポと溢れた血が地面に血溜まりを作っている。

  …次は首を狙おう。真っ二つじゃ良い皮は獲れないだろうし。

  そう心に決めて討伐部位の耳を切り取り、水魔法を複製しケルピーを回収。浄化で血溜まりを綺麗にして今回は倒れた木も回収した。魔素溜まりの時みたいに現場保存する必要もないしね。

  私が次を探して歩き出すと、浄化した地面をジッと見ていたブラウニーはまたついてきた。ちょっと小走りなのが笑いを誘うがそこは我慢しましたよ。
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