異世界ライフは前途洋々

くるくる

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26.誘い

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「…ん…」

  翌朝、レオンさんの腕の中で目覚めた。眠っている彼はいつもの強面が鳴りを潜め、整った顔立ちだけが際立っている。私は暫く普段より少し若く見えるその顔に見惚れていた。

  転移してまだひと月も経っていないのに、もうこうして想い人の寝顔を眺めている。以前の私なら絶対にこうはならなかったと思うと不思議な気がするが、そう簡単に変わらないと思っていた性格も変化してきているのかもしれない。

  時刻は6時、いつもの時間である。レオンさんを起こさないようにそっとベッドを出て身支度を整える。結構な高熱だったようだが体調はもうすっかり元通りだ。

 「…キラ…」

  低く呼ぶ声に振り返ると彼がベッドに起き上がったところだった。まだ眠たいのか目を擦っている。その仕草が何だか可愛くて、ちゅっと頬におはようのキスをした。

 「おはようございます、レオンさん」

  おはよう、と返事が来ると思っていたのに、いきなり彼の膝の上へ抱き上げられて唇を塞がれた。

 「ひゃっ、んッ…」
 「…するなら唇だろ…おはよう、キラ」
 「びっくりした…」
 「体調はどうだ?熱は?」

  そのままおでこをくっつけて熱を診る。

 「もう大丈夫です」
 「…今度は本当みてえだな。いいか、次からは大した事無いと思ってもちゃんと言え。分かったな?」
 「…はい」

  もう一度、軽くキスしてからベッドを出た。




  キッチンへ行くとエヴァさんがコーヒーを淹れていた。

 「おはようございます、エヴァさん」
 「おはよう、キラちゃん。…熱はもう大丈夫?」
 「はい」

  彼も私の額に手を当ててから安心したように息を吐いた。

 「今日は本当に良いみたいだね。次からは隠したって見抜いてみせるよ?」
 「ふふ…もう隠しません」
 「ん、そうして」
 「はい」

  ポムポムと頭を撫でてくれるエヴァさん。こんな風な年下扱い久しぶりかも…何だかくすぐったい気分。

 「あの、朝食はいつもエヴァさんが?」
 「そうだね、朝食というか…食事全般はオレだよ。レオンにやらせたら材料が消し炭になる」
 「消し炭…」
 「うん、焼くだけの料理でも何故かそうなるんだ。不思議だろ?」
 「ふふふ、そうですね。エヴァさん、今朝の朝食私に作らせて下さい。お世話になったお礼に」
 「キラちゃん…」

  彼はちょっと驚いて目を見張る。

 「お2人に私の料理食べて欲しいです」
 「…オレも?」
 「はい、もちろんです。って言っても簡単なものですけど」
 「…じゃあお願いしようかな」
 「はい」

  私は初めて使う家電的魔道具の使い方を教わりながら支度を始めた。











 朝食が出来上がった頃レオンさんがキッチンへ来る。彼は日課だというトレーニングをしてきたのだ。

 「お疲れ様です、レオンさん。ちょうど出来たところですよ」
 「…キラが作ったのか?」
 「はい、運びますから座ってて下さい」
 「…ああ」

  彼はボソッと答えて既にエヴァさんが座っているテーブルに着く。

 「…イイな…」
 「だよね。普通のはずなんだけど…キラちゃんだとすごくイイ」
 「…ああ。ビキニアーマーもイイがスカートにエプロンも中々…」
 「…?何か言いました?」
 「「何も」」

  ひそひそ話していたので聞いてみたら、息ぴったりの反応が返ってくる。まあいいや、と気を取り直して料理を並べた。

  キラの服は買い物に行った日と同じカットソーにロングスカート。それに白いエプロンを着け、髪は邪魔にならないよう高い位置でシニョンにしてある。普通の街娘にも見えるがその身体からは隠しきれない色香が溢れていた。後れ毛のある艶っぽいうなじ、屈むと見える豊満な胸の谷間に細い腰の括れ。眺めていると後ろから抱きしめたくなるような衝動に駆られるのも仕方ないだろう。

