異世界ライフは前途洋々

くるくる

文字の大きさ
上 下
26 / 213

21.市場通りへ

しおりを挟む

 翌朝。睡眠時間は充分だった筈なのに、何故か重い頭を洗顔で無理矢理スッキリさせる。小さいが洗面台が部屋にあって良かった。結局昨夜はどこも確認せずに眠ってしまった。広さ8畳ほどの部屋はハイミルと変わらない作りだ。

  何だか食欲が無い。食事はもう少し後にして共同キッチンを見てこよう。私の部屋は3階、共同スペースは2階だ。

  ダイニングとキッチンはカウンターを挟んで繋がっていた。結構な広さもあるし、欧風の学生食堂みたい。キッチンにあるのはコンロが4つとオーブンだけ。調理道具や食器は自前を使うのだろう。でもオーブンがあるのはありがたい、これの有り無しでメニューにかなり差が出る。早く醤油と味噌も手に入ると良いな。

  その足でそのまま下へ降りてどんな依頼があるかチェック、はボード前が凄い人集りだから止めておこう。私は人の並んでいない窓口でこの辺りの事に関する本が無いか聞いて借り、部屋へ戻った。

  まだお腹は空かないけどレオンさんたちと居る時に鳴ると恥ずかしい。おにぎりをお茶で流し込んで早めに身なりを整えた。後は時間まで本を読んでいるとノック音。

 「俺だ」
 「はい、今行きます」

  本を仕舞ってドアを開ける。

 「おはようございます」
 「…」

  あれ?無言。

 「レオンさん?」
 「……あ?ああ、行くぞ」
 「?…はい」

  一瞬固まったレオンさんはすぐに元に戻ったけど、何だったのかな?服、おかしく無いよね?一応ちらっと確かめる。

  オフホワイトのカットソーに淡いピンクのロングスカート、ブーツ。腰にアイテムバッグ。この服はブラとショーツ含めて自分で作ったのでサイズもぴったりだし、デザインも街の女性と変わらない。

  うん、大丈夫。

  私は少し先を行く彼の後を追った。











 1階にはエヴァさんも来ていて何故か私は2人に挟まれて真ん中に。まさに両手に花、ならぬ両手にイケメン状態。まあこれが目立つ目立つ。視線を集めまくってます。

  徒歩でやって来たのは市場通り。食料に日用品、雑貨や本、服や靴など様々な店が軒を連ねている。ひとつひとつの店はそれ程大きく無いが活気に満ちていた。

  買い物中レオンさんは興味がなさそうに品物を眺めているが、エヴァさんはどこに行っても親しげに声をかけられる。昨日話して思ったが、彼はとても人当たりが良くて聞き上手だ。凄~くモテそうなので、女性が次々やって来るのは当然といえば当然です。が、みなさん。私を睨んでから去って行くのはどうかと思いますよ。




 「キラちゃん、ここだよ。コーヒーに関する物なら大抵揃ってる」

  エヴァさんが店の扉を開けてくれる。中へ入ると、狭い店内はコーヒーの香りでいっぱいだった。正面のカウンター下には種類別に分けられた豆のケース、周囲の棚はコーヒーミルやカップの他布フィルターなどの道具が所狭しと並んでいた。

 「良い香り…少し見て回っても良いですか?」
 「もちろんだよ」

  目的の物を探すがやはり結構な値段だ。迷っているとレオンさんに呼ばれた。

 「キラ」
 「はい?」
 「これはどうだ?」

  そう言って彼が示したのは少量ずつ挽ける小さなコーヒーミル。小さい分価格も手頃で、これくらいなら大丈夫そう。自分の分くらいしか淹れないのだからこれで充分だ。

 「…これが良いです。ありがとうございます」

  あまり売れないのか高い位置にあって私の目には入らなかった。言われなければ気が付かなかっただろう。お礼を言いながら見上げると、優しげに細められた金色の瞳と目が合った。その表情を見た途端心臓が跳ねて早鐘を打ち始める。一気に緊張して視線が剥がせなくなり、完全に次の物を探しに入るタイミングを逃してしまった。

 「…他も見るんだろ?」
 「…はい…」

  ほっ、彼が促してくれたおかげで自然に視線を逸ら逸らせました・・・。




  他に豆やフィルターなど必要な物も探してカウンターへ行くとエヴァさんと店の男性が話していた。

 「欲しいのはあった?」
 「はい、お待たせしてすみません」
 「良いよ、そんな事気にしないで」
 「お、この子が?」
 「ああ、キラちゃんだ。キラちゃん、彼がここの店主でミック」
 「よろしくお願いします」

  ミックさんに会釈するが彼からの返事は無い。いや、正確には、口をパクパクさせるばかりで言葉が出てこない。

 「……あ、や…その……よ、よろしく…」
 「…?あの、これお願いします」
 「は、はい…」

  やっと挨拶が交わせたのでカウンターの上に選んだ品を出した。彼はこちらを気にしながら合計金額を出す。

 「…せ、1,500ギルでいいよ」
 「えっ…」

  自分で計算していた金額よりも100ギル以上安い。端数を切り捨てるくらいなら分かるが、これはちょっと値引きし過ぎじゃないかな?

  戸惑っているとミックさんが慌てて続けた。

 「あ、いやその、ほら!お得意さんであるエヴァの紹介だし、初回だし、色々買ってもらったし、つ、次からはちゃんと貰うから!」
 「キラちゃん、ここは甘えてあげて?」
 「…良いんじゃねえか?店主が言ってんだから」
 「…はい、では今回はお言葉に甘えます。ありがとうございます」

  あんまり値引きされると却って悪いし次が買いにくいと思ったが、今更払いますとも言えないので甘えておく事にした。レオンさんとエヴァさんも勧めてくれたし。




 「さてと…オレの方は終わったけど、キラちゃんは他に見たいのないの?」

  店を出たところでエヴァさんがそう聞いてくれたが、もう充分案内してもらった。道順も覚えたし何が何処に売っているか大体分かった。

 「いえ、充分です」
 「本当に?遠慮してない?」
 「はい」
 「…なら帰るか」
 「はい、今日はありがとうございました」

  ここからギルドと彼らの家へ帰るのとでは道が違う。だからお礼を言って頭を下げたのだけど…2人して少し目を見開き、驚いている。

 「…送る」
 「え、あの、大丈夫ですよ?道順覚えましたし…ギルドに寄ると結構遠回りになります」

  私の言葉を聞いて顔を見合わせ、レオンさんは呆れたようにため息を吐き、エヴァさんは苦笑いする。

 「じゃあ、来た時とは別の道を帰ろう。教会の方は通った事ないよね?」
 「教会…は無いです」
 「教会の場所は覚えた方が良い。行くぞ」
 「そうだね、ほら行こう?」

  結局私は彼らに促されて一緒に教会の方へと向かうのだった。
しおりを挟む
感想 170

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない

一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。 クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。 さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。 両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。 ……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。 それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。 皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。 ※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?

すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。 一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。 「俺とデートしない?」 「僕と一緒にいようよ。」 「俺だけがお前を守れる。」 (なんでそんなことを私にばっかり言うの!?) そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。 「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」 「・・・・へ!?」 『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!? ※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。 ※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。 ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

処理中です...