  視線を交わした2人は互いが同じ事を考えていると悟って苦笑いするのだった。




  朝食のメニューはチーズとベーコンのホットサンド、卵スープ、サラダなど。好きな材料を使って、というエヴァさんの言葉に甘えてベーコンをもらって作った。

  2人の反応は上々、特に私の料理を初めて食べたエヴァさんは何だか大袈裟なくらい感激してくれた。

  そして食後、リビングへ通された。リビングはとても広く、20畳近くありそうだった。ローテーブルに革張りのソファー、暖炉にお酒やグラスが並んだサイドボードがあり、床には大きなラグマットが敷かれている。

  …リビングもだけど、この家凄く広い。ダイニングキッチンも魔道具が揃ってて立派だったし、2人の部屋以外にもいくつか部屋があるようだった。スゴイなぁ…。

  惚けているとレオンさんに促されてソファーへ座る。エヴァさんがコーヒーを淹れて来てくれて、優雅なコーヒータイムが始まった。

  すると2人が視線を交わして頷き合い、レオンさんが口を開いた。

 「キラ、俺らとパーティーを組んで、ここで一緒に暮らさないか?」
 「えっ…」
 「ギルドの宿も取ってあるみたいだし、今日明日じゃなくて良いんだ。でも考えてくれないかな?」
 「一緒に…」

  急な話に驚いたが誘いはとても嬉しい。

 「お前のその外見と強さじゃ面倒ごとが寄ってこねえ方がおかしい。だが、俺らと組んで、一緒に暮らせばそんな事も減る」
 「木は森に隠せば目立たない。オレたちも目立つ方なんだよね、一緒なら嫌な視線も面倒ごとも分散出来るよ。まあ、結局のところ…一緒が良いから色々御託を並べてるだけなんだけど」
 「まあ…そうだな」
 「レオンさん…エヴァさん…」

  本来ならもっとよく考えるべきだろうけど…こんな風に言ってもらえて、この誘いを断れる訳がない。いや、断りたくない。一緒に居たい。私は心を決めた。

 「あの、私もお2人とパーティー組みたいです。一緒が良いです…よろしくお願いします」
 「…ああ」
 「良かった…こちらこそよろしく」

  私が座ったまま頭を下げると、2人はホッとしたように微笑んだ。そこでふと疑問に思った事を尋ねてみる。

 「そういえば、エヴァさんって冒険者だったんですか?店は…?」
 「ん?ああ、それはね…」




  エヴァントは冒険者ギルドと商業ギルド両方に所属している。

  ギルドのある街で商売するには所属する必要があるのだが、掛け持ちしている者は少ない。大きな理由として挙げられるのは、読み書き計算が出来なければ商業ギルドには入れないという事だろう。冒険者には字が読めない者も多い。更に血の気が多くて喧嘩っ早いというのも商売には向いていない。そのため掛け持ちの殆どが旅商人で、道中で倒した魔物や採取した物で依頼を熟したりしている。商品になりそうな物は自分の手元に置いたりも出来るので、腕に自信があれば割と儲けられる。

  ただエヴァントに関して言えば全く逆で、冒険者の仕事の合間に酒場を開いている。依頼で外に行った時に食材となる獲物などを狩って店で使用する。開店日は不確定だが、数日前からギルドや街の掲示板などで『◯日~◯日まで開店します』とお知らせして開けるのだ。料理の腕の評判と、低コストな材料費、それに常連客のおかげでそこそこ黒字が続けられている。今回レオハーヴェンが居ない間店を開けていたが、今は閉めていると教えてくれた。




  話を聞いてこの数日間店が開いていない理由が分かった。私がお世話になっているのが原因で閉めているのでは、と気になっていたのでホッとした。

  それから話し合った結果、パーティーも同棲も私の冒険者ランクがCに上がるまで待ってもらう事になった。

  レオンさんはSランク、エヴァさんはAランク。それに比べて私はまだDランクだ。中級とはいえ、Dランクはテスト無しで上がれる事もあって下級とあまり違いはなく他の冒険者からも舐められ気味。その点Cに上がれるのはテストに合格した者なので、周囲にもある程度の実力が示せる。

  低ランクの女冒険者が高ランクの男に守られながらのパーティーというのは結構あるらしいが、私は負んぶに抱っこばかりでは嫌。我儘かもしれないが正直な気持ちをつたえると2人は了承してくれた。

  ただし討伐依頼に赴く際は、依頼内容、行き先、日程などを報告してOKをもらう、という条件付きです。まあ、最初はレオンさんが付き添うと言い出したのを止められたのでこれでも破格の条件です。

  そんなこんなで 、私の当面の目標が決まりました。

  “目指せ、Cランク!!”
